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■桂&神楽


 目の前で炸裂した爆弾に、目を細める。この球体には見覚えがある。何だろうと首を傾げれば、背後に新たな気配が生まれた。
 何もないところから突然出現したように感じるそれに、ここまで見事に気配を隠し切る相手は久しぶりだと、そう思う。

「・・・また子」
「何スか」
「お前、晋助の方に行ったほうがいいアル」
「ああん?今日の作戦は武市先輩が立てたものっス。勝手に位置換えは出来ないっス。ロリコンの変態だけど、アイツはあれでいて策謀だけは上手いっス」
「──判ってるアル。でも、相手が悪かったネ。異分子が入り込んだみたいアル」
「・・・・・・」

 神楽の青い目が深くなる。その目を見てまた子は舌打した。夜兎族というだけあって、神楽の戦闘センスはぴか一だ。
経験は自分とそれほど変わらないだろうと思うが、勘という点では遙かに勝る。それを自覚しているから、躊躇を捨てて踵を返した。

「晋助様に怒られたら、全部お前の所為っスからね!卵かけご飯が食えなくなると思えよ!」

 捨て台詞と思しきモノを吐き去っていくまた子を見送ると、神楽は改めて傘を差しなおした。そして、暗くなっている場所に目を凝らす。神楽の考えが当たっているなら、そこに居るのは旧知の人物であるはずだった。

「──さっさと出てくるヨロシ、ヅラ」
「ヅラじゃない。桂だ」

いつもの決め台詞を静かに放った相手は、ゆっくりと姿を現した。今日は、普段潜伏しているときの僧の姿ではない。傍らにいるエリザベスは、『・・・・・・』と書かれた看板を持って立っていた。

「沈黙まで書くなんて、エリー馬鹿ネ」
「エリザベスを馬鹿にするなァァァ!これでも、エリザベスは一生懸命なんだぞ!」
「ハイハイー。わかったヨー」

 肩を竦める神楽は、ニヤリと笑みを浮かべた。

「お前らだけアルか?他の攘夷志士はどうしたアルか」
「邪魔になるので置いてきた。リーダー、止まる気はないのか?」
「男はドイツもコイツもオランダも。皆おんなじ事を言うアル」
「オランダは言わないだろう」
「──・・・私はもう、止まれないネ」

 音を立てて、弾を装てんする。狙いを定めるのに迷いはなく後は引き金を引くだけだ。その状態のままぶれることなく無造作に桂に傘を向けた。

『・・・桂さん・・・』
「ああ・・・、判っている」

 桂が呟くと同時に、エリザベスが炸裂弾を地面にたたきつけた。衝撃が走る。
 てっきり桂が先に動くと思っていた神楽は対応が数瞬遅れ、定めていた銃口を逸らし思わず傘で顔を庇う。そして間近に生まれた気配に目を見張った。

「ちっ」

 舌打をし、傘を投げる。煙も収まらぬままで、それでも寸分違わぬ方向に狂いなく飛んでいった傘は、金属音の後、弾かれた。

「・・・さすがネ」

 本気で感心して、声が漏れた。これが、銀時の仲間の実力。一撃でしとめれなかったなど、久しぶりだ。自分に向かい突進してくる桂を見て、神楽は目を細めた。
 獲物を狙う肉食獣のような表情を一瞬だけ浮かべ、身を低くする。

「!?」

 一瞬だった。桂が瞬きをするより早く、彼の胸の下に潜り込む。そしてそのまま、もてる限りの力で蹴りを放った。

「っ」

 声は上がらなかった。狙い定めたはずの神楽の蹴りを顔面すれすれで避けた桂は、真剣をそのまま神楽の肩に突き刺した。銀時と違い迷いのない刀は神楽の肩を貫通する。

「・・・・・・」

 地面に串刺しにされ、圧倒的な不利の状況でそれでも神楽は楽しげに笑った。無邪気な、まるで遊びの最中に子供が見せるような笑顔に桂の眉が顰められる。

「ヅラ。お前、凄いアル。私にここまで攻め込めた相手、久しぶりヨ」
「そうか」

 ポーカーフェイスを崩した神楽とは違い、依然表情を変えぬまま桂は返事をした。淡々とした口調は神楽の誉め言葉に微塵も反応を返さない。親しい相手を刺した動揺も感じられず、やはりさすがだと感心する。普段どれだけアホに見えようと、やはり彼は百戦錬磨の侍であるのだ。

