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「東金さんなんて」

大きな瞳にみるみると薄い膜が張る。
突付けば零れ落ちてしまいそうなそれに、千秋は怯んだ。
卑怯だ、と思う。
普段笑顔の印象が強いかなでだからこそ、今にも涙が零れそうな姿はインパクトがあり罪悪感に胸が痛んだ。

暢気でおっとりとしたかなでが、激しい部分を持っているのは知っていた。
けれど射抜くように自分を見る彼女と、普段ほえほえと笑っている彼女とは姿が重ならず混乱しそうになる。
だが幾度目を瞬いても現実は変わらず、無表情の裏で混乱する。

たかだか女の涙だ。
今まで幾度も見てきたし、泣かせたことがないとは言わない。
けれどここまで動揺したのも、胸が痛くなるのも初めてで、ひっそりと眉を顰める。
そうするとかなでの大きな瞳は潤み、悪循環を辿っていた。

桜色の小さな唇が震えながらゆっくりと持ち上げられる。
ひゅっと息を飲み込む音が痛々しく、千秋はどんどん渋い顔になる。
そんな彼を睨み付けたかなでは重い息を吐き出した。

「東金さんなんて、大嫌いです」

言葉と同時に涙が零れた。
地味子と呼ばれても花がないと蔑んでも、涙一つ零さなかった彼女が泣いた。
胸が締め付けられ、呼吸が難しくなる。
苦しくて切なくてどうすればいいか判断が下せない。
けれど、零された涙以上に。

「───頼むから」

それ以上に。

「嫌いなんて、簡単に言うな」

放たれたその一言が痛いなんて。
自分勝手な自分に、どうにも嫌気が差すけれど。
涙を零す彼女に手を差し伸べずに告げるには厚かましいけれど。
判っていても、敢えて言いたい。

「嫌いなんて、言うな」

涙を零し続けるかなでを前に、壊れたレコーダーのように繰り返す。

そんな千秋を見て、かなではまた一粒涙を零し、千秋は無言でそれを拭った。

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