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真っ白な雪がそぼ降る中、バスは軽快に前に進む。
途中でスタッドレスにタイヤを替えたから、今のところ旅路は中断されてない。
それでも雪の深さからいつ何処で足止めを喰らってもおかしくないな、と幼馴染の肩越しに外を眺めていると、毛布を纏ったままの壁山が盛大なくしゃみをした。
どうやら寒いのは苦手らしく、他にも数人が暖を取るよう己の体を抱いている。
幸いにして寒いのも暑いのも割りと円堂は平気だが、確かに本島に比べると大分気温は下がっていた。
ぼうっと仲間たちを観察していると、不意に急ブレーキがかかり体が前のめりになる。
シートベルトをしているので腹に僅かに付加が掛かる程度だったが、何事かと前を見た。
「どうしたんですか?」
珍しく慌てた様子の瞳子の言葉に、呆然として古株が答える。
「・・・人がおる」
聞こえた言葉に目を丸くすると、バスの通路に顔を出し前方を覗いた。
すると確かに。
円堂が座っているのと反対側の斜線にある地蔵の脇に、何故か頭に雪を積もらせた少年が一人。
「・・・かさこ地蔵?」
「そんなわけないだろう!どう見ても人だ!」
思わず昔読んだ童話のタイトルを口にすれば、隣の風丸に全力で突っ込まれた。
冗談のつもりだったのに、と嘯きながらシートベルトを外して席を立つと、ジャージの裾を握られる。
「何?」
「何って、何処に行くんだ?」
「決まってるじゃん。少年を助けにだよ。あんな状態だと洒落になんないだろ。構いませんよね、監督」
「ええ。早く行ってあげて」
「はい」
さりげなく風丸の手をジャージから外し、通路を早足に歩く。
心配げな眼差しで見送る幼馴染と、同じような視線を向けてくる弟に手を振ると、ドアから外に飛び出した。
流石にキャラバンの内部と外気温の差は結構あり、吹き付ける風に一瞬身を竦める。
ガラス越しではなく少年を見詰め、益々違和感に眉根を寄せた。
ここに来るまで民家など久しく見ていない。
周りは一面雪景色。雨宿り───ではなく、この場合は雪宿り出来そうな場所も見当たらないし、人通りだって勿論無い。
それなのに少年はジャージにマフラーという軽装で、しかも傘すら持ってない。
何故、と疑問を浮かべながらも、少年に近づき声を掛けた。
「おい、そこの少年」
「ぼぼぼぼぼぼぼくのこと?」
「おう、そう。一体そんなとこで何してんだ?修行?」
「しゅ修行?こここんなところで、修行なんてしないよ。単に雪に呑まれてみみ、道に迷っちゃったんだ」
「なんだ、そうか。俺はてっきり何か悟りでも開いてんのかと思ったぜ。けど、それならキャラバンに乗らないか?ここよりは暖かいぞ」
「あああああありありありがととと」
話している内にも歯の根が合わなくなったのか、最終的に何を言っているか判別は出来なかったが、何が言いたいかは判ったのでにこりと笑う。
頭や肩の上に積もっている雪を退けてやると、もう一度礼を言った少年は足元に置いていた何かを拾った。
雪が保護色になり気がつかなかったが、大事そうに抱いたものはサッカーボールで、少しだけ目を丸くする。
しかし結局何も言わずにキャラバンまで案内すれば、秋が駆け寄り毛布を渡してくれた。
「悪い秋、毛布の前にタオル貸してやってくんない?本当は着替えを渡すのがいいんだろうけど、流石にここじゃ着替えれないだろうし。少しでも水分取ってからじゃなきゃ毛布を巻いても冷えるからな。あ、出来れば三枚」
「あ、ごめんなさい!───えと、はいタオル。でも三枚も何に使うの?」
「こう使うの。ほれ、まずは軽く体を拭いてくれ、少年」
「ううううううん」
がちがちと震える少年は、雪で濡れていたジャージをそそくさと拭い始める。
一枚渡されたバスタオルで拭いているので、大まかな部分は賄えそうだ。
一瞥してから、空いていた塔子の隣にここいいか?と尋ねてから頷いたのを確認してタオルを敷く。
「少年、体は拭き終わったか?」
「うううううん、だだだいたい、終わったよ」
「じゃ、ここ座れ。ほい、毛布」
「あああありがと」
震える体に毛布を巻きつけてやってから、座らせる。
