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ここは国高が気分次第で更新しているSSSページです。
【ご連絡】

*サイト改装に伴い、SSSも記載内容を一新し変更いたします。 ご迷惑をおかけしますが、Web拍手のお返事はそちらでさせていただきますので、今しばらくお待ちくださいませ!! 本当にすみません!



【注意事項】
*原作者様・版権元とは関係ありませんのでご了承ください。
*公開・非公開を問わず、オンラインブックマークへの登録はご遠慮ください。
*NLのみと記載されているものに関して、BLCPは一切受け付けません。
*好きになったキャラクターにより、NLのみかBLも混在かにかわかれます。
*また主人公総受けなので、それ以外のCPも記載がない限り基本的にないですし、何より私が受け付けませんので記載されているキャラ以外のリクエストはご遠慮ください。ごめんなさい。
*個人の主張を個人的に書きなぐっております。
*女体化、ネタばれ、パラレルなど割と何でもあります。
*各項目ごとにある注意事項もご一読いただき、ご了承いただける心の広い方みご覧下さい。
どうぞ~★

【取り扱いジャンル】
・イナズマイレブン───円堂守総愛されで BLNL混在です。
・ONE PIECE───ルフィ総愛されで BLNL混在です。
・復活───綱吉総愛されで BLNL混在です。
・BLEACH───ルキア総愛されで NLのみです。
・銀魂───神楽総愛され、近妙で NLのみです。
・遙かなる時空の中で───望美、あかね、花梨がそれぞれの仲間に愛されで NLのみです。
・コルダ無印・コルダ3───香穂子・かなでが総愛されで NLのみです。
・ときメモシリーズ───主人公総愛されで NLのみです。
・クインロゼ───アリス総愛されで NLのみです。
・お題───それぞれの内容で総愛され
・その他───お気に入りのキャラ総愛され


*Web拍手のお返事は、右のカテゴリから選んで直通でお願いします*
SSSでのWeb拍手はSSS内でお返事しておりますので、ご了承ください。



★各項目への直接リンク★


■イナズマイレブン
*【かくて君は世界へ謳う注意】
円堂守にょたでスレキャラ設定です。
お読みいただく前に必ず設定を確認してから大丈夫なら進んでください。
内容はアニメとゲームの設定をごちゃ混ぜでさらにオリジナルを混ぜています。
あくまで『なんちゃって本編沿い』なので、オリジナル要素が濃いです。
厨二病設定のオリジナル技や違う展開、キャラ崩壊や捏造も笑って許せる方のみお願いしますw
【書きたい部分を書いていきますので順不同及び飛び飛びはご容赦ください】
【かくて君は世界へ謳う】
設定
【かくて君は世界へ謳う:第二期】

【かくて君は世界へ謳う:過去篇】
new new new
【かくて君は世界へ謳う:日常篇】


■BLEACH
【召喚士】

【召喚士番外】
new
【アイドルは眠らない】

【I need you】

【猫、猫、子猫:番外篇】

【お題】


■復活
【未来捏造お題】
*注意:サイト内の未来捏造設定を引き継いでいます。とことん捏造入っておりますので、ご了承頂ける方のみお願いしますw
new
【未来捏造その他】

【復活DEポケパロ】
*注意:サイト内と同じ設定のオリジナル設定含みのポケパロです。
無理やりな部分はスルーしてやってください。



■ONE PIECE
【大海賊な彼ら】

【大海賊な彼ら番外】
new
【空高く、天まで届け】
*注意:サイト内ノベル設定のルフィ女の子化の海軍パラレルです。

【お兄ちゃんと一緒】
*注意:サイト内ノベル設定のルフィ女の子化の学園パラレルです。

【お題】
*注意:サイト内設定ごちゃ混ぜです。


■銀魂
【そして、兔は月に啼く:改稿版】

【完結:銀時篇】 【エピローグ:銀時篇】
【完結:高杉篇】 【エピローグ:高杉篇】
【完結:真選組篇】 【エピローグ:真選組篇】
【そして、兔は共に笑う】
【お題】

【桃色物語】
*注意:サイト内ノベル設定のZ組学園パラレルです。
new

■遥か3
【清く正しく美しく】
設定
【きっと僕らは】
*注意:銀と重衡が別人格双子で、尚且つ知盛とvsのパラレルシリーズです。

【Pirates' princess≪海賊達の姫君≫】
*注意:1・2・3混濁の海賊パラレル。サイトの続編です。
new
【SSS】
*注意:お蔵入りになっていたものの再アップもあります。


