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「マモル!」


いつもの練習場所で両手を振るフィディオに小さく笑うと、守は彼に駆け寄った。
いくら日本より南に位置する国だとしても冬は寒く、白いダウンジャケットに同色のセーター、更に黒いパンツとスニーカーを合わせた守は、パーカーにジーパン姿のフィディオに小首を傾げる。
彼が寒さに強いとしても寒すぎる格好に、こちらが身震いしてしまいそうだ。
イギリスの冬で鍛えられた守ですら少し寒いと思うくらいだから、現地育ちのフィディオはもっと寒さを感じているだろう。


「久し振り、フィディオ。約三週間ぶりか?」
「ああ。久し振り!今日来るならメールくれれば良かったのに。そうしたらこの間渡しそびれたクリスマスプレゼントを渡せた」
「別にいいって言ったのに。でも、サンキュ。一月は少し予定がずれたから、三月の初旬までこっちに居る予定なんだ。四月には向こうで学年が上がるから一度戻るけど、一月きっかりは居られるからまだ時間はあるし」
「そう?それならいいけど」
「・・・ってか、お前それ寒くないの?イギリスの冬で鍛えられた俺ですら肌寒いのに」
「ああ、サッカーをしてたから。それに俺もジャケットとマフラーと手袋は持ってきてるし。あ、あと守からのプレゼントの帽子も」
「お、あれ使ってくれてんの?」
「当然だろ。あれ本当に手編み?毛糸もほわほわで気持ちいいし、サッカーボールのワンポイントがお洒落だよね」
「気に入った?」
「ああ。ありがとう」


にこり、と笑ったフィディオは、嬉しそうに頷いた。
その様子に守も笑顔を返す。
喜んでくれたなら編んだ甲斐があるというものだ。
実は守が手編みの品をプレゼントしたのは、チームメイトにフィディオにエドガー、一郎太に鬼道の父、さらに影山と世話になっている使用人と結構な人数に上る。
一人一人デザインを考えて編んでいるので、九月からこつこつと作っていた。
基本的に値段は毛糸代のみだが、その分手間がかかっているので喜んでもらえると嬉しい。
手作りだと少し重いかと思ったが、フィディオやチームメイトにはその心配はなかったらしい。

フィディオに贈ったのは彼のイメージである瞳の青をベースに、サッカーボールのワンポイントと、イニシャルを縫いこんだ帽子だ。
大々的に柄を入れていないのでスタイリッシュなデザインに仕上がり、中々の自信作だった。
多少寝不足になる夜もあったが、ありがとうの一言で報われる。

にへらと笑み崩れた守に目を丸くしたフィディオは、ふと何かを思い出したように柳眉を寄せた。


「そう言えば、思い出したけどこの間の試合はなんだったんだ?」
「この間?っていうと、新年のあれ?」
「そう。あんなマモルらしくない試合初めてだ。何かあったのか?」
「うーん、あったと言えばあったな。実は、あの日エドガーの実家で開かれるパーティーに出席予定だったんだけど、俺がどうしてもあの試合に出たくて、あいつを巻き込んでイタリアへ来たんだ。それで試合の途中でタイムアップ。チームの皆にも俺の我侭聞いてもらって、昨日一人一人に謝りに行ったんだ」
「どうしてって、聞いてもいい?」


彼らしい気遣いのある聞き方に、少しだけ微笑む。
するとそれこそが答えだと気がついたフィディオは、肩を竦めると話題を変えた。


「あの試合のシュート、凄く綺麗だった。『ムーンダスト』だったっけ。やっぱり、名前の通り月をイメージして作ったんだろ?銀に鈍く光る月が砕けて、欠片が花弁のように舞い散るさまは壮観だった」
「ありがと」


本当は月ではなく、同じ名を持つ花のイメージだと訂正するのは簡単だが、どうせ二度と使う気がない技なので言葉を受け流した。
確かにあの技は名前や印象から考えると月にちなんだものだと勘違いしやすいだろう。
本当のことを知るのは守が自分から種明かしをした許婚と、伝えたいと願った相手だけ。
スペインの国花を模した技は、天国の彼にも見えただろうか。
少なくとも、彼の父に託した献花だけでも届けばいいと、彼の旅立ちに立場的に立ち会えぬ身としては密かに願う。

もっと時間があったなら、きっと彼とは親友になれた。
サッカーを愛する人間として、男女を越えた枠で友情を結べただろう。

今でも胸を締め付ける寂寥に首を振ると、不思議そうに蒼い瞳を瞬かせる彼に微笑みかけた。


「実は、また他にも新しい技を開発中なんだ」
「え!?本当なのか?」
「おう、マジ。今度もシュート技。だから特訓付き合ってくれよ」
「勿論!でもマモルがまたシュートを会得すると俺としては困るのか?」
「はは、ライバルには張り合いがあるほうがいいだろ?それに、なんならお前も俺の技を盗めばいい」
「マモルの技を?」
「ああ。もっとも、そう簡単に盗ませる気も、態々解説する気もねえけどな」


ぱちり、とウィンクをすると、じわじわと頬を興奮で赤らめたフィディオは好戦的に瞳を輝かせる。
咄嗟の話題変更は彼の好奇心を擽ったらしい。
気がつけば吐息が触れ合う距離に顔があり、こつりと額をつき合わせた。


「俺に君の技が奪えないと思う?」
「お前に俺の技が奪えると思うのか?」


年齢にしてはふてぶてしい笑みを浮かべた二人組みは、暫くお互いの瞳を見詰め合い───不意に声を大にして笑った。
けらけらと先ほどまでの緊迫感溢れる雰囲気は嘘だったかのように笑い、そしてゆるりと口角を上げる。
笑いの発作は互いに治まらず、くつくつと喉を震わせたまま。


「何、その尊大な言い草」
「マモルこそ。どれだけ自信家なんだ」


腹を抱えて笑うのは久し振りな気がする。
冬の青一色の空に声が響き吸い込まれる。
そんな些細なことが楽しくて面白くて仕方ない。

笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を指先で拭うと、同じような仕草をフィディオもしていて、視線が絡みまた笑えてくる。
互いの背中を叩き合い、肩を組んで体を揺らす。


「頼むぜ、ライバル。切磋琢磨したほうがいい技が生まれるってもんだ」
「任せろ、ライバル。君とプレイするのは楽しくて刺激的だ」


ぱちり、と至近距離でウィンクし、くすくすと喉を震わす。
久し振りに戻ったイタリアの空は、覚えている通りの親友の瞳と同じ蒼さで守を迎えてくれた。

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