丁度自分の前の位置に少年が着席したところで、古株がゆっくりとイナズマキャラバンを走らせた。
「・・・円堂君、最後の一枚はどうするの?」
濡れたタオルを手早く片付けながら問いかける秋にウィンクすると、後ろの席から体を伸ばす。
本当は運転中に危ないが、高速道路じゃないので多めに見てもらおう。
目の前の鈍い色をした髪にタオルを落とし、わしゃわしゃと拭けば、ぷわっと軽い悲鳴が上がった。
「何だ、その声。変なのー」
「だだだって、突然なんだもん」
「髪を乾かさなきゃ風邪引くだろ。俺が拭いてやるから、お前は暖を取ってろよ」
「あありがとう」
こくりと頷いたのを確認してから、タオルを動かす。
ある程度水を吸ったところで、ポンポンと掌を合わせるような動きに変えた。
「円堂、他人の髪を拭くの慣れてるのか?」
「んー?そう見えるか?」
「ああ」
「そう大した経験は無いんだけどなぁ」
丁寧に髪から水分を取りつつ、ある程度で満足する。
ドライヤーを使えるならいいが、流石に車内では無理だ。
防寒対策にぐるぐるとタオルをターバン巻きにしてやろうかと思ったが、流石にそれは遠慮された。
端整な顔立ちの彼なら割と似合いそうなのに、と少しだけ残念に思っていると、伸びてきた手にタオルを回収される。
「有人?」
「もういいでしょう、姉さん。春奈、これを片付けてもらえるか?」
「うん」
若干不機嫌そうな弟は、低い声で春奈へとタオルを渡した。
強引な態度に少しだけ驚いたが、すぐに苦笑へと変わる。
判りやすい焼もちを妬いた態度に笑うと、自分でも子供っぽいと思っているのか鬼道は顔を赤らめてそっぽを向いた。
くすくすと笑っていたら、ぐるりと少年が顔を上げる。
随分な角度なのでさぞかし首が痛かろうと観察していれば、寒さのためか青白くなっている唇が開いた。
「君たちは兄弟なの?」
「血は繋がってないけどな」
「え?」
「有人は音無と血が繋がった兄弟だ」
「???」
色々と簡略化した説明に少年の顔周りには疑問符が飛び交う。
しかしながら一々他人に全てを説明する気にもならず、笑みを深めて疑問を躱す。
「それよりも少年。雪原の真ん中で何してたんだ?」
「・・・あそこは僕にとって特別な場所なんだ。北ヶ峰って言ってね」
「北ヶ峰?」
話し出した少年の腰を追ったのは、意外にも運転席に座る古株だった。
「聞いたことがあるぞ。確か、雪崩が多いんだよな?」
運転しているためこちらを振り返らずに古株が口にすると、少年の瞳が丸くなる。
そして僅かに顔を伏せた。
ふむ、と少年の反応に円堂は首を傾げる。
知っている地名を告げられただけで、こんな哀しげな反応をするものだろうか。
仲間たちは古株の言葉に気を取られて少年の様子に気づいていないようだが、身を乗り出して少年を見ていた円堂にはどうにも気になった。
「・・・なぁ」
「ところで坊主。どこまで行くんだ」
しかし声を掛けようと発した言葉も、古株にへし折られる。
その時には少年の顔から諦念は失せ、何処かの詩人みたいな言葉を口にした。
「蹴り上げられたボールみたいに、ひたすら真っ直ぐに」
ぶっと噴出しそうになるのを辛うじて堪える。
これは天然なのだろうか。
かなり斬新な表現がツボにはまり、腹筋を総動員して笑わないよう必死になる。
もしかしてこの少年は自作のポエムノートとか持ってるのだろうか。
だとしたら似合いすぎる。
己の妄想により腹筋を更に駆使する羽目になりながら身を捩っていると、ふと視線を感じて顔を上げる。
呆れたような眼差しを向ける風丸にへらりと笑い、深呼吸して息を整えた。
「いいねぇ、その表現。な、お前サッカーやるんだろ?」
「うん」
ふわりと微笑む少年は、嬉しげに頷く。
更に会話を発展させようとしたところで、激しくキャラバンが揺れ、円堂は咄嗟に前の座席に捕まった。
体に響く衝撃に目を眇めて何とか堪える。
気がつけば目の前の座席に少年の姿は無く、地響きがして顔を向ければ『やまおやじ』だか『ゆきおやじ』だかの名を持つ熊が気絶して倒れていた。
吹雪く雪に目を凝らして見れば、腹の部分に何かが当たった痕がある。
「もう出発して大丈夫ですよ」
柔らかな雰囲気でボールを両手に抱えて微笑む少年に、円堂はすっと目を細めた。