■コルダ3
【未来設定話】
冥加家■ 土岐家■ 天宮家■ 火積家■
【ED後】
けっこんしましょう けっこんしようか
【コルダ3キャラ&コルダ1キャラSSS(捏造1混入) 】
new
【君に恋する物語:パラレル】
*注意:この物語は絶対的悲恋です。死にネタ、一方通行は当たり前、かなでちゃんと別の男の間に子供も出来たりします。それでも文句なしの方のみ、宜しくお願いいたします。
燃え盛る炎に巻かれて 声枯れるまで叫べたならば 口に出せない愛と書き、噯に出さぬと人は読む
いとしいとしというこころ 恬然として振る舞いて、悪因悪果と泣けもせず
【君に恋する物語-after-】
王子が探した灰かぶり ヘンゼルは妹に恋を語る 卑怯な蝙蝠の本音を探し 狼少年の真実を
【SSS】


■ときめきメモリアルGirl’s side 1st Love
*サイト内のオリジナル設定です。設定を読んでOKの方のみお進み下さい。
【設定】
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■ときめきメモリアルGirl’s side 3rd Story
*オリジナル設定、ネタバレ有です。設定を読んでOKの方のみお進み下さい。GS1の話とリンクしています。
【トライアングル・ラブ】
【設定】
過去

高校

未来
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■QuinRose
【マフィアED後SS】
*ブラッド⇒アリスが強いアリス総受けです。ですがブラッドとアリスは絶対に恋仲になりませんのでご注意ください。

【お題創作】

【学パロ】

【黒衣の王子と、不機嫌な姫】
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■十/二/国/記パロ部屋
*注意:『十/二/国/記』のパロです。無理な設定がありますが、どうぞお許しください。
さらにサイト内のジャンル入り混じってます。大丈夫な方のみお願いします。

【遙か3.ver】
new
■その他
【牧場物語-ふたごの村-】
*オリジナル設定で男女主人公両方出てます。女主人公総受け。
男主人公:ユウキ。女主人公:ユイナ。

new

■オリジナル

拍手[67回]

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「こちらが本日分の宅配物になります」
「そうか」


普段どおり帝国に届いた手紙を含む宅配物に目もくれず、影山は手元の書類を眺めた。
そこには今期入学を果たした帝国サッカー部に入部した者のデータが事細かに書かれている。
出身校は勿論のこと、サッカーを始めてからの年数、経歴、入学前までどのチームに在籍しどんな戦歴を挙げていたか、身長、体重、果ては家族構成など様々な情報が載っている。
一つ一つを読み情報を漏らさず頭に叩き込んだ上でその人物に適したポジションやグループ、連携を考えるのが監督としての影山の仕事だ。
選手の層が厚いということは、つまりそれだけの人数が所属すると言い換えられる。

分厚いデータファイルに新たに追加された資料を挟みながら流し読みし、短く息を吐き出した。
ここ数年求めるレベルに達した選手は数えるほども居ない。
原因はわかっていたが、そればかりはどうしようもない。
手の届く位置に『理想』が形として具現化した今、影山の基準が上向いてきているのだ。

本人だけ自覚できる程度に微かに口角を持ち上げ、不意に気がついた。
普段なら荷物を届けてすぐに退室するはずの事務員が未だに室内に存在し続けているのに。
紙の上を滑らせていたペンを止め顔を上げると、困ったように眉尻を下げて両手に白い箱を持った男は、惑いながらもそれを差し出した。


「それは何だ」
「その・・・それが、影山先生宛ての荷物に混じってまして。受け取りはしたものの中身は不明でどうしようか迷ったのですが、一応お持ちしました」
「誰から」
「鬼道財閥の直属のものだと」
「鬼道財閥?」


ぴくりと眉が動く。
鬼道財閥直属の人間が影山宛に直接何かを送るなど、年に数度もない。
手を伸ばし受け取ると、箱は大体両の掌で丁度支えれるサイズで、少しひんやりしたそれは飾り気もなく洒落っ気もない。
しかしながら宛名のない箱は、受け取り指名にはしっかりと『影山零治殿』と記入されている。
パソコンで印字したようなきっちりとした美しい文字は、確かに見覚えがあるものだった。


「───これは私が処理をしておこう。君はもう下がっていい」
「はい」


一礼して男が退室するのを見送ってから、四角い箱を机に置く。
良く見れば薄いブルーが混じった包装紙のテープを丁寧に剥がし捨てれば、汚れひとつない真っ白な面が現れた。
薄さは幅10cmほどで重さはそれほどでもない。
手紙ひとつないそれが誰からのものか確信に至り、くつりと喉を震わせた。

名前がなくともこんなことを影山に仕掛ける人間など、ただひとりしか知らない。
今月は遠いイタリアの空の下に居るはずの少女を思い出し、ゆっくりと箱の蓋を開ける。
そこで見たものに、今度こそ声を上げて笑ってしまう。

