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イナズマキャラバンの後ろに取り付けられキッチンを見て、円堂は瞳を輝かせた。
まるでサッカーをしているときと同じ表情に、夏未は訝しげに眉根を寄せる。
他の面々は食事に貪りついているのに同じくらい疲れているだろう彼女は、食事を摂るでもなく夏未を振り返った。
「なあ、夏未」
「何かしら?」
「これ、俺使っていい?」
「これって・・・もしかしてキッチンのこと?」
「そうそう!結構いい感じのキッチンじゃん。使わないなんてもったいないだろ」
ふふふっと楽しげに笑い、黒縁のお洒落眼鏡を指の腹で持ち上げた円堂はにかっと笑った。
オレンジ色のバンダナは珍しく外され手首に巻かれている。
返事を聞く前にキッチンの前に立った円堂に、夏未は慌てた。
「ちょ、あなた料理は出来るの?」
「───守は雷門より遥かに料理上手だと思うよ」
「!!?」
円堂に問いかけたはずなのに、後ろから返事が来てびくりと体を竦ませる。
慌てて振り返れば、おにぎりを両手に握った一之瀬が、リスのように頬を膨らませて立っていた。
彼の隣には幼馴染の土門も同じようにおにぎりを握って立っている。
初めて聞く事実に驚いていると、ん?と不思議そうに一之瀬が首を傾げた。
「何?」
「いえ・・・円堂君が料理をするなんて初めて聞いたから」
「守の料理は絶品だよ。和洋中何でもござれだし、お菓子も美味しい。な、土門」
「・・・まあ、かなりの腕前ってのは本当だよな。振舞われる料理は円堂の気分次第だけど」
にこにこと教えてくれた一之瀬に、やや疲れ気味に土門が相槌を打つ。
反応の差に首を傾げていると、ひとしきりキッチンの何処に何があるか確認し終わったらしい円堂が振り返った。
こちらの会話など一切気にしない図太い神経に呆れていると、すっと眼鏡を外して襟首に差し込む。
珍しく素顔を曝した彼女に驚いている夏未を気にする様子もなく、ぐっと顔を近づけてきた。
栗色の大きな瞳がきらきらと輝き、まろい頬は興奮に染まっている。
同性でありながらも、『あ、可愛い』と思える雰囲気に、夏未は苦笑した。
普段は掴みどころない飄々とした態度の癖に、まるで玩具を前にした子供みたいだ。
「夏未、林檎ある?」
「林檎?・・・確かあったと思うわ」
「じゃ、シナモンとバニラビーンズは見つけたから、小麦粉と卵と生クリームは?」
「えっと、確かそっちの棚に・・・。卵と生クリームは保冷庫にあると思うわ」
「んじゃ、持ってきて。一品デザート作ってやるよ」
「デザート?何を作るつもりなの?」
「それは出来てのお楽しみ」
ぱちりとウィンクした円堂は、用意された素材を持っていくと手馴れた仕草で調理を始める。
林檎の皮を器用に剥くと、薄切りにしてフライパンの中に入れる。
調味料と一緒に傷める間にフライパンに鍋をかけて卵や生クリーム、小麦粉を使い何かを作り始めた。
鍋とフライパンを同時に操る円堂は、途中で一之瀬の名を呼ぶと鍋の中身を、土門を呼ぶと彼の口にフライパンで炒めた林檎を突っ込んだ。
「ど?美味い?」
「うん、美味しい!でも、俺はもうちょっと甘くてもいいかな」
「了解。土門は?」
「・・・突っ込まれて咽たけど、味は絶妙」
「ならよし。んじゃこっちは完成。土門、これそっちに置いてくれる?」
「はいはい」
「んでついでに空いてるボール頂戴。生地作るから」
「はいよ」
「林檎フランベしたいけど、やっぱ未成年だしあれか。今回は止めとこう。代わりに生クリームにお菓子用の香りつけを入れよ」
炒めた林檎を強請る一之瀬の口に一つ放り込みながら、平たい皿の上に移していく。
空いてない新しい生クリームの封を開け、秤で計った砂糖を篩いに掛けてから別に準備した。
「一哉、生クリームの泡立て頼んでいい?」
