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風呂から上がり、頭を拭きながらイナズマキャラバンへ向かうと、積み上げられた木の前で待っていた円堂に迎えられる。
どこから見つけてきたのか大きな丸太を組んで出来たそれは、どこからどう見ても火のついていないキャンプファイヤーだ。
また体に負荷が掛かることを、と呆れ混じりに一之瀬が睨み付けると、彼女はひょいと肩を竦めた。
「うわー・・・円堂一人でこれ作ったのか?」
「いや、古株さんに手伝ってもらった。中々だろ?」
唖然としている土門に胸を張り笑っているが、暗闇に強い目は彼女の顔色が微かに青褪めているのを見て取れた。
夕食だっておにぎり一つも食べ切れていないし、無理をしているのだろう。
笑顔で飄々としているから誰も彼女の態度に疑問を持っていないが、アメリカでどんな状態のときに倒れていたかを見てきた一之瀬は誤魔化せない。
「んじゃ、俺はひとっ風呂浴びてくるから、お前らは先にキャンプファイヤー始めてて」
「いいんすか、キャプテン?」
「勿論!だから風呂を覗きにくるなよー。俺は風呂は裸で入りたいからな」
「ッ!!?わ、わかったっす」
真っ赤になりながら頷いた壁山にウィンクをした円堂は、スポーツバックを片手に、つい先ほどまで一之瀬たちが入っていた温泉方面へと向かう。
無言でその姿を見送った一之瀬は、キャンプファイヤーにはしゃぐ仲間たちの横で唇を噛み締めた。
「・・・やっぱりね」
案の定、暗闇に紛れるようサッカーボールを蹴り続ける姿に、瞳を険しくする。
黒縁眼鏡を掛けない円堂は、闇夜に目を凝らして月明かりだけでボールを蹴っていた。
仲間たちの意識をキャンプファイヤーへと向け、自身は基礎からトレーニングを始める。
努力を他人に見せるのを嫌う円堂は、本当は人の数倍努力している。
アメリカでもそうだった。
ほとんど動かない体をここまで動けるように戻したのを安易に奇跡と人は呼ぶが、そんな生易しいものじゃない。
血の滲むような努力の果てに得た結果だ。
同じ立場にいたからこそ誰よりも彼女の気持ちや努力が理解できる。
円堂が事故に合った事実を知っていても、仲間たちは気づこうともしていない。
彼女がどれだけ努力してるか見ようともしない。
天才と呼ばれても、何も付随せずに今の力を持つわけじゃないのに。
「守」
「・・・一哉。やっぱ、来たのか」
「当然だ。俺は君の父さんから君の監視を言い付かってるって言ったろ?無茶ばかりする君は自分の体を省みようともしない。いつまで続ける気か知らないけど、放っておいたら倒れるまでやってるだろ」
「流石にそこまで無理する気はないけどね。でもサポートしてくれるなら助かる」
「俺が見ててやばいと思ったらすぐに止める。ちゃんと指示に従える?」
「ああ」
「ならいいよ」
どうせ全面的に止めたとしても、隠れて練習するだけなのだ。
それならば、こちらが譲歩して、何かあったとき助けれる距離で見守るほうが数倍ましだ。
木々の間から差し込む月光を頼りにボールを操る彼女は、五感全てでボールを追う。
きっと目を閉じていても、この規則正しい動きは乱れないのだろう。
柔らかでしなやかな天性のバネを活かし、足に吸い付くようにリフティングを続ける。
足元を見ればほとんど彼女が動いていないのを示すよう、小さな円の外にはバッシュの足跡がない。
「999、1000」
信じられないことに、この僅かな時間で千回もリフティングした円堂は、受け止めたボールを膝から足首まで滑らせて近くの巨木に蹴る。
リズムよく打ち出されるそれは、徐々にスピードを上げた。
しかしスピードの割りに音は少ない。どうしているかは知らないが、卓越した技術でなんらかのコントロールをしているのだろう。
近くにある木の麓にしゃがみ込み、黙々とボールを蹴り続ける円堂に見惚れる。
昔、アメリカの空の下で、イタリアにいる彼女に憧れていたころは、ただただ華麗な技術と天才的な統率力に憧れていた。
その下でどれだけ彼女が努力しているか、どれだけサッカーに関して勉強し技術を磨いたかなんて考えたこともなかった。