「誉めてやるアル!お前、本気で強いアル」

 肩を串刺しにされているのに、痛みを感じさせぬ顔で神楽は平然と話す。どくどくと流れる血は地面を汚し土の色を変えていった。暫しその様子を観察していたエリザベスが近づいて、持っていた縄を桂に手渡す。両手で刀を押し込んでいた桂は、片方の手をエリザベスに向けた。
 その瞬間、目を細めた神楽は今度こそ思い切り桂を蹴り上げた。刀を押さえていた桂の手がぶれ鈍痛が体を巡る。だがそれは気にする要素に含まれない。
 エリザベスを巻き込み吹っ飛んだ桂を見て、神楽は肩に刺さっていた刀身を握って刀を一気に抜き取った。押し込まれた刀身が先ほどまでは失血の役割を果たしていたが、それが抜かれることで噴水のように血が溢れる。躊躇なく刀身を握ったお陰で掌まで赤く染った。体を起こしながら流れた血を舐めれば、鉄錆びのような味に不味いと眉をしかめる。ゆっくりと立ち上がると、身を起こそうともがく二人を眺めた。

「──お前、強いけど甘いネ。あそこで止めたら、ダメアル。忘れたカ?私は夜兎ヨ?こんな傷、刀さえ抜けばすぐに治るネ」

神楽の言葉通り、肩から溢れる鮮血はどんどんと量が少なくなる。鼓動と連動するように響く痛みも傷と同様に収まり始めた。
 歴戦の戦士と言えども純血の夜兎の蹴りを受けたのは衝撃が大きすぎたらしい。吹っ飛ばされた体勢を立て直すことすら出来ずにもがく二人を横目に、落ちていた傘を拾うと手が届くほどの間近まで近寄りしゃがみ込んだ。

「・・・晋助の方に皆を行かせたアルか?」
「・・・・・・」
「沈黙は雄弁ヨ。お前、馬鹿ネ。お前の仲間、きっとほとんど死んでるヨ」
「・・・それは、どうかな」
「・・・?」
「今回は、銀時も一緒に来ている」

 その言葉に、神楽は納得した。確かに、銀時なら晋助を止めているかもしれない。

「そうアルか。なら、私も晋助の方に行かなきゃダメアルな」
「・・・今更行っても遅い。高杉は、手を出してはいけないものにまで手を伸ばした。銀時が高杉を許すことはない」
「・・・・・・」
「リーダー。あんまり待たせると、銀時がぐれるぞ」
「・・・大丈夫ヨ。銀ちゃんがぐれそうになったら、皆が止めるアル」
「暴れん坊将軍になってしまうかもしれない」
「将軍?銀ちゃんが将軍アルか・・・。それも楽しいかもしれないアルな」

 寝転んだまま行動を起こさぬ桂を見て、そして神楽は立ち上がった。興味を失ったとばかりに何の未練も持たずに背を向け、爆音の響く方向へ向かう。

「──リーダー」
「何アルか?」
「お前は、幸せか?」
「・・・・・・」

 深い声で問う桂の問いかけに答えることなく、神楽はその場を後にした。 

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 後ろからにじり寄る気配に、神楽はため息を吐いた。慣れ親しんだ気配。
 満天の星空の下、いつもの公園のベンチに傘を差さずに腰掛けていた神楽は、背後に向かって声をかけた。

「・・・来ちゃったアルか、定春」
「ワンっ」

 白く、大きなケモノは嬉しそうに尻尾を振りながら神楽の横に腰掛けた。
 ベンチに座っているわけではないが、その体格差ゆえに定春の視線は神楽より大分上にある。それでも、精一杯腕を伸ばして、神楽は定春の顔を撫でた。

