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市丸ギンという男は、存外に学校行事を大事にする人間である。
彼はルキアと恋次をスカウトした際にもそうはっきりと告げたし、働き始めてからもそのスタンスを崩していない。
理由は彼自身が俳優として過ごした時間にそれらを経験できなかったからと言っていたが、冗談交じりのその言葉が本心であるとルキアも恋次も気づいていた。
だから彼らは参加できる限り行事には参加してきたし、これからも活動を続ける上で学業をおろそかにするつもりはない。
だがそれにおいての弊害は年々増えてはいたが。



「ルキア、お前は何やるつもりだ?」

態々自分の席の前に腰掛けた恋次を見て、ルキアは肩を竦めた。
今は学校の文化祭で何をするか決めている最中だが、ルキアと恋次は特に何がしたいという意見もなく、ざわざわとする生徒達を二人でじっと見物していた。
彼らの周りに近寄る人はなく、それに彼ら自身も慣れていた。
ルキアと恋次が通う学校には音楽科の他に普通科と芸能科があり、芸能人である二人だが選択しているのは音楽科だ。
それは彼らが目指すべき目標がそこにあるからで、その為の技術を学ぶための選択であった。
出席日数が足りない分は補習と補講、さらには増えた課題で何とかつじつまを合わせている現状だが、それは決して楽ではない。
恋次とルキアは子供の頃から実力主義の音楽科のSクラスに在籍し技術面ではトップクラスを維持してきたし、これからもその為の努力は惜しまない所存だ。
ドラマの撮りもあるので睡眠時間も相当削られているが、二人が文句を言うことは一度もなかった。
だが学校でも特別視される彼らは憧れの目で見られる場合が多く、ルキアはもとよりドラマとは違い恋次にもそれほど親しい友人はいなかった。
互いに依存しすぎているのはわかっているが、二人でいる時間が多かった彼らはそれをどうしようとも思わない。
だから当然文化祭で何をしたいかと言う相談は互いにしか出来ず、彼らの周りはそれを見ているだけのはずだった───いつもなら。

数人のクラスメートがそんな二人の空間に足を踏み入れたのに先に気づいたのは、恋次が先だった。
ちらり、とあげられた無感情な視線につられルキアも視線を向ける。
もじもじとお互いに体を突付きあう男子生徒と女子生徒。
顔を知っているようないないような、名前も思い出せない彼らは、しかしながらルキアと恋次を知っているようだった。
面倒そうな予感がする。
ひっそりと眉根を寄せ、仲のいい兄妹は肩を竦めあった。

「あの・・・朽木さん、阿散井君。俺たちと一緒に、文化祭でバンドしませんか!!」

やはり降ってわいたのは面倒ごとか、と恋次がうんざりとため息を吐き、ルキアは無言で彼を諌めた。

拍手[6回]

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歌番組のゲストとして登場した彼に、ルキアは紫紺色の瞳を僅かに見開く。
ルキアをセンターにし両隣は恋次と弓親で固めていたが、司会者の案内により恋次が退いた。
テレビに出ている最中なのでその表情は僅かに引きつるだけであったが、こめかみに青筋が浮いている。
彼の背後からおどろおどろしい空気が垂れ流されているのに対し、白哉は涼やかでクールな表情を崩さない。
恋次の豹変に気づいた一角が慌てて他の面々の死角から彼を窘めるのが見えたが、あまり効果はなさそうだった。

今回のルキアたちの仕事はバンドとしての正統派の仕事であるが、同時に今話題のドラマの二期の番宣でもあった。
尸魂界篇と銘打たれたそれは、現世のものと一風雰囲気を変えている。
今回のメインは『ルキア』の過去が主軸になり、その彼女の義兄を演じるからこそ『白哉』は呼ばれたのだろう。
彼の名声はモデルとしても名高く、話題性もあるから。