ただ『マモル・キドウ』は、生まれながらにサッカーをするために存在する天才で、自分たちとは次元の違う世界にいる人間だと、勝手に思い込んでいたのだ。
地道にボールを蹴り続ける円堂は、飽きることなく同じ仕草を繰り返す。
額から流れた汗が頬に伝い、肩を上下させながらも、精密機械のように左右の足を入れ替えながらほぼ同じ位置を動かずに居た円堂は、次に同じ位置に当てながらもボールの跳ねる反射角を変え左右へと走り出す。
丁度テニスの壁打ちと似た動きだ。当てる場所は正確無比な位置でありながら、不規則な位置にボールが跳ね返るよう調整していた。
時にはジャンプし、時にはしゃがみ込みながらボールを蹴っていた円堂は、最後に正面に立つと十分にスピードが乗ったボールをマジン・ザ・ハンドで受け止める。
短い距離で時間も十分に得れなかったろうに、今までより随分と短縮された技に一之瀬は目を見張った。
「・・・凄い。マジン・ザ・ハンドの出現時間が随分と短縮されてる」
「言ったろ。実践に勝る経験はない。監督のお陰であいつらのスピードにも随分と慣れた。とりあえず、先回みたいに猛攻を受けなければ、一、二回なら我慢できる」
「大丈夫。俺たちだってレベルアップしてる。守の成長速度に及ばなくても、着実に。君は俺が守るから」
「───はは、一丁前に言うなぁ。でも期待してるぜ、一哉」
温泉に入るためにと用意しておいた着替えの入っているボストンバックからタオルを取り出すと、額から流れる汗を拭いつつ円堂は笑った。
栗色の瞳がきらきら輝き、素顔の表情は一之瀬に向けられる。
きゅっと胸が締め付けられ、赤らんだ顔を隠すように俯けると持ってきた酸素を差し出した。
「これ、ちゃんと使って。あと薬と水と、桃のゼリーも」
「・・・なんで桃のゼリー?」
「さっき何も食べてなかったろ。食べたくなくても何かお腹に入れてからじゃないと、薬がきつ過ぎる。昨日の今日で無理をしてるから体力だって落ちてるはずだ。君が倒れたら、君がどれだけ喚いても俺は君を病院に連れてく。そうなりたくなければ、最低限の栄養はとって。体調管理もスポーツ選手の嗜みだ」
「仰るとおりで。リョーカイ。お前が持ってきてくれたゼリーはちゃんと食べるよ」
「今、俺の目の前で食べろ」
「はいはい。ご命令どおりに」
パックに入ったゼリーの蓋を開け、口をつけて飲む円堂にようやく一之瀬は胸を撫で下ろす。
あれだけじゃ栄養不足もいいところだが、何も摂らないよりはマシに決まってる。
それに次に向かう北海道には、彼女の父親が検査の予約を取った国立病院があったはずだ。
携帯に送られた地図には白恋中の近くにあったので、夜にでも抜け出して行かなくてはいけない。
そこで点滴なり薬なり足りなくなったものを補給し円堂の状態を確認できなければ、一之瀬も動けなくなってしまう。
病院には彼女の父親も来ると言っていたので、白恋中に着いたら一度メールしなくては。
どうやって抜け目ない瞳子を出し抜こうかと思案している間にも、ゼリーを食べ終えた円堂は薬を水で流し込む。
そして口にスプレー缶に入っている酸素を当てて呼吸を整えると、学校指定のバックを肩に背負い立ち上がった。
「守・・・?」
「今度こそ風呂入ってくる」
「本当に?」
「ああ。心配ならボールを預かっとくか?それとも、一緒に入る?」
「一緒に入る・・・って言いたいとこだけど、見つかったらただじゃすまなそうだし戻るよ。そろそろ一時間は経ってるしね」
「そうだな。俺も体を流したらすぐに行く」
「わかった」
汚れたボールを預かり、左右へ分かれて歩き出す。
本音を言えば急激な運動のつけがきて倒れないか温泉まで着いて行きたいところだが、口ではああ言いながらも着いて行ったら過保護だと言われるだろう。
ボールを渡した意図だって、一之瀬が怪しまれずに仲間の下へ戻れるようにだ。
一人で一時間も姿を消せば当然何をしていたか怪しまれるが、ボールを持っていけば練習していたのかの一言で終るだろうし、円堂に関しては単なる長風呂で押し通せば話は済む。
本当に頭と気が回る人だ。
受け取ったボールをゆっくりとドリブルしつつ、一之瀬は苦笑する。
やがて仲間の騒ぎ声や炎の明かりが見える距離まで近づくと、ぽんと蹴り上げてボールを胸に抱いた。
