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*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。




ぼろり、と大粒の涙が零れる。
全身から力が抜け、自分が今まで生きてきた意味は何もなかったのかと絶望した。

少年の生まれは偉大なる海の片隅にある冴えない島。決して大きくはないが、大きな島と島の中継点にあるためにそこそこ栄えていた。
明るく活気のある表通りから一本奥に入り込んだ、日の差さない路地裏が少年の住処だった。
少年は気がつけばそこで暮らしていた。もっと小さい頃は母親と呼ばれる人が居たが、ある日目覚めると彼女の姿はなくなっていた。
父親は物心付く前になくなっている。毎日父親について話して聞かせてくれた母によると、彼は重罪人らしい。
町で大きな犯罪を犯したために母親も住む場所を追われ、自分という罪の証が生きているから幸せになれないと毎日泣いていたのを覚えている。

生きていることこそ罪だと毎日毎日心に刷り込むように言われ続けた。
それでも死ぬことはできなくて、必死になって働いてその日暮を続けてきた。
生きる意味なんてなかった。誰にも望まれなかった。
屑以下の人生を歩んでいるのに───どうしても死ぬことは出来なかった。

けれど、そんな人生もここまでらしい。

頬を涙が伝う。
自分が死んで、誰か一人でも悲しんでくれるのだろうか。
突然の海賊の襲来で火の手があがる町の中、逃げ遅れた子供を庇って負った傷はじくじくと脳まで響く。
無事だった子供を抱いた母親は、涙を流しながら子供を胸に抱いていた。


「よかった・・・あんな屑じゃなくて、あんたが生きていてよかった」


耳に聞こえた声に、反論すら出来ない。
彼女のいう言葉はきっと真実なのだろう。
振り返りもせずに去っていく背中を瞬きもせずに見送る。
暫くすれば人のざわめく声も徐々に聞こえなくなり、一人きりで死ぬ恐怖に震えた。

このまま失血死するのが早いか。それとも周りの火が燃え移り焼死するのだろうか。
取りとめもなく考えていると、不意に前方に気配が生まれた。

重たい瞼を開くと、最初に目に入ったのはあまり目にしない草履。
町の中でそれを穿く人物なんて最近知り合った一人しか思い浮かばなくて、少年は声を振り絞った。


「逃げて・・・下さい」
「ああ」


頷いたその人は、しゃがみ込むと少年の顔を覗きこむ。予想通りの真っ黒な瞳に、少年は微かに笑った。
赤いベストにデニムのハーフパンツ。さらさらとした黒髪と目元の傷が特徴的な彼は、ぱちりと目を瞬かせる。
しなやかな体つきに精悍な顔。それなのにどこか幼い仕草をする人は、つい二日前に行き倒れていたところを拾った彼だ。
名前はルフィ。

仲間とはぐれて道に迷った挙句に腹をすかせて倒れていた彼は、少年の日常に新しい風を吹き込んだ。
初めてだった。真っ直ぐに目を見て笑いかけてくれた人は。
裏通りで暮らしていても全く気にしない人の笑顔を失いたくなくて、卑怯にも生まれを口に出来なかった。
豪快で奔放な彼と暮らしたのは、今まで生きてきた16年の人生で一番楽しいひと時だったから。

けれど夢の時間は終わりだ。
間もなく死ぬ自分の幸せより、彼に生きて欲しかった。
このままここに居ればいずれ破壊者たちがやってくる。殺戮や押収に躊躇しないならず者が彼を殺しにやってくる。
そんなのは、嫌だった。

ひゅっと息を吸い込んで掠れる声を絞り出す。
もう、十分だ。彼が自分を捜しに来たという事実だけで、自分は笑って死ねる。
誰か一人でも自分を助けに来ようとしてくれた。それで、十分だった。