そして理由はもう一つあるだろう。

白哉の登場に俄然張り切る司会者は、マイクを彼に向ける。


「今回のゲスト、『白哉』さんもドラマに出演されていますよね。先週の初出演の際は視聴率が凄かったと伺いましたが」
「ありがたい限りですね。まだ始まったばかりですし、この視聴率を維持出来れば私も『白哉』も喜ばしく思います」
「白哉さんは普段はモデルの仕事と茶道の家元と二束のわらじを履いている状態ですが、普段はどのようにお過ごしですか?」
「普段はモデルの仕事がない限りは家で茶道を嗜んでおります。今はそれにドラマの仕事が入っている状態ですね」
「今までテレビに出演されることはほとんどなく、雑誌での活躍がメインと伺いました。テレビ出演そのものを断っているという噂もありましたがどうなんですか?」
「ええ、そうですね。私は幼馴染たちと違い、それほど社交的とは言えませんので」
「『幼馴染』?」
「はい」

淡々とした様子で言葉を躱す白哉をぼうっと見ていたが、その発言を耳にし目を見開く。
視線だけで恋次を見れば、同じように驚愕の表情を表している。
慌ててカメラの後ろに居るはずのギンを見れば、ひょいと肩を竦めて見せた。

「ドラマで幼馴染の役を演じる『朽木ルキア』と『阿散井恋次』。彼らが兄妹であるのはご存知の方も多いと思います。ですが、私が彼らの『幼馴染』であるのは意外と知られていない事実みたいですね」

白哉の言葉に水を打ったように周りは静かになり、一拍置いて奇声とも歓声ともつかぬ声がスタジオを満たす。
それは純粋な驚きだったろう。
ルキアも白哉も苗字は公開しているが、血縁関係であることを知る者は極僅かだ。
確か、白哉側の事務所が公開を留めていると聞いたのだが。
ギンの傍に居る白哉のマネージャーを見れば、蒼白を通り過ぎ土気色の顔色をしていた。
哀れな様子に憐憫が沸くが、もう仕方ないと諦めて欲しい。

「あんた、どういうつもりだ」

小声で恋次が唸るように問うが、白哉は何食わぬ顔で言葉を続けた。

「気にすることはないだろう、『義兄さん』?」

にんまりと。
白哉らしからぬ挑発的な笑みに、ルキアは恋次の決して長くない堪忍袋の緒が切れる音をしかと聞いた。

「だから、俺はテメェの『義兄』になった記憶はねぇよ!!」

唾を飛び散らせながら怒鳴りつける恋次に、白哉の機嫌が益々上がったのを感じ、ルキアは仕方ないと一つため息を吐く。
この年上の幼馴染が、実は恋次を結構気に入っているのを本人は理解していない。
白哉の立場上彼に対等に話しかける人間は一握りしかおらず、またルキアのことがあるとはいえ怒鳴りつけるなど彼の両親ですらしない諸行をあっさりと恋次は行う。
確かにルキアを構いたいのも白哉の本心だろうが、恋次でストレス発散している節があるのもルキアはきっちり気づいていた。

「───白哉様。お戯れもほどほどになさってください」
「いいだろう、ルキア。俺に正面から挑むのは、最早あやつくらいなのだから」

ふわり、と。
マイクの集音出来る音量よりも僅かに小さな声で、白哉は囁く。
その言葉の意味を誰より理解できてしまうから、ルキアも苦笑するに留めた。
白哉は恋次が思うより恋次を気に入っている。
その表現はかなり歪んではいるけれど。

「聞いてんのか、コルァ」

不良も真っ青な巻き舌で応じた恋次に、ルキアの肩を抱いた白哉は輝かしい笑顔で返事をした。

「ああ、すまない。今は私が『義兄』だったな」
「人の『義妹』に手ぇ出すな!誰がお前を『義兄』と認めるか!!」

顔を真っ赤にして怒鳴る恋次を見て、きっとブラウン管の前に座っている人間は気づいたことだろう。
彼が、途方もないシスコンであることに。
ははははと空笑いをしたルキアの肩を、弓親がぽんと叩く。

「大丈夫。僕が後で締めてやるから」

輝かしい笑顔を浮かべた彼の米神には、恋次も真っ青の青筋が浮いていた。

拍手[7回]