「元気にしてたアルか?」
「ワンっ」
「餌、ちゃんと貰ってるカ?」
「ワンっ」
「銀ちゃんたち、ちゃんと定春の散歩に行ってるカ?」
「ワンっ」

神楽の一言一言に、律義に返事を返す定春に、ポーカーフェイスを崩した神楽は優しい苦笑を浮かべた。

「苛められてないカ?」
「ワンっ」
「ま、苛められたら、そいつの頭を噛み砕くヨロシ。お前を苛めるような奴、ロクな大人じゃないネ」
「ワンっ」

 そして、しばらく沈黙する。ハッハッという息遣いだけが、夜の公園に響いた。
 寒い冬の夜。星空はくっきりと見えるが、こんな中公園に来るのは余程の星好きか酔っ払いくらいのものだろう。誰も見ていないのを確信し、心行くまで定春の毛を撫でると神楽は唐突にベンチから立ち上がった。

「私、もう行くアル」

 そして、そのまま歩き出す。その少し後を、当然のように定春も付いて歩いた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 神楽が止まれば定春も止まる。愛用の傘を片手に、神楽は振り返った。真っ黒な目で、真っ直ぐに神楽を見つめる定春の鼻の辺りを撫でてやる。心地よかったのか、定春は目を細めて尻尾を振った。

「私についてきちゃダメよ、定春」
「・・・・・・」
「私が行くところ、赤い色が一杯ネ」
「・・・・・・」
「お前の、綺麗な白が汚れちゃうアル。それは、私も悲しいアル。だから、お前は銀ちゃんたちの傍に居なきゃダメなのヨ」
「キューン・・・」
「そんな声出してもダメネ。赤い定春なんて、私ヤーヨ」
「・・・・・・・」
「だから、お前は置いていくアル。銀ちゃんの傍なら、お前はずっと白いままネ」
「・・・キュン」

 鼻を鳴らした定春に、神楽は小さくキスを落とした。そして、ポンポンと撫でると踵を返す。今度は、定春もついていかない。賢いケモノは振り返らぬ主に向かい尻尾を振り続ける。

「ヒューン、キューン」

 哀しい声で、白いケモノは空に啼く。月の出ていない空は、定春の声を何処までも吸い込んだ。
 見えなくなっていく主に悲しい目をした定春は、パタリと、最後にもう一度尾を振った。 

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■近藤&神楽

「くくっ・・・来いよ」
「高杉・・・もう、逃げられんぞ」
「威勢だけはいいなぁ」

 ゆるりと唇を持ち上げた晋助に、近藤は目を眇めた。
 晋助の周りは、土方や沖田を中心とした近藤の最も信頼する部下たちが囲んで一部の隙もなく刀を構えている。一歩でも動けば躊躇なく攻撃を開始する。突きつけた刀に迷いは微塵もない。だが、圧倒的不利な状況でも晋助の余裕は崩れない。ニヤニヤと薄ら笑いをし、刀を片手にこの状況を楽しんでいた。

「・・・何、笑ってやがる」
 
状況を楽しむように哂う晋助に向け、歯をむき出しにして近藤は笑った。
 その壮絶な笑みは、普段はお惚けている彼からは想像もつかないもの。真選組の局長を務める男に相応しい笑い方。

「いい面するじゃねぇか」
「そりゃ、ありがとうよ」

 近藤は怒っていた。晋助が、彼の一番大事なものに手を出したことに。そして、彼女を最も効果的に傷つけたことに。
 先日の晋助と神楽の襲撃の後、お妙は元気がない。普段通りに振舞おうとする姿は痛々しいままだ。
 晋助の行動は、お妙から笑顔を奪った。過激派の攘夷志士でなかったとしても、それだけで近藤にとって目の前の男は許しがたい存在だ。

