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いろは順お題
--お題サイト:afaikさまより--



どうして自分は死んでいないのだろう。
鈍い色をした厚く重い雲から降ってくる雫を瞼も閉じずに受けながら『それ』は自問する。
自分の体より一回りほど大きな平たい岩の上で、寒さに身を震わせる。
防寒対策として体を丸めるが、濡れた毛並みでは僅かな暖も取れなかった。
風が強くなり虚弱化した『それ』を容赦なく嬲る。
寒いと感じるより、最早風の襲撃は痛かった。

雨脚はどんどんと強くなる。
小さかった雨粒は成長を遂げ、今では音を立てて『それ』にぶち当たった。
だが啼く体力も、助けを求める相手もいない『それ』は、帰ってこないと判っている相手を待つためにただ小さくなる。
『それ』にとって何年も何年も繰り返した一日が、今日も通り過ぎるだけだった。

『それ』は物心ついたときにはすでに一人で居た。
否、正確に言えば一人ではない。
母親も彼女の主も、そして兄妹もきちんと存在した。
だが、その中で一人だった。
『それ』の母親は強大な力を持ち、『それ』の兄妹も母親に準じる力を持っていた。
見た目も艶やかで美しく、ただ派手なだけと称される『それ』とは見た目も中身も存在が違った。
確かに同じ血が流れていても、『それ』は名すら与えられず群れの中で独りだった。
『それ』の力は血統を誇る母親には汚点で、『それ』の存在は力を望む彼女の主からは不要だと断じられた。

『それ』がこの場所に置いていかれた日も、今日と同じで雨が降っていた。
雨風を避ける天上も壁もないこの場所で、きちんと座ったとき、『それ』は生まれて初めて母親とその主に誉められた。
”待て”と命令され、『それ』は言葉に従った。
母親と兄妹と、そして彼女達の主が去る姿をずっと独りで見送った。
置いてかれたのは、捨てられたのはわかっていた。
わかった上で『それ』は満足していた。
生まれて初めて誉められて、生まれて初めて笑いかけてもらえた。
『それ』にとって、これ以上の喜びはなく幸せはなかった。

だから『それ』は待ち続ける事にした。
いつか、もしかして母親達がこの場を通る時、自分がここに居ればまた誉めてもらえるかもしれないから、と。


涙を零すように雨を降らす雲をじっと見詰める。
別れたあの日からずっとこの場所に居るため、体力は著しく低下していた。
大気から必要な養分は摂取できるが、肉体を維持するだけで精一杯で、骨と皮だけになった体は毛艶も悪くみすぼらしい。
以前はこの道を通る人間が声をかけてくれていたが、今ではそれもなくなった。

誰からも必要とされない。
生きる理由を見つけられない。
それなのに、どうして───死ぬのは出来ないのだろう。

空の色が一層黒く染まっていく。
鈍色だった雲は闇色へと移行し始めた。
意識は朦朧として体の感覚は失われていく。

どうして自分は生まれたのだろう。
どうして自分は存在するのだろう。
どうして自分は望まれないのだろう。
どうして自分は拒絶されるのだろう。
どうして、どうしてどうして──────。

考えは纏まらず、意思を持った瞬間からの疑問はやはり解決できない。

「ぅ・・・」

声帯を震わせ声を出してみる。
雨音にすらかき消される音は、誰に届くわけでもない。
知っているのに声を出したのは、まだ残る生存本能故なのだろうか。

体から力が抜け、瞼を持ち上げる力もなくなった。


掠れた視界の奥で、自分に伸ばされた手があったなど。
そんなの夢にしか過ぎないだろう。

拍手[2回]

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好きだったよ、君が知っているより
--お題サイト:afaikさまより--


「さよならの言葉を聞きたくなかったと言ったら、それは愚かだと思うか?」

微苦笑を浮かべた幼馴染に、恋次は肩を竦める。
せいれいていを見下ろす丘の上で、夕日が沈むのを眺めながら囁きに似た言葉に何か返すか少しだけ迷い───結局何も言わぬまま風に靡く黒髪を見詰める。
ルキアの雰囲気は酷く凪いでいた。
それは死神になるのを決めた瞬間ととても似て、けれど絶対的に違う寂寥感が漂っていた。