でかでかと『義理』とホワイトチョコレートでペイントされたハート型のチョコは、この年にしてもらうのは初めてだ。
子供と大人の面が混在している愛弟子は、料理も教育の一環として学んでいたが、年々と腕が上がっている気がする。
イタリアから空輸したのだろう、昨年までとは違い生チョコやトリュフ、チョコレートケーキではなく固形のチョコだが、それでも綺麗にトッピングがしてあり工夫がそこかしこに見える。
付き合いで貰うブランドで市販されているものと比べても見た目には遜色はない。
何事もそつなくこなす彼女らしい器用さで、センスのよい彩なのに『義理』と達筆な文字が真正面にあるため全て台無しだ。

直径15cmはあるだろうチョコを箱から取り出して一口齧れば、仄かなブランデーの香りとほろ苦いカカオの味。
甘いものが苦手な影山でも美味しく食べれる、好みを熟知した味わいに目を眇めた。
そしてチョコをどけた事で下から現れたメッセージカードに目が行く。

流暢な筆記体で書かれたカードを手に取ると、『あなたの可愛い愛弟子より』と一言だけ添えられていた。
いかにも勝気な教え子らしい文章は、ユーモアに満ち小生意気で憎めない。


「・・・本当に、仕方がないな」


苦笑と共に出た言葉は、苦々しいながらもどこか優しい響きが混じる。

施設で一人きりだった彼女を見つけた当初、望まぬ運命に対する復讐だと思った。
自分をどんぞこに叩き落す切欠になった『円堂大介』。
その孫で、同じく飛びぬけたサッカーセンスを持つ『守』。

乾いたスポンジのように、あるいは砂漠の砂のように、影山の技術を注げば注ぐほど全て吸収しさらに己で磨き昇華する天賦の才を持ち、仲間を惹き付けるカリスマ性や、言葉を実現する実力。
何でも出来るゆえに何事にも執着しない少女が唯一執着した『サッカー』は、イタリアへ渡ってからも溢れんばかりの向上心でどんどんと上達していた。

影山の『理想』が形になった最高の『愛弟子』は、見つけた当初からは予想もつかない深さで心の奥底に居座っている。
自身が与えた『MF』というポジションで、どうすればもっと彼女を伸ばせるか。
どうすれば新たな技術を授けれるか、どうすればもっといい経験をさせれるか。

どうすれば、どうすれば───。

気がつけば帝国のレギュラー陣を指導していても、遠い空の下でプレイする彼女を想っている。
磨けば磨くほど、手塩にかければかけるほど輝く掌中の珠。
影山が見つけた最上の逸材を、今更誰かにくれてやる気はない。
あれは、『守』という存在は、影山のために存在する『生き物』だ。

『円堂大介』に対する復讐のために育て始めた才能は、いつしか影山の目標へと変わっていた。
彼女を世界に通用する最高のプレイヤーにしたい。
他の誰かではなく、影山の持ちうる全てを使い、影山のサッカーで世界に立たせたい。

今はまだその一歩を踏み出したばかりだが、イタリアの中でも彼女の実力は認められつつある。
男子リーグで活躍しても違和感はなくなり固定ファンも出来た。
『守』には才能がある。
それこそ、現在帝国学園に存在するサッカー部の面々など比べ物にもならない才能が。


「お前はいつか私のサッカーで世界に立つ」


言葉にすればなお現実的に響く宣言に、ゆるりと口に端を持ち上げる。
気がつけばあれだけあったチョコレートは最後の一口になっていた。
それを口に放り込み、じわりと広がる濃厚な味わいに眦を下げる。
影山の味覚を知るからこその味付けに、よく覚えているものだと感心した。
社交辞令で貰うどんなものより美味に感じるチョコレートを租借し終えると、ぺろりと指先についたものも舐め取る。

書類整理の最中の気分転換になった贈り物に、さて来月は何をお返しするべきかと、意外とイベントに五月蝿い少女を想い小さく微笑んだ。
自覚すらない笑みは、彼らしくなく優しげだったが、それを目撃できる人間は当たり前に存在しない。

拍手[0回]

翌日がチーム練習のない土曜日。
守からメールを貰って誘われるままに彼女の家に足を踏み入れたフィディオは、執事の登場を待つでもなく自身で扉を開けた守が動きを止めたのにひょいと眉を上げた。


「どうかしたの、マモル?」
「どうかしたかっですって?ええ、そうですね、どうかしたと言えばそうですし、そうじゃないと言えばそうではありませんわね」


学校帰りなため未だにお嬢様モードの守は、こちらを向くと頬に手をあて小首を傾げる。
眉尻を下げて淡い苦笑を浮かべた彼女は、ノンフレームの眼鏡の奥の瞳を細め煌かせた。
ちらりと浮かんだ表情は複雑そうで、一体何があったのかと好奇心が胸を誘う。
我慢しきれずに玄関のノブを奪うとそのまま一気に開け放った。