朽木の当主からの直々の勅命を漸くこなし、数日ぶりに帰還した家で恋次はおかしな光景を見た。

「・・・何やってんだ、お前」

そこに居たのは不貞腐れた飼い猫のように尻尾を膨らませびたんびたんと床に叩きつける豹系の魔獣。
ヴーヴーと不機嫌に喉を鳴らす様子から、誇り高き魔獣のプライドは見受けられずひっそりと眉根を寄せた。
そもそも彼が不機嫌にいる場所が場所だ。
何ゆえルキアの部屋の前で扉に向かい不機嫌に唸っているのか。

不機嫌な声を出し続ける一護の脇に手を差し込むと、ひょいと体を抱き上げる。
だらんと伸びた体は意外と長く、恋次の視線の高さに持ち上げても尻尾は床を叩いていた。
悔しげに眉を顰めた一護からはそれでも抵抗はない。普段ならとっくに噛まれてるだろうにと首を傾げながらドアノブに手を掛けると。

「っ!?いてぇ!!」

手が触れたと思った瞬間、ばちり、と弾かれた。
電流が走ったような衝撃に掌を見ると、軽く火傷が出来ている。
恋次は訝しげに眉を顰めた。
彼が回復の魔法を会得できないと理解しつつ、ルキアがこんな攻撃的な術を張るだろうか。
意識を切り替えて見てみると、ルキアの部屋を囲むように精巧な結界が出来ていて、対象者には容赦なく電撃を流す仕組み。
静電気をもっと強力にしたものだと考えればいい。

「・・・お前、何したんだ」

眉間に皺を刻み、腕の中で猫化している魔獣を睨む。

「ヴにャぁ」

不細工な声でないた一護に、恋次は気づいた。気づいてしまった。
彼は好きで魔獣の姿でいるのではないことに。
意識を切り替えてみれば幾重にも巻かれる呪縛の力。
魔力を削り、言葉を奪い、動きを制限し、さらに呪縛の力を隠すそれらを器用に組み立ててある。
そんな複雑な魔法を作れる相手は、恋次は一人しか知らない。

「浦原さんか」
「おやおやぁ、気づくのが随分と遅かったっすねぇ阿散井さん。気が緩んでるんじゃないんですか?」

唐突に背後に気配が生まれ一護の毛が逆立つ。
一つため息を吐き振り返ると、私服の遠い異国の服ではなく見慣れた執事服姿の浦原が紅茶のセットを押していた。
カップの数を数えて首を傾げる。
二つ並んだ繊細なそれは、人間国宝と呼ばれるものが作り出した高級品。
ルキアが好んで使うものとは違い来客専用のものだと恋次は知っていた。

「客か?」
「はい。お嬢様の賓客であり、朽木家のもてなす相手であります」
「・・・珍しいな、ルキアが部屋に入れるなんて」

社交はこなすが人見知りが激しいルキアの自室に呼ばれるのは、彼女の兄や勤め先の上司である貴族、そして豪快な彼の契約魔獣。
例外的に動物と認知された生き物の中に、恋次の先輩の姿もあるが、次はないので除外する。
だが思い浮かべた人物の中に、結界を張らなくてはいけない相手は存在しなく、不思議そうに首を傾げると、珍しく判りやすくも嘲笑に似た表情を浮かべた。

「躾けの最中ですよ。お嬢様はどうにも甘くなりすぎる。お嬢様へのお仕置きも兼ね、現在この部屋は魔獣立ち入り禁止区域です」
「あんたも魔獣だろ」
「それ以前に私はこの家の執事ですから。お嬢様の教育係でもありますしね」
「・・・お前何したんだよ、一護」
「お嬢様の客の前で失礼な態度を取ったんですよ。───朽木家令嬢の契約魔獣として、品格が問われます。魔獣の品格は主の品格。そのくらい、少し考えれば判るでしょうに」

