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掻き乱す
--お題サイト:afaikさまより--

■か 寛容にも叱ってみせる

馬鹿なんじゃないかと本気で思う。

仮にも一国の、しかもアリスの国からしてみたら足を向けて眠れないほどの大国の王子の、厚かましくも図々しい仕草にアリスは目が半眼になる。


「ちょっと」
「ん?」
「ん?じゃないわよ。何優雅にお茶飲んでるの」
「私は好きなときに好きな場所でお茶を飲むと決めている」
「好きなときに好きな場所?」


かちん、ときた。
一応初対面から暫くは丁寧語を使っていたはずだが、今ではもうお山の彼方だ。
いらりとした雰囲気を隠しもせず、額に青筋を浮かべて堂々とした王子様に微笑んだ。


「知ってるかしら?ここは私の国の私の私室なのよ?」


糠に釘と理解しつつも、学習しないのは果たしてどちらだろうか。


■き 切られるように痛いはずの

例えば、コレがもう少し謙虚な性格をしていたら、アリスの対応も変わったかもしれない。
それが駄目でももう少し体面を気にして欲しい。

どれだけアリスが怒っても馬耳東風とばかりに右から左へ流す男は、ある意味大国の後継者らしいのかもしれない。
下々の言葉に耳を傾けず、どこまでもあくまでも自分本位。
彼には絶対王政を敷きそうだ。
しかも堂々と何故逆らうんだと小首を傾げながら。

勝手にセッティングされたテーブルの上のティーカップを弄び、至極楽しそうに微笑む男にアリスは苦い表情を浮かべた。

せめて、彼の顔がいつかの面影に重ならなければと考えながら。


■み 満ちてゆく煌めきはきっと

「君はもう少し私に甘えるべきだ」


当たり前の権利を主張するように、優雅に紅茶を嗜みながらされた発言に眉を上げる。
何のつもりかしらないが、いきなり何を言い出すのか。

整った顔立ちを美しく笑みへと変えて、余裕たっぷりに囁く男の膝を蹴る。
まさかの暴行だったのか、綺麗に脛に入ったらしく、少しだけ涙目でこちらを睨んで来た。
いい気味だと王女らしからぬ様子で嘲笑すれば、すいっと器用に眉を上げた。


「これが君の甘え方か?」
「そんなわけないでしょ。私は別にサドじゃないわ」
「それはよかった。私もマゾとは言い難い。上手く付き合っていけそうだ」
「無理よ」
「試す前からそんな弱気でどうする?」
「試したいと思えないの。恋愛なんてこりごりよ」
「こりごりと言える経験でもしたのか?」
「あなたには関係ないわ」


だから権利を主張しないで。
聡いはずの男が、言外の言葉に気付かないはずがないのに。


■だ ダーク・シークレットも今や

誰にだって言いたくない過去の一つや二つあると思う。

アリスにとってのそれは、過去の恋愛経験だ。
今となってはあれを恋愛と読んでもいいのか判らないが、アリスは恋をしていた。

優しくて、素敵で、穏やかな人。
好きになって、好きになって欲しいから、ほんの少しだけ無理をした。
今思えば、なんて無駄なことだったのか。

彼が好きなのはアリスではなく、アリスが一生かかっても超えられない人なのに。

苦い経験はアリスを学習させた。

傷つきたくないの。気付きたくないの。

唇を噛み締めて俯いて。きつく瞼を閉じたとしても。
失くせない過去は今も鮮やかに脳裏に刻まれ消えやしない。


■す 摺り寄せるそれは桜色

「忘れろ」
「え?」


唐突な言葉に遠くに行っていた意識が戻る。

気がつけば目と鼻の先に端整な顔があり、同じに見えるのに全く違う表情を浮かべた『ブラッド』に目を見張る。

本来ならこんな距離を許される関係じゃないのに、垣根などないように彼はアリスへ近づく。
それは目で見える距離だけじゃなく、見えないものについてもいえて、それが嫌で仕方ない。

それなのに、そんなアリスを知ってるはずの彼は、緩やかに口の端を持ち上げて実に彼らしく皮肉げな笑い方をした。


「私以外の記憶は留めておかなくていい」
「何を」
「君が気にしなくてはいけないのは、私だけだ。私だけを見て、私だけを意識していろ」
「無理よ」
「無理じゃない。なんなら協力してあげようか?私の城へ連れ帰り、私の所有する塔に幽閉させ、私てずから飼ってやろう。私が居なければ君は一日たりとも生きていけない。どうだ?」
「───最悪ね」


誰かに飼われる気はない。
しかも相手が彼なんて、最悪の極みだ。
彼は絶対に口にした通りに実行する。
自分以外にあわせずに、自分が居なければ生きていけないようにアリスを閉じ込める。

でもきっと飽きるに違いない。
アリスに飽きて、置いていくのだ。
自分が居なければ生きてけないように作り変え、興味がなくなれば捨ててしまう。
そんなの、絶対に御免だ。


「お断りよ」
「・・・そうか。いいアイデアだと思ったんだがな」
「やめて頂戴。そんなことする気なら、もう二度とあなたとお茶は飲まないわ」


アリスの言葉に虚をつかれたように目を丸めた青年は、くつくつと喉を震わせて笑った。


「なら駄目だな。私は君とのこの時間を大切にしている」


楽しげな笑みは嘘じゃない。
この表情は嫌いじゃない。
嫌いじゃないけれど、それだけだ。


誰に言い聞かすでもなく、アリスは苦々しい表情を浮かべる。
その顔を見て笑みを深める男を前に、思い切り深いため息を吐き出しても、嫌味すら流す彼は無駄に余裕たっぷりだ。


「早く飽きて」
「何にだ?」
「このお茶会よ」


全てを篭めて囁いた言葉に、ブラットは破顔した。


「無理だな」

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