「任せて!代わりに香りつけは俺の好きなの選んでいい?」
「おう、いいぞー。出来上がる前に一度味見はさせてな」
「うん。じゃ、土門頑張ろうか」
「はぁ?俺もやるのか?」
「生クリームの泡立ては大変だからね。腕に筋肉がついて女の子にもてるようになるよ」
「嘘付け。ったく、お前は本当に」
ぶつぶつと言いながらも手伝う土門を同情の眼差しで見詰めていると、ひょいと口元に押し込まれた。
目を白黒させながらも租借すると、しゃりしゃりした食感と甘さが絶妙な林檎に瞳を丸める。
いつの間にか目の前で一之瀬たちに渡したのとは別のボールをかき混ぜる円堂は、にこにことした笑顔を浮かべていた。
「美味いだろ」
「ええ」
断定系なそれに疑問も湧くことなく頷く。
喉越しもよく、もう一つ欲しくなるほどに美味だった。
無意識に視線が林檎が盛り付けられている皿の上に行き、楽しげな笑い声で我に返る。
かかっと頬を赤らめて睨み付けると、素顔の円堂の栗色の瞳と視線がぶつかった。
「そう言えば・・・どうして眼鏡を外したの?」
「ん?変?」
「別に変じゃないけど、いつも練習中でも外さないじゃない。何故かしらと思うのは普通でしょ?」
フライパンを再び暖めて、カットしたバターを乗せた円堂に問う。
バターのいい香りが漂い始める頃にボールから混ぜていた何かを掬いフライパンに広げた。
薄く延ばされたそれはあっという間に色づき、器用に円堂の手により剥がされる。
「俺、料理中に眼鏡が曇るの嫌いなんだよね。それだけ」
「ふぅん。・・・・・・ねえ」
「まだなんかあるの?」
「・・・あなた、気がついていたのでしょう?」
何を、とは口に出さない。
言わなくても、見た目以上に遥かに聡い彼女なら判るだろう。
レンズ越しではない栗色の瞳が夏未を見てひとつ瞬きをする。
先ほどのトレーニングメニューが白紙だったのを知っていたか、明確に答えはなかったが、無言こそが答えだ。
ひょいと肩を竦めた円堂は、器用にフライ返しを使いフライパンの上の物体を近くの皿に移動させた。
皿の上に乗せられた薄い生地を見て、夏未も漸く彼女が何を作っていたか気がつく。
「ホットクレープ?」
「うん。かなりオリジナル入ってるけど、簡単で美味いんだぜ。夏未は盛り付け担当な。中身は林檎と生クリームとカスタードね」
「どこにカスタードなんてあるのよ?」
「最初の鍋の中。早くしないと飢えた獣たちが匂いを嗅ぎ付けてやってくるぞ」
円堂の言葉に思わず視線をおにぎりを喰らい続ける仲間たちに向ける。
気がつけば鬼道と風丸の視線はしっかりとこちらに向いており、夏未はたらりと冷や汗を流した。
「はい、次の出来上がり」
「守、生クリームの味見して」
「リョーカイ。・・・ん、美味い!じゃ、一哉はこのまま生クリームを作りきって、土門は夏未と一緒にクレープの作成な」
「・・・お前といい一之瀬といい、人使いが荒すぎるぞ。言っとくけど、生クリーム混ぜたの八割俺だから」
「んじゃ、頑張り屋の土門くんには林檎一個追加ね。取り分を確保するためにも、頑張ったほうがいいぞー」
暢気な声に促されて隣に並んだ土門に、夏未は小さく笑った。
お菓子作りをするのも、こんな風に友達と並ぶのも初めてだ。
少々掴みどころがなく、女性らしいのかそうじゃないのか判らないユニセックスな存在は、いつだって夏未を飽きさせない。
彼女が男だったら、若しくは女性と知らなければ、恋をしていたかもしれない。
それくらい、夏未にとって円堂は魅力的な存在だった。
「楽しそうだな、雷門」
「・・・ええ、そうね。楽しいわ」
疲れた土門に微笑みかけると、夏未は次々と出来上がる生地にせっせとトッピングを詰めていく。
最後に円堂特製のシロップをかける頃には、仲間は全員こちらに気づいていて涎を垂らさんばかりの表情で期待の篭った眼差しを向けていた。
その日食べたクレープは、今まで食べたどんなおやつよりも甘くて美味しい味がした。