「・・・・・・薔薇?」
「ええ、薔薇ですわね」


広いエントランスにぽつんと落ちた一輪の薔薇。
夕日の赤よりワインの赤に近いそれは、正式な名称は知らずとも美しく、端整に手を篭めて作られたものだと知れた。
がくの上から花だけを摘み取られたのだろう。可憐な花びらが白い床に散り、艶やかなコントラストを描いている。


「何で、薔薇」
「今日だからでしょうね」
「今日?今日、何かあったっけ?」
「ええ、一応。───どうやら私宛に来客があったようです」


嘆息しながら床へとしゃがみ込んだ守は、花弁が落ちきらないよう気をつけながら薔薇を己の掌に掬った。
そうしてポケットからハンカチを取り出しそっと乗せる。


「全く仕方ない方。これでは花も可哀想でしょうに」


リビングまでの道のりに点々と続く薔薇を拾いながら、呆れも含んだ息を吐き出す。
いつもならこの過程で数人の使用人とすれ違うはずなのに、今日に限っては一人も顔を合わせない。
守に忠実な老執事も、きっちりと仕事をこなすメイドたちも一体何処に消えてしまったのか。
呆れ交じりの表情で迷いなく進む彼女は何処に居いるか判っているようだが、今までにない不思議にフィディオは目を瞬かせた。
だがその驚きはリビングに入るまでで、足を踏み入れたそこで新たな驚きに塗りつぶされた。

日当たりのいい大きな窓が特徴的な居心地のいいリビングの、10人は軽く座れそうな大きなテーブル。
飾られた一輪挿しの花瓶には床に落ちていたものより淡い色合いのピンクの愛らしい薔薇が、そしてテーブルの上には所狭しと葉がついたままの真紅の薔薇が絨毯のように敷き詰められていた。
そんな中ポツリと一箇所だけ色が違う場所があり、近づけば青が混じった白いカードが置かれている。
思わず手を伸ばそうとし、横から伸びた手に静止された。


「マモル?」
「・・・これは一応私宛ですわ」


囁き、開いたカードには文章は何も書かれていない。
それでも明確に自分宛と断じた守は丁寧にカードを閉じると裏面を向けた。
そこに書かれた文字に、フィディオはひょいと眉を上げると口笛を鳴らす。


「Secret Admirerer?」
「日本人の感覚からすると、あまり忍んでいるようには見えませんけれども。───いらっしゃるのでしょう、エドガー様?」
「エドガー?」


小首を傾げて守が声を掛けた奥の部屋に通じるドアを見れば、ゆっくりと開いたそこから端正な顔をした長身の少年が顔を出す。
彼が来ていると知らなかったフィディオは素直に驚きを表現したが、隣の少女は呆れ混じりのため息を吐き出しただけだった。
ポーカーフェイスを気取りながらも目尻を淡く染め上げたエドガーは、守に向け微かに笑んだ。


「こんにちは、エドガー様。ご機嫌麗しゅうございます」


お嬢様モード特有のたおやかでお淑やかな仕草でスカートの端を掴み一礼をした守の動作は、流れるような洗練された上品なもので流石財閥の令嬢と言ったところだ。
しかしながら普段の守を知っているフィディオとしては、感心はしても今更上辺の態度に感慨を受けるでもない。
あくまで一般人のフィディオには上流階級のやりとりは少し面倒にも見えるが、エドガーと守のやり取りは彼ら自身の気品が浮き立つようで見ていて飽きるものじゃなかった。
一礼した守に軽く胸に手を添えて礼を返したエドガーは、彼女の手を取り甲に唇を落とす。
絵画の一枚のように絵になる二人は、視線を絡ませるとそのまま距離を置いた。


「一月近くぶりだな、マモル。健勝だったか?」
「はい、エドガー様。エドガー様こそお元気そうで何よりですわ」
「フィディオも、久しいな」
「はは、てっきり忘れられてるかと思ったよ。エドガーも相変わらだね」
「・・・どういう意味か聞きたくなる言い回しだが、今回は止めとこう」


守に見せた甘い笑みとは違い、愉快そうに口の端を持ち上げたエドガーが差し出した手を握るとフィディオも同じように笑みを返す。
以前はもう少しつんとしたイメージだったが、守を通じて随分と親しくなった。
フィディオとエドガーが世間話をしている内に手早くテーブルの上の薔薇をかき集めた守の合図で、どこからか現れた老執事が紅茶セットを持ってくる。
薔薇で膨らんだハンカチを彼に渡すと、自身は両手いっぱいに抱えた守は花瓶を用意するように伝えた。


