忍者ブログ
初回の方は必ずTOPの注意事項をご確認ください。 本家はPCサイトで、こちらはSSSのみとなります。
Calendar
<< 2025/06 >>
SMTWTFS
1234 567
891011 121314
15161718 192021
22232425 262728
2930
Recent Entry
Recent Comment
Category
440   439   438   437   436   435   434   433   432   431   430  
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「本当にここでいいのか?」


未だに建物が見えない雪原で、降ろしてくれと告げた少年に小首を傾げる。


「うん。すぐそこだから」


そう言われて指差した先を見ても、円堂には何も見つけれない。
だが地元民らしい少年しか知らない場所があるのだろうと、それ以上の詮索は止める。
代わりにポケットを探り目的のものを見つけると放り投げた。


「それ、持ってけよ。まだ効果は数時間持つからさ」


北海道に入ってから密かに持ち続けていたホッカイロ。
欲しいと言われなかったから自分で使い続けていたが、この少年がまだ雪道を行くつもりなら渡しておいた方がいいだろう。
ボールを持っていない手でキャッチしたそれをまじまじと見て、少年はにこりと微笑む。


「ありがとう」
「どういたしまして。んじゃ、またな」
「え?」
「何となく、お前とはもう一度会う気がするんだ。だから、またな」
「・・・うん。またね」


きょとりと瞬きした少年は、次いで破顔した。
頷いたのを確認し、ウィンク一つしてから手を振る。
目の前で閉じられたドアに一歩下がり、進みだしたキャラバンに気をつけながら席に戻る。


「何を話していたんですか?」
「またな、って言っただけだよ。そう焼もちを妬くなよ、有人」
「ッ!?焼もちなんて妬いてません!」
「そ?それならいいけど」


ドレッドヘアをひと撫でして座席に腰を降ろそうとし、視界に入った姿に微かに柳眉を寄せた。
和気藹々としているキャラバンの中でただ一人、無言で隣の座席を睨み続ける少年。
苛立ちや悔しさを何処に収めればいいか見つけられていない染岡に嘆息した。
義理人情に厚く、優しく一本気なのは染岡の魅力だが、逆に言えば融通が利かずに頑固で柔軟性が足りない。
彼の持ちうる優しさを円堂は好んでいたが、他人に苛立ちをぶつけるのは良くない。
染岡の機嫌を損ねぬようにちらちらと視線をやり気を使う仲間たちに、首を振り椅子に座る。


「どうかしたのか、円堂?」
「いや、どうもしてないよ」


小首を傾げた風丸に笑みを向け、少し寝ると断ってから瞼を閉じる。
白恋中までの道のりで何かいいアイデアが浮かべばいいと思いながら。





「うーん・・・漸く着いたか」


雪の中走る仲間たちを見送りつつ、うん、と軽く伸びをする。
長距離のバスは肩が凝る。キャラバンの脇で軽くストレッチをしていると、いつの間にか隣に並んでいた鬼道が同じように伸びをした。


「お前は皆と行かなくていいのか、有人」
「・・・どうせもう見えています。急がなくても、逃げたりしないでしょう」
「確かにな。けど折角だからお前も混じればいいのに。具体的にはあの辺りに」


円堂が指差した先には元気よく雪合戦している年少組みと一之瀬の姿。
ちなみに一之瀬と並んで走っていた土門は、彼の幼馴染により雪玉の標的にされ追い掛け回されている。
悲鳴じみた奇声を上げているが、誰も助けてくれないらしい。
和やかな光景にくつくつと笑うと、小首を傾げた鬼道がしゅるりと首からマントを外す。


「・・・風邪を引くといけません。これを」
「ああ、サンキュ。でもお前も知ってのとおり、俺寒いのも暑いのも慣れてるから。妹にかしてやって来いよ。ほら、くしゃみしてるぜ」


年上のマネージャーに囲われている春奈を指差すと、丁度くしゃみをしているところだった。
息を詰めた鬼道が、マントを片手に走っていく。
慌てて妹の体を青い布で包んでやる弟に目を細めていると、不意に後ろから声を掛けられた。


「あの・・・」
「ん?」
「日本一の、雷門中のサッカー部の皆さんですよね?」


耳当てをした、髪を肩で切り揃えたどこか気弱そうな少年がおずおずと円堂を見詰めている。
彼の背後にはまだ数人、仲間と思しき少年たちが瞳を輝かせてこちらを見ていた。


「そうだけど、君たちは?」
「俺たち、白恋中のサッカー部なんです!こんなところじゃなんですし、良ければ教室まで案内します。どうぞ付いてきて下さい」
「いいの?」
「ええ、勿論」


促されるままに少年の後をついて行く。
瞳子は校長と話しに行くと言ってたが、しばらくは自由時間だと指示は出されていた。
自由時間とはすなわちある程度の秩序を保てば自由にしていていい時間のことだ。
勝手に解釈し、頭の後ろで手を組み足を動かしていたが、少しだけ思案し歩みを止める。


「おーい!白恋中のサッカー部員見つけたから、俺ついて行くなー」


一応一声かけたらあっという間に全員が集合し、ぞろぞろとついてきた。
これで管理しやすくなった。
満足げに一つ頷くと、いきなり増えた人数に目を白黒させる少年たちを促し校舎へ足を踏み入れた。