「お前も年貢の納め時だ。しょっぴいてやるから覚悟しろ。なに、腕の一本や二本なくなっても構わねぇ。病院に運んでやるよ」
「・・・随分と大きく出たな」
「その実力があるからな」

 多勢に無勢かもしれない。しかし捕り物に卑怯も糞もなく優先されるべきは目の前の男を確保だ。
 油断なく刀を構えていた近藤は、次の瞬間の晋助の行動に少なからず驚いた。晋助は持っていた獲物を鞘に収めたのだ。

「・・・降伏する気か」

 刀を下ろす事無く聞いてみる。
 だがその問に、晋助は心底愉快な冗談を聞いたとばかりに面白そうに笑った。ゆったりとした動きで着物の中に手を入れるとキセルを取り出す。

「いや?ただ、オレの最大の武器がコレじゃないだけだ」
「・・・?」

 余裕たっぷりに告げられたその言葉に首をかしげた瞬間。激しい音と共に、部下の一人が吹っ飛んだ。

「山崎!?」

 監察と言う任務上山崎はそれほど刀の上手ではない。だが、それでもこの場に同行を許す程度には強かったはずだ。驚いている間にも、一人また一人と弾き飛ばされ着実に人数は減っていった。
 あっという間に、近藤と土方、沖田以外の隊員は地に這い蹲る羽目になり、あまりにもあまりな展開に渋い表情になる。先ほどまでの有利は瞬きする間に覆され、それを成し遂げた桃色の髪の少女は、無感動に声を発した。

「ココに居たアルか、晋助。何時まで遊んでいるつもりネ?お前の所為で、また子に夕飯を取り上げられたダロ。さっさと帰って卵かけご飯を食うアル」
「・・・何だよ、じゃじゃ馬。たまには素直に心配したとかって言えないのか?」
「ハァ?心配?誰の心配をしろって言うアルカ?お前なんか殺しても死なないダロ。むしろ、自分を刺した刀をアクセサリーにしちまうネ」
「はっ。それもまた良いな」

 信じられないことに慈しむようにも見える優しげな仕草で神楽の頭を撫でた晋助は、驚きの表情で自分達を見る近藤に視線をやった。

「何驚いてるんだ?お前、この間もコイツを見ただろ?」
「・・・・・・チャイナ」
「何ネ?またこいつらカヨ?他に遊び相手がいないアルカ?」
「こいつらの方からオレを追いかけて来るんだよ」
「ホモ?こいつら、ホモ?やっベー。変なモン見せられる前に帰るに越した事はないアル」
「・・・・・・」

 脱力するようなやり取りを始めた神楽に、じりっと一歩踏み出したのはやはりと言うべきか、沖田だった。爛々と輝く瞳孔の開いた目に、神楽だけを映しにいっと性質の良くない笑みを浮かべる。

「よう、チャイナ。また会ったな」
「・・・うわ、最悪。また手前カヨ、クソガキ」
「へっ。嫌よ嫌よも好きの内。お前だってホントは嬉しいんだろ?」
「真人間の私は正直な気持ちしか口にしないアル。したがって本当にお前と会うのはいやアル」
「つれない事を言いなさんな。オレはお前と会えて、嬉しい限りですぜ?」

 言葉と同時に、沖田は抜く手も見せぬ早業で抜刀した。先日と同様に容赦のない剣技は、神楽を殺す事に躊躇いはない。

「総悟!」
「何でぇ、土方さん。オレを止める気ですかィ?相手は、高杉に組するウサギですぜ?」

 嘲るように言った沖田を止めたのは、声を張り上げた土方ではなかった。

「・・・・・・やめろ、総悟」
「・・・・・・」

 静かな、それでいて何処か抗いがたい声で近藤は命じた。近藤の一言に、躊躇いなく振るわれていた沖田の腕が止まる。
だがその瞳孔は開いたままで、戦闘モードは解除されていない。滾る殺気を抑えずに、ゆっくりと近藤を振り返った。しかし訴えるように無言で見詰める沖田を無視し、柔らかな眼差しを神楽に向ける。

