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*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。



■迷わない視線



彼がふとした瞬間に見詰める先は、いつだって同じだ。
船の進行方向ではなく、お宝のある方向でもなく、振り返ることなく一直線に。


「ゾロさん」
「あ?」


気配で気がついていたのだろう。
全く驚きもなくこちらを向いた彼の瞳は、酷く静かで研ぎ澄まされていた。
彼に憧れる人間の一人として前に立つだけで震えるほど緊張する。
自分が目標とするのは海賊王であるモンキー・D・ルフィではなく、ロロノア・ゾロその人だった。

世界最強の剣士であり、海賊王の右腕として名高いその人は、普段は割りと凪いだ雰囲気を発している。
自身を強くすることにのみ心血を注ぎ、そのくせいざと言うときは柱の一つとしてきっちりと船員を取りまとめる。

孤高を漂わせる彼の強さに憧れた。
鬼神のように容赦ない剣技や、鋭く光る瞳、触れれば切れてしまいそうな殺気に憧れた。
ずっとずっと背中を追い続けている。
真っ直ぐに迷うことなく彼の背中を。
けど。


「おーい、ゾロ!」


勇気を振り絞って声を掛けても、暢気な一言に一生敵わない。
それが例え全く大したことない内容でも、ゾロはもうこちらの存在を忘れている。
彼の心に残る人物は実はとても少なく、興味があるものとないものへの線引きが激しい人だと気がついたのは最近だ。
誰にでも一歩引いて付き合う彼が対等に並ぶ相手はいつだってただ一人。


「どうしたんだ、ルフィ?」


首筋に手をやりながら、どうせまた下らないことだろと言うくせに、彼は迷いなく海賊王の隣へと歩く。
初めから決められた定位置と言外に回りに示し、誰はばかることなく信認の篤さを誇るでもなく。
ただ当たり前に、海賊王の横へと並ぶ。


「───、ずるいな、ルフィさん」


海賊王の属船の船員でありながら、海賊王その人ではなく彼の隣に並ぶ人間に憧れた自分の想いは報われることがないのだろう。
野獣と呼ばれた彼の心を支配するのはいつだって一人きりで、魂だけになっても変わらない執念を持って『世界一の剣豪』を名乗ったゾロだからこそ憧れたのに、後ろを振り返らない彼に不満を抱くのはおかしな話だった。



■馬鹿なのよと呆れる瞳の美しさ


「結局あいつは馬鹿なのよ」


多大に呆れを含んだ声で訴えた人に、少女は苦笑した。
オレンジ色の癖のある髪を腰まで伸ばし、抜群のスタイルを誇らしげに晒す美女は、少女が憧れた『航海士』だ。
文字通り世界を股に掛ける海賊王の厚い信頼を一身に受ける彼女は、超一流の腕と最高の知識を持ち、様々な経験で己を磨いて世界一周を果たした航海士仲間では知らぬ者はいない雲上人だ。
綺麗なだけでなく賢く美しい。見た目だけでなく、中身も。
磨きぬいてきた自分に誇りを持ち、凛として背筋を伸ばして笑っているナミに憧れる人間は男女問わず多い。
少しお金にがめつい部分はあるけれど、強くて優しい人だった。

海賊王の属船の船員となり直接彼女に教えを請う立場を得た自分はとても光栄だろう。
勉強することはどれも目新しい知識ばかりで、偉大なる航路を航海して常識を捨てたと思い込んでいた自分の狭視野を思い知らされる。
深い知識を持ちながら、それでも現状に満足せずに努力し続ける人に憧れた。
憧れより少しだけ強く、恋よりはもう少し憧れが強く。

ナミはふとした瞬間に、海賊王の愚痴を漏らす。
また食料庫をあさったお陰で食糧難だとか、残高気にせずお金を使うから貯金がゼロだとか、相手見ずに喧嘩売るから海軍大将と鉢合わせたとか、道を選ばず進んだ所為で船が座礁しかけたとか。
事あるごとに増えていく愚痴は決して尽きることはないのに、うんざりとした表情は偽りはないのに、それでもどこか楽しそうだ。
海賊王を語るときのナミの瞳は普段より色濃くなり、作り物ではない笑顔で彩られる。
憎まれ口を叩いているくせに嬉しげで、呆れながらも幸せそうで。

───ああ、好きなんだなと、じんわりと心の中に暖かいものが広がってく。


「ルフィは馬鹿なのよ。どうしようもなく馬鹿で仕方ないから私がついてなきゃ駄目なの。じゃなきゃ、あいつら全員死んじゃうわ。ルフィが望むままの道を行けるのは私だけよ。彼の『航海士』である私だけなの」


世界地図を描くという夢を語るときと同じように、若しくはそれよりもずっと瞳を輝かせて微笑むナミはとても綺麗だ。

海賊の世界に入ってから、ずっとこの人の背中を追い続けている。
海を自由に進むために航海士になった。
誰より自由を望む海賊王のために、誰よりも一流の腕を磨いたナミは、『航海士』として『女』として憧れる。
文句を言いながら笑うナミは、最高に格好いい人だった。

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