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いつも通りにHR後の部活動、がらりと開けた扉の中にはいつもと違う光景が広がっていた。
鞄を肩から提げた状態で、新品の部室の入り口でぱちぱちと目を瞬かせる。
普段から人気のない部室は、マネージャーと嵐二人きりの聖域だった。
なので冬姫が畳の上で正座しているのは良く判る。
だが判らないのはその状況だ。
「───何、やってるんだ?」
こてりと首を傾げ、判らないなら聞いてしまえと素直に疑問を発すると、その最要因は綺麗な顔を嵐に向けた。
「何って。道場破り?」
「はぁ?」
長い髪を揺らして応えた桜井兄弟の弟は、すぐさま後ろからぱしりと叩かれ首を竦めた。
彼の背後で櫛を持った冬姫は不愉快そうに眉を顰めている。
人当たりはよくとも噂を知っている人間からして、彼にこんな態度が取れる存在は少ないに違いない。
「馬鹿なこと言わないの。柔道は嵐くんにとって大事なんだから」
「冬姫にとっても?」
「私にとっても。この柔道部にどれだけ思いいれあるか知ってるでしょ」
そう言って出来たばかりの柔道部の部室を眺める彼女の視線は何処までも柔らかく優しい。
それが嬉しくて嵐の表情も自然と綻ぶ。
彼女が言う通り柔道部は嵐の聖域であり、二人の努力の成果だ。
嵐一人で成し遂げたものではなく、影に日向にルールも知らなかった柔道を勉強し支えてくれた冬姫の存在があってこそのもの。
自分の直感を信じてスカウトした時の冬姫の様子を今でも覚えている。
突拍子もない嵐の言葉に目を丸くした彼女は、考えさせて欲しいと応えた。
すぐに断られてもおかしくない状況だと誰よりも嵐が知っていたのに、瞳を真っ直ぐに覗きこんだ彼女は大した面識もない自分相手に微笑みかけた。
それまでチラシを配った誰も嵐の目を見なかったのに、その時漸く気がついた。
真剣に取り合ってくれたのは、きっと彼女だけだったと思う。
だから嵐は彼女が良いと思った。他の誰でもなく、彼女が一緒に居てくれたら良いと。
断られてもしつこく付きまとう気満々だったが、冬姫は三日間悩んだ後、『是』と返答をくれた。
高校に入って一月足らず。一番嬉しい出来事だった。
それから二人三脚で進めた部活動。筋トレメインだったが木を相手に投げ技の練習もした。
不足な練習は多いけれど、充足感は常にある。
性別は超えた相棒だと、彼女を心から信じている。
だからこそ、嵐は不思議に思う。
桜井兄弟が冬姫に多大な関心を抱いているのは、同級生の中で知らないものが居ないくらい広まっているが、彼らが積極的に嵐に接触した事はない。
一、二度琥一の方とは一緒に筋トレをしたことはあるが、それも例外中の例外で冬姫が関連していた。
ならば、とここで初めて思い至る。
琉夏がこの場に居るのも、冬姫が関係するのかもしれない。
大人しくしない弟をたしなめる姉の表情で琉夏を宥めた冬姫は、再び彼の背後に回って櫛を動かしている。
よくよく見てみれば、肩を超える髪を一本に結わえている最中らしい。
じっと見詰めすぎたのか、目が合ってしまった。
ゴムでなく紐で髪を結ばれた彼は、綺麗な顔に性質の悪い笑みを浮かべる。
「頼まれたんだ」
「は?」
「冬姫に、不二山の相手して欲しいって。俺、お前と体格が似てるから」
はい出来上がり、と小さく微笑んだ冬姫は、状況に戸惑っている嵐ににこりと笑いかけた。
「受身や筋トレも大事だけど、やっぱり人相手の乱取りもしたいでしょ?今日は琉夏君バイト休みだし」
「冬姫の手料理と交換条件に引き受けた。今夜はカレーとホットケーキだ」
「・・・それって食い合わせどうなんだ?」
「ははは・・・琉夏君、こう見えてお子様舌なんだ」
苦笑して琉夏の頭に手を置いた冬姫は、ねーと琉夏と仲良く頷く。
その姿は、幼馴染というよりも。
「・・・言っとくけど、組み手になったら手加減できないかもしれないぞ」
頭に浮かんだ言葉に、何故か不愉快になった嵐は唇を尖らせた。
そして自分の部室であるのに遠慮して敷居を跨いでいなかったのに気がつくと、スニーカーを脱ぎ畳に上がる。
そんな嵐の様子を見て、琉夏は楽しげに笑った。
「大丈夫。俺、痛いの平気だから。それよりも、手とか足が出たらごめん。俺、専門空手だから」
へらりと笑った彼は、嵐をじっと見詰めた。
こくり、と喉を鳴らして視線を強くする。
今気がついたが、彼の目は欠片も笑っていない。
嵐は予備の胴着を彼に放った。
「怪我してもしらないぞ」
「そっちも」
ふふふと笑った彼は、やはり噂通りの桜井兄弟の片割れだった。
笑顔の裏で爪を研いだ獣が潜んでいる。
油断ならない存在に、嵐はひっそりと笑った。
「マネージャー」
「はい」
「練習メニューの用意頼む」
「はい!」
嵐の声に呼応し立ち上がった冬姫は、さっと用意してある机の方へ走っていった。
残された琉夏は、その背中を見送ると嵐から受け取った胴着を片手に立ち上がる。
その日の練習は男の意地のぶつかり合いになり、冬姫が強制的にストップをかけるまで両者一歩も引かなかった。
