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『黒崎一護。お前を倒す男だ。ヨロシク』

片手で持つには正直つらい大太刀を片手で振り回す。それは存外に力仕事で、もやしっ子の一護ではきっと無理だろう。
本来の主役は彼だと言うのに、先ほどから椅子に座って台本を読み込んでいる。
初めから一人二役の予定で引き受けた仕事だが、もう少し体力をつけた方がいいんじゃないかと親切心で思う。
ライブでも一番最初に倒れるのは一護だし、女でしかもあんなに華奢なルキアよりも体力なしとは高校生として微妙すぎる。
もっとも、一護が非力なお陰で出番が増えているのだから、それもよしと考えるべきなのだろう。
双子の兄である彼に対し、とんでもなくコンプレックスを持っている身としては少しばかりきつい役どころかと思っていたが、慣れてみるとルキアを助ける役を演じているのが自分なのは案外いい。
姫を助ける騎士なんて現実では滅多に回ってこない役どころだ。

『死覇装だと?どこの所属だ、テメェ』

地元に蔓延るヤンキーのように低い唸り声を上げた恋次がコンを睨む。
演技だと判ってるが、その似合いすぎる形相に身が引きそうになり、慌てて両足を踏ん張った。
大分ドラマの撮りに慣れたとはいえまだまだ油断は禁物だ。

『そうか』
『っ!?』
『読めたぞ。テメェがルキアから力を奪った人間かよ!!』

恋次が咆哮し憎しみの篭った眼差しを向けた。
その瞳が抱く憎悪は、とても偽者には見えない。
背筋をふるりと震わせ、集中しろと自分に言い聞かせた。





「・・・恋次さん」
「あん?」
「演技怖すぎるんすけど」

休憩に入り、恋次と二人でパイプ椅子に並んで座る。
アクションシーンだけ先に撮ったのでとりあえずドリンクで喉を潤した。
次は一護とルキアと白哉で魅せるこの回のメインなので、彼ら三人は監督と話を詰めている。
額から流れた汗を先ほどルキアから借りたタオルで拭えば、すぐさま洗って返せよとその義兄から突っ込まれた。

「ってか恋次さん以上にこの役に入り込んでますよね?どうしたんすか?」
「何が?」
「何がって・・・何かが?」
「疑問符じゃねぇか。それじゃ何が言いたいか判んねぇだろうが」
「うーん・・・そうっすね」

首を傾げながらもう一口ドリンクを飲む。
冷えたレモネードは中々に美味い。
喉越し爽やかなそれを最後まで一気に飲み干すと、殻になった入れ物を手に立ち上がった。

「何処行くんだ?」
「ルキアさんのとこっす。頑張ってくださいって応援しに」
「お前、本当にルキアにべったりだな。役柄まんまじゃねぇか」

呆れた顔で恋次が言った。
その言葉は確かに身に覚えがあったりするので、ひょいと肩を竦めて肯定も否定もしないでおく。

「『コン』は『姐さん』が世界の中心なんスよ」
「阿呆。少しは隠せ」

ひらひらと追い払うように手を振る恋次に頭を下げると、コンはスキップ交じりで監督との会話を終えたルキアへと近寄った。
『白哉』が先にこちらに気づき、不意に視線を鋭くする。
それに同じように睨み返し、堂々とルキアに声をかけた。

コンは『コン』よりももう少し自己主張が激しい。
『白哉』よりも素直な白哉相手に、立ち向かっていくのは容易だ。
少なくとも、白哉は斬魄刀を利用し千本桜でコンを襲ったりしないのだから。

独占を主張する二人の戦いは、今静かにゴングが鳴らされた。

拍手[5回]

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初めて泊まる木造立ての家は、畳と呼ばれる草が敷かれていていい匂いがした。
その畳の上に寝具を敷き、ルキアは横になっていた。

外はまだ雪が降り続いているらしいが、部屋の中はそれほど寒くない。
暖房機器は見えないのにどういう原理かは判らなかったが、取り敢えずの不便がないからと気にしないでおく。

耳鳴りがするほど静かな空気は久しぶりで、腕を突くと上半身を起こした。
貸し出された衣服は着慣れない所為か少し心もとない。
浦原が私服で着ている『甚平』と呼ばれるものと少しだけ似ている気がしたが、それが判断できるほどルキアには知