「逃げて、下さい、ルフィさん」
「ああ。お前も一緒にな」
「無理です。ぼくはもう助かりません。ぼくを背負って逃げたら、あなたも海賊たちに追いつかれます。島に来たのは髑髏に麦藁帽子の海賊団───麦わらの海賊団です」
「そうか。それでもおれはお前を連れてく」
「っ、判ってくださいルフィさん!麦わらの海賊団ですよ!?彼らは海賊王の一味です!あなた一人じゃ死にます!それに・・・ぼくには助けてもらう価値なんてありません!!」
「何でだ?お前はおれを助けただろ?」
「ルフィさんとぼくは違います。ぼくは───ぼくの父は、町で重罪を犯した犯罪者です。だからぼくはずっとスラムで暮らしてきました。泥水をすするような生活でも死にたくなかったから。でも、もういいんです。どうせぼくは町の皆が言うとおり生きる価値なんてないんですから」


ぼろりと涙が零れる。
価値がないと誰もに言われた。
顔も知らぬ他人から。前日まで雇ってくれた知人から。昔から近所に住む人たちから。
誰しもが犯罪者の息子である自分に生きる価値はないといい、どうして死なないんだと言われ続けた。
ここまで生きてこれただけでも幸運なのだ。
自身に言い聞かせるように目を伏せると、ぐいっと体を引っ張られた。


「ルフィさん!?ぼくの話を聞いていたんですか?」
「うるさい、黙れ!」
「!!?」
「お前がなんて言おうとおれはお前を助ける!もう決めた!」
「決めたって・・・」


自分を背負うと走り出した彼に呆れた。
まるで子供の言い分だ。自分がやると決めたからと、こちらの意見は聞いてもくれない。
伝わる温もりに、驚きで収まっていた涙がまた零れ始めた。


「どうして助けようとするんです!ぼくは、犯罪者の子供なんですよ!」
「そんなのお前となんの関係もねえだろ!おれは、犯罪者の息子だろうと、お前を助けてえから助けるんだ!」
「・・・ルフィさん」
「だから、お前は黙って助けられてろ!そんで絶対に生きろ!」
「無茶苦茶だ」


あまりな言葉に笑ってしまった。
今まで自分が背負ってきた重荷など何も知らないくせに、一言で切り捨てるなんて酷すぎる。
どんな想いで生きてきたか、どうやって生きてきたか。何も知らないくせに。

心の奥に巣食っていた何かがすっと消えうせて、変わりに胸に新たな願いが芽生えた。


「ぼくは・・・生きていていいんですか?」
「当然だ!お前はどこの誰とも知れないおれを助けてくれた。お前はいい奴だ」


単純な理屈だ。助けたのだって偶然の産物なのに、それだけでいい奴と決めてもいいのだろうか。
長年積もっていた疑問への答えは簡単で、あっさりとしてるからこそ心に響いた。

『当然だ!』と答えてくれる人なんて初めてだ。

胸が詰まってもう何も話せなくなり、ルフィにしがみ付く手に力を篭める。
すると急に彼の足が止まった。


「ルフィ!あんたこんなとこで何やってんのよ!?」
「探したぞ、ルフィー!」
「ん?誰だそれ」


突然賑やかになり驚く。
ルフィの名前を連呼しているので、彼の知り合いなのだろう。
オレンジ色の波打つ髪を腰まで伸ばした美女と、小さな狸と、顎鬚の金髪男。
びくりと体を強張らせていると、不意に体が浮いた。


「チョッパー、こいつ怪我してんだ。診てやってくれ」
「怪我?って、うわあ!!?」
「っ!!?」


視界が回転し、体に鈍い衝撃が走る。
体を擽るふわふわの感触に驚いて目を見開くと、先ほどまで狸だった生物が巨大化していた。
驚きすぎると声が出ないというのは本当らしい。
オレンジ髪の美女に顔を覗きこまれ赤面して身を縮める。瞬間、全身に痛みが伝わり小さく悲鳴を上げた。


「これ刀傷じゃないか。もしかして、あの海賊にやられたのか?」
「多分な。大丈夫そうか?」
「ああ。これくらいなら大丈夫だ。けど安静にさせたいから、ここで応急手当して船に連れてってもいいか?」
「勿論だ、頼むチョッパー。そいつおれの恩人なんだ。行き倒れてたら飯食わせてくれた」
「ルフィにご飯を?それは迷惑をかけたでしょうね・・・ごめんなさいね」
「いいえ・・・ぼくもルフィさんと一緒に居られて楽しかったですから」