漸く得心がいった。
浦原はとても静かに激怒している。
恋次の気配も、一護の気配も何もかもルキアに届かぬよう、そして人には感知できぬ精巧な力を使ってしまうほどに。

はぁ、と一つため息を吐いた。
彼の怒りの理由はとても単純で簡潔。
自分の育てる最愛のお嬢様を、他人に侮らせる切欠を作ったこと。
それが最大で唯一の怒りの理由だろう。

浦原は飄々としているがああ見えてルキアにとても手をかけている。
恋次と方法は違うし許容できない部分もあるが、厳しさも含めて彼女を特別に扱った。
おかげで今やルキアはどこに出ても恥ずかしくない令嬢であるし、彼女を養子と侮る輩も随分と減ってきた。
それは朽木の当主の力であり、浦原の力だろう。

「お前が悪い、一護」
「・・・ぶにゃ」
「浦原さんが判断したなら、ルキアにとってその相手は本当に賓客だ。お前が知らぬ、他人だったとしてもな」
「ぶにー・・・」
「俺だって巻き込まれてんだ、お前は少し反省しろ」

耳を垂れたままばしばしと尻尾を振る一護は、拗ねたように瞳孔を立てに開いた。
だがわずかばかりに漂う気まずさは、彼だって本当は判っているということなのだろう。

やれやれと首を振り、その場を後にしようとしたら、不意に後ろから声を掛けられた。

「あなたも最近緩みすぎです。お嬢さまの魔獣として恥ずかしくない礼儀作法を叩き込んで差し上げますから私の執務室で待っていなさい」
「ええ!?何で・・・」
「その結界、ノックをすれば解除できるようになってます。親しき仲にも礼儀ありと理解なさい。人の姿を取っているときは、人の礼儀を守るもんです」

長い前髪の下から目を輝かせた彼が、ぱちりと指打ちしただけで恋次も本性に強制的に戻らされる。
腕がなくなり必然的に落下する事になった一護は、身を捻り器用に着地した。

「きっちりとした作法が身につくまで、お嬢さまの前に出れないと思いなさい」

もう一度指が鳴らされると、小さな結界が張り巡らせる。
力を圧縮させ作られたそこから、恋次と一護が出るのは不可能だ。
しかも丁度ドアを開けた場所から見えない死角になっていて、彼の用意周到さに少しだけ泣きたくなった。

「失礼します、お嬢さま」

ノック四回の後、部屋の主の了承を貰った彼はポーカーフェイスで室内に消える。
開いた隙間から聞こえ漏れる主の声に、ぱたり、と力なく尻尾を振った。

拍手[14回]

ぶわっとありえないくらいに膨れ上がった尻尾が、無言で不満を訴える。
右、左、真ん中。びったん、びったん、ばちっ。
床を勢い良く叩く尻尾は、言葉以上に彼の不満を訴えた。
ぶわぶわと逆立つ毛並み。
シャーだかフーだが威嚇音を鳴らす喉。
断言しよう。紛れもなく彼は怒っている。
曲線を描いた体は怒りで震え、戦闘モードになった爪は絨毯を掻き毟る。
毛足の長い赤い絨毯の一部が削れていくのをぼんやりとルキアは眺めた。

(あれはきっと、後で浦原にお仕置きされるな)

全力で不満と怒りを伝える一護に、ルキアは遠い目をした。
窓の外からは蝉の鳴き声。
仕事帰りのルキアは、不機嫌な契約魔獣の背をそっと撫でた。




そもそも何故一護がここまで拗ねているかというと、思いつく理由は一つしかない。
一見すると眉を顰め不機嫌そうに見えるが、その実所在無さげに室内に立っている存在。
ここら辺では見かけぬ衣服を纏った少年姿の半魔獣、日番谷冬獅郎。
彼の姿を見た瞬間、ルキアの足に擦り寄り頭を押し付け甘えていた一護は、毛を逆立てて部屋の隅へと走り去った。
それから幾度声を掛けてもずっと怒りを発散させるだけだ。