自分の髪と同じ赤色の夕日が沈むのを、瞬きすら惜しんで眺めるルキアの心は今何を思っているのだろう。
今の時間よりもう少し前に見れた太陽の色の髪をした少年がルキアの心に影を残したのは判るのに、結局最後まで彼がどの程度ルキアの心を占めるか判断できなかった。
恋次やルキアより遥かに子供で、その分真っ直ぐで、頑固で前を見る強さを持った子供だった。
大人の論理など無視して、何が大事か見極められる、恋次が諦めた何かを持ち続けた少年だった。

子供だ、餓鬼だと言ったけれど、彼に憧れなかったと言えば嘘になる。
負け犬さながら尻尾を巻いて星に吠えるだけの自分に渇を入れ、何が一番大切か強制的に思い出させた悪友だった。

ルキアに笑顔を戻した男。
ルキアの命を救った男。
ルキアに心を思い出させた男。

本当なら全部してやりたい何もかもを、彼はルキアに甦らせた。
あの子供はルキアに救われたと言っていたけれど、同じだけ、否それ以上にルキアは救われていた。
腹の底から笑うルキアなど、もう何十年も見ていなかった恋次には奇跡に近い所業で、羨望を交え嫉妬した。
だがそれ以上に───彼には感謝していた。

幼馴染はきっと何も言わない。
彼をどう思っていたか、どの種類で好きだったのか。
本心を誰かに語る事無く、魂が散るのを待つのだろう。
静かに想いをしたためるのはこの幼馴染らしいが、引きずりやすい彼女は根っこまで想いを持ったまま普段は微塵も出さぬそれを、例えば太陽が眩しくて目を細めた瞬間や、月が冴え冴えと輝く夜空を見て、不意に思い出し微笑むのだろう。
彼女が彼を思い出して笑う瞬間、隣に在れたらいいと思う。
彼女が微笑んだ瞬間に、ああいう奴も居たなと二人で笑いあえればいいと思う。
それはきっと、きっととても幸せだと思うから。

紫紺色の瞳を細めうっとりと夕日を見送る少女に、恋次は笑った。
そして癖の強いしっとりした黒髪に手を潜らせると、思い切りわしゃわしゃと撫ぜる。
何をする、と噛み付いた彼女に微笑むと、闇の色が濃くなり始めた空を見上げた。

「さよならを聞きたいと、嘘をつくより愚かじゃねえな」
「・・・そうか」

ぽつりと呟き、彼女はまた黙り込む。
二人の時間はとても自然で、それが恋次の胸を高鳴らせた。

とても、とても幸せだ。
隣にこの温もりが存在するだけで今までの何もかもが報われる。
恋次の基点で恋次の全て。
嬉しいや幸せ、優しいや愛しいを具現化して人型を取らせた幼馴染は、ほうと一つため息を吐く。
そして切なさを籠めた声で、そっと囁いた。

「まだまだこの場に来るなよ、クソ餓鬼。お前の顔は当分見たくない。静かにくらしたい故、存分に現世を楽しんでからにしろ」

全く持って素直じゃない宣言に、恋次は声を大にして笑った。
天邪鬼な幼馴染は、きっとあの可愛くない子供が来ても健在に違いない。


拍手[10回]

「朽木、明後日は有給の扱いでいいのか?」
「はい。すみません、突然に」
「いや、家の用なら仕方ないさ。俺もその日は休みをもらうしな」
「・・・隊長も、ですか?」


本日も体調を崩し、雨乾堂で横になる青白い肌の浮竹に、ルキアはひっそりと眉を寄せる。
最近は季節の変わり目の所為か、ちょくちょく熱を出す浮竹は、今日も頭に氷袋をつけてくったりと布団に横になっている。
ルキアが知る限りこの人はこの時期に明るく元気で爽やかな暮らしをした記憶はなく、いつだって十三番隊の誇る隊長大好き三席の二人と交代で看病をしているのに。
浮竹もそれを判っているので、この時期に滅多に私的な予定を入れることはない。
むしろその余裕があれば、ぐったりと布団の上で鮪のように伸びている。
知っているからこそ違和感が大きく、訝しげな顔で眺めていると、情けなく眉を下げた浮竹は淡く苦笑した。