まるでサッカーをしているときと同じ表情に、夏未は訝しげに眉根を寄せる。
他の面々は食事に貪りついているのに同じくらい疲れているだろう彼女は、食事を摂るでもなく夏未を振り返った。
「なあ、夏未」
「何かしら?」
「これ、俺使っていい?」
「これって・・・もしかしてキッチンのこと?」
「そうそう!結構いい感じのキッチンじゃん。使わないなんてもったいないだろ」
ふふふっと楽しげに笑い、黒縁のお洒落眼鏡を指の腹で持ち上げた円堂はにかっと笑った。
オレンジ色のバンダナは珍しく外され手首に巻かれている。
返事を聞く前にキッチンの前に立った円堂に、夏未は慌てた。
「ちょ、あなた料理は出来るの?」
「───守は雷門より遥かに料理上手だと思うよ」
「!!?」
円堂に問いかけたはずなのに、後ろから返事が来てびくりと体を竦ませる。
慌てて振り返れば、おにぎりを両手に握った一之瀬が、リスのように頬を膨らませて立っていた。
彼の隣には幼馴染の土門も同じようにおにぎりを握って立っている。
初めて聞く事実に驚いていると、ん?と不思議そうに一之瀬が首を傾げた。
「何?」
「いえ・・・円堂君が料理をするなんて初めて聞いたから」
「守の料理は絶品だよ。和洋中何でもござれだし、お菓子も美味しい。な、土門」
「・・・まあ、かなりの腕前ってのは本当だよな。振舞われる料理は円堂の気分次第だけど」
にこにこと教えてくれた一之瀬に、やや疲れ気味に土門が相槌を打つ。
反応の差に首を傾げていると、ひとしきりキッチンの何処に何があるか確認し終わったらしい円堂が振り返った。
こちらの会話など一切気にしない図太い神経に呆れていると、すっと眼鏡を外して襟首に差し込む。
珍しく素顔を曝した彼女に驚いている夏未を気にする様子もなく、ぐっと顔を近づけてきた。
栗色の大きな瞳がきらきらと輝き、まろい頬は興奮に染まっている。
同性でありながらも、『あ、可愛い』と思える雰囲気に、夏未は苦笑した。
普段は掴みどころない飄々とした態度の癖に、まるで玩具を前にした子供みたいだ。
「夏未、林檎ある?」
「林檎?・・・確かあったと思うわ」
「じゃ、シナモンとバニラビーンズは見つけたから、小麦粉と卵と生クリームは?」
「えっと、確かそっちの棚に・・・。卵と生クリームは保冷庫にあると思うわ」
「んじゃ、持ってきて。一品デザート作ってやるよ」
「デザート?何を作るつもりなの?」
「それは出来てのお楽しみ」
ぱちりとウィンクした円堂は、用意された素材を持っていくと手馴れた仕草で調理を始める。
林檎の皮を器用に剥くと、薄切りにしてフライパンの中に入れる。
調味料と一緒に傷める間にフライパンに鍋をかけて卵や生クリーム、小麦粉を使い何かを作り始めた。
鍋とフライパンを同時に操る円堂は、途中で一之瀬の名を呼ぶと鍋の中身を、土門を呼ぶと彼の口にフライパンで炒めた林檎を突っ込んだ。
「ど?美味い?」
「うん、美味しい!でも、俺はもうちょっと甘くてもいいかな」
「了解。土門は?」
「・・・突っ込まれて咽たけど、味は絶妙」
「ならよし。んじゃこっちは完成。土門、これそっちに置いてくれる?」
「はいはい」
「んでついでに空いてるボール頂戴。生地作るから」
「はいよ」
「林檎フランベしたいけど、やっぱ未成年だしあれか。今回は止めとこう。代わりに生クリームにお菓子用の香りつけを入れよ」
炒めた林檎を強請る一之瀬の口に一つ放り込みながら、平たい皿の上に移していく。
空いてない新しい生クリームの封を開け、秤で計った砂糖を篩いに掛けてから別に準備した。
「一哉、生クリームの泡立て頼んでいい?」
「任せて!代わりに香りつけは俺の好きなの選んでいい?」
「おう、いいぞー。出来上がる前に一度味見はさせてな」
「うん。じゃ、土門頑張ろうか」
「はぁ?俺もやるのか?」