「あの薔薇、君が用意したのかエドガー?」
「───何のことだ?」
「何って・・・」
「フィディオ様、今日が何の日かご存知?」
「今日?今日は2月14日、Festa degli innamoratiだけど?」
「そう。つまりはそういうことですわ」
「・・・全く判らないよ」


要領を得ない守に首を傾げる。
遠まわしな言い回しは彼女らしくないが、ある意味彼女らしい。
眉根を寄せたフィディオに苦笑した守は、用意された花瓶に薔薇をいけると片手を上げて合図して使用人たちを部屋から退出させた。
広いリビングから自分たち以外の人影が消えるのを待ち、ノンフレームの眼鏡を外す。
それをテーブルに置きこちらを向けば、もう彼女の雰囲気は一変していた。


「とりあえず、座れよフィディオ。エドガーも。うちの執事の紅茶は美味いぞ」
「そうだな。紅茶に関しては君よりも腕前は上だろう。もっとも、それも君がその気になればすぐに逆転するのだろうが」
「でも俺は紅茶じゃなくて珈琲派だからな。極める気もないし。それに、俺が美味い紅茶を飲みたいときはお前が淹れてくれるんだろう?」
「───全く、君という人は」


くつくつと喉奥で笑ったエドガーは招かれるままに席に腰を下ろし、彼に釣られフィディオも指定席としている椅子に座る。
すぐに上品な意匠のカップが置かれ、湯気が立つ琥珀色の飲み物はすっきりとした独特の芳香を運んだ。
給仕を終えた少女が腰掛けるのを見計らい、恥じらいを浮かべながらエドガーが何処からともなく小花柄の紙袋を差し出す。


「何?」
「私が作ったスコーンだ。良ければお茶請けにしてくれ」
「お前ね、そう言うのは座る前に言えよ。日本じゃ頂き物は出すのが礼儀なんだぞ」
「日本の礼儀など知らない。私は君へのプレゼントとして持ってきたんだ」
「───それもバレンタイン?」
「そんなわけなかろう」
「はいはい。皿に盛ってくるからちょっと待ってろ」


鋭い視線を向けたエドガーにひょいと肩を竦めた守は、嘆息すると席を立ち上がり部屋から出て行った。
皿が置いてあるキッチンはここじゃない別室にあるので、帰ってくるまでに紅茶も冷めてしまうだろう。
もっとも守は本人が言うとおりに紅茶通でもないので冷えた紅茶でも平然と飲み下す。
イギリス人らしく紅茶に五月蝿いエドガーがその様をじとりとした目で睨んでも全く意に介さない。
しかしながら今回の場合は彼が原因であるので流石にそんなに睨んだりもしないだろうけど。
そこまで考えて、当初の疑問を思い出し優雅に紅茶を啜る少年に視線を戻し口を開いた。


「それで、エドガー。この薔薇は結局君が用意したものじゃないのか?」


一輪挿しのピンクの薔薇と、新たな花瓶に豪奢に飾られた真紅の薔薇を指差し小首を傾げる。
紅茶のカップに口をつけたエドガーは、フィディオの言葉に顔を上げた。


「マモルがヒントも与えたし、お前も言っていただろう?」
「何を?」
「今日はイタリアで言うFesta degli innamoratiだ」
「だから?恋人たちの日は恋人同士が祝う日だろ?───それとも、許婚は恋人同士に入るのか?」


問いかけて胸のどこかがずきりと痛む。
風邪でも引いたのだろうかとセーターの上から心臓の上を掴むが、もう疼痛は失せていた。
気のせいかと再びエドガーに視線を戻すと、優雅に微笑んだ少年は人差し指を振りウィンクをした。


「そのイベントは世界に多く広まっているが、各国において特色が少しずつ違う。例えばイタリアでは恋人の日であるように、日本では女性から男性に愛を告白したり、親しい人間に義理を篭めてチョコを贈ったりもする。そして我が国イギリスでは、好いた相手に密かに想いを伝える日だ」
「密かに?」
「そうだ。直接愛を告白するのではなく、贈り主不明の相手から情熱的なプレゼントを渡されるのはミステリアスで驚きに満ちているだろう?」
「じゃあ、やっぱりあれはエドガーからなんだ。どうしてカードの宛名に名前を書かないで『あなたを密かに想う誰かより』ってしたの」
「名前を書くのはスマートじゃない。本来ならロマンチックな詩を添えたり、『Be my Valentine』とか『My Heart belongs to you』もしくは『SWALK』などと記入するのが一般的だ」
「SWALK?」
「『Sealed with a loving kiss』の略だ。ちなみに以前それを書いて贈ったのだが、英語を勉強中のユウトに詰め寄られマモルに笑顔で怒られたのでやめている」