「何か不満げな顔だな」
「別に・・・そんなことはありませんが」

それでも拗ねたような口調になるのは、浮竹が心配だからだ。
甘えが滲み出る態度は仮にも上司に取るべきものではないが、それを判っていても甘えてしまうくらい浮竹はルキアを甘やかすのが上手い。
温厚な雰囲気や、柔らかな話し方が気を張らせないのかもしれない。
視線を逸らしたルキアに笑うと、浮竹はゆっくり上半身を起こすと視線を合わせる。
正座しているルキアと、布団から直に起きている浮竹。
身長差のおかげで丁度正面から見詰められ、視線を感じつつも今更そちらを向くに向けないで居ると、ふわりと暖かな何かが頭に触れた。
思わず視線を戻すと、にこりと嬉しそうに浮竹が笑う。
ルキアの髪を梳くように撫でる彼は、どうやら機嫌がいいらしい。
あまりに嬉しそうにしているので、喉元にまで出掛かった文句も口内に消えてしまう。

「心配をかけてすまんな、朽木」
「───別に。心配しているとは申しておりません」
「そうかそうか」

くしゃくしゃと撫でる掌に力が篭められ、首までが僅かに上下する。
揺れる視界に慌てて両手を使って腕を押さえると、目を丸くした浮竹はやはりそのまま破顔した。
綺麗で鮮やかで、それでいて何処か意地悪な顔で。

「明後日が楽しみだな、朽木」
「・・・はぁ」

正直ルキアとしては家を通じた用事、お見合いなど楽しみでもなんでもない。
朽木の養女としての勤めの一つと理解しているが、幾度か経験しても慣れないし面倒だ。
しかしそれを目の前の上司に報告するのは少々恥ずかしくあり、家の用事と誤魔化したが、この邪気のない笑顔を前に全く楽しみじゃありませんとは答えられない。

「晴れるといいな」
「はぁ」

若干のテンションの差を無言で蹴散らす浮竹に一つため息を落とす。
これほど楽しみにしているなら、是非晴れればいいと、浮竹のためにひっそりと祈った。

拍手[13回]

角ルキで5題
国高的お題より


■1:なんか苦手だ

「おや。斑目三席じゃありませんか」

にこり、と釣り目がちの瞳を細めて上品な猫のように笑ったルキアに、一角はぎしりと動きを止める。
今日は非番なのか死覇装ではなく、臙脂に小花柄が描かれた小袖姿の彼女は、珍しく今日は一人だった。

「おう・・・阿散井の奴は?」
「さあ?あやつは仕事じゃないでしょうか」

こくりと首を傾げたルキアに、見えない角度で舌打した。
目の前の少女にぞっこん状態の彼がいれば、まだ何かが緩和されるのに、二人きりの空気の居心地の悪いこと。
一体彼女の何がここまで一角を居た堪れない気持ちにさせるのか判らないが、四方八方に視線を逸らしながら何を話せばいいのかと話題を模索する。
しかし朽木の令嬢であるルキアが好みそうな話題など一角も知る筈がなく、最終的にはこの場に居ない恋次に心の中で八つ当たりを始めた。
そんな一角の焦りを知っているのかいないのか。
絶対に気付いてる気がするが、貼り付けたままの笑顔を向けるルキアに冷や汗が流れ始めた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

沈黙が痛い。そして貼り付けた笑顔も痛い。
どうすればいい、何をすればいい、と焦れば焦るほど頭が真っ白になり考えは空回り。

「・・・あの、よ」
「はい」
「何か、用か?」

思い切って聞いてみる。
虚を前に戦うより余程覚悟を決めた質問に、ルキアは殊更笑顔を深めた。

「用は何もありません」
「ああ、そうかよ!!」

緊張していただけに、色々な意味で拍子抜けした。
その分苛立ちが募り、ふんと背を向け歩き出す。
何で苛立つかなんて、そんな理由は知りたくない。


■2:この頭は禿じゃねぇ!

「いい加減にしろよ、この腐れ幼馴染どもが」

現世の店に仲睦まじい幼馴染に、唾を飛ばして一角は怒鳴った。
この見た目も中身も凹凸コンビは、何故か無性に息が合う。
それは彼らが幼い頃を共に暮らしたからだろうし、きっともともとの価値観などが似ているのだろう。
片方は熱烈にもう片方に想いを抱いてるのを知っているが、想われる相手は欠片も自分を見せないので発展してるのかしていないのかすら判らない。
一角自体は恋だの愛だのに今は興味はないが、人の恋路を引っ掻き回すのは好きだった。
もっとも、目の前の二人組みは引っ掻き回す必要もないくらい前進がない子供だったが。

見た目はともかく中身の年齢が低い彼らは、何故か揃って一角に懐いている。
恋次は昔稽古をつけてやっていた師弟関係と、先輩後輩としての関係があるから判るが、ルキアは一体何なのだろう。
幼馴染が懐いているから釣られてしまっているのだろうか。
いや、もうそれはどうでもいいが、彼らの感性をどうにかして欲しい。

「だからこの頭はハゲじゃねぇ!剃ってんだよ!ブッちぎり迷走コンビが!」

唾を飛ばしても何を言われてるか判らないとばかりにきょとりとした顔をした幼馴染達は、不思議な生き物をみるように一角を眺めた。
その手に握られた物体にでかでかと書かれた文字に、全力で意を唱えさせてもらう。

「育毛剤なんて必要ねぇんだよ、俺には!」


■3:勝てない。オレより弱いくせに!

