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*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。



■優しくて残酷な人


彼は最高に優しくてユニークだ。
光りを紡いだような金色の髪に、端正な顔立ちを彩るワイルドな髭。
徹底したフェミニストで、強い上に料理も上手い。


「お待たせしました、レディ」
「ありがとう」


恭しく手の甲に唇を落とす真似をした彼は、ひざまづいた格好で瞳だけを上げる。
村にある広場を貸切にした海賊王の一行のコックであるサンジに振舞われる料理もさることながら、彼の対応も人気があり簡易レストランは混んでいた。
村に巣食っていた海賊を一掃した上に、歓迎会でも尚且つ料理を振舞うなどとは不思議だが、サンジに言わせると置いてある食材を自由にしていいというだけで十分に礼になっているらしい。
レディに奉仕するのを好むと口にして憚らない彼は、言葉どおりに一人一人に丁寧に料理を盛り付ける。
そして甘く優しい言葉を囁いて、うっとりとした空間を作り上げた。


「もう行ってしまうの?」
「ええ。まだ料理の続きが残ってますから」


黒縁眼鏡の奥から苦笑したサンジは、指先だけで簡易キッチンを示すと肩を竦めた。
山のような食材はまだまだ残っており、超人的な速度で繰り出される彼の料理すら追いつかないスピードで消費されてる。
村からも何人か手伝いが出ているのだが、それでは全然追いつかない。

原因は、サンジ目当てに集まった村の女たちではなかった。


「おーい、サンジ。飯まだかー?」
「まだだよ!そこ!食材をそのまま食うな!」
「って言ってもよ~、おれ腹が減っちまって。お、お前!その料理美味そうだな!!?」
「こらルフィ、まだおれの料理が残ってんだろうが!!そっちから先に食え!!」


暢気な声に先ほどまでの端整な顔を盛大に崩した彼は、黒足の名に相応しく右足を主であるはずの海賊王へと奮った。
ゴムで出来てる海賊王がなすすべもなく吹っ飛ぶのを見送ると、舌打ちしながらものすごい勢いで肉を引っつかんで料理を始める。
それは自分たちに出されたような繊細さには掛けているが、十分に美味しそうなシンプルな料理を大皿に盛ると吹っ飛んだ方向へ声を掛けた。


「ほれ、お前はそれ食って暫く待ってろ!もうすぐ激ウマ料理が出来るから、あんまナミさんたちに迷惑掛けるんじゃねぇぞ」


どんと机に乗せられた料理に、瓦礫を頭に乗せながら飛びついた海賊王を見て、サンジは呆れたとため息を吐き出して苦笑した。
その笑顔は自分たちに向けられるほど甘いものじゃない。
優しくムードに溢れたものとは百八十度反対で、作り物じゃないふとした瞬間に零れた本物の笑みだった。


「すみません、レディたち。うちの船長が迷惑掛けます」


金色の髪に手を潜らせて謝罪したサンジは、相変わらず綺麗な顔をしていた。
その事実はとても切なく胸を締め付け、酷い人ね、と知らず言葉が唇から漏れた。

彼の特別がどちらかなんて、子供にだって判ってしまう。
せめて上手に騙して欲しいと望むほどに本気なのに。



■アルカイック・スマイル



ニコ・ロビンはどんな人かと聞かれて、自分ならきっと『笑顔の絶えない人』だと答えるだろう。
絶世の美人で、スリルが好きで、見た名以上に冷静で、世界で知らぬ者は居ない考古学者で、オハラ唯一の生き残りと言われていた人。
子供の時分にバスターコールで家族や住処を奪われた彼女の人生は綺麗なものばかりじゃない。
本人の口から直に語られることはないけれど、少し世の中を見れば生き辛い世界を歩いていた人だとわかる。

例えば彼女は仲間が居ない船の上では、絶対に船室に入ろうとしない。
ごめんなさいね、と微笑みながら、癖なのと告げながら、柔らかい当たりと反してその信条を曲げたりしない。
結局彼女が本当に信頼し無防備になれるのは麦わら海賊団の誰かが居るときで、彼らが心の核なのだろう。

