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いろは順お題
--お題サイト:afaikさまより--



『それ』からすると見上げるくらいの体は、人にしては華奢な部類に入るらしい。
癖の強い黒髪を揺らし、釣り目がちの瞳を細めて笑う人に小首を傾げる。
細い腕に抱き上げられた体はだらりと伸びて、尻尾がぶらぶらと揺れた。

視線を下げればそこには先日力を分けてくれた魔獣が一匹。
秋の夕日のような毛並みと瞳を持つ彼は、たしたしと尻尾で床を叩いている。
不満げに鼻をふんふんと鳴らし『それ』の匂いを嗅ごうとするので、拒絶するように足を動かしたら丁度顔の正面に当たった。
虚をつかれ目を丸めた彼は、次の瞬間にぶわりと尻尾を膨らませる。


「ぐるぅぅうウウぅ」
「よさんか、恋次。今のは貴様が悪い」
「どうしてだよ!どう考えてもこいつが悪いだろ!」
「いや、阿散井さん。あなたが悪いですよ。誰だって親しくもない相手に近づかれたくないもんです」
「って、ルキアなんか抱き上げてるじゃねえか!」
「朽木さんは飼い主だから別なんでしょ」


そう言いながら、少女が脇に手を入れて抱き上げていた『それ』の首を掴むと、年齢不詳の男は何食わぬ顔でひょいと持ち上げた。
くぐもった声が上がるが、全く取り合ってもらえない。


「お嬢様。服に毛がつくから抱き上げないようにと言っているでしょ」
「何を言っておる。それこそ今更だ。私の部屋には恋次が居るし、花太郎だっているのだから」
「それとこれとは別です。阿散井さんの毛も花太郎さんの毛も硬くてつきにくいですが、この猫は違うでしょう。ほら見てみなさい。お気に入りのワインレッドのワンピースが毛だらけです」
「別に私は気に入ってない」
「私のお気に入りなんですよ。ったくこれだから動物っていうのは」
「動物ではなく魔獣だ」
「似たようなものですよ」


ふん、と鼻を鳴らし、ぽいっと宙に放り投げられた。
慌てて空中で体制を整え足から着地すると、ぱちぱちと少女が手を鳴らす。
しかしながら感動しているのは少女のみで、彼女の両隣に居る男たちの反応は冷静そのものだった。
特にスーツ姿の男は、一見すると態度は恭しいが行動は乱雑。
丁寧なのは少女に対してのみで、『それ』や狼系の魔獣には一線を画した態度を取っている。
判りやすい位置づけに、この屋敷に来て日が浅い『それ』もなんとなく人間関係が読めた。


「ぶにゃうううなぁん!」
「───ほら見なさい。お嬢様がきっちりと躾をしないからですよ」


不満を訴えて毛が生えている床を爪を立てて掻けば、再び首の後ろを掴まれて持ち上げられた。
また投げられるのかと身を竦めると、柳眉を顰めた少女は一つかつかと距離を詰めると首を掴まれていた『それ』を男から奪い取った。
つり上がり気味の紫紺の瞳を半眼にして、苛立ちを篭めて睨み付ける姿は小さくても勇ましい。
優しく耳の付け根を撫でられ自然と喉が鳴る。


「・・・甘やかしすぎです」
「今は甘やかすことが必要だ。何も鞭ばかりが躾ではないだろう」
「お嬢様」
「しつこいぞ、浦原。こやつは私の魔獣となるのだ。私の好きにさせろ。それに、私には恋次も居るしな」
「俺?」
「ああ。お前は今日からこやつの兄だ。こやつの見本となるよう、兄様のように規律正しくしろ」
「朽木のご当主と同じように?俺に出来ると思ってんのか?」
「出来なくともやれ。契約主としての命令だ」
「───ああ、はいはい。ったく、お前!あんまり世話かけんじゃねえぞ!」
「よし。・・・おい、お前」


呼びかけられて顔を上げる。
紫紺色の瞳がひたりと『それ』を見詰め、綺麗な色に暫し見惚れた。
そんな『それ』の気持ちを見透かすように瞳を細めて喉を鳴らした少女は、『それ』の頭を指先で撫でる。


「お前の名前は『一護』。一つのものを護り抜くと書いて『一護』だ」
「んなぅ?」
「ああ、お前の名だ。私の名は朽木ルキア。こっちは恋次で、そこの胡散臭いのが浦原だ。これから私たちがお前の家族だ」
「なぅぅう?」
「ふむ、そうだな。まずは人語を話せるように練習しろ。丁度いいことに浦原は無駄に知識が深い。教師役には適しているだろう」
「結局私も手を貸すんですか?」
「当然だ。貴様は私に仕えているんだろう?」
「・・・はいはい。その代わりびしばしと教えますから、そのつもりで。甘やかすのは私の担当じゃありません」
「ほどほどにしろよ。そして人に変化する術は恋次から学べ。戦闘においてもこやつなら丁度いい指南役だ」
「きっちりとついてこいよ」
「そして私はお前の母親だ。いつでも甘えてくるがいい」
「・・・母親?」
「ルキアが?」
「何か問題が?」
『いいえ、何も』


鋭い眼差しで睨み据えられた二人が、そっぽを向いて否定する。
突然にいろいろなことが決まり戸惑っている一護の頭に頬を摺り寄せると、『ルキア』は笑った。


「歓迎するぞ、新しい『家族』よ」


心底嬉しそうに目を細めて告げたルキアに、一護の尻尾がふらりと揺れる。
『母親』がどんなものだったか、もう思い出せないけれど、今日から彼女が『母親』らしい。
幾らでも甘えろと胸を張るルキアは、言葉通り甘やかすように一護の喉を指先で擽る。

新しい日常の幕開けに、一護は小さく声を上げた。

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