今日誰が使ったボールより薄汚れて傷がついたそれに、愛しげに瞳を細めて。
どこから見つけてきたのか大きな丸太を組んで出来たそれは、どこからどう見ても火のついていないキャンプファイヤーだ。
また体に負荷が掛かることを、と呆れ混じりに一之瀬が睨み付けると、彼女はひょいと肩を竦めた。
「うわー・・・円堂一人でこれ作ったのか?」
「いや、古株さんに手伝ってもらった。中々だろ?」
唖然としている土門に胸を張り笑っているが、暗闇に強い目は彼女の顔色が微かに青褪めているのを見て取れた。
夕食だっておにぎり一つも食べ切れていないし、無理をしているのだろう。
笑顔で飄々としているから誰も彼女の態度に疑問を持っていないが、アメリカでどんな状態のときに倒れていたかを見てきた一之瀬は誤魔化せない。
「んじゃ、俺はひとっ風呂浴びてくるから、お前らは先にキャンプファイヤー始めてて」
「いいんすか、キャプテン?」
「勿論!だから風呂を覗きにくるなよー。俺は風呂は裸で入りたいからな」
「ッ!!?わ、わかったっす」
真っ赤になりながら頷いた壁山にウィンクをした円堂は、スポーツバックを片手に、つい先ほどまで一之瀬たちが入っていた温泉方面へと向かう。
無言でその姿を見送った一之瀬は、キャンプファイヤーにはしゃぐ仲間たちの横で唇を噛み締めた。
「・・・やっぱりね」
案の定、暗闇に紛れるようサッカーボールを蹴り続ける姿に、瞳を険しくする。
黒縁眼鏡を掛けない円堂は、闇夜に目を凝らして月明かりだけでボールを蹴っていた。
仲間たちの意識をキャンプファイヤーへと向け、自身は基礎からトレーニングを始める。
努力を他人に見せるのを嫌う円堂は、本当は人の数倍努力している。
アメリカでもそうだった。
ほとんど動かない体をここまで動けるように戻したのを安易に奇跡と人は呼ぶが、そんな生易しいものじゃない。
血の滲むような努力の果てに得た結果だ。
同じ立場にいたからこそ誰よりも彼女の気持ちや努力が理解できる。
円堂が事故に合った事実を知っていても、仲間たちは気づこうともしていない。
彼女がどれだけ努力してるか見ようともしない。
天才と呼ばれても、何も付随せずに今の力を持つわけじゃないのに。
「守」
「・・・一哉。やっぱ、来たのか」
「当然だ。俺は君の父さんから君の監視を言い付かってるって言ったろ?無茶ばかりする君は自分の体を省みようともしない。いつまで続ける気か知らないけど、放っておいたら倒れるまでやってるだろ」
「流石にそこまで無理する気はないけどね。でもサポートしてくれるなら助かる」
「俺が見ててやばいと思ったらすぐに止める。ちゃんと指示に従える?」
「ああ」
「ならいいよ」
どうせ全面的に止めたとしても、隠れて練習するだけなのだ。
それならば、こちらが譲歩して、何かあったとき助けれる距離で見守るほうが数倍ましだ。
木々の間から差し込む月光を頼りにボールを操る彼女は、五感全てでボールを追う。
きっと目を閉じていても、この規則正しい動きは乱れないのだろう。
柔らかでしなやかな天性のバネを活かし、足に吸い付くようにリフティングを続ける。
足元を見ればほとんど彼女が動いていないのを示すよう、小さな円の外にはバッシュの足跡がない。
「999、1000」
信じられないことに、この僅かな時間で千回もリフティングした円堂は、受け止めたボールを膝から足首まで滑らせて近くの巨木に蹴る。
リズムよく打ち出されるそれは、徐々にスピードを上げた。
しかしスピードの割りに音は少ない。どうしているかは知らないが、卓越した技術でなんらかのコントロールをしているのだろう。
近くにある木の麓にしゃがみ込み、黙々とボールを蹴り続ける円堂に見惚れる。
昔、アメリカの空の下で、イタリアにいる彼女に憧れていたころは、ただただ華麗な技術と天才的な統率力に憧れていた。
その下でどれだけ彼女が努力しているか、どれだけサッカーに関して勉強し技術を磨いたかなんて考えたこともなかった。
ただ『マモル・キドウ』は、生まれながらにサッカーをするために存在する天才で、自分たちとは次元の違う世界にいる人間だと、勝手に思い込んでいたのだ。
地道にボールを蹴り続ける円堂は、飽きることなく同じ仕草を繰り返す。