「それで?」
「それでって、だから・・・」

思わず言葉に詰まる。
何故か学校帰りに捕まって連れ込まれたゲームセンター。
UFOキャッチャーなるものをプレイさせられる一角は、何故こんなことをさせられるのか判らない。

気がつけば現世で使える貨幣がどんどんと消費され、すでに残りはワンコイン。
ちなみに隣で見ているだけの彼女の財布から中身を拝借するどころか、その姿すら見ていない。
何度考えてもこの状況が理解できず、首を傾げるどころじゃない。
やばいくらいに流されている。

大体、目の前のウサギのぬいぐるみなど一角は欲しくないのだ、そもそも。
チャッピーによく似た顔立ちのウサギは、一角の感性では可愛いといえない。
むしろ地味に不細工だと思う。
山積みになったウサギの大群の中の、さらに一番大きいサイズをとるのは無理に決まっている。
大体先ほどから引っ掛かるたびに、アームが揺れて落ちているではないか。
これはそもそも取れるようになっていないのだ。

不平不満を全力で訴えると、輝かしい笑顔を浮かべたルキアが一言仰った。

「それで?」

言い訳は終わりかと言外に問う彼女に、また言葉が詰まる。
結局何を言えばいいか判らず、視線を彷徨わせ見かけた店員を捕まえた。

「すんません、これ取れないんで移動してください」

取りやすい位置に移動したそれを、今度外したらどうすればいいのだろうと、過った不安は黙殺した。


■4:おや?私を誰だとお思いですか?

「それで、ここは何なんだ」

いかにも格式ばった手紙を受け取り、差出人の名前に嫌々渋々出かければ、指定の場所は貴族御用達と門前に書いてありそうな料亭だった。
同じように手紙を持ってぽかんと間抜け面を晒していた後輩を前に、帰ってしまおうかと踵を返せばえらい勢いで肩を掴まれた。
自分より余程体格のいい男は、捨てられた子犬のような眼差しで必死に見詰めてくる。
置いていくなと全力で訴えるヘタレに、心の底からドン引きしながら仕方なしに中に足を踏み入れた。

見た目も格式ばっているなら、中身も格式ばっていた。
正直着流しの一角と恋次は浮きに浮いている。
空気読めと屋敷全体から圧力をかけられている気がする。
擦れ違う女中は教育されているらしく何も言わずに視線を逸らすが、むしろ何か言われるより居た堪れない感じだった。
案内を断ったが、口で聞いただけでは確かに迷いそうだと記憶を掘り起こし歩を進めれば、母屋から渡る廊下が見つかり、離れへと続いている。

「おい・・・まさか、あれか?」
「あれだと思います」

今になってこの後輩が一人で行きたくないと思う気持ちが理解できた。
明らかに特別待遇なその場所から伝わる霊圧は肌にびんびん伝わってくる。
戦場なら喜んで刀を抜くが、挑むには分が悪い相手でもあった。

「何で朽木隊長が居るんだよ」
「ルキアが、隊長に頼んだそうです。現世で日頃世話になっている相手をもてなしたいって言ったらしいんすけど、そしたらここを貸切にしてくれたらしくって」
「・・・なるほど。やっぱ俺帰っていいか?」
「ここまで来てそれはないっす!」
「だってよ、朽木隊長の霊圧半端ないぞ!?お前、あれ怒ってんだろどう考えても!お前がルキアちゃんに手を出そうとしてんの気付いてんだろ!」
「可愛い後輩見捨てて逃げようったってそうは問屋がおろさねぇぞ!大体隊長のあれはルキアに近づく全ての男に等しく降り注ぐ怒りだ!あんたを連れてかなきゃ本気で俺が殺されるんだよ!」
「テメ、先輩売る気かコラ!」
「一人で千本桜喰らって堪るか!先輩だろうと師匠だろうと関係ねぇよ!道連れだ!」

