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「行くつもりか、望美」

軽快なノックの後、主の返事も聞かずに部屋に入り込んだ男を、望美はじとりと睨む。
だが今更この程度の威嚇でどうこうなる関係ではない幼馴染兼従者であり護衛である将臣は、不満げな顔に鮮やかな笑みを返した。

揺れない地面の上は違和感がある。そんなこと数年前まで当たり前だったはずなのに。
締まる襟元を指先で広げ、久方ぶりのドレスアップに苦笑する。
船の上の楽な格好と違いきっちりと正装した将臣は、同じく白にクリーム色が混ざったマーメイドラインのドレス姿の望美に手を差し伸べる。


「愚問だな。お互いにこんな格好させられてるってのに」
「そうだね。まさかお父様から勅命が下ると思ってなかった。少なくとも、私の自由期間中に」
「だな。貴族としての勤めを前面に出されたら断れねぇな。───九郎も出るらしいぞ」
「へぇ、じゃあ知盛と銀は?」
「銀は出るんじゃねえの?お前が行くんだし。知盛は、今日はどうだろうな」
「気紛れな猫と同じだからね。面白そうなことがあれば出てくるんじゃない?」
「ま、あいつが好む面白みはない方がいいけどな」
「全くだよ」


髪をアップにまとめ所々に真珠のピンを止めた望美は一見すると非の打ち所ない令嬢だが、その顔に浮かぶ笑みはコケティッシュで貴族らしからぬもの。
春日家の護家として追従する運命を持つ有川の長男として、彼女を主と頂くのはこの上なく誇らしい。
何しろこの姫君らしくない姫は、将臣の好奇心と探究心を飽くなく刺激し常に向上心を持たせる。
彼女についていくには並大抵の努力では駄目だ。
何しろ将臣の主は型破りでありながら、破格の才能を持つ。
美しく頭も良く機転が利き剣も銃も腕前は確か。なまじの男では太刀打ちにならないどころか、それ以前に対等であらせてくれない。

今回の件にしても、単なる父親からの命令だけなら動かなかったに違いない。
人の一歩前を読むのが春日の当主として求められる資質なら、彼女はまさしく時期当主の格にある。


「ご当主からの手紙になんてあったんだ」
「何も。ただ今夜の舞踏会に出席しろとだけ。───でも、だからこそ調べる価値はあった」
「何が判った」
「今、花盛りを迎える橘と、当方より来るジェイドとの繋がり。そして彼らが抱える宝物の意味」
「───へぇ」


唇に白魚の指を当てた望美は、綺麗にウィンクを決める。
菫青石の飾りがついたイヤリングを耳に付け、差し伸べた将臣の手に優雅に掌を重ねると、座っていた椅子から立ち上がる。

優雅でいて優美。
手の甲に恭しく唇を送るフリをして、秀麗な顔を覗きこんだ。


「ミッションレベルは?」
「トリプルS。でも上手くいけば求める情報は手に入る」
「そうか」


くつくつと秘密を共有する笑みを交わし、額を付き合わせた。
これは主従としての関係ではなく、幼馴染としての二人の距離。
二人で夢を叶えると誓い、その為に努力し続ける相棒への信頼。


「行こうか、将臣君」
「了解、お姫様」


ドアを開ければ、二人はただの主従へと変じる。
彼女のために最大の努力を。

過去に誓った通りに、将臣は振舞うつもりだった。

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