「戻ってくる気はないか、チャイナさん。アンタがいないとお妙さんが寂しがる」
「・・・・・・」

 その言葉に、神楽は一瞬目を伏せた。

「私には私の正義があるネ。それを成さない限り戻る事は出来ないアル」

 そして、寂しげに苦笑する。それは諦観を含んだ幼い容姿に合わない微笑。

「最も、それを成し遂げたら、今度は別の意味で会うことは出来なくなるけどナ」
「見逃すのは一回だけだ。次は、お妙さんが泣こうとどうしようとお前をしょっ引く」
「・・・出切るならやってみろヨ」
「ああ。泣いて謝るまで、ケツを叩いてやるから覚悟しとけ」

その一言に、神楽はふっと笑った。万事屋にいた頃は良く見た、優しい、懐かしい笑顔で。

「・・・お前、結構いい男ヨ。パピーには適わないケドナ」
「そりゃ、ありがとうよ」
「じゃあ、な」

 背を向ける彼女に、躊躇いはない。片目の隣に立ち歩く姿に、見慣れたくはないなと近藤は思った。
 

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■銀時→神楽


「銀ちゃん、ゴメンアル」
「神楽っ」

 必死に伸ばしたては、どうしても届かない。
 汗まみれになりながら、それでももっとと腕を伸ばした。
 あと少し。
 あと少し。
 手が、触れる寸前。

「──残念だったな、銀時」
「高杉!?」
「おい、行くぜじゃじゃ馬」
「黙るヨ、片目」

 少女が取ったのは。
 自分ではない男の右手。





「うわっ」
「わっ。どうしたアルカ、銀ちゃん」

 目を覚ますと、そこはいつもの公園のベンチ。横になっていた自分を覗き込むように眺めていた神楽は、目を丸くして銀時を見た。夢見の悪さで乱れる息を深呼吸を繰り返し何とか落ち着かせようと試みる。

「大丈夫、銀ちゃん?」

 優しい掌が、汗で濡れた額を宥めるように撫でた。銀時と比べ随分と小さく白いその感触は本物で。

「・・・夢か」

 やけにリアルな悪夢の果ての現実に、銀時はホッと胸を撫で下ろした。
 汗だくの銀時を見た神楽が、不思議そうに首を傾げる。

「何か嫌な夢でも見たアルか?」
「ああ・・・」
「じゃあ、私に話すヨロシ。悪夢は人に話せば本当にならないってマミーが言ってたネ。他人の夢の内容聞くなんてウゼェけど、銀ちゃんのは特別に聞いてやるヨ」
「・・・そりゃ、ありがたいこって」
「さあ、言ってみるヨロシ」

 ニコニコとする少女の頭を撫でる。かさついた掌に感じるその感触は現実で、手が届くのも本当で、それだけで酷く安堵する自分が、滑稽だった。
 先ほど見た夢の衝撃は収まりつつあるが未だに鼓動はバクバクと五月蝿い。どうしようかと少しだけ迷い、結局ゆっくりと口を開く。

「お前が・・・」
「私が?」
「・・・・・・いや。やっぱいい。所詮は夢だからな。銀さんの夢はあたらねぇって有名なんだよ」
「ふーん。有名なのカ」
「そっ、有名なの。だから、神楽が心配する事ねぇよ」
「そっか。なら、私はもう帰るアル」
「帰る?帰るって何処へ」

 愚問だ。
 神楽が帰る場所など、この星では一つしかない。──一つしかなかったはずだ。
 嫌になるくらいにバクバクと響く心音に眉根を寄せる。脈打つ鼓動は鼓膜を打ち、脳髄にまで木霊した。