ギャーギャーと喚いていたら、離れの扉がすっと開いてしずしずと人影が近づいた。

「・・・うるさいぞ、戯け者が」

着飾られたルキアは精巧な人形のように麗しかったが、笑顔に込められた棘はざくざく二人を抉った。


■5:正反対の二人。接点は一瞬

「考えてみたら、俺たちの接点てないに等しいんだよな」

誰かさんの髪の色を髣髴とさせる夕日に照らされた校庭を、並んで歩く三人を眺めながらぽつりと呟く。
放課後の教室はもう人の気配はほとんどせずに、一角が今居る教室も相方以外は帰ってしまった。

「どうしたのさ、今更」
「どうしたんだろうなぁ」

大小の影を作って帰る彼らは、じゃれ合う子犬のように近づき離れを繰り返す。
少しだけ意地の悪い顔で笑うルキアを真ん中に、左隣に口を窄めて憤る一護、右隣にそれを苦笑して宥める恋次と見事な凹凸を作り出している。
どちらの髪色が派手で目立つ存在らしく、声を掛けるものは居ない。
ルキアはこの学校で猫を被っているのだが、彼らの前では一切取り繕わない笑顔を浮かべていた。
心配そうな表情で周りが様子を伺っているなど気付いていないらしい。
それはそうだろう。
一見いかにも不良の一護と恋次に挟まれるルキアは品の良いお嬢さまにしか見えない。
実際は彼らに劣らぬほど言葉遣いは荒く男前な性格をしているが、見目だけでは判断がつかないだろう。
二人が怖くて間に入れないのか知らないが、結構な数の男が視線を向けていた。

「何て言うかさ、俺らって本来なら接点がねぇだろ」
「・・・誰と?」
「ルキアちゃんだよ。阿散井は四十年以上も追い続けた幼馴染で、一護は死神の力を分け与えた恩人。でも俺らは違う。俺と阿散井は師弟関係だ。俺と一護はダチだ。けど、俺とルキアちゃんは、接点なんかねぇよな」
「・・・・・・」

考えてみると不思議な関係だ。
一角が直接関係を持つのは恋次と一護なのに、いつの間にかルキアと二人で接する時間が増えていた。
ルキアは恋次の想い人だ。
何度死に掛けようと執念で追い続けた、馬鹿みたいに純粋な想いを捧げる相手だ。
ルキアは一護の恩人らしい。
家族を助けるために死神の力を譲渡してもらい、そして攫われたルキアを命がけで助けに来る程度に思い入れを持っている。
それが恋情か単なる恩義か、突っ込む気はないが特別には違いない。
だが、一角と親しい二人はルキアと繋がりがあっても、一角とルキアは不思議なほど繋がりがない。
友達の友達は友達と考える思考の持ち主ではないし、むしろそりゃ他人だと自分でも思う。

けれど、どうしてなのだろう。
偶に見せる寂しげな笑顔を放っておけない。
金持ち連中に囲まれ、取り繕った笑顔で佇む姿を放っておけない。
小生意気な笑顔で生意気そのものの意見を述べる小娘を、何だかんだで放っておけない。
純粋に可愛いなんて思えないし、特別な絆も持ってないのに、何故だか放っておけないのだ。

「上品なお嬢さまの相手なんて疲れるだけなのにな」

ぽつり、と呟いた声は、思ったより響いた。
理由は判らないし、判りたくなんてない。

現世に派遣されたという事項以外接点一つ見つけれない小娘を、ただ視線が追い続けた。
近くも遠くもないこの距離は、とても居心地が良いと認めたくなかった。


拍手[7回]

片思いで5のお題
--お題サイト:確かに恋だったさまより--



■1.俺の目の届く範囲にいてくれ【恋次→ルキア】

昔より過保護になった気がする。
否、それは気がするだけではなく、実際にそうなのだろう。
同じ死神として戦いの場で保護する真似は、ルキアの矜持をへし折る真似は出来ない。
だが日常生活は仕方がないと思わないか。
何せ一度自分から手放した経験がある相手だ。
色々とトラウマが出来ているし、出来るなら現世にいる有袋類のように持ち歩きたいのだ。
それは仕方がない事ではないか。

「・・・・・・それ、本人に言うなよ」
「・・・お主、絶対に引かれるぞ。主じゃなかったらわしらも関わりたくないな」

至極真っ当な訴えなのに、相棒は冷たい眼差しを向けてきた。
ああ、でも見てくれ。
現世を一人歩きさせると、変な野郎がついて歩いてるんだ!