納得いかないと眉根を寄せたエドガーは、それでも満足げだった。
イタリアのイベントが恋人限定なのが基本なのに対し、イギリスや日本は少し赴きは違っても好きな相手に想いを伝える日らしい。
そしてイギリスでは随分とロマンチックな日らしい。
女性に対しての扱いを考えると、ある意味らしいと言えばらしいけれど。


「それでマモルは相手が誰か判っても知らないフリをしたんだな」


ぽつりと呟いた言葉にエドガーが口角を持ち上げた。
きっと相手が誰か判っていても言わぬが花と言うのだろう。


「恋にはスリルがつきものだ」


訳知り顔で頷いた彼は、まさしく恋する少年だった。
初恋もまだのフィディオには時折彼が大人びて見える。
守は、彼の想いを一身に注がれる少女はどうなのだろう。
彼女は確かにエドガーに気を許しているが、溺愛する弟のようにあけすけに愛を注いでいない。
むしろどこか冷たく厳しさすら漂う態度をしているが、それすら特別と知っている自分は、一体何が納得し切れていないのだろう。
もやもやとする感情を嚥下出来ずに柳眉を顰めると、軽快なノックの後勢い良くドアが開いた。


「・・・マモル、もう少し品良く行動できないのか?」


エドガーの言葉に眉を吊り上げた守はわざとらしいまでにお淑やかにドアを閉めると、彼をぎろりと睨み付けた。
怒り心頭に発するとばかりにきりきりと苛立ちを露にする愛らしい顔は珍しく紅潮している。
一体何があったのかと先ほどまでのもやもやした感情も忘れて注視した。


「品良く行動できないのか、じゃねーよ!お前なんだよ、これ!」
「・・・スコーンだが?」
「スコーンだが?じゃない!お前この間手作りスコーンを有人に渡してたよな」
「ああ。君に作り方を教わり私が作ったものを謝礼代わりに渡した。君も見ていただろう?」
「お前、こんな劇物人の弟に渡してくれたのか!?ふざけるなよ!!」
「劇物?」
「さっき皿を取りに行ったとき、使用人に勧められて一口齧ったんだ。そしたらなんだ、このスコーン!じゃりっとしてぬめっとしてかさついた挙句に、口内の水分全部奪って激辛成分が支配したわ!お前日本人の美食文化舐めんじゃねえぞ!こんなのスコーンと認めるか!!人の弟になんてもの食わしてくれてんだ!」


流れるような罵倒にぱちりと瞬きをする。
口は悪いが寛容で気が長い守のあからさまな怒りを初めて見るフィディオはもとより、普段から少しばかり冷たい扱いを受けているエドガーも戸惑うように瞬きを繰り返す。
怒りで頬を赤らめたままの守が皿に綺麗に盛られたスコーンをエドガーに差し出すと、彼はゆるりと首を傾げて一口齧った。


「・・・普通のスコーンの味だが」
「嘘付け!それが普通なら全世界で普及しているスコーンに謝罪しろ!フィディオ、お前も何とか言ってくれ!」
「なんとかって言われても・・・じゃあ、俺も一口」


綺麗に焼けているスコーンを齧ると、なんとも言えない不快感が広がる。
中は生焼け外は見た目より遥かに乾燥し、子供の頃戯れで口にした砂のような食感だ。
口内の唾液が乾いたスポンジに奪われるよう水分を失くし、最後にはなんとも言えない刺激が下に広がった。
なんだろう。麻痺したように痺れる舌は、辛いというより痛い。
期待した眼差しを向けるエドガーを正面から見つめ、フィディオは評価を下した。


「これ、食べ物じゃないと思う」
「!!?」


ショックを受けた顔でよろめいたエドガーに、弟に劇物を食べさせたと詰め寄る守は容赦なかった。
それでも結局は最後までスコーンを食べきった守は律儀とでも言うべきか義理堅いと言うべきなのか。
何だかんだで優しい彼女の感情は、やはりフィディオには読みきれなかった。
とりあえず理解できたのは、目の前の端正な顔立ちの少年の味覚が、些か残念だという部分だけ確信は出来た。

拍手[0回]

「マモル!」


いつもの練習場所で両手を振るフィディオに小さく笑うと、守は彼に駆け寄った。
いくら日本より南に位置する国だとしても冬は寒く、白いダウンジャケットに同色のセーター、更に黒いパンツとスニーカーを合わせた守は、パーカーにジーパン姿のフィディオに小首を傾げる。
彼が寒さに強いとしても寒すぎる格好に、こちらが身震いしてしまいそうだ。
イギリスの冬で鍛えられた守ですら少し寒いと思うくらいだから、現地育ちのフィディオはもっと寒さを感じているだろう。