「──晋助たちの所ネ」

 そこで銀時は初めて気づく。立ち上がった神楽の服はいつもの赤ではなく。闇に溶け込むような混じり気ない闇を紡いだ漆黒。
 あれは、夢だったはずだ。でなければ、神楽が自分の傍にいるわけなどない。自分の手が、神楽に届かないなんてない。荒くなる呼吸を宥めつつ、震える腕をゆっくりと伸ばす。
 抵抗する事無くその掌を受け止めた神楽は、心地よさそうに目を細めた。
安堵で脱力した銀時の顔を眺め、そして、寂しそうに微笑む。

「銀ちゃんの傍は、居心地が良すぎるネ。離れたくないって思っちゃうヨ」
「──・・・離れる必要なんて、ねぇじゃねぇか」
「あるヨ。私は、どうしてもしなきゃいけないことがあるネ。銀ちゃんの傍に居たら、私はそれが出来ないアル」
「っ。敵討ちなんて、誰も望んじゃいねぇだろ!?」

 溢れた言葉の意味に気づき、思わず両手で口元を覆った。
 夢だ。あれは、夢だったはず。なのに。

「──望んでいるヨ」

 悲しい目をした神楽は、トレードマークの番傘を差す。器用に片手で柄を掴み、くるりくるりと回転させた。そしてそのまま体を強張らせ、無言でいる銀時からゆっくりと距離を置く。
 桜色の唇がゆっくりと持ち上げられ、今から聞かされるであろう言葉を拒否できたならと痛切に願う。だが祈りは届かず無常にも銀時の耳に神楽の声は響いた。

「他の誰でもなく、私自身が」

 標準語で吐き出された言葉は、すとんと心に落る。一切の感情を削ぎ落とした少女は、銀時の知る神楽からかけ離れていた。いつでも精力的に瞳を好奇心で輝かせた、少し生意気で意地っ張りで、けれどこの上なく可愛がっていた神楽とは。
 囁かれた言葉は飾っていないだけに神楽の気持ちをストレートに知らせる。昏い瞳は少女の絶望を余すことなく伝えた。

「アバヨ、銀ちゃん。こんな所で無防備に眠っていると、晋助に刺されるアルよ」

 腕が重い。拒否される事が怖くて、腕が伸ばせないなんて、どこの思春期の男だと。
 遠ざかる姿を見つめ、一人呟いた。
 

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■総悟→神楽


「っ!?」

 いきなりの攻撃に、神楽は宙でトンボを切った。
 人一人辛うじて通れる程度の狭い路地。草木も眠る丑三つ時に裏通りと呼ばれるこの道は、人気など皆無に等しい。だからこそ、驚いた。

「よぅ、チャイナ」

 ちゃっと顔の前で軍人のように手を構えた沖田は、ニヤリと獲物を前に笑った。良く見知った端整な面立ちの金茶の髪の男を前に、心底嫌そうに神楽は息を吐く。

「・・・お前カヨ」

 武装警察真選組でも随一と名高い刀の使い手。
 サド王子と名高い沖田総悟は、神楽にとって天敵以外の何物でもない。

「そんな嫌そうな声をだすなよ。オレはお前に会えて嬉しいぜィ」
「私は嬉しくなんかないアル」

 げっそりとした神楽に刀を突きつけ、笑った総悟に背を向けた。だが、その瞬間、神速の突きが神楽を掠める。

「・・・チっ。はずれですかィ」
「・・・・・・」

 己の頬を伝う赤を見て、目を数度瞬かせる。自分の血など随分と久しぶりに見たような気がしてむしろ新鮮な気持ちになった。
 くるりと体の向きを変え、へらへら笑う沖田をその空を切り取ったように澄んだ青い瞳に映す。