己の契約魔獣の不躾さにルキアは眉を下げて客人に頭を下げる。

「申し訳ありません、日番谷殿」
「いや───急に押しかけた俺も悪い。その、お前が迷惑なら、俺は別に浮竹のとこでも」
「いいえ、迷惑などとんでもありません!私の方からお願いしたのです。部屋は幾らでもございますし、どうぞご自宅と思い寛いでいただきたく」
「と言ってもな。ここは広すぎる」
「離れを用意させましょうか?」
「その感覚がおかしいって言ってるんだ。客室の一つ借りれれば十分ありがたい」
「ならば」
「だが、俺はどうも歓迎されていないように見える」

軽く息を吐き出した冬獅郎を見て、益々ルキアは眉を下げる。
契約主であるルキアから見ても一護の態度は歓迎ムードとはいえない。

「一護。いい加減にしないか」
「・・・ぶに」
「客人の前だぞ」
「シャーっ」
「シャーっ、じゃない。一護!」

ルキアが叱ったのに益々腹を立てたのか、一護の尻尾は更に膨らみ床を叩く音が激しくなる。
右、左、真ん中。びたん!びたん!ばちん!

怒れる一護は放置し、席に座ってもらっていた日番谷の前に腰掛ける。
本来なら席を離れること自体がマナー違反だが、そこは多めに見てもらっているのに一護は気づいているのだろうか。
否。気づいていないに違いない。

部屋の扉が軽快にノックされ、返事をするとすぐに執事服姿の浦原がお茶とお菓子を用意して入ってきた。
その際一護へと視線を巡らし、その瞳が不遜に光ったのをルキアは見逃さなかった。
やはりあれは後で説教だろう。

「申し訳ございません、お客様。部屋の準備は間もなく整います。───不躾な獣が一匹お目汚ししますが、どうぞ広い心でお許しください」
「・・・ああ」
「すぐに追い払いますから」
「あ、おい」

浦原の言葉に呆然としていた冬獅郎が我に返りとめようとする間もなく、つかつかつかと一護に寄った彼は首元を引っつかむと窓から遠慮なく投げ捨てた。
ちなみにルキアの部屋は三階だ。
思わず非難の声を上げ窓へ駆け寄ろうとすると、瞬間移動でもしたのかという速さで戻ってきた浦原に止められた。
睨み上げた顔は、絶対零度の微笑みで形作られている。
今の彼はルキアの執事ではなく、家庭教師もしくはマナー講師であるらしい。

「猫は身の丈より高い場所から落ちても上手に着地する生き物ですよ、お嬢様。それより誰が客を前に席を立って宜しいとお教えしましたか」
「だが、一護が」
「優しいのはあなたの美点かもしれませんが、拗ねて意地を張っている獣にその必要はありません。躾は重要だと飼う前にきちんと教授したはずです」
「・・・浦原」
「お客様の相手をするのはホステスとして当然のこと。その間主の客に対し失礼な態度をとった黒崎さんにはしっかりと反省してもらいましょう」

鮮やかな笑顔は嘘臭い。
だが言っていることは一々正論だったので、ルキアは大人しく彼に従った。
よくよく考えれば魔獣である一護なのだ。この程度の高さでは怪我一つ負うまい。

未だに戸惑いを浮かべたままの冬獅郎を前に、失礼を詫びると世間話から当たり触りない会話を始める。
少なくとも一月は滞在される客人なのだ。一護にも慣れてもらはなくてはいけなかった。


会話からぎこちなさが取れる頃、窓を引っかくような音が聞こえた気がしたが、笑顔の浦原が窓辺の様子を確認しに言った後からはその音もなくなった。
教育係は笑顔の仮面を被り、今日もスパルタだった。

拍手[11回]

夕べも通された和室に入ると、その部屋の主は背筋を正し正座をしていた。
同じように彼らの正面に置いてある座布団に座り、背筋を伸ばす。
そして手をついて深々と頭を下げた。


「村長殿へ、我が上司浮竹からの文にございます」
「・・・そうか」


頷いた青年が文へと手を伸ばそうとしているのを感じ、ルキアは伏せていた頭を上げた。
そしてじっとそのオリエンタルブルーの澄んだ瞳を見つめる。彼の瞳から感情は一切読み取れない。同様に、彼の考えや意思も。
しかしその理由を最早ルキアはしっかりと悟っていた。


