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黒目がちの大きな瞳が少しだけ潤む。
その姿を見て琥一は歯軋りをして彼女の前で血を流しながらふら付く男を睨み付けた。
薄暗く視界の利かない場所は身動きすらままならない。
小さく呻く琉夏の声に、冬姫の体がびくりと震えた。
恨み辛みを篭めた視線は怨念が宿り、反射的に腕を伸ばして彼女を庇う。
琥一より一回り以上小さな体は、すっぽりと収まる。
「こう、いちくん」
たどたどしい発音で呼ばれた名は、自分のものではないようだった。
護らなければ、と琥一の中の本能が叫ぶ。
父性と庇護欲が掻き立てられ小さな白い手をしっかりと握り、安堵させるよう笑いかけた。
その仕草は、普段の琥一が見たら悶絶しそうなくらい格好よかった。
「・・・てかさ、二人とも大げさだし」
漸く終わった悪夢の時間。
ふるふると震える冬姫を気遣いつつ歩いていた琥一は、その発言の主であるKYな弟をギロリと睨み付けた。
「あぁん?」
威嚇する声が自然と普段よりも低音を這う。
その理由は簡単で、冬姫がこうなったのも自分があんな目にあったのも、全ては能天気極まりない琉夏の所為だからだ。
苛立ちに引きつる琥一の顔を見ても琉夏は取り立てて慌てない。
兄弟として育ったのだから当然かもしれないが、それがさらに琥一の苛立ちを呷った。
子ウサギのように怯える冬姫を見て彼は何も感じないのか。
否、琥一とは遙かかけ離れた感性を持つ琉夏のことだ。
『怯える冬姫も可愛い・・・』などと戯けた考えを抱いたに違いない。
それを肯定するように、未だ震える冬姫を見る琉夏の眼は、桃色のオーラを垂れ流しだ。
不埒な目で見るなと、ぶん殴ってしまいたいほどに。
「誰の所為でこんな目に合ったと思ってる」
唸るような声に、琉夏は飄々と肩を竦める。
「俺?」
「判ってんなら、お前にどうこう言う権利はねぇって気づけ」
冬姫を自分の背後に隠しながら告げれば、心外だとばかりに彼は頬を膨らませた。
綺麗な顔立ちに幼げな仕草。
見るものが見れば垂涎の的かもしれないが、生憎今更琥一の心は動かない。
良くも悪くも見慣れた顔だ。
美醜を考えれば明らかに見るに耐える顔でも、間違っても男に目を奪われる感性は持ち合わせていなかった。
怒りを募らせる琥一を前に、琉夏は唇を窄め訴える。
「でもさ。これ、ただのホラー映画じゃん」
それが重大な問題なんだよ!!
声に出せない分心の中で大きく突っ込んだ琥一は、益々眉を吊り上げる。
冬姫はお化け関係が嫌いだ。
遊園地のお化け屋敷程度なら行こうかと言っても、間違ってもホラー映画を見たいと言い出すタイプではないし、琥一も秘密にしてるが彼女と大体同じ感覚だ。
琉夏には知られていないし、冬姫にも黙っているが、お化けだの妖怪だのスプラッターだの大嫌いだ。
血を見ても平気な性質であるから喧嘩は平気だが、それとこれとは別問題だ。
だが繊細そうな顔をして、全く大雑把な弟に琥一の気持ちが伝わる日はきっと来ないだろう。
隠したいのだからそれでいいはずだけど、時折声を大にして叫びたい。
お前、少しは空気読め、と。
今回は自分以上に怯える冬姫を宥めるので一杯でセーフだったが、これが二人きりだったらと想像したくも無い。
それ以前に映画館に男二人なんて寒い状況はありえないだろうけど。
未だにダメージが大きいらしい冬姫は、普段の気丈な雰囲気から一転し護ってやらねばと強く思わせる。
普段でも良くそう思うのだが、怯えて震える様子は彼女を可憐でひ弱に見せ、着ている清楚な服装から一層同情心が膨らむ。
元々容姿は良いとこのお嬢様風の冬姫だ。
子供の頃は本当にお姫様かもしれないと疑ったほどの美貌の持ち主は、昔憧れた正義のヒーローのヒロインにぴったりだった。
そう、琥一は今ヒーローにならなくてはいけなかった。
悪気全くなしの、悪の権化を前にして。
「でも、俺別の映画も見たい」
「・・・今度はなんだ」
「ゾンビがスリラー踊る感じのB級ホラー。超受ける」
「受けねぇよ!!」
