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琥一は心底困っていた。
普段はきりりと上げられている眉は情けなく下がり、年にしては大柄な体も小さくなっている。
素足で草の上に座っているので肌がちくちくと痒かった。
助けを求めるように視線を巡らせれば、笑いを堪えている弟と目が合う。
後で絶対に殴ってやると拳を固めると、すぐさま叱責が飛んできた。
「もう、コウくん聞いてる!?」
「───聞いてるよ」
むしろ聞きすぎて頭が痛い。
可愛い顔を怒りで赤くした冬姫は、見ていて微笑ましくなるくらい可愛らしい。
肩を僅かに越す髪がさらさら揺れて、頬は淡い桜色。
黒目がちの瞳は僅かに潤み、琥一が知る学校のクラスメイトとは比べ物にならない。
琉夏曰く『お姫様』みたいなレースのワンピースも良く似合っているが、その剣幕には辟易していた。
そもそもことの始まりは、琥一が怪我の手当てをせぬまま約束の場所に遊びに行ったのが発端である。
ガキ大将の本分を発揮し、琉夏を苛めていた奴ら相手に暴れたのは良かったが、大した怪我じゃないと血が滴るそれを舐めたまま放置したのが拙かった。
あの時琉夏が云うとおりに手当てをしていれば、現在これほど面倒な状況にならなかっただろうと思うと後悔してならない。
今日は習い事もなかったのか先に来ていて笑顔で二人を迎えた冬姫は、琥一の腕から流れる血を見た瞬間固まった。
よくよく考えれば彼女との遊びはいつもかくれんぼで、血を流すような激しいものはしたことがない。
ならば見た目通り大人しく卒倒してくれれば良かったのに。
実際そうなれば慌てるどころじゃ済まないだろうに、琥一はそこまで頭が回らない。
実のところ、不機嫌そうな顔のまま彼は混乱していた。
琥一が怪我をするのは日常茶飯事だし、それに一々目くじらを立てる相手は居ない。
クラスメイトは怯えて近寄ってこないし、親になれば慣れたもので救急箱を差し出される程度。
ここまで心配され、怒られるなんて久しぶりだった。
しかも相手は他の誰かではなく冬姫。
学校のクラスメイトや両親ともちょっと違う位置に居る、琉夏と琥一の特別な女の子だ。
その特別の意味を突き詰める気はなかったけれど、他の誰とも違う存在だとは認めている。
だからこそ、琥一は不機嫌そうな顔になる。
そうしないとどうしようもなく照れくさくて、変になった顔を二人に見られてしまいそうだった。
「コウくん」
「・・・おう」
「手、出して」
説教を続けていたはずの冬姫は、スイッチが切れたように大人しくなる。
それに些か慌てながら言われたとおりに手を出した。
すると琥一と同じ年であるはずなのに、小さくて白く柔らかな手がそっと掌を包み込み、胸がどくどくと脈打ち始める。
全く違う生き物みたいだ。
クラスメイトの女には感じたことがない胸の高鳴り。
急に頭がくらくらし始めて、そんなに今日は暑かっただろうかと首を捻る。
借りてきた猫のようにされるがままになっていた琥一の手の甲には、ピンクの熊がプリントされた愛らしい絆創膏がぺたりと張られた。
「!!?」
自分には似合わないそれに、琥一は息を呑む。
冬姫の後ろでついに限界を超えたらしい琉夏が、口元を押さえて蹲った。
この野郎。
額に一つ青筋が浮かぶ。
似合わないのなんて言われるまでもなく判っているが、笑われるのは腹立たしい。
取ってやろうと腕を伸ばせば、白い掌に阻止された。
何のつもりか問い詰めようと冬姫を見れば、少女はまるで宝物を握り締めるように琥一の手を両手で握り胸の前に持っていく。
「早くコウくんの傷が治りますように」
祈るような囁きは、琥一の胸の奥深く、どこか大事な場所を抉った。
琉夏の『お姫様』発言を常々馬鹿にしてきたが、少し撤回してもいいかもしれない。
剥がすタイミングを失った手の甲の絆創膏を眺め、琥一は思った。
背後では琉夏が怪我をしていないのに冬姫に絆創膏を求め、羨ましそうに琥一を眺める。
怪我してないから駄目だと断られた彼に、絆創膏を奪われないよう奮闘するのは仕方ないことだろう。
ちなみに後日冬姫に絆創膏をしてもらうために怪我をした琉夏は、その目論見があっさりと露見し冬姫に一週間口を聞いてもらえなかったのでその作戦は二度と繰り返さなかった。