「失礼ながら申し上げます」
「何だ」
「私が浮竹から申し付かったのは、『村長殿へ手紙を渡す』ことであります。つまり、この手紙の所有は、氷輪丸殿あなたではなく」


青年の斜め後ろに何も発さず存在していた少年に視線を向ける。
ルキアの言葉に動揺は一切見せず、静かな観察するような目で只管注視する彼に、額に汗が浮かんだ。
緊張し震える手を強引に押さえ込み、瞳に力を篭める。
信じると決めていた。自分自身の勘と、自分の魔獣の力を。

浮竹から渡された文は重要なものだと彼に言い含められている。
人里離れた半魔獣たちと接触するからには、その意味の重大さもルキアは弁えているつもりだ。
自分の行動が上司の、最悪国への威信に傷をつける行為かも知れないと百も承知していて、その上で敢えてルキアは無礼とも言える行動を選んだ。
何故なら、本物が相手でないと意味がないからだ。
ルキアは、浮竹から信頼され仕事を任された。召喚士として次の世代への架け橋になるだろう仕事の一端だとも聞いている。
失敗は許されない。


「・・・日番谷殿。この手紙は、私の上司から、あなたへのものでございます」


震える手で握った文を持ち、氷輪丸ではなく、彼の後ろに居た冬獅郎へと文を差し出す。
客人の無礼を怒るでもなく静かに眺める氷輪丸。
そして咎めるように強い眼差しを送る冬獅郎。
彼らに挟まれルキアは身が縮む思いで判決の時を待つ。
短かったのかもしれないが、ルキアには随分と長く感じられた時は唐突に終わりを告げた。

一つため息を吐いた冬獅郎が、ルキアが差し出した文に手を伸ばしするすると封印を解く。
何も言わずに為された行動それこそが答えだと知り、ルキアは安堵で全身の力が抜けそうになった。


「いつ気がついた」
「え?」
「俺が村長だと言うのにだ。それらしい素振りはしていなかったように思うが」


淡々と響く声。それに怒りがないのを感じ取ると、少しだけ自分の考えを話すのに躊躇する。
だが藍鼠の瞳に促されるように見詰められ、渋々口を開いた。


「氷輪丸殿は日番谷殿を見ていないですが、意識は常に向いているように感じました。彼が意見を言う際には必ず一拍間があり、何かを確認していると感じたのです。それに、一挙一動を気にしすぎています。上に立つものとして下のものを気遣うのは当然かもしれませんが、その気遣いの仕方が目上のものへの態度と思えたのです」
「───あからさまだったか?」
「いえ。むしろ私が気にしすぎるのだと思います」

物心ついた時には他人の目を常に気にして生きてきた。
それは浦原からの教えでもあったし、自身の身を護る方法でもあった。
目で見て心で判断する。
朽木家の養女であるルキアには、上辺だけで蔓延る輩は掃いて捨てるほどに居て、そんな人間を朽木家のためにも近寄らせるわけには行かなかった。
痛い目を見れば自然と観察眼は身につき、行動への慎重さと、必要があれば大胆に出れる判断力も養った。
ルキアの声に何かを感じ取ったのか、文へ視線を落とした冬獅郎は、ふんと一つ鼻を鳴らした。


「名門朽木家の養女か」
「・・・ご存知でしたか」
「こんな山奥でも目と耳がきちんと機能していれば情報は入るからな」
「左様で」


冬獅郎の言葉の裏を読むと、静かに黙り込んだ。
つまり彼は完全に世俗を離れたわけではなく、朽木の家の情報が入る場所に密偵を送り込んでいるらしい。
さすが幼く見えても一つの村を纏め上げる人だと内心で感嘆の声を上げる。


「浮竹への返事をしたためる。暫し待て」


命令しなれた口調に、頷くと頭を下げた。
漸く一仕事終わったと胸を撫で下ろし、早く家に帰りたいと、置いてきた魔獣たちを思った。

拍手[9回]

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