唾を飛ばす勢いでがなり立てるが暖簾に腕押しとばかりに流された。
珍しく映画を見に行きたいと言う琉夏に、何も疑わずついて来た自分が恨めしい。
この場所がホラー専門のマイナー映画館と知ってれば、絶対にそんな愚行を起こさなかったのに。
血管が千切れんばかりに叫ぶ琥一に琉夏はにたり、と唇を持ち上げた。
瞬間警戒警報が脳裏に鳴り響く。
こんな顔をした琉夏は、いいことをしたためしがない。
「コウ、怖いの?」
挑発するような声音。
判りきってるのに反射的に応じそうになった自分を何とか宥める。
ここで乗ったら全てがおしまいだ。
ぺろりと乾いた唇を舐め湿らせる。
眉間の皺が深くなるのを自覚し、額に青筋が浮いてるだろうことも自覚した。
だが右手を握る小さな掌の力が強まるのに、深く瞼を閉じて怒りを納める。
深呼吸を繰り返すと、敗北発言とも取られかねない言葉をそっと舌に乗せた。
「ああ、怖いね。だから俺らはもう帰る」
きょとりと目を見開いた弟に笑いかけると、つながれたままの手を引き踵を返す。
縋りつくように強められたそれに勇気付けられ、さっさと足を速めた。
「ありがとう」
今にも消えそうな声で囁かれ、目を丸くする。
そしてくすぐったさに思わず微笑んだ。
「言ったろ。俺もこえぇんだよ」
「うん。・・・私も、凄く怖かった」
歩調を緩めると隣に並んだ冬姫がおずおずと顔を上げ、ぎこちない笑顔を浮かべた。
儚げな笑みは可哀想だが愛らしく、たまにはプライドを曲げるのも悪くないと思わせた。
結局寂しくなった琉夏は、すぐに二人を追いかけ三人でまた別の映画を観に行くことにしたのだが。
意識せずに繋いだままだった手を不貞腐れた顔で指摘され、火傷したように慌てて琥一が放したのは、携帯でその姿を激写された後だった。
その姿を見て琥一は歯軋りをして彼女の前で血を流しながらふら付く男を睨み付けた。
薄暗く視界の利かない場所は身動きすらままならない。
小さく呻く琉夏の声に、冬姫の体がびくりと震えた。
恨み辛みを篭めた視線は怨念が宿り、反射的に腕を伸ばして彼女を庇う。
琥一より一回り以上小さな体は、すっぽりと収まる。
「こう、いちくん」
たどたどしい発音で呼ばれた名は、自分のものではないようだった。
護らなければ、と琥一の中の本能が叫ぶ。
父性と庇護欲が掻き立てられ小さな白い手をしっかりと握り、安堵させるよう笑いかけた。
その仕草は、普段の琥一が見たら悶絶しそうなくらい格好よかった。
「・・・てかさ、二人とも大げさだし」
漸く終わった悪夢の時間。
ふるふると震える冬姫を気遣いつつ歩いていた琥一は、その発言の主であるKYな弟をギロリと睨み付けた。
「あぁん?」
威嚇する声が自然と普段よりも低音を這う。
その理由は簡単で、冬姫がこうなったのも自分があんな目にあったのも、全ては能天気極まりない琉夏の所為だからだ。
苛立ちに引きつる琥一の顔を見ても琉夏は取り立てて慌てない。
兄弟として育ったのだから当然かもしれないが、それがさらに琥一の苛立ちを呷った。
子ウサギのように怯える冬姫を見て彼は何も感じないのか。
否、琥一とは遙かかけ離れた感性を持つ琉夏のことだ。
『怯える冬姫も可愛い・・・』などと戯けた考えを抱いたに違いない。
それを肯定するように、未だ震える冬姫を見る琉夏の眼は、桃色のオーラを垂れ流しだ。
不埒な目で見るなと、ぶん殴ってしまいたいほどに。
「誰の所為でこんな目に合ったと思ってる」
唸るような声に、琉夏は飄々と肩を竦める。
「俺?」
「判ってんなら、お前にどうこう言う権利はねぇって気づけ」
冬姫を自分の背後に隠しながら告げれば、心外だとばかりに彼は頬を膨らませた。
綺麗な顔立ちに幼げな仕草。
見るものが見れば垂涎の的かもしれないが、生憎今更琥一の心は動かない。
良くも悪くも見慣れた顔だ。
美醜を考えれば明らかに見るに耐える顔でも、間違っても男に目を奪われる感性は持ち合わせていなかった。
怒りを募らせる琥一を前に、琉夏は唇を窄め訴える。
「でもさ。これ、ただのホラー映画じゃん」
それが重大な問題なんだよ!!