途中でスタッドレスにタイヤを替えたから、今のところ旅路は中断されてない。
それでも雪の深さからいつ何処で足止めを喰らってもおかしくないな、と幼馴染の肩越しに外を眺めていると、毛布を纏ったままの壁山が盛大なくしゃみをした。
どうやら寒いのは苦手らしく、他にも数人が暖を取るよう己の体を抱いている。
幸いにして寒いのも暑いのも割りと円堂は平気だが、確かに本島に比べると大分気温は下がっていた。
ぼうっと仲間たちを観察していると、不意に急ブレーキがかかり体が前のめりになる。
シートベルトをしているので腹に僅かに付加が掛かる程度だったが、何事かと前を見た。
「どうしたんですか?」
珍しく慌てた様子の瞳子の言葉に、呆然として古株が答える。
「・・・人がおる」
聞こえた言葉に目を丸くすると、バスの通路に顔を出し前方を覗いた。
すると確かに。
円堂が座っているのと反対側の斜線にある地蔵の脇に、何故か頭に雪を積もらせた少年が一人。
「・・・かさこ地蔵?」
「そんなわけないだろう!どう見ても人だ!」
思わず昔読んだ童話のタイトルを口にすれば、隣の風丸に全力で突っ込まれた。
冗談のつもりだったのに、と嘯きながらシートベルトを外して席を立つと、ジャージの裾を握られる。
「何?」
「何って、何処に行くんだ?」
「決まってるじゃん。少年を助けにだよ。あんな状態だと洒落になんないだろ。構いませんよね、監督」
「ええ。早く行ってあげて」
「はい」
さりげなく風丸の手をジャージから外し、通路を早足に歩く。
心配げな眼差しで見送る幼馴染と、同じような視線を向けてくる弟に手を振ると、ドアから外に飛び出した。
流石にキャラバンの内部と外気温の差は結構あり、吹き付ける風に一瞬身を竦める。
ガラス越しではなく少年を見詰め、益々違和感に眉根を寄せた。
ここに来るまで民家など久しく見ていない。
周りは一面雪景色。雨宿り───ではなく、この場合は雪宿り出来そうな場所も見当たらないし、人通りだって勿論無い。
それなのに少年はジャージにマフラーという軽装で、しかも傘すら持ってない。
何故、と疑問を浮かべながらも、少年に近づき声を掛けた。
「おい、そこの少年」
「ぼぼぼぼぼぼぼくのこと?」
「おう、そう。一体そんなとこで何してんだ?修行?」
「しゅ修行?こここんなところで、修行なんてしないよ。単に雪に呑まれてみみ、道に迷っちゃったんだ」
「なんだ、そうか。俺はてっきり何か悟りでも開いてんのかと思ったぜ。けど、それならキャラバンに乗らないか?ここよりは暖かいぞ」
「あああああありありありがととと」
話している内にも歯の根が合わなくなったのか、最終的に何を言っているか判別は出来なかったが、何が言いたいかは判ったのでにこりと笑う。
頭や肩の上に積もっている雪を退けてやると、もう一度礼を言った少年は足元に置いていた何かを拾った。
雪が保護色になり気がつかなかったが、大事そうに抱いたものはサッカーボールで、少しだけ目を丸くする。
しかし結局何も言わずにキャラバンまで案内すれば、秋が駆け寄り毛布を渡してくれた。
「悪い秋、毛布の前にタオル貸してやってくんない?本当は着替えを渡すのがいいんだろうけど、流石にここじゃ着替えれないだろうし。少しでも水分取ってからじゃなきゃ毛布を巻いても冷えるからな。あ、出来れば三枚」
「あ、ごめんなさい!───えと、はいタオル。でも三枚も何に使うの?」
「こう使うの。ほれ、まずは軽く体を拭いてくれ、少年」
「ううううううん」
がちがちと震える少年は、雪で濡れていたジャージをそそくさと拭い始める。
一枚渡されたバスタオルで拭いているので、大まかな部分は賄えそうだ。
一瞥してから、空いていた塔子の隣にここいいか?と尋ねてから頷いたのを確認してタオルを敷く。
「少年、体は拭き終わったか?」
「うううううん、だだだいたい、終わったよ」
「じゃ、ここ座れ。ほい、毛布」
「あああありがと」
震える体に毛布を巻きつけてやってから、座らせる。
丁度自分の前の位置に少年が着席したところで、古株がゆっくりとイナズマキャラバンを走らせた。
「・・・円堂君、最後の一枚はどうするの?」
