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円堂に連れられて現れた染岡の表情に、風丸はほっと胸を撫で下ろす。
ずっと張り詰めていた空気が緩み、雷門中でサッカーをしていた頃と酷似していた。
何故か頬を赤らめ隣を歩く円堂から不自然に顔を逸らしているし、間に入った秋が何事か言って彼を宥めているように見えたが、円堂があっけらかんと笑っているので大丈夫なのだろう。

グランドで二人を待ちきれなくていつの間にか始まっていた雪遊びの手を止め、彼らの到着を待つ。
少しだけ滑りやすい階段を余裕で降り切った円堂は、ひらひらと手を振った。


「一体何処に行ってたんですか。いきなりいなくなるから、心配したんですよ」
「はは、悪い悪い。でも姿を見たから安心だろ?」
「・・・無断で行動するのは感心しないわ円堂君」
「申し訳ありません、監督。以後注意するよう善処します」


注意する、ではなく注意するよう善処するという言い回しはいかにも円堂らしくて、風丸は小さく笑った。
とどのつまり、気をつけるだけで端から言いなりになる気はないらしい。
一見するとしおらしく言い訳もしないで謝罪しているのに、随分と不遜で彼女らしい。
言質をとらずに要領よく振舞った円堂は、壁山と目金の合作雪だるまを見て目を輝かせる。


「すっげーな、この雪だるま!超特徴捉えててウケる!」
「自信作っす」
「特にここのディティールに僕たちの拘りが出てるんですよ」


胸を張る二人の話を聞き、更に幾つかオプションを付け加える円堂は、監督に名を呼ばれ鎌倉へ向かう。
その様子を見送ってから、風丸は遅れてきた二人に近づいた。


「随分と遅かったんだな。もう少し早ければ、一緒に雪合戦が出来たのに」
「ふふふ、それで皆ずぶ濡れなのね?風邪を引かないようにケアしなきゃ駄目よ」
「ああ、判ってる。ちゃんとタオルも準備万端だ」


そっぽを向いたままの染岡を気にせず話す秋に、風丸は胸を撫で下ろした。
どうやらこんな態度が出来るくらいまで、染岡の気力は回復したらしい。
とげとげしい雰囲気が和らぎ、不機嫌と言うよりどこか拗ねているだけに見えた。


「染岡も、少しはリフレッシュ出来たのか?さっきより随分と雰囲気が柔らかくなってる」
「あのね、染岡君はねぇ」
「ば!木野!止めろ!風丸にその話はやば過ぎる!」
「じゃあ、一之瀬君か鬼道君」
「木野!!」


顔を真っ赤にして怒鳴る染岡に、風丸の勘がぴんと働いた。
先ほど円堂と染岡と秋の三人でどこかに消えた。
そこで風丸と鬼道と一之瀬に聞かれたらまずい何かがあった。
導き出される共通点なんて一つしかなくて、きりきりと眉がつり上がる。


「・・・染岡?」
「いやいやいやいや、本当に何もなかった!何もなかったって言ってるだろ!?」
「何もないなら何故そこまで慌てるんだ・・・?」
「何もないのに疑うからだろ!」


声を裏返して叫ぶ染岡に、すっと瞳を細める。
白か黒かで考えれば、どう考えてもこれは黒だ。
絶対に、何かあったはず。

ぴりぴりと苛立つ風丸に、流石に憐れに思ったのか秋が間に入った。


「そう言えば!円堂君ってすごくマイペースに見えるけど、面倒見いいよね?昔からああだったの?」


強引な話題変更だったが、あまりにも必死な様子に嘆息した。
もう少し染岡を問い詰めたかったが、話題が円堂がらみなので気が緩む。
吊り上げていた目尻を和らげると、こくりと一つ頷いた。


「円堂は昔からああだ。いつだって我侭でマイペースで自由気ままに動いてるようでいて、本音の部分では他人のためばかり動いてる」
「他人のためにばかり?」
「そう。小さい頃からあの人は変わらないんだ。好き勝手やってるように見えるのに、いつだって俺が足を止めれば手を差し伸べてくれる。困ってる人が居れば最初に気がつくし、それと判らないように絶妙のタイミングで手助けをする。まも姉はさ、凄く器用だけど不器用なんだ。俺はあの人の誰かのためじゃない我侭なんて、一つしか知らないよ」


そう、本当に一つしか知らない。
生まれてから十四年の付き合いがあるのに、彼女が本音の部分で訴えた『我侭』なんて、たった一つだけだ。


『サッカーがしたい』


夕日が沈むまでずっとずっと一人きりでサッカーをしている子供を眺めているくせに、家に帰れば本音の願いすら仕舞いこんで笑ってた。
何かをしたい、なんて自発的に望むことはほとんどなかったのに、一番したいと望んでいた唯一すら、彼女は最後まで両親に我を通せなかった。

風丸は覚えている。
サッカーをしてる誰かを見ていた円堂の横顔を。
ガラス玉みたいな大きな瞳で、ただ黙り込んで静かに座っていたあの姿を。


「上辺だけしか見ない奴は、まも姉を明るくて元気で朗らかでって簡単に言うけど、あの人はそんなに自由じゃない。何でも器用に出来るからこそ多くを望まないし、必要としていない。相手に何かを求めたりしないんだ。必要なことを与えるだけ与えて、与えたことすら知らない顔で笑ってる」
「・・・風丸」
「だから、俺はまも姉を守りたい。まも姉が強がりを言わなくて済むくらい、守られるんじゃなくて守れるくらい強くなりたい」


それはずっと前からの風丸の目標。
物心付いたときには、もう彼女しか見えてなかった。
笑顔の裏で空虚な心を抱える円堂の支えになりたかった

大人たちが円堂の笑顔に騙されて本当の『心』を見つけれないなら、自分が見つけて守ればいい。
誰かお姉ちゃんを守って、という願いは、年を経るごとに自分が守るから、に変化して、それは今でも変わらない。


風丸の言葉に目を丸くしていた二人は、顔を見合わせると緩やかに息を吐き出した。


「風丸君って」
「ん?」
「本当に、円堂君が好きなのね」


しみじみとした秋の言葉に、何故か染岡が顔を赤らめた。
どうして何を言われたでもない彼が恥らうのかと首を傾げながら、微かに笑う。


「俺がまだ赤ん坊だった頃、一番最初に呼んだのは円堂の名前だそうだ」


答えにならない答えを返し、誇らしげに胸を張る。
風丸の言葉にきょとんと瞬きを繰り返した秋は、口を押さえて破顔した。
蒼穹にやさしい笑い声が響く。
寒い空だからこそ澄み切った青に目を細め、風丸も声を上げて笑った。

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