忍者ブログ
初回の方は必ずTOPの注意事項をご確認ください。 本家はPCサイトで、こちらはSSSのみとなります。
Calendar
<< 2025/06 >>
SMTWTFS
1234 567
891011 121314
15161718 192021
22232425 262728
2930
Recent Entry
Recent Comment
Category
438   437   436   435   434   433   432   431   430   429   428  
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

壁山のいびきが凄すぎて眠れず、土門はむくりと体を起こす。
皆疲れきっているのか、それとも気にならないのか、健やかな寝息を立てている姿に苦笑した。
見た目は土門より遥かに繊細そうでありながら一度寝ると決めたら何処ででも眠れる一之瀬はともかく、鬼道や風丸、神経質そうな目金までもよく寝ている。
どうやって寝てるんだとよく見てみれば、彼ら三人の耳には耳栓が指してあった。
備えあれば憂いなし、を実践する姿に頭を掻く。
きっと先回学校で合宿をしたときに学習したのだろうが、どうせなら土門にも指摘して欲しかった。
先日は壁山と寝床が放れていたので彼のいびきの凄まじさなど土門は欠片も知らなかったのだから。


「・・・こりゃ、ここで寝るのは無理だな」


嘆息すると、寝袋を引き摺って外へ出る。
バスの中より若干寒いが、風邪を引くほどでもないだろう。
さて、どこで寝ようか、と周囲を見渡し、バスの上に意外な人物を認めて目を丸くする。

そこには特徴的なオレンジ色のバンダナをつけた年上の少女の姿があった。
時間的には夜中だろうに、何をするでもなくじっと黙って夜空を見上げている。
確か女性陣は夏未が用意したテントに居たと思ったが、一体どうしたのだろうか。
じっと見詰めても珍しくぼうっとしているのか円堂が土門の視線に気づくことはなく、好奇心のまま寝袋を持ってキャラバンの梯子へ手を伸ばした。


「・・・隣いいか?」
「え?」


きょとり、とした栗色の瞳が無防備に向けられる。
さすがに睡眠時間は眼鏡をとるのか、レンズ越しじゃない瞳が土門の姿を映し出した。
自然な反応に土門の方が驚いてしまう。
何となく、無防備に見えていたけれどこちらに気づいている気もしていたから。

大きな瞳で数度瞬きを繰り返した円堂は、ふっと小さく微笑むと無言でぽんぽんと己の隣を叩いた。
端からここで一緒に寝てもいいか尋ねようとしていたのに、あちらから誘われると躊躇が生まれる。
けれど迷いは一瞬で、普段は独占できない彼女との時間を得るために、願望に忠実な体は勝手に彼女の隣へ向かった。


「壁山か?」
「・・・ああ。円堂、知ってたのか?」
「まあ、ね。この間の合宿で、俺あいつの近くだったし。だから有人や風丸、目金みたいな繊細そうなタイプには予め耳栓を進めといたんだけど、まさか土門まで駄目とはね」
「教えておいてくれよ」
「一哉も知ってるから、放置してもいいかなって思ったんだよ」


けらけらと笑う円堂はいつも通りで、土門は内心で胸を撫で下ろした。
夜空を見上げる彼女は浮世離れして儚げで、今にも消えてしまうんじゃないかと思えたから。
まるで詩人のような自身の妄想に照れながらも、精一杯ポーカーフェイスを保った土門は拗ねたように唇を尖らせた。
そんな土門に笑った円堂は、寝袋にごろりと寝転ぶ。


「ま、お前もここで空を見てれば、そんな小さいこと飛んでくよ」
「小さいって・・・まあ、確かにそうかもな」


彼女に倣って寝袋を敷くと、その上にごろりと横になる。
腕を組んで枕代わりにして、人口の光が入らない夜空を眺めた。

真っ暗な闇に浮かぶ幾つもの光り。
よくよく見れば様々な色合いで、赤、白、青と輝いている。
落書きの星は黄色が多いが、空を探すと意外にに見つからない。
車の通る音や、人の発する騒音は無い。
代わりに虫の音が心地よく広がり、風が葉を擦った音などもよく聞こえた。
ちかちかと瞬きする星々を眺めて、ぽつりと口を開く。


「なあ」
「ん?」
「あの空のどこかに、あいつらの星があるのかな」
「───エイリア学園のか?」


問うた円堂に返さずにいると、円堂はくつりと喉を震わせた。
どうしたのかと訝しく思っていると、そちらを見る前に声を発する。


「どうなんだろうな。俺には、判らないや」


何か含んだような声を不思議に思ったが、気のせいだと流した。
円堂もエイリア学園について何も知らないはずだから、穿った考えを持ちすぎだろう。
意識を再び星へ向ける。


「知ってるか?今見えてる星の光ってさ、何百年とか前の光かもしれないんだぜ」
「・・・・・・」
「宇宙ってさ、光の速度で走っても広すぎるんだ。だから今この地球に到達した光は、何千年前とか、何百年前とかのものかもしれないんだってさ」
「中々博識だな、土門」
「お褒めに預かり光栄です」
「それなら追加で豆知識だ。夜空に浮かぶ星はいろんな色がある。主に分けると赤、青、白、黄。肉眼で捉えられる光もあれば、そうじゃないものもある。・・・さて、じゃあどの色が一番熱量を抱えていると思う?」


唐突な質問に驚きながらも考える。
色で言ったら赤が一番熱そうだが、炎にしても酸素を送り込んだ青い炎のほうが高熱だったりする。
もし宇宙でもその理論が通じるのなら。


「青?」
「ぶー、外れ。正解は白。白い星は白色矮星と言われ、赤い星の中心核だったものなんだ」
「へぇ。じゃあ、赤から白へ進化するんだな」
「違うよ。白い星は、進化の象徴じゃない。退化の表れだ」
「退化?」
「ああ。赤い星となり燃え盛って、エネルギーを放出しきった星が己の核を燃やし続けるのが白色矮星。中心核だったときの余熱と重力による圧力で光と熱を発してる。つまり、自分自身の命を削って存在を主張してるようなものだ」
「そうなのか」


空を見上げて見つけた白い星を指差してされた説明は、どこか物悲しい気がした。
あれほど強く輝きを放っているのに、あれは最後の力を振り絞ったものなのか。
何となくしんみりしながら眺めていると、更に円堂は説明を続けた


「そして数百億年かけて次第に己の熱を失い、最後には黒色矮星に代わる」
「黒色矮星?」
「黒い星」
「黒い星なんてあるのか?」


初めて聞く内容に思わず隣を見ると、視線に気がついたらしい円堂もこちらに首を向ける。
小さく微笑んだ彼女は、ないよ、と一転して否定的な言葉を発した。
結局どちらなのかと首を傾げる土門は、からかわれたのかと眉間に皺を寄せる。
すると手をひらひらと振ってそうじゃないと円堂は訴えた。


「黒色矮星は理論上の存在なんだ」
「理論上?」
「今夜空に浮かぶ星たちが光りを失い黒色矮星になるのは、まだずっと後。少なくとも俺たちが生きている間じゃ確認できないだろうな」
「どうしてだ?」
「この宇宙がまだ若すぎるから。宇宙が出来て初めに浮かんだ白色矮星でも、色を失うには時間がある。だから黒い星は理論上の存在」
「ふーん」


円堂の説明を聞いて改めて星を眺めると、随分と凄いものを目にしている気がした。
夜空なんてほとんど毎日見ているのに、あの綺麗な星にも寿命があって、老いて消えていくのかと思うと不思議だ。
まるで線香花火みたいだ。
最後に一層火花を散らし存在を主張してから消えていく。


「なんか、寂しいな」
「何が?」
「あんなに綺麗な星なのに、命を削って輝いてるっていう事実がだよ」
「そうかもな。けど、命を削って生きているから余計に感慨深いのかもしれないよ。最後が近いからこそ必死に輝く。自分が生きた証を残すために」


まるで星ではなく別の何かを語っている気がして、腕を付いて上半身を起こす。
隣に寝転んでいる少女の顔を覗きこむと、一切の表情を消してガラスのような瞳で空を見上げていた。
違和感にどうしようもなく不安が沸き起こり、思わず手を伸ばす。
通り抜けてしまうのでは、という疑惑は柔らかな癖毛が掌を擽り、くしゃくしゃと動かす。
生きて、彼女がここにいる。
その事実にどうしようもなく安堵して、ほうっと長いため息を吐いた。


「・・・土門?どうしたんだ?」
「は!?あ、いや、なんでもない!」


無意識に伸ばした手を慌てて戻すと、あわあわと両手を振る。
自分でも不振な態度だと思いながら、不自然に首を空へ曲げた。


「と、とにかく!宇宙の広さに比べたら、俺たちなんてちっぽけなものだよ」
「そうかもな。でもそのちっぽけな人が住む地球へと、あの星の光は向かってきてる。宇宙は今も爆発的に広がってる。けど、その収束は、同じ勢いで無へと向かうとも言われてる。どこかを目指して全力で走りぬけて、どこかを目指して全力で帰る。宇宙も人と何も変わらないさ」


普段の飄々とした態度ではなく、年以上に大人びた雰囲気で円堂は言った。
時折見せるこの横顔こそ、もしかしたら彼女の素なのかも知れない。
物静かでどこか老獪した深い眼差しは、子供が持つものじゃない。
諦めなんて言葉が誰より似合わない少女なのに、何かを諦めた目をしていた。


「円堂・・・?」
「宇宙から見たら地球なんてちっぽけで、さらにそこに住む人間なんて小さすぎて目に入らないだろう。けどさ、夜空に瞬く星が全て地球をゴールとして光ってるって考えたほうが、ずっとずっと楽しいだろ」
「・・・そうだな」


いかにも彼女らしい発想の後、円堂はにかっと笑った。
無邪気で幼く見える笑顔はいつも通りで、土門も釣られて微笑んだ。


「宇宙全部の星の光が、地球をゴールにしてるか。なんかそれって、スケールがでかいな」


今にも手に掴めそうな星に向かって腕を伸ばす。
からっぽの手を握り締めれば、それでも何かつかめ取れた気がして、少しだけ愉快な気分に眩しい星を見て目を細めた。
それでもやはり高すぎる場所にある星は掴めたりはしなかったけれど。

拍手[1回]

PR

フリーエリア
Template & Icon by kura07 / Photo by Abundant Shine
Powered by [PR]
/ 忍者ブログ