声に出せない分心の中で大きく突っ込んだ琥一は、益々眉を吊り上げる。
冬姫はお化け関係が嫌いだ。
遊園地のお化け屋敷程度なら行こうかと言っても、間違ってもホラー映画を見たいと言い出すタイプではないし、琥一も秘密にしてるが彼女と大体同じ感覚だ。
琉夏には知られていないし、冬姫にも黙っているが、お化けだの妖怪だのスプラッターだの大嫌いだ。
血を見ても平気な性質であるから喧嘩は平気だが、それとこれとは別問題だ。
だが繊細そうな顔をして、全く大雑把な弟に琥一の気持ちが伝わる日はきっと来ないだろう。
隠したいのだからそれでいいはずだけど、時折声を大にして叫びたい。
お前、少しは空気読め、と。
今回は自分以上に怯える冬姫を宥めるので一杯でセーフだったが、これが二人きりだったらと想像したくも無い。
それ以前に映画館に男二人なんて寒い状況はありえないだろうけど。
未だにダメージが大きいらしい冬姫は、普段の気丈な雰囲気から一転し護ってやらねばと強く思わせる。
普段でも良くそう思うのだが、怯えて震える様子は彼女を可憐でひ弱に見せ、着ている清楚な服装から一層同情心が膨らむ。
元々容姿は良いとこのお嬢様風の冬姫だ。
子供の頃は本当にお姫様かもしれないと疑ったほどの美貌の持ち主は、昔憧れた正義のヒーローのヒロインにぴったりだった。
そう、琥一は今ヒーローにならなくてはいけなかった。
悪気全くなしの、悪の権化を前にして。
「でも、俺別の映画も見たい」
「・・・今度はなんだ」
「ゾンビがスリラー踊る感じのB級ホラー。超受ける」
「受けねぇよ!!」
唾を飛ばす勢いでがなり立てるが暖簾に腕押しとばかりに流された。
珍しく映画を見に行きたいと言う琉夏に、何も疑わずついて来た自分が恨めしい。
この場所がホラー専門のマイナー映画館と知ってれば、絶対にそんな愚行を起こさなかったのに。
血管が千切れんばかりに叫ぶ琥一に琉夏はにたり、と唇を持ち上げた。
瞬間警戒警報が脳裏に鳴り響く。
こんな顔をした琉夏は、いいことをしたためしがない。
「コウ、怖いの?」
挑発するような声音。
判りきってるのに反射的に応じそうになった自分を何とか宥める。
ここで乗ったら全てがおしまいだ。
ぺろりと乾いた唇を舐め湿らせる。
眉間の皺が深くなるのを自覚し、額に青筋が浮いてるだろうことも自覚した。
だが右手を握る小さな掌の力が強まるのに、深く瞼を閉じて怒りを納める。
深呼吸を繰り返すと、敗北発言とも取られかねない言葉をそっと舌に乗せた。
「ああ、怖いね。だから俺らはもう帰る」
きょとりと目を見開いた弟に笑いかけると、つながれたままの手を引き踵を返す。
縋りつくように強められたそれに勇気付けられ、さっさと足を速めた。
「ありがとう」
今にも消えそうな声で囁かれ、目を丸くする。
そしてくすぐったさに思わず微笑んだ。
「言ったろ。俺もこえぇんだよ」
「うん。・・・私も、凄く怖かった」
歩調を緩めると隣に並んだ冬姫がおずおずと顔を上げ、ぎこちない笑顔を浮かべた。
儚げな笑みは可哀想だが愛らしく、たまにはプライドを曲げるのも悪くないと思わせた。
結局寂しくなった琉夏は、すぐに二人を追いかけ三人でまた別の映画を観に行くことにしたのだが。
意識せずに繋いだままだった手を不貞腐れた顔で指摘され、火傷したように慌てて琥一が放したのは、携帯でその姿を激写された後だった。
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