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張り出された紙を見て、知らず感嘆の息が零れる。
学年分全員の名前と点数が容赦なく張り出されたそれの、下から数えた方が早い位置に自分の名前はあり、対照的に幼馴染の名前は一番上にさんさんと輝いていた。
オール100点に近い点数を取った彼女の頭の中を一度覗いてみてみたい。

「凄いなぁ」

間抜けにも口を開けたまま呟いたら、だな、と控えめな同意が返る。
隣に並ぶ兄も、琉夏とほとんど変わらぬ位置に名前があって、毎回テストごとに上下が入れ替わったりするけれど、中の下なのは変わらない。

「てかよ、あいついつ勉強してんだ?」
「だよな。勉強してるの見たことない。授業で集中して全部頭に入れるタイプ?」
「いいえ。バンビはああ見えて予習復習を地道に続けるタイプよ」

割り込んだ声に視線を彷徨わせ、不意に気づいて顔を下に下げる。
普段よりも首を鋭角に曲げ、漸く視線が絡んだ。

「いつから居たの、みーちゃん」
「ちゃん付けは止めて。ついさっきよ」

不愉快そうに眉を顰めた少女は、冬姫よりも小柄で華奢だ。
肩を僅かに越す程度に伸ばされた髪がトレードマークのみよは、見かけよりも随分と肝が据わっていた。
少なくとも、桜井兄弟が揃っていても怯まずに声を掛けれる程度には、そこらに居る男よりも豪胆である。

ぎろり、と琉夏よりも頭一つ分以上高い場所から琥一がみよを見下ろす。
本人凄んでいる気はないのだろうが、顰められた顔は客観的に見て怖い。
だがそんな琥一の眼差しにも怯まずみよは口を開く。

「バイトに部活。あなたちとのデート。全部こなしても成績が下がらないのは努力してるからよ」
「ま、そうだろうな。冬姫は努力家だから」
「んなこた、俺も知ってる」
「単純に凄いな。時間があっても俺たちは勉強しようってならない。精々試験前に一夜漬けくらいだ。な、コウ」
「ああ。赤を取らなきゃ上々だ」
「そこがバンビとあなたたちの違い。バンビは向上心が強い。まるで、誰かに頼るのを厭うように、全部を自分でやりたがる。動きが止まれば呼吸できない回遊魚みたい」
「───・・・は」

表情を変えないみよの言葉に琉夏は目を丸くする。
確かに冬姫は何でも自分でこなそうとする自尊心の強い部分があるが、全く甘えないわけではない。
自分に何が出来るかを的確に考え判断し、琥一や琉夏に頼ることも多々ある。

けれど、よくよく考えると、冬姫は確かに回遊魚のように動き回っていた。
勉強も部活もバイトも手を抜かず、どちらかと言わなくとも頼りにされる側だった。

「バンビが何かあって最初に頼るのはあなたち兄弟よ。私やカレンや、他にも頼って欲しいと願う人間は幾らでもいるのに。無防備に甘えるのはあなたたちだけ」

無表情に見えたみよは、眉間に皺を刻むと唇を噛み締める。
それは酷く詰まらなそうにしてる子供とそっくりな仕草で、感情の機微がなさそうに見える彼女も、やはりただの女子高生なんだと感じさせた。

ちらり、と視線を琥一に向けると、そっぽを向いた彼は指先で首筋を掻いている。
よく見ると浅黒い肌が僅かに赤く染まっていて、琉夏は思わず苦笑してしまった。

「あなたたちはバンビの止まり木。世間の評価がどうだろうと彼女には関係ないわ。───忘れないで」

言いたいことだけ告げて背を向けたみよは、紛れもなく冬姫の親友だった。
彼女を想い理解する、一生に数人しか出来ない特別な友達。
それが嬉しくて、琉夏はくすくすと微笑んだ。

「俺たち、冬姫の止まり木だって」
「───ああ」
「それってさ、何かいいな。回遊魚のように動き回らないと気がすまない冬姫が、俺たちのとこだけで休むのって特別な感じ」
「事実、特別なんだろ」

ぽそり、と呟かれた琥一の声は何処か誇らしげで、うんと頷く。
学校内外で悪名高い桜井兄弟でも、頑張りすぎる彼女の止まり木になれる。
それは酷く特別な気がして、とてもとても嬉しかった。

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