「生クリームの泡立ては大変だからね。腕に筋肉がついて女の子にもてるようになるよ」
「嘘付け。ったく、お前は本当に」
ぶつぶつと言いながらも手伝う土門を同情の眼差しで見詰めていると、ひょいと口元に押し込まれた。
目を白黒させながらも租借すると、しゃりしゃりした食感と甘さが絶妙な林檎に瞳を丸める。
いつの間にか目の前で一之瀬たちに渡したのとは別のボールをかき混ぜる円堂は、にこにことした笑顔を浮かべていた。
「美味いだろ」
「ええ」
断定系なそれに疑問も湧くことなく頷く。
喉越しもよく、もう一つ欲しくなるほどに美味だった。
無意識に視線が林檎が盛り付けられている皿の上に行き、楽しげな笑い声で我に返る。
かかっと頬を赤らめて睨み付けると、素顔の円堂の栗色の瞳と視線がぶつかった。
「そう言えば・・・どうして眼鏡を外したの?」
「ん?変?」
「別に変じゃないけど、いつも練習中でも外さないじゃない。何故かしらと思うのは普通でしょ?」
フライパンを再び暖めて、カットしたバターを乗せた円堂に問う。
バターのいい香りが漂い始める頃にボールから混ぜていた何かを掬いフライパンに広げた。
薄く延ばされたそれはあっという間に色づき、器用に円堂の手により剥がされる。
「俺、料理中に眼鏡が曇るの嫌いなんだよね。それだけ」
「ふぅん。・・・・・・ねえ」
「まだなんかあるの?」
「・・・あなた、気がついていたのでしょう?」
何を、とは口に出さない。
言わなくても、見た目以上に遥かに聡い彼女なら判るだろう。
レンズ越しではない栗色の瞳が夏未を見てひとつ瞬きをする。
先ほどのトレーニングメニューが白紙だったのを知っていたか、明確に答えはなかったが、無言こそが答えだ。
ひょいと肩を竦めた円堂は、器用にフライ返しを使いフライパンの上の物体を近くの皿に移動させた。
皿の上に乗せられた薄い生地を見て、夏未も漸く彼女が何を作っていたか気がつく。
「ホットクレープ?」
「うん。かなりオリジナル入ってるけど、簡単で美味いんだぜ。夏未は盛り付け担当な。中身は林檎と生クリームとカスタードね」
「どこにカスタードなんてあるのよ?」
「最初の鍋の中。早くしないと飢えた獣たちが匂いを嗅ぎ付けてやってくるぞ」
円堂の言葉に思わず視線をおにぎりを喰らい続ける仲間たちに向ける。
気がつけば鬼道と風丸の視線はしっかりとこちらに向いており、夏未はたらりと冷や汗を流した。
「はい、次の出来上がり」
「守、生クリームの味見して」
「リョーカイ。・・・ん、美味い!じゃ、一哉はこのまま生クリームを作りきって、土門は夏未と一緒にクレープの作成な」
「・・・お前といい一之瀬といい、人使いが荒すぎるぞ。言っとくけど、生クリーム混ぜたの八割俺だから」
「んじゃ、頑張り屋の土門くんには林檎一個追加ね。取り分を確保するためにも、頑張ったほうがいいぞー」
暢気な声に促されて隣に並んだ土門に、夏未は小さく笑った。
お菓子作りをするのも、こんな風に友達と並ぶのも初めてだ。
少々掴みどころがなく、女性らしいのかそうじゃないのか判らないユニセックスな存在は、いつだって夏未を飽きさせない。
彼女が男だったら、若しくは女性と知らなければ、恋をしていたかもしれない。
それくらい、夏未にとって円堂は魅力的な存在だった。
「楽しそうだな、雷門」
「・・・ええ、そうね。楽しいわ」
疲れた土門に微笑みかけると、夏未は次々と出来上がる生地にせっせとトッピングを詰めていく。
最後に円堂特製のシロップをかける頃には、仲間は全員こちらに気づいていて涎を垂らさんばかりの表情で期待の篭った眼差しを向けていた。
その日食べたクレープは、今まで食べたどんなおやつよりも甘くて美味しい味がした。
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