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「・・・やめてよ!」

聞こえた声に琥一に向いていた視線を彷徨わせる。
一流大学の校門の壁に凭れていた琥一は、不機嫌そうに眉を寄せた。そうすると、髪型も相俟ってちょっと一般人には見えない。
普段なら笑ってやるところだが、琉夏もきっと人のことを言えない顔になっているに違いない。

「やめてって言ってるでしょ!」

今度は先程よりももう少しはっきりと聞こえた。
声の主には嫌というほど心当たりがあり、こんな風に荒げている場面を幾度か見たことがあるので状況はすぐに把握できた。
だが把握できたからといって慣れるわけではない。苛立ち舌打すると、壁から背を離した琥一が先に動いた。
ちらり、と視線を寄越してきた彼に小さく頷くと、ポケットに手を入れて歩く。少しだけ気だるげに、けど雰囲気は険悪に。ここら辺は昔取った杵柄で簡単に行えた。

見据える先には一人の華奢な女性と、彼女を囲う数人の男。
いかにもチャラ男系の奴らに、頭は良くても馬鹿な奴はやっぱりいるんだなとどこか冷静な頭で考えた。
今日の冬姫の装いは女の子らしいガーリーな装いだ。きっと大学の構内で勉強している彼女は、知的で大人しい美女に見えたことだろう。
だがその中身は意外と苛烈で意地っ張りであると、琉夏も琥一も知っている。
ナンパも嫌いだし、そもそも見知らぬ人間に馴れ馴れしくされるのも嫌いな冬姫だ。今の表情だって嫌悪をあれだけ前面に出しているのに、男たちは何故気がつかないのだろう。
冬姫に触れる男たちにも、それを見て見ぬ振りして通り過ぎる人達にも苛立ちを抱きながら琉夏は歩を進めた。
隣に立つ琥一は先ほどから一切口を開いていないが、隣に居る琉夏にまで怒気が伝わってきて、止まれるかな?とちらりと脳裏に過ぎったが、手段を考える前に冬姫の傍までついてしまった。
男たちに体を向けている冬姫は、まだこちらに気づいていない。

「だから、私には予定があるの。幼馴染と一緒にご飯を食べに行くんだから!」
「なら、その幼馴染も一緒でいいって」
「そうそう。そっちの方が合コンも盛り上がるだろうしー」
「・・・だってさ、コウ。どうする?」
「そうだな。もちろん、テメェらの奢りなんだろうな?」
「・・・え?」

振り返ろうとした冬姫の肩に腕を置き、所有を主張する。琥一の長い腕は、彼女の腰へと回っていた。
冬姫を見てニヤニヤと笑っていた男たちは、漸く二人の存在に気がついたらしく、大きく目を見開いている。
間抜け面、とぼそりと呟けば、元々見れたもんじゃねえだろと即効で帰ってきて、そうだねと肩を竦めた。

「琉夏君、琥一君」

首を逸らして顔を上げた冬姫が、琉夏と琥一を認めてホッと息を漏らした。
腕に掛かる重さが増し、身を預けた冬姫を護るように二人は前に出る。
すると怯えたように男たちは一歩後ろへ下がると、震える声を発した。

「・・・も、もしかして桜井兄弟?」
「桜井兄弟?何だそれ?」
「有名なのか?」
「知らないなら黙ってろよ!」
「え?桜井兄弟って、あの桜井兄弟?」

ぼそぼそと聞こえる声に、にんまりと笑う。悪名を知っていた輩が居てくれてとても嬉しい。これで簡単に厄介払いが出来る。
視線だけで隣を見れば、同じような表情をした兄と目が合った。それだけで意思疎通が出来、結論は簡単に出る。

「桜井兄弟がどれを言ってんのかしらねぇが、ピアスの桜井兄弟なら俺らだな」
「今となったら少しばかり恥ずかしい呼び名だけどね。───前より大人しくなったつもりだったけど、大切な幼馴染に手を出されたら昔のヤンチャ時代が懐かしくなってくるな。ねぇ、コウ」
「そうだな。俺ら、自分のもんに手を出されるの嫌いだしなぁ」

ゆったりとした口調でわざとらしく告げる。腕の中の冬姫の体がぴくり、と震えたがそれ以上の反応はなかった。
聡い彼女はどういうつもりでの発言か悟ってくれたようだが、それでもきっとあとで怒られるかもしれない。何しろ、今の発言で彼女へアプローチをかける男は激減したに違いないから。
自分たちとしてはいい虫除けだと思うが、大学で彼氏を作るつもりだったのなら諦めてもらうしかない。もっとも、そんな暴挙は最初から許す気はないけど。

「どうする?ルカ」
「どうしようか?」
「すすすす、すんませんでした!」

自分たちを知っていたらしい一人の男が回れ右をして駆け出す。それを唖然と見送った残りのメンバーも、その勢いに釣られてわれ先にと走り出した。

「うーわ。蜘蛛の子を散らしたみたいだな。コウが怖い顔をするからだ」
「何言ってやがる。お前だって相当だったろうが」

追い払われた悪い虫を眺めていると、不意に腕に激痛が走った。

「いてぇ!」
「イタっ」

兄も同じタイミングで声を発し、視線を落とせば腕の上に小さな白い掌。ぎゅぎゅと抓られる腕に、情けなく眉を下げる。

「腕、放して。まだギャラリーは居るんだよ」
「判ってるって。ねぇ、コウ」
「おう。だから、やってんだ」
「もう!二人とも」

ぷくっと頬を膨らませて口癖を出した幼馴染に、痛む腕をそのままにクスクスと笑う。変わらないこの子がとても愛しい。
他の誰かに譲るなど、一切考えられないほどに。

「怒るなよ、冬姫。飯、食いに行くんだろう?」
「今日はバイキングだから食べ放題だよ。ソフトクリーム自分で作れるんだって。凄くない?」
「それは凄いけど。・・・でも、このままじゃ歩けないよ」
「そうか?」
「そうかな?」
「そうだよ!もう、早く放して」

ぎろり、と睨みつけられてこれ以上機嫌が悪くならない内にと、渋々手を放す。
慌てて距離を取った冬姫が周りを見渡せば、数人のギャラリーはすぐさま散った。きっと週末の休みを挟んだ月曜日には、噂は尾ひれをつけて出回っているに違いない。
眉間に皺を寄せてため息を吐いた冬姫は、恨めしそうな視線を向けてくるが口笛を吹いて視線を逸らす。
もう一度ため息が聞こえ視線を戻すと、仕方がないと艶やかな苦笑を見せた冬姫は二人の手をきゅっと握った。

「な!?」

自分から無意識にするならともかく、相手からの接触に弱い琥一が声を上げ手を引こうとするが、寸前で動きが止まる。
強面を赤く染め、どうしたものかと眉を下げる姿は、言ってしまうと可愛らしい。
琉夏は琥一よりももう少し素直だったので、握られた手をすぐさま握り返した。

「助けてくれてありがとう。二人とも、王子様みたいだったよ」

悪戯っぽく告げられ、琥一は目を伏せ、琉夏は笑った。
二人の大事なお姫様を真ん中にして、手を繋いで歩くのはとても気分がいいものだった。

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