額から流れた汗が頬に伝い、肩を上下させながらも、精密機械のように左右の足を入れ替えながらほぼ同じ位置を動かずに居た円堂は、次に同じ位置に当てながらもボールの跳ねる反射角を変え左右へと走り出す。
丁度テニスの壁打ちと似た動きだ。当てる場所は正確無比な位置でありながら、不規則な位置にボールが跳ね返るよう調整していた。
時にはジャンプし、時にはしゃがみ込みながらボールを蹴っていた円堂は、最後に正面に立つと十分にスピードが乗ったボールをマジン・ザ・ハンドで受け止める。
短い距離で時間も十分に得れなかったろうに、今までより随分と短縮された技に一之瀬は目を見張った。
「・・・凄い。マジン・ザ・ハンドの出現時間が随分と短縮されてる」
「言ったろ。実践に勝る経験はない。監督のお陰であいつらのスピードにも随分と慣れた。とりあえず、先回みたいに猛攻を受けなければ、一、二回なら我慢できる」
「大丈夫。俺たちだってレベルアップしてる。守の成長速度に及ばなくても、着実に。君は俺が守るから」
「───はは、一丁前に言うなぁ。でも期待してるぜ、一哉」
温泉に入るためにと用意しておいた着替えの入っているボストンバックからタオルを取り出すと、額から流れる汗を拭いつつ円堂は笑った。
栗色の瞳がきらきら輝き、素顔の表情は一之瀬に向けられる。
きゅっと胸が締め付けられ、赤らんだ顔を隠すように俯けると持ってきた酸素を差し出した。
「これ、ちゃんと使って。あと薬と水と、桃のゼリーも」
「・・・なんで桃のゼリー?」
「さっき何も食べてなかったろ。食べたくなくても何かお腹に入れてからじゃないと、薬がきつ過ぎる。昨日の今日で無理をしてるから体力だって落ちてるはずだ。君が倒れたら、君がどれだけ喚いても俺は君を病院に連れてく。そうなりたくなければ、最低限の栄養はとって。体調管理もスポーツ選手の嗜みだ」
「仰るとおりで。リョーカイ。お前が持ってきてくれたゼリーはちゃんと食べるよ」
「今、俺の目の前で食べろ」
「はいはい。ご命令どおりに」
パックに入ったゼリーの蓋を開け、口をつけて飲む円堂にようやく一之瀬は胸を撫で下ろす。
あれだけじゃ栄養不足もいいところだが、何も摂らないよりはマシに決まってる。
それに次に向かう北海道には、彼女の父親が検査の予約を取った国立病院があったはずだ。
携帯に送られた地図には白恋中の近くにあったので、夜にでも抜け出して行かなくてはいけない。
そこで点滴なり薬なり足りなくなったものを補給し円堂の状態を確認できなければ、一之瀬も動けなくなってしまう。
病院には彼女の父親も来ると言っていたので、白恋中に着いたら一度メールしなくては。
どうやって抜け目ない瞳子を出し抜こうかと思案している間にも、ゼリーを食べ終えた円堂は薬を水で流し込む。
そして口にスプレー缶に入っている酸素を当てて呼吸を整えると、学校指定のバックを肩に背負い立ち上がった。
「守・・・?」
「今度こそ風呂入ってくる」
「本当に?」
「ああ。心配ならボールを預かっとくか?それとも、一緒に入る?」
「一緒に入る・・・って言いたいとこだけど、見つかったらただじゃすまなそうだし戻るよ。そろそろ一時間は経ってるしね」
「そうだな。俺も体を流したらすぐに行く」
「わかった」
汚れたボールを預かり、左右へ分かれて歩き出す。
本音を言えば急激な運動のつけがきて倒れないか温泉まで着いて行きたいところだが、口ではああ言いながらも着いて行ったら過保護だと言われるだろう。
ボールを渡した意図だって、一之瀬が怪しまれずに仲間の下へ戻れるようにだ。
一人で一時間も姿を消せば当然何をしていたか怪しまれるが、ボールを持っていけば練習していたのかの一言で終るだろうし、円堂に関しては単なる長風呂で押し通せば話は済む。
本当に頭と気が回る人だ。
受け取ったボールをゆっくりとドリブルしつつ、一之瀬は苦笑する。
やがて仲間の騒ぎ声や炎の明かりが見える距離まで近づくと、ぽんと蹴り上げてボールを胸に抱いた。
今日誰が使ったボールより薄汚れて傷がついたそれに、愛しげに瞳を細めて。
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