首を振り否定すると、美女は目を丸くして、次いで艶やかに微笑んだ。
ありがとうと礼を言われ、どうして彼女がお礼を言うのだろうと小首を傾げる。


「そんで、ルフィ。お前はあの『麦わらの一味』とやらをどうするつもりだ」
「ぶん殴る」
「そう来ると思った。敵は入江を拠点にして乗り込んできたわ。そっちにはフランキーとロビンとブルックが向かってる。ウソップはゾロと敵さんの船長を探しに行ったわ。多分、そろそろ合図があると思うんだけど」


腕を組んだ美女が言い切るか切らないかくらいで、赤い発炎筒が打ち上げられた。
音と光に驚いていると、丁度のタイミングだなと金髪の男がタバコを燻らせ小さく呟く。


「見つかったみたいね。どうする?」
「ナミ。お前とチョッパーだけで船に戻れるか?」
「・・・まぁ、あの程度なら大丈夫でしょうね」
「何だ、もう当たったのか?」
「ええ。数だけ多い烏合の衆だったわ。だから、サンジ君がいなくても大丈夫よ」
「そうか、ありがとう。なら二人はそのまま船に戻れ。サンジ、お前はおれと一緒にあそこに行くぞ」
「だな。海賊王の一味を騙る奴らを拝んでみてえしな。特に黒足。美形じゃなければオロス。───いいか、チョッパー。心臓が止まってもナミさんを守れ」
「えー!?心臓止まってもぉ!?」


悲鳴を上げながらも律儀に頷いた元狸に、ルフィはしししと笑った。
そうして背を向けて駆け出そうとした彼に、美女が声を掛けると、自身の首にぶら下げていた何かを彼に向かって放った。


「ルフィ、修理終ったわよ」
「おー、さすがナミ!綺麗に縫えてる。ありがとな!」
「どういたしまして。お土産期待してるわ」
「ししし、了解」


美女から受け取ったそれを首に掛けると、ルフィは今度こそ振り返らずに走り去った。
心配げにその様子を見詰めていると、おれたちも行くぞと元狸に声を掛けられ頷く。
余程酷い表情をしていたのだろうか。美女が笑って手を伸ばすと、くしゃりと頭を撫でてくれた。


「大丈夫。ルフィはああ見えて滅茶苦茶強いのよ。それに、ルフィに狙われて無事だった奴なんて、今まで一人も居ないんだから」
「でも」
「信じなさい。彼は海賊の中の海賊よ」
「か、海賊!?」
「あら、何も知らずに助けたの?それとも知らないからこそ助けたのかしら。まあ、どっちでもいいわ。あなたが私たちの船長を助けてくれたことに変わりはないんだから」


軽い口調でウィンクした美女に、少年は忙しなく瞬きを繰り返した。
彼の所有する船へ辿り着きその旗印に気絶して、麦藁帽子を首から提げたルフィこそが海賊王と知るともう一度気絶した。

自分たちの名を騙った海賊を叩きのめした彼らは、船にあった財宝を根こそぎ巻き上げてきたらしく、ついでに食料も奪ったと宴会の準備をし始める。
気絶している間に出航したらしく、船の上で波に揺られて少年は空を見上げた。
島から出るのは初めてで、こんなに笑ったのも初めてだ。
何しろ彼らはお尋ね者とは思えないくらいに陽気で明るく面白い上に優しかった。


「ねえ、ルフィさん。ぼくは生まれてきてよかったんですよね?」
「当然だろ。お前がいなきゃ、おれはのたれ死んでたかも知れねえぞ」


しししっと首を竦めて楽しげに笑う海賊王に、少年は未来を決めた。

それから幾つか季節が流れ、海に新たな海賊団が増えることとなる。
自身の生を肯定してくれた海賊王と生きると誓った少年は、今はもう、生まれてきてよかったかなんて小さなことで悩んだりしない。
彼が憧れた海賊王を守るために、強くなろうと志高く進んでいた。


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