「久し振り、フィディオ。約三週間ぶりか?」
「ああ。久し振り!今日来るならメールくれれば良かったのに。そうしたらこの間渡しそびれたクリスマスプレゼントを渡せた」
「別にいいって言ったのに。でも、サンキュ。一月は少し予定がずれたから、三月の初旬までこっちに居る予定なんだ。四月には向こうで学年が上がるから一度戻るけど、一月きっかりは居られるからまだ時間はあるし」
「そう?それならいいけど」
「・・・ってか、お前それ寒くないの?イギリスの冬で鍛えられた俺ですら肌寒いのに」
「ああ、サッカーをしてたから。それに俺もジャケットとマフラーと手袋は持ってきてるし。あ、あと守からのプレゼントの帽子も」
「お、あれ使ってくれてんの?」
「当然だろ。あれ本当に手編み?毛糸もほわほわで気持ちいいし、サッカーボールのワンポイントがお洒落だよね」
「気に入った?」
「ああ。ありがとう」


にこり、と笑ったフィディオは、嬉しそうに頷いた。
その様子に守も笑顔を返す。
喜んでくれたなら編んだ甲斐があるというものだ。
実は守が手編みの品をプレゼントしたのは、チームメイトにフィディオにエドガー、一郎太に鬼道の父、さらに影山と世話になっている使用人と結構な人数に上る。
一人一人デザインを考えて編んでいるので、九月からこつこつと作っていた。
基本的に値段は毛糸代のみだが、その分手間がかかっているので喜んでもらえると嬉しい。
手作りだと少し重いかと思ったが、フィディオやチームメイトにはその心配はなかったらしい。

フィディオに贈ったのは彼のイメージである瞳の青をベースに、サッカーボールのワンポイントと、イニシャルを縫いこんだ帽子だ。
大々的に柄を入れていないのでスタイリッシュなデザインに仕上がり、中々の自信作だった。
多少寝不足になる夜もあったが、ありがとうの一言で報われる。

にへらと笑み崩れた守に目を丸くしたフィディオは、ふと何かを思い出したように柳眉を寄せた。


「そう言えば、思い出したけどこの間の試合はなんだったんだ?」
「この間?っていうと、新年のあれ?」
「そう。あんなマモルらしくない試合初めてだ。何かあったのか?」
「うーん、あったと言えばあったな。実は、あの日エドガーの実家で開かれるパーティーに出席予定だったんだけど、俺がどうしてもあの試合に出たくて、あいつを巻き込んでイタリアへ来たんだ。それで試合の途中でタイムアップ。チームの皆にも俺の我侭聞いてもらって、昨日一人一人に謝りに行ったんだ」
「どうしてって、聞いてもいい?」


彼らしい気遣いのある聞き方に、少しだけ微笑む。
するとそれこそが答えだと気がついたフィディオは、肩を竦めると話題を変えた。


「あの試合のシュート、凄く綺麗だった。『ムーンダスト』だったっけ。やっぱり、名前の通り月をイメージして作ったんだろ?銀に鈍く光る月が砕けて、欠片が花弁のように舞い散るさまは壮観だった」
「ありがと」


本当は月ではなく、同じ名を持つ花のイメージだと訂正するのは簡単だが、どうせ二度と使う気がない技なので言葉を受け流した。
確かにあの技は名前や印象から考えると月にちなんだものだと勘違いしやすいだろう。
本当のことを知るのは守が自分から種明かしをした許婚と、伝えたいと願った相手だけ。
スペインの国花を模した技は、天国の彼にも見えただろうか。
少なくとも、彼の父に託した献花だけでも届けばいいと、彼の旅立ちに立場的に立ち会えぬ身としては密かに願う。

もっと時間があったなら、きっと彼とは親友になれた。
サッカーを愛する人間として、男女を越えた枠で友情を結べただろう。

今でも胸を締め付ける寂寥に首を振ると、不思議そうに蒼い瞳を瞬かせる彼に微笑みかけた。


「実は、また他にも新しい技を開発中なんだ」
「え!?本当なのか?」
「おう、マジ。今度もシュート技。だから特訓付き合ってくれよ」
「勿論!でもマモルがまたシュートを会得すると俺としては困るのか?」
「はは、ライバルには張り合いがあるほうがいいだろ?それに、なんならお前も俺の技を盗めばいい」
「マモルの技を?」
「ああ。もっとも、そう簡単に盗ませる気も、態々解説する気もねえけどな」


ぱちり、とウィンクをすると、じわじわと頬を興奮で赤らめたフィディオは好戦的に瞳を輝かせる。
咄嗟の話題変更は彼の好奇心を擽ったらしい。
気がつけば吐息が触れ合う距離に顔があり、こつりと額をつき合わせた。