流石にサッカー部ともなると、フットボールフロンティアもテレビ中継で見ていたらしく、色々と試合について質問される。
きらきらした目で問われるないように、苦笑しながら応えていれば気がつくと教室の前に立っていた。
がらりとドアを開けられた室内には大型のストーブが置いてあり、煙突が天上に沿って外へと続いている。
薪ストーブらしく、ぱちぱちと木が爆ぜる音が聞こえた。
それぞれに交流を深める部員たちを眺めていると静かに入り口のドアが開く。
顔を出したのは校長と話をすると別行動していた監督で、クールな表情で室内を見渡した。


「・・・吹雪士郎君はどこにいるのかしら?」


腕を組み、盛り上がっていた少年たちの間に入って問いかける。
唐突に割り込まれて瞳を丸くした白恋中のサッカー部の面々は、瞳を丸くしながらも互いの顔を見合わせてざわめきだす。


「吹雪君?今頃スキーじゃないかな。今年はジャンプで100m目指すって言ってたもん」
「いや、きっとスケートだよ。三回転半ジャンプが出来るようになったって言ってた」
「おいらはボブスレーだと思うな。時速100kmを超えたって言ってたよ」


口々に語りだした人物像をあわせると、随分と多趣味な少年らしい。
けどそれにあわせて熊殺しだと益々人物像が掴み辛い。
妄想の中に出来たのは筋骨隆々な少年が優雅にフィギュアの衣装を着て三回転半を決めるシーンで、己の妄想に小さく噴出した。
そういえばここの学校は校舎の前に大きなスケートリンクがあった。
久し振りに後で滑らせて貰おうか。


「俺もウィンタースポーツ大好きだぜ。なんかそいつと話が合いそうだ」
「・・・そうかもしれませんね。姉さんはイギリスでしょっちゅうスケートしていましたし」
「ああ。流石にボブスレーは経験無いけど。有人も一通りは出来たよな?」
「姉さんほどじゃありませんけど」


こくりと頷いた弟の頭を撫でていると、誰か人の近づく気配を感じた。
ドアに視線を送れば、あ、帰ってきたんじゃないと少女が声を上げる。
雪ん子みたいに愛らしい姿でドアに駆け寄ると、ガラガラと音を立てて外に顔を覗かせた。


「吹雪君だ!早く早く、何処に行ってたの?お客さんが来てるんだよ」


短い腕を伸ばして何かを掴んだらしい少女は、ぱっと顔を輝かせる。


「・・・お客さん?」
「ん?」


小さいけれど、確かに聞き覚えのある声にぴくりと眉を跳ね上げた。
まさかと思い入り口を注視していれば、予想通りの姿が現れる。

鈍い色の癖が強い髪に、垂れ目がちで優しげな顔立ち。
特徴的なマフラーは屋内でも外さないらしい。
少し大きめな切れ長の丸くした少年は、ふわりと微笑んだ。


「あれ、君たち」
「・・・さっきの。吹雪士郎ってお前だったのか」
「ふふふ、本当にもう一度会えたね。予想より、ずっと早かったけど」
「そりゃこっちの台詞」


肩を竦めると、くすくすと楽しげに目を細めた少年は頷いた。
そんな彼を見ていた染岡が、信じられないとばかりに叫ぶ。
少しだけ彼の勢いに驚いていた吹雪は、けれど宜しくと愛想よく手を差し伸べた。
しかし。


「・・・ふん」


差し出された手を明らかに故意に無視をした染岡は、ジャージのポケットに手を突っ込み教室から出て行った。
あまりの態度に名を呼ぶが、振り返りもせず去っていく。
追いかけようとした瞬間。


「私に任せて」


隣から走りこんだ秋が円堂を制して教室から出て行った。
柳眉を顰めて二人を見送り、きょとんとしている吹雪に深々と頭を下げる。


「ごめん」
「いいよ、僕も何か彼の気に障ったのかもしれないし」
「違う。あれは単なる八つ当たりだ。ちょっと前に色々あってさ。───とにかく仲間の不始末はキャプテンである俺の不始末だ。無礼な態度を許してやってくれると嬉しい。本当に、ごめんな」


両脇に手を揃え、最敬礼に深々と頭を下げる。


「今はツンツンしてるけど、あいつ本当は凄いいい奴なんだ。あれだけで印象を固めないでやってくれ」
「気にしないで」


小さく微笑んだ少年にもう一度謝罪する。
こんなことで誤解されたら勿体無さ過ぎる。
染岡は感情的になりすぎるが、人情味が厚いいい奴だ。

けどだからこそ、これ以上は放っておけない。
彼が納得するまで好きにさせようと思ったが、染岡の中では豪炎寺について一向にけりがつく気配を見せない。
渦巻く感情を持て余し、こんなんじゃ駄目だと本人だって理解してるだろうに、どうしたらいいか判らないみたいだった。

瞳子が吹雪に話しかけたのを切欠に、こっそりと円堂は踵を返す。
声なき声で助けを呼ぶ友人の背中を追いかけて、教室と温度差のある廊下を一気に駆け抜けた。

拍手[2回]

PR

フリーエリア
Template & Icon by kura07 / Photo by Abundant Shine
Powered by [PR]
/ 忍者ブログ