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*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。





ごほり、と咳をした瞬間に、口を押さえた手の隙間から赤い液体がだらだらと零れる。
ウソップ、と悲鳴のような声で叫んだ仲間の声をBGMに、自身の武器を片手に跪いた。

目の前に立つのは海軍大将の内一人、黄猿。
麦わらの一味にとって因縁深い相手は、悔しいが今でもウソップ一人では勝てない相手だ。
全力で戦い、いいところで相打ち。自分の実力を理解するからこそ、冷静に計算できた。


「・・・くそっ」
「しぶといねぇ、全く。これだから嫌だよ、麦わらの一味は。主戦力じゃないのに、ま~だ生き残ってる」


ゆったりと独特の口調で話す黄猿に眉を顰めた。
お前はいつまで現役気取ってんだチクショウ、と叫びたいが、今それをしたら確実に死ぬ。
ウソップの基本は『命を大事に』だ。経験から死んでしまったら何も意味がないのは、嫌になるほど見てきた。
それに今ここでウソップが倒れれば危険なのは自分だけじゃない。
海楼石をつけられて泣いているチョッパーや、何故か首に鎖をつけられたブルックも危うい。
彼らがウソップの人質であると同時に、ウソップは彼らの人質だった。
どうにも動けぬ状態に舌打する。
きな臭い状況だったのはわかっていたのに、と短慮な行動に後悔した。

そもそもよく考えてみれば、メンバーわけからしておかしい。

フランキー、ロビン、ゾロ。
ルフィ、ナミ、サンジ。
自然とあまりものとして残された自分たちが組んだが、戦力を公平に分けましょうと胸を張ったナミは、フランキーとロビンとゾロが纏まった瞬間に即効でルフィとサンジを連れて走り去った。
そもそもの始まりも彼女が海軍から手に入れた地図を見て宝の匂いがすると目をベリーへと変えたのが切欠なのに、一言全力で物申したい。
むしろ一言じゃすまない。
地べたについていた手を、ぐっと土ごと握り締めた。


「くそ、ナミの野郎、自分だけ生き延びる道を模索しやがって」
「・・・あれあれ~?まだ話す余裕があるんのかい?本当に大したものだねぇ」


ゆったりとした口調でいながらも容赦なく光を浴びせた黄猿の攻撃を避けきれず足が貫かれた。
痛みに冗談じゃなく転がると、すぐ耳元で砂利を踏みしめる音が聞こえる。
まずい、と顔を上げたらすぐそこに黄猿の顔があった。


「やれやれ、ルーキーの頃から面倒だったけど、無駄に力をつけちゃって。一思いに楽にしてやるから、そこで寝転がってなよ~」


仲間の悲鳴を聞きながら、無防備に顔を近づけた黄猿に血塗れの顔で笑いかけた。
訝しげに眉を顰めた彼が行動を起こす一瞬前に、握り締めた砂を投げつける。
光である彼の体を砂粒は通り過ぎたが、欲しかったのは一瞬の隙だ。
ウソップを弱者だと決め付けた黄猿を唯一相手に取れるとしたら、その油断を利用するしかない。
手についた赤い液体だって単なる血糊だし、実際は見た目ほど酷い傷は負っていなかった。

自分の武器は手にした巨大パチンコと、いざというとき高速回転して逃げ道を探す知恵。
備えあれば憂いなしとはこのことだ。
すうっと息を吸い込み、喉も張り裂けよと声を上げた。


「今だー!!」
「っ!?」


驚く黄猿の背後から拳と刀が同時に滑り込む。
頭を狙った拳と、胴体を狙った刀は吸い込まれるように黄猿へ向かい、ぎりぎりのところで光に転化した彼に避けられた。
眼前に突き出された刀身に息が止まる。


「こらぁ、ゾロ!おれを殺す気か!!」
「これくらい避けろ」
「無茶言うな!おれはお前らみたいな武闘派じゃねえんだよ!!」


とんとんと抜いた一刀で肩を軽く叩きながら呆れ混じりに訴える剣士を、唾を飛ばしながら睨み付ける。
だが全く効果なしで、くるりと背を向けたゾロは再び黄猿へと向かって行った。

代わりとばかりに残ったルフィが、ゾロの攻撃により腰の抜けたウソップに笑いかける。
差し伸ばされた手に掴まるとぐいと引っ張られ肩に半身を預けるような体制になった。


「よく頑張ったな、ウソップ。おかげでチョッパーやブルックも助けれた」
「・・・本気で死ぬかと思ったわ」
「ししし、生きててよかったな」
「無邪気に言うな!おれじゃ時間稼ぎが精一杯なんだ、頼むからもっと緊張感を持ってくれ~!」


至近距離で滂沱の涙を流して訴えるが、やはり彼は飄々と笑ったままだ。
この辺の無神経さはゾロも含めてルーキー時代から変わらない。
それこそが彼らの強さの基準かもしれないが、自分には本気で無理だ。

ちらり、と視線を囚われていた二人に向ければ、おお泣きしたチョッパーがロビンへ飛びつき、便乗しようとしたブルックがサンジとナミに蹴り飛ばされていた。
海兵を彼らが持っていたロープでふんじばっていたフランキーは、呆れを含んだ顔で窘め中心の一人のはずのロビンはころころと笑っている。
未だにゾロと黄猿が戦っている前で、度胸が良すぎる彼らを羨ましく思いながら蚤の心臓を跳ねさせていると、ずり落ちそうになる体を抱えなおされた。


「落ちるなよ、ウソップ。どうやら、面倒なのが増えた」
「へ?」
「あれ見ろ」


ルフィが指差した先には、戦桃丸がパシフィスタを幾体も連れて姿を見せた。
顎が外れるかもしれない勢いであんぐりと口を開け、事実を確認しようと瞬きを繰り返す。


「おい、ルフィ!あれ!あの戦桃丸が連れてるパシフィスタって、最新のじゃ」
「ししし、みたいだな。ゾロは手を放せねえし、数がちょっとばかし多すぎる」
「数が多いのは見りゃ判る!どうすんだ!?」
「おれは別に相手してもいいぞ」
「馬鹿言うなー!!相手してもいいけど、じゃなくてここは戦略的撤退だろうが!さっさと指示を出せぇ!!」


怪我も忘れてがっくんがっくんと首を揺さぶってやれば、目を回しながらもルフィが仲間に指示を出した。
あからさまにホッとした顔をしたグループと、チッと舌打するグループに別れたが、ウソップは勿論前者だ。
カブトを構えると、流れるような動きで照準を合わせた。


「必殺、超煙星!!」


名前どおりに白煙が辺りを包み、視界が奪われる。
全力で気配のない方向へ走り抜けると、隣から楽しそうな笑い声が聞こえ、手探りで探り当てた頭を『見つかるだろうが』と思い切りぶん殴った。


スーパーポジティブな船長の隣でスーパーネガティブな狙撃手は己の運を今日も悲観する。
未だにどうしようもない部分がある海賊王に付き合うのは、幾つ命があっても本気で足りない。

それでも選んだ道を後悔しないのだから、馬鹿だなあと自嘲しながらも生き延びるために走り続けるしかないのだろう。




ちなみに船に戻った後、陰険な術を使い自分たちを置いていった航海士と誰が一番弱いかという議論を交わしたが───結局、昔と同じで結論が出なかったのだけは蛇足しておく。

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