■2.どれだけ心配したと思ってる【修兵→ルキア】

現世で怪我をしたと聞き、四番隊に駆け込めば。
何故かそこの七席と一緒に、ほんわかな空気を出して談笑する少女の姿。

いつもどおり凛と背筋を伸ばし、椅子の上で微笑む姿は上品そのもの。
こちらが連絡を受けてどれだけ肝を冷やしたかなど、一切合財判っていない。

不安で早くなる鼓動を宥めるのにどれだけ苦労したとか、やりかけの仕事を部下に押し付けてきたとか、途中にあった部下のスクープに目を瞑ったとか、色々と代償はあったのに、ルキアはよりにもよって別の男と笑っている。

冷えていた心に熱が加わり、一気に過熱され火が広がる。
この場で怒り狂ったとしても、絶対に責められる謂れはないはずだ。


■3.こういう時は俺に頼れと言っただろう!【一角→ルキア】

傷つき、血を垂らしながらも強情に立ち上がる背中に舌打した。
敵の力量は明らかにルキアの上手を行き、彼女では勝つのは難しいだろう。

剣風で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられてもまだ立とうとするルキアに、堪忍袋の緒が切れた。

「いい加減、助けくらい呼べ!」

眼前に迫った鋭い爪を見据え苛立ちをぶつける。
霊圧を開放し始解した相棒を構えれば、荒い息を吐きながら彼女が立ち上がったが気配で知れた。

「足手まといだ。大人しくしてろ」

叫ぶのではなく、冷静な声を響かせれば、気配はびくりと震え大人しくなった。
霊圧が弱まる。意識を失ったらしい。
やっと大人しくなった少女に視線を向ければ、綺麗な黒髪を散らしぐったりと床に倒れ伏す姿を視界に捉えた。
なんて強情なお姫様だと内心で呟き斬魄刀を振るえば、苛立ちに誘発されたように虚が消えた。


■4.俺を困らせたいとしか思えないな【浮竹→ルキア】

いつの間にか自分の腕の中で眠るルキアに、浮竹は瞬きを繰り返す。
一瞬やってしまったかと思ったが、どう思い出そうとしても如何わしい記憶は欠片も出てこない。
酒も飲んでないし、何より今はまだ昼時。
朝眠った記憶があるので、何もしていないはずだと判断する。
熱に浮かされて何かしたのかとも思ったが、意識が朦朧とする中で何かするのは無理だろう。

「・・・可愛いなぁ」

答えが出ない疑問はさっさと脇に寄せると、白い頬を指先で突付く。
普段のルキアならすぐさま離れてしまうだろうに、眠って無防備になった彼女はすやすやと寝息を立てるだけ。

そう言えば、とふと思い出す。
昔膝の上にルキアを抱えた副官が、羨ましくてしかたなかった。
どんな感じなのだろうと幾度も想像したものだったが。

「こんな感じか」

何とも表現し難い擽ったさに、年がいなく悶えてしまいそうだ。
胸の奥が暖かく、それでいて悪戯心でうずうずとする。
このままでは我慢し切れそうにない自分に、早く目を覚ませと心の内だけでささやいた。


■5.この先もお前から目が離せそうにない【一護→ルキア】

「だから!お前はちっとは考えろって言ってるだろ!!」

窓から入り込んできた死神の姿に、いきり立って訴える。
だがワンピースの裾が捲れ上がるのも気にせず表情を崩さないルキアは、きょとんとした眼差しを向けてきた。
足元で興奮して鼻血を噴出しそうなコンが叫んでいるのを、むぎゅっとその白い足で踏みにじり部屋に押し入る。
その仕草には羞恥の欠片もなく、男として意識されていないのか、それともただ単に羞恥心が欠落しているのかと頭が痛くなってきた。

前者であればプライドが刺激されるし、後者であれば色々な意味で問題だ。
こちとら若い女の生足に釘付けになる年頃なのだ。
好いた女相手なら尚のことなのに、目の前の死神はそんな一護の繊細な心など微塵も理解してくれない。
いや、理解されたらされたで困るのだけれども。

「女なんだから男の前で足を見せるな!」

裏返った声で叫べば、ふんと鼻で笑われた。
この余裕を絶対に崩してやると誓いながら、他の男の前では絶対させるかと独占欲まるだして考えた。

拍手[12回]

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