当然と言えば、当然だ。
何しろ麦わらの一味と言えば仲間を大切にし、第一に考える。
長い付き合いの中対立だってあったろうが、自分よりは仲間を取る部分だけは個性豊かな麦わら海賊団の船員でも共通する事項だった。

まだ彼らがルーキーと呼ばれる時分、ニコ・ロビンは政府に捉えられたことがある。
世界中に『麦わらのルフィ』の名が知れ渡る切欠になった大事件だ。
たった一人の仲間を救うために、生きて帰れない確率が高いエニエス・ロビーに彼らは全員で乗り込んだ。
海兵たちの前で世界政府の象徴を打ち抜き、堂々と彼女を救い出した。

彼らは生きる伝説だ。
無理だと言われたことを現実にし、尚且つそれぞれが我侭に自分の望む道を歩いている。
一人として欠けることなく、自分という軸の上に立った彼らは、麦わらの一味との誇りを胸に抱いて立っていた。

そしてある意味、『麦わら海賊団』に一番執着しているのが、ニコ・ロビンその人だろう。


「・・・そろそろかしら?」
「そうですね、そろそろです」


今回、ニコ・ロビンは一人で属船の船に乗り込んでいた。
考古学の教えを乞うた自分の要望に彼女と、彼女の船長が応えてくれた形だが、幾度目かになる遣り取りでもやはりニコ・ロビンの心は解せなかったらしい。
日中だけと言う約束で甲板で教材を広げて授業をしてもらい知識を譲り受けたのだが、お茶やお菓子を出しても礼は言われても何一つ口にしてもらえなかった。
もう一年近い付き合いになるのに、微塵も緩まない警戒心が彼女の生きてきた人生を窺わせ、気づかれないようそっと息を吐き出す。


「ごめんなさいね」
「え?」
「いつも美味しそうなお茶やお菓子を用意してもらっているのに残してばかりで」


船の縁に腕を凭れさせて地平線の彼方を見ていた彼女は、振り返りもせずに告げた。
ため息が聞こえたのだろうかと泡を食っていると、ふふっと彼女独特の笑い声が聞こえる。
思わず顔を赤らめて小さくなると、もう一度謝られた。


「本当に癖なの。今は何があっても大丈夫って知っているのだけれど、駄目ね」
「い、いえ・・・」
「感謝しているのは本当よ。だから、ありがとう。あなたたちの知識を増やす手伝いが出来るなら光栄だわ」
「そんな!こちらこそ、高名なニコ・ロビンさんに直接教えを請う機会を得れるなんて、あなただけじゃなくあなたのお仲間にも感謝いたします」
「ふふふ、ありがとう。ルフィたちにもお礼は伝えておくわ。───そうね、そのお菓子お土産にしてもいいかしら?」
「お土産、ですか?」
「ええ。うちの船長が出されるお菓子の話をすると、いつも羨ましいって言うものだから。彼に持っていってあげたいの」


つい先ほどまでとはまるで違う、子供みたいな無邪気な笑みを浮かべた人に、思わず苦笑した。
いつだって笑っている印象のニコ・ロビンだが、この笑顔を彼女に浮かべさせられる人間はごく僅かだ。
悔しいけれど自分じゃ無理で、なのにこの笑顔が一番綺麗だと裏表なく思えた。
だから。


「なら、用意させて頂きます。うちの船自慢のお菓子なんですよ」


彼女の遥か後ろに見える船の姿に目を細め、船首に胡坐を掻いているだろう彼を脳裏に浮かべる。
太陽みたいに明るい海賊王だからこそ、彼女の暗い闇すら照らすのだろう。
男としてそれはとても悔しいけれど、笑顔が綺麗なこの人を好きになったのだから仕方ない。


「ルフィがきっと喜ぶわ」


自分こそ余程嬉しそうな顔をしていると教えてあげたかったが、それは言わぬが花だろう。

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