「俺に君の技が奪えないと思う?」
「お前に俺の技が奪えると思うのか?」


年齢にしてはふてぶてしい笑みを浮かべた二人組みは、暫くお互いの瞳を見詰め合い───不意に声を大にして笑った。
けらけらと先ほどまでの緊迫感溢れる雰囲気は嘘だったかのように笑い、そしてゆるりと口角を上げる。
笑いの発作は互いに治まらず、くつくつと喉を震わせたまま。


「何、その尊大な言い草」
「マモルこそ。どれだけ自信家なんだ」


腹を抱えて笑うのは久し振りな気がする。
冬の青一色の空に声が響き吸い込まれる。
そんな些細なことが楽しくて面白くて仕方ない。

笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を指先で拭うと、同じような仕草をフィディオもしていて、視線が絡みまた笑えてくる。
互いの背中を叩き合い、肩を組んで体を揺らす。


「頼むぜ、ライバル。切磋琢磨したほうがいい技が生まれるってもんだ」
「任せろ、ライバル。君とプレイするのは楽しくて刺激的だ」


ぱちり、と至近距離でウィンクし、くすくすと喉を震わす。
久し振りに戻ったイタリアの空は、覚えている通りの親友の瞳と同じ蒼さで守を迎えてくれた。

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いろは順お題
--お題サイト:afaikさまより--



「あー・・・、だから違うって言ってんだろ!」


響いた怒声に、一護はびくりと首を竦める。
見下ろす魔獣は赤色の瞳を怒りで眇め、うるうると喉を鳴らした。

上体を低くして耳をピンと立てた一護は、いつでも逃げれるよう後ろ足を踏ん張る。
珍しいオレンジ色の長毛が芝生について草を巻き込むが、そんなの関係ない。
意識せずに警戒音を出す喉を呻らせたまま、びったんびったんと尻尾を叩き付けた。

だがそんな一護の様子を見て嘆息して前足で土を掻いた恋次は、すかさず傍に居た浦原が横から指導を入れる。
勿論、一護ではなく恋次に。
風の力で浮き上がらせた石を頭部に喰らった恋次は蛙が潰れるような声を出し撃沈した。


「いってぇ!何するんだよ!」
「芝に穴を開けないでくれますか。誰が手入れしてると思ってるんです」
「え?───まさか浦原さんが」
「そんなわけないでしょ。庭師に決まってるでしょうが。朽木さんつきの私が、そんな時間あると思ってるんですか?」
「・・・・・・じゃあ、紛らわしい言い方するなよ」
「聞こえてますよ。庭を荒らす駄犬は当屋敷には相応しくありません。躾のし直しですか?」
「いや、すんませんでした!心を改め気をつけます!!」


胡散臭い笑みを深めた浦原に、狼に似た姿でびしりと姿勢を正した恋次は声を裏返し叫ぶ。
一護にとっては人語や人の常識を教える浦原より、力の使い方や人への変化を教える恋次のほうが余程怖い。

きっちりと上下関係が定まっているように見える二人を未だに身を低くして眺めていれば、不意に背後から抱き上げられた。


「ぶなうぅ!?」
「・・・私だ、一護」
「なーん」
「ああ、あれか?あれは毎度のことだ、気にするな。浦原は躾には五月蝿いんだ。私も朽木に相応しい振る舞いをと口がすっぱくなるほど言われている。四角四面なことが苦手な恋次は、そのままあやつも苦手にしているだけだ」


腕に抱いた一護の喉を指先で擽りながら教えるルキアは、人語など話せずとも十分意思が通じる。
何故彼女にいいたことが判るのかとじっと綺麗な紫紺色の瞳を覗き込めば、ひょいと器用に眉を上げたルキアは顔を近づけて一護の額と額をあわせた。


「あれはな、一護。仲良し喧嘩と言うものだ。お前も早く仲間入りできるよう頑張るのだな」


話す振動が伝わるくらいの近距離で見つめあった瞳に、一護はぱちりと目を瞬かせた。
仲良し喧嘩がどんなものかわからないが、もう一度未だに喧々囂々とやりあう二人をじっと見詰める。
何事か恋次が気に障ることを言ったのか、再び風の力で石を持ち上げた浦原が爽やかな笑顔で恋次を攻撃していた。

いつか見た流星のように綺麗に落ちていく石を眺めてふるりと尻尾を振る。
悲鳴を上げる恋次を目に、一護はぽつりと呟いた。


「ぶにゃああん」


その一言は、恋次が聞いたら激怒間違いなしの響きを持っていたが、尻尾を股に挟んで逃げ惑う彼には幸いにも届いていなかった。

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