「どういうつもりアル?」
「ん?」
「私は、指名手配も何もされていない一般の市民ヨ。何いきなり刀突きつけてきてんだコラァ」
「何言ってやがる。高杉が兎を飼ってるなんて、今じゃ知らない人間を探す方が難しいくらいだ。兎を見つけたらすぐに始末する。これぞ、平和への架け橋なんでさぁ」
「片っ端から殺すアルか。カブトムシの時もそうだったけど、お前一見頭よさそうで馬鹿アルな」
「へっ。そう、誉めないでくれよ」
「誉めてないアル。──今日は、真選組は晋助たちを追ってるんじゃなかったのカ?」
「ああ・・・あの、陽動作戦ですかィ?オレは態々出かける気もなかったんでここでサボってたんでさぁ。そしたら、間抜けな兎がひょこひょこ迷い込んできたって寸法よ」
「・・・うわ、コイツ私のストーカーかヨ。最悪アル。真選組はストーカーの巣窟ネ」
「いやいや。ストーカーは近藤さんだけだィ。オレはさしずめ名探偵シャーロック・ホームズと言ったところだ」
「図々しいアル、このクソガキ。こんだけストーカーするってことは、コイツ絶対私の事好きアル。マジ、ウゼェ」
「そう言うなよ。折角お前を待ってたんだ。ちょっと位、相手をしてくれてもいいじゃねェか」

 刀を一閃させながら告げる沖田は機嫌が良さそうだ。その常にない爽やかな笑顔に神楽の機嫌は下降の一途を辿っていく。
 体に当たるすれすれを見切り、避けながら。

「これだから、ガキの相手は嫌ヨ。しつこい男は嫌われるアル」

 肩を竦め、大げさなジェスチャーをしてみせた。真剣でのやり取りの中、随分な余裕と取れる態度に沖田の眉がすいっと上がる。

「大体、私を斬ったらお前が牢獄行きヨ。──私には、罪科が何もないのヨ」

 神楽の言っていることは本当だ。手を下したであろうと想像できても、証拠を残すようなへまはしない。宇宙最強の戦闘種族の名は伊達じゃない。
 だが、そんな神楽を見て、壮絶な笑みを沖田は浮かべた。

「そんなこと、オレには関係ありませんや」
「はぁ?」
「オレは斬りたい奴を斬る。・・・お前が誰かに取られる前に、オレがその首貰ってやるよ」

 真剣な目に、少し驚いた。
 浮かぶのは、混じり気ない狂気のみの執着。繰り返される斬撃を交わしつつ、神楽は深くため息をついた。

「・・・やっぱり、お前はストーカーヨ」

 言い捨てると、それまでぶらりと無造作に持っているだけだった傘を一閃させた。ただの一振り。それだけで、沖田は簡単に吹っ飛んだ。
 避けきれる訳はないのだ。天賦の才を持っているとはいえ所詮沖田は人間でしかない。戦うために存在する夜兎である自分とは、身体能力どころか筋肉を校正する組織からして、全くの別物なのだから。どれほど見た目が似ていても、神楽と沖田は全く別の生き物だ。
 血反吐を吐き、片足を付いた沖田を見て神楽は笑った。

「私の首は、お前なんかにはやらないネ。お前は、変なことに使いそうだから嫌アル」
「・・・チっ。折角土方さんへの呪いのアイテムにしてやろうって言ってんのに」
「マヨラーへの呪いのアイテムなんて最悪ネ。やっぱり、お前は疫病神ヨ」

 言い捨てると、躊躇も未練なく背を向けた。無防備な背中を晒す嘲りともつかぬ態度を取った神楽のその背に向け、持っていた刀を思い切りぶん投げる。これは卑怯な手立てではない。油断する方が悪いのだ。

「・・・・・・刀は、武士の魂なんダロ」

 だが全力の力で持って投げられた刀は、ひょいと柄を捕まれ勢いを失くす。
 返すアル。
 無造作な言葉とともに投げ返されたそれは、沖田の足を地面へと縫い付けた。土をチーズかと思わせるくらいに呆気なく深々と刺さったそれに、さすがの沖田も苦悶の呻きを上げる。

「ぐァっ」

 思わず声を出した沖田に、興ざめだとばかりに神楽は視線を送った。

「精々そこで横になってるといいネ。すぐにお仲間が迎えに来るヨ。──生きてたら、の話だけどな」

 じゃあな、と言い捨てた神楽は、今度こそ振り返ることをしなかった。
 

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