濡れたタオルを手早く片付けながら問いかける秋にウィンクすると、後ろの席から体を伸ばす。
本当は運転中に危ないが、高速道路じゃないので多めに見てもらおう。
目の前の鈍い色をした髪にタオルを落とし、わしゃわしゃと拭けば、ぷわっと軽い悲鳴が上がった。
「何だ、その声。変なのー」
「だだだって、突然なんだもん」
「髪を乾かさなきゃ風邪引くだろ。俺が拭いてやるから、お前は暖を取ってろよ」
「あありがとう」
こくりと頷いたのを確認してから、タオルを動かす。
ある程度水を吸ったところで、ポンポンと掌を合わせるような動きに変えた。
「円堂、他人の髪を拭くの慣れてるのか?」
「んー?そう見えるか?」
「ああ」
「そう大した経験は無いんだけどなぁ」
丁寧に髪から水分を取りつつ、ある程度で満足する。
ドライヤーを使えるならいいが、流石に車内では無理だ。
防寒対策にぐるぐるとタオルをターバン巻きにしてやろうかと思ったが、流石にそれは遠慮された。
端整な顔立ちの彼なら割と似合いそうなのに、と少しだけ残念に思っていると、伸びてきた手にタオルを回収される。
「有人?」
「もういいでしょう、姉さん。春奈、これを片付けてもらえるか?」
「うん」
若干不機嫌そうな弟は、低い声で春奈へとタオルを渡した。
強引な態度に少しだけ驚いたが、すぐに苦笑へと変わる。
判りやすい焼もちを妬いた態度に笑うと、自分でも子供っぽいと思っているのか鬼道は顔を赤らめてそっぽを向いた。
くすくすと笑っていたら、ぐるりと少年が顔を上げる。
随分な角度なのでさぞかし首が痛かろうと観察していれば、寒さのためか青白くなっている唇が開いた。
「君たちは兄弟なの?」
「血は繋がってないけどな」
「え?」
「有人は音無と血が繋がった兄弟だ」
「???」
色々と簡略化した説明に少年の顔周りには疑問符が飛び交う。
しかしながら一々他人に全てを説明する気にもならず、笑みを深めて疑問を躱す。
「それよりも少年。雪原の真ん中で何してたんだ?」
「・・・あそこは僕にとって特別な場所なんだ。北ヶ峰って言ってね」
「北ヶ峰?」
話し出した少年の腰を追ったのは、意外にも運転席に座る古株だった。
「聞いたことがあるぞ。確か、雪崩が多いんだよな?」
運転しているためこちらを振り返らずに古株が口にすると、少年の瞳が丸くなる。
そして僅かに顔を伏せた。
ふむ、と少年の反応に円堂は首を傾げる。
知っている地名を告げられただけで、こんな哀しげな反応をするものだろうか。
仲間たちは古株の言葉に気を取られて少年の様子に気づいていないようだが、身を乗り出して少年を見ていた円堂にはどうにも気になった。
「・・・なぁ」
「ところで坊主。どこまで行くんだ」
しかし声を掛けようと発した言葉も、古株にへし折られる。
その時には少年の顔から諦念は失せ、何処かの詩人みたいな言葉を口にした。
「蹴り上げられたボールみたいに、ひたすら真っ直ぐに」
ぶっと噴出しそうになるのを辛うじて堪える。
これは天然なのだろうか。
かなり斬新な表現がツボにはまり、腹筋を総動員して笑わないよう必死になる。
もしかしてこの少年は自作のポエムノートとか持ってるのだろうか。
だとしたら似合いすぎる。
己の妄想により腹筋を更に駆使する羽目になりながら身を捩っていると、ふと視線を感じて顔を上げる。
呆れたような眼差しを向ける風丸にへらりと笑い、深呼吸して息を整えた。
「いいねぇ、その表現。な、お前サッカーやるんだろ?」
「うん」
ふわりと微笑む少年は、嬉しげに頷く。
更に会話を発展させようとしたところで、激しくキャラバンが揺れ、円堂は咄嗟に前の座席に捕まった。
体に響く衝撃に目を眇めて何とか堪える。
気がつけば目の前の座席に少年の姿は無く、地響きがして顔を向ければ『やまおやじ』だか『ゆきおやじ』だかの名を持つ熊が気絶して倒れていた。
吹雪く雪に目を凝らして見れば、腹の部分に何かが当たった痕がある。
「もう出発して大丈夫ですよ」
柔らかな雰囲気でボールを両手に抱えて微笑む少年に、円堂はすっと目を細めた。
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