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「いい加減に甘ったれるのはやめろ、染岡」


低い恫喝に、秋はびくりと体を震わせた。
発したのは普段は朗らかに笑っていることが多い円堂で、柳眉を吊り上げてあからさまに怒る様子に心が怯える。
こんなに怒りを露にしたところなど、彼女が影山に弟の鬼道を貶されたとき以来だ。
あの時も空気を振動させてびりびりとした怒りが肌に伝わるようだった。

こくり、と息を飲み込んだのは、果たして秋か染岡か。
気配を殺しいつの間にか傍に居た彼女が一歩一歩踏み出すたびに、身が竦む。
彼女の怒りは染岡に向けられているのに、腰が抜けそうに怖い。怖くて、仕方ない。

目の前に立つ円堂を呆然とした眼差しで染岡は見詰める。
拳一つ分の極めて近い距離で足を止めた彼女は、体格差から下から睨みあげるようにして染岡を見上げた。
そして普段からかけている黒縁のお洒落眼鏡を外し掌に握る。


「お前、いつから」
「お前が秋に感情をぶつけてるとこからだよ」
「なら、聞いていたならお前だって判るだろう!?お前らは誰一人として吹雪士郎が参入するのに否定的じゃなかった。俺までがあいつを受け入れたら、豪炎寺の居場所はどうなるんだよ!」
「・・・・・・」
「判ってる。あいつが悪いんじゃないってことくらい、俺だって判ってる。でもどうしろって言うんだ!雷門のエースストライカーは吹雪士郎じゃない。豪炎寺修也だ!」
「・・・・・・」
「ずっと一緒にプレイしてきた仲間だろ!?何でお前らはそう簡単に割り切れるんだよ。お前ら皆、冷たすぎる!!!」


どん、と近くにある木を思い切り殴る。
枝に乗っていた雪が落ち、地面に小山を作った。
体全体で苛立ちを表現する染岡のすぐ前に立ちながら、それでも円堂は僅かも怯まない。
腕を組み彼の言い分を聞き、瞼を閉じて重たい息を吐き出した。


「それで?」
「ッ、それでって」
「それでお前の言い分は終わりか?」
「だったらどうだって言うんだ!」
「簡単だ。いつまでも欲しいおもちゃが手に入らない餓鬼みたいに、駄々捏ねてんじゃねえよって言うよ」
「!!?」


静かな声だった。
染岡のように威嚇するのでも怒鳴るのでもなく、落ち着き払って冷静さを保つ声。
けれど心の奥にずしんと響くそれに、秋は目を丸くする。


「吹雪士郎を受け入れただけで、あいつらが冷たいって?ずっと一緒にプレイしてきた仲間なのに、何も感じていないって?ふざけるな」
「・・・円堂」
「お前は豪炎寺のことを考えるつもりでいて、結局何も見えてない。豪炎寺が居なくなって、本当に皆が動じてないとでも思ってるのか?一年坊たちはいつだって落ち着かない。一哉や土門、風丸に有人もいくら練習しても足りないと頑張ってる。そうしないと居なくなった豪炎寺のことが脳裏にちらついて仕方ないからだ。豪炎寺修也はただのエースストライカーじゃない。俺たちの大切な仲間で、雷門の柱の一人だ。だから俺たちは努力してるんだろうが。あいつがいつ帰ってきてもいいように。きっとレベルアップして帰ってくるあいつを信じて」
「・・・っ」
「それなのに染岡、お前の態度はどうだ。気を使う仲間を無視し、制御できない感情を発露し、周囲の気遣いすら気づかない。お前よりも壁山や栗松のほうがずっと大人だ。少なくとも、納得できないからと他人に当たったりしない」
「仕方ねえだろ!お前は豪炎寺が心配じゃねぇのかよ!監督にあんな風に切り捨てられて、キャラバンから追い出されたんだぞ!」
「───本気で豪炎寺が心配なら、あの時お前もついて行けばよかったんだ」


囁きに似た言葉に、染岡は目を見開いた。
驚いたのは彼だけじゃない。秋だって唐突な台詞に動揺していた。
考えたこともなかったのだ。豪炎寺が追い出されたときについて行くなんて、そんな選択肢浮かびもしなかった。
平然と新たな道を示した円堂は、どこまでも落ち着き払っている。


「そうしなかったのなら、お前はもう選んでいるんだ。豪炎寺と一緒に抜けるのではなく、俺たちと戦う選択肢を。それなのにいつまでもうだうだうだうだしつこいったらありゃしない。結局のところ、お前は俺たちも豪炎寺も信じられないだけだろう?」
「違う!俺は豪炎寺もお前らも仲間として」
「信じてる?嘘だね。それならあんな言葉言えないよ。信じるってのはな、相手を四六時中心配してるのと同意じゃないんだぜ?俺たちは誰が来たって雷門のエースは豪炎寺だと信じてる。だから吹雪士郎だって受け入れれる。吹雪士郎と豪炎寺修也が別人だって知ってるから、吹雪が来ても豪炎寺の居場所がなくならないって理解しているからな」
「・・・・・・」