満足いく厳しい練習内容に、嵐が次を頼んだのは当然予測できる未来だった。
鞄を肩から提げた状態で、新品の部室の入り口でぱちぱちと目を瞬かせる。
普段から人気のない部室は、マネージャーと嵐二人きりの聖域だった。
なので冬姫が畳の上で正座しているのは良く判る。
だが判らないのはその状況だ。
「───何、やってるんだ?」
こてりと首を傾げ、判らないなら聞いてしまえと素直に疑問を発すると、その最要因は綺麗な顔を嵐に向けた。
「何って。道場破り?」
「はぁ?」
長い髪を揺らして応えた桜井兄弟の弟は、すぐさま後ろからぱしりと叩かれ首を竦めた。
彼の背後で櫛を持った冬姫は不愉快そうに眉を顰めている。
人当たりはよくとも噂を知っている人間からして、彼にこんな態度が取れる存在は少ないに違いない。
「馬鹿なこと言わないの。柔道は嵐くんにとって大事なんだから」
「冬姫にとっても?」
「私にとっても。この柔道部にどれだけ思いいれあるか知ってるでしょ」
そう言って出来たばかりの柔道部の部室を眺める彼女の視線は何処までも柔らかく優しい。
それが嬉しくて嵐の表情も自然と綻ぶ。
彼女が言う通り柔道部は嵐の聖域であり、二人の努力の成果だ。
嵐一人で成し遂げたものではなく、影に日向にルールも知らなかった柔道を勉強し支えてくれた冬姫の存在があってこそのもの。
自分の直感を信じてスカウトした時の冬姫の様子を今でも覚えている。
突拍子もない嵐の言葉に目を丸くした彼女は、考えさせて欲しいと応えた。
すぐに断られてもおかしくない状況だと誰よりも嵐が知っていたのに、瞳を真っ直ぐに覗きこんだ彼女は大した面識もない自分相手に微笑みかけた。
それまでチラシを配った誰も嵐の目を見なかったのに、その時漸く気がついた。
真剣に取り合ってくれたのは、きっと彼女だけだったと思う。
だから嵐は彼女が良いと思った。他の誰でもなく、彼女が一緒に居てくれたら良いと。
断られてもしつこく付きまとう気満々だったが、冬姫は三日間悩んだ後、『是』と返答をくれた。
高校に入って一月足らず。一番嬉しい出来事だった。
それから二人三脚で進めた部活動。筋トレメインだったが木を相手に投げ技の練習もした。
不足な練習は多いけれど、充足感は常にある。
性別は超えた相棒だと、彼女を心から信じている。
だからこそ、嵐は不思議に思う。
桜井兄弟が冬姫に多大な関心を抱いているのは、同級生の中で知らないものが居ないくらい広まっているが、彼らが積極的に嵐に接触した事はない。
一、二度琥一の方とは一緒に筋トレをしたことはあるが、それも例外中の例外で冬姫が関連していた。
ならば、とここで初めて思い至る。
琉夏がこの場に居るのも、冬姫が関係するのかもしれない。
大人しくしない弟をたしなめる姉の表情で琉夏を宥めた冬姫は、再び彼の背後に回って櫛を動かしている。
よくよく見てみれば、肩を超える髪を一本に結わえている最中らしい。
じっと見詰めすぎたのか、目が合ってしまった。
ゴムでなく紐で髪を結ばれた彼は、綺麗な顔に性質の悪い笑みを浮かべる。
「頼まれたんだ」
「は?」
「冬姫に、不二山の相手して欲しいって。俺、お前と体格が似てるから」
はい出来上がり、と小さく微笑んだ冬姫は、状況に戸惑っている嵐ににこりと笑いかけた。
「受身や筋トレも大事だけど、やっぱり人相手の乱取りもしたいでしょ?今日は琉夏君バイト休みだし」
「冬姫の手料理と交換条件に引き受けた。今夜はカレーとホットケーキだ」
「・・・それって食い合わせどうなんだ?」
「ははは・・・琉夏君、こう見えてお子様舌なんだ」
苦笑して琉夏の頭に手を置いた冬姫は、ねーと琉夏と仲良く頷く。
その姿は、幼馴染というよりも。
「・・・言っとくけど、組み手になったら手加減できないかもしれないぞ」
頭に浮かんだ言葉に、何故か不愉快になった嵐は唇を尖らせた。
そして自分の部室であるのに遠慮して敷居を跨いでいなかったのに気がつくと、スニーカーを脱ぎ畳に上がる。
そんな嵐の様子を見て、琉夏は楽しげに笑った。
「大丈夫。俺、痛いの平気だから。それよりも、手とか足が出たらごめん。俺、専門空手だから」
へらりと笑った彼は、嵐をじっと見詰めた。
こくり、と喉を鳴らして視線を強くする。
今気がついたが、彼の目は欠片も笑っていない。
嵐は予備の胴着を彼に放った。
「怪我してもしらないぞ」
「そっちも」
ふふふと笑った彼は、やはり噂通りの桜井兄弟の片割れだった。
笑顔の裏で爪を研いだ獣が潜んでいる。
油断ならない存在に、嵐はひっそりと笑った。
「マネージャー」
「はい」
「練習メニューの用意頼む」
「はい!」
嵐の声に呼応し立ち上がった冬姫は、さっと用意してある机の方へ走っていった。
残された琉夏は、その背中を見送ると嵐から受け取った胴着を片手に立ち上がる。
その日の練習は男の意地のぶつかり合いになり、冬姫が強制的にストップをかけるまで両者一歩も引かなかった。
満足いく厳しい練習内容に、嵐が次を頼んだのは当然予測できる未来だった。
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