普段はきりりと上げられている眉は情けなく下がり、年にしては大柄な体も小さくなっている。
素足で草の上に座っているので肌がちくちくと痒かった。
助けを求めるように視線を巡らせれば、笑いを堪えている弟と目が合う。
後で絶対に殴ってやると拳を固めると、すぐさま叱責が飛んできた。
「もう、コウくん聞いてる!?」
「───聞いてるよ」
むしろ聞きすぎて頭が痛い。
可愛い顔を怒りで赤くした冬姫は、見ていて微笑ましくなるくらい可愛らしい。
肩を僅かに越す髪がさらさら揺れて、頬は淡い桜色。
黒目がちの瞳は僅かに潤み、琥一が知る学校のクラスメイトとは比べ物にならない。
琉夏曰く『お姫様』みたいなレースのワンピースも良く似合っているが、その剣幕には辟易していた。
そもそもことの始まりは、琥一が怪我の手当てをせぬまま約束の場所に遊びに行ったのが発端である。
ガキ大将の本分を発揮し、琉夏を苛めていた奴ら相手に暴れたのは良かったが、大した怪我じゃないと血が滴るそれを舐めたまま放置したのが拙かった。
あの時琉夏が云うとおりに手当てをしていれば、現在これほど面倒な状況にならなかっただろうと思うと後悔してならない。
今日は習い事もなかったのか先に来ていて笑顔で二人を迎えた冬姫は、琥一の腕から流れる血を見た瞬間固まった。
よくよく考えれば彼女との遊びはいつもかくれんぼで、血を流すような激しいものはしたことがない。
ならば見た目通り大人しく卒倒してくれれば良かったのに。
実際そうなれば慌てるどころじゃ済まないだろうに、琥一はそこまで頭が回らない。
実のところ、不機嫌そうな顔のまま彼は混乱していた。
琥一が怪我をするのは日常茶飯事だし、それに一々目くじらを立てる相手は居ない。
クラスメイトは怯えて近寄ってこないし、親になれば慣れたもので救急箱を差し出される程度。
ここまで心配され、怒られるなんて久しぶりだった。
しかも相手は他の誰かではなく冬姫。
学校のクラスメイトや両親ともちょっと違う位置に居る、琉夏と琥一の特別な女の子だ。
その特別の意味を突き詰める気はなかったけれど、他の誰とも違う存在だとは認めている。
だからこそ、琥一は不機嫌そうな顔になる。
そうしないとどうしようもなく照れくさくて、変になった顔を二人に見られてしまいそうだった。
「コウくん」
「・・・おう」
「手、出して」
説教を続けていたはずの冬姫は、スイッチが切れたように大人しくなる。
それに些か慌てながら言われたとおりに手を出した。
すると琥一と同じ年であるはずなのに、小さくて白く柔らかな手がそっと掌を包み込み、胸がどくどくと脈打ち始める。
全く違う生き物みたいだ。
クラスメイトの女には感じたことがない胸の高鳴り。
急に頭がくらくらし始めて、そんなに今日は暑かっただろうかと首を捻る。
借りてきた猫のようにされるがままになっていた琥一の手の甲には、ピンクの熊がプリントされた愛らしい絆創膏がぺたりと張られた。
「!!?」
自分には似合わないそれに、琥一は息を呑む。
冬姫の後ろでついに限界を超えたらしい琉夏が、口元を押さえて蹲った。
この野郎。
額に一つ青筋が浮かぶ。
似合わないのなんて言われるまでもなく判っているが、笑われるのは腹立たしい。
取ってやろうと腕を伸ばせば、白い掌に阻止された。
何のつもりか問い詰めようと冬姫を見れば、少女はまるで宝物を握り締めるように琥一の手を両手で握り胸の前に持っていく。
「早くコウくんの傷が治りますように」
祈るような囁きは、琥一の胸の奥深く、どこか大事な場所を抉った。
琉夏の『お姫様』発言を常々馬鹿にしてきたが、少し撤回してもいいかもしれない。
剥がすタイミングを失った手の甲の絆創膏を眺め、琥一は思った。
背後では琉夏が怪我をしていないのに冬姫に絆創膏を求め、羨ましそうに琥一を眺める。
怪我してないから駄目だと断られた彼に、絆創膏を奪われないよう奮闘するのは仕方ないことだろう。
ちなみに後日冬姫に絆創膏をしてもらうために怪我をした琉夏は、その目論見があっさりと露見し冬姫に一週間口を聞いてもらえなかったのでその作戦は二度と繰り返さなかった。
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