俯いた染岡は、拳を震わせて黙りこんだ。
円堂が言う言葉は一々正論だ。逃げ場がないほど真っ直ぐに、染岡の矛盾を突いている。
ぎりぎりと音が聞こえそうなくらい奥歯を噛み締めた彼に嘆息すると、円堂は瞬き一つで雰囲気を一変させた。


「と言っても、そう簡単に割り切れないとこがお前のいいとこだけどな。俺はお前のそういう不器用なとこ、結構好きだぜ」
「は?」
「どうせこれだけ口で言ったって、お前みたいなタイプは納得できないだろ?ならせめて納得できるまで足掻け」
「円堂君、それってどういう意味?」
「そのままだよ。差し出された手を無視するとか、嫌味ったらしい物言いをするんじゃなく、正面から正々堂々とぶつかれって言ってんの。幸い吹雪は見た目はなよっちいが、度量は大きそうだ。避けてても相手のいいとこなんて見つからない。苦手な人種だからこそ正面から顔を合わせて心をぶつけろ。足掻いて足掻いて足掻いて足掻いて、それでも納得できないなら。その時吹雪にどう対応するか俺も考えよう」


ぱちり、とウィンクした円堂は、いつもの朗らかな円堂だった。
先ほどまでの肌が痺れるような怒気は消え去り、秋は体中から力が抜け、染岡も呆気に取られている。
緊張感のない態度で笑う円堂に、一体何が起こったのかと脳みそがついていかない。
けらけら笑いながら握りこんでいた眼鏡を掛けた円堂は、吐息が触れ合いそうな距離まで染岡に顔を近づけた。
普段の彼なら慌てて飛びのくだろうに、まだ意識が繋がらないのか呆然として円堂を見下ろしている。


「ちっとは気合入ったか、染岡?」
「っ!!!?円堂、お前まさか・・・!?」
「はは、少しは発散できたろ?お前最近膨れ上がった風船みたいにパンパンに気を張ってたし、もうちょい肩の力を抜いとけ。そんなんじゃいざって時にフットワークを発揮できないぞ?」
「・・・・・・お前と話してると、真剣に悩んでた俺が馬鹿みたいな気になる」
「そりゃ良かった。ぐるぐるとした思考から抜ける切欠が出来たってことだ」


にいっと口角を持ち上げた円堂は一瞬の隙を突いて染岡のジャージを引っ張ると、呆気なくバランスを崩した彼は覆い被さるよう彼女に倒れる。
元々近かった距離が更に近づくのに目を丸くした染岡に、意地悪く微笑むと、自らも距離を縮めた。


チュ


可愛らしいリップ音に、時間が止まる。
いきなりの現実に、染岡だけじゃなく秋も動けなくなった。
何が起きたのか判っていないとぽかんと口を開けた染岡は、それでも無意識に手を頬に当てる。
そして次の瞬間。音を立てるほどの勢いで、がっと顔を赤くした。


「ななななななななな!!!?」
「何をするんだ?」
「っ!!!」


言葉も自由に操れなくなった染岡を楽しげに眺める円堂は、人差し指を唇に当てて綺麗にウィンクをした。
楽しそうに笑う円堂を意味不明な奇声を発しながら追いかける染岡は、顔から湯気が出そうだ。
怒りや恥じらいや他にも色々な感情を混ぜて罵詈雑言を発しているのに、どうしてか少しも怖くない。

挑発するように時折足を止めては染岡を呼ぶ円堂に、秋は静かに微笑んだ。
やはり彼女は凄いキャプテンだ。
秋には絶対に出来ないが、いやらしさのない親愛のキス一つで、あれほど行き詰っていた染岡の心を思わぬ形で解した上に、うやむやにならないよう自分が言いたいことはきっちりと伝えている。
きっと円堂の後押しにより、染岡は彼なりの方法で感情に折り合いをつけるのだろう。
そのときは近いに違いない。

何処までも澄んだ青空を見上げ、居なくなった仲間に思いを馳せる。
誰が来ても彼の居場所はなくなったりなんかしない。
円堂が断言してくれたお陰で、秋自身どこか信じきれていなかった想いを固められた。
秋も円堂と同じく、信じて努力するだけだ。
いつか豪炎寺がパワーアップして帰ってきたとき、彼と対等に肩を並べていられるように。


「円堂ー!!!」
「あはは、染岡、こっちだこっち!」


軽やかに笑う円堂に、いつしか怒声を上げていた染岡も笑顔に変わる。
そんな二人を見て、漸く戻ってきたいつもの雰囲気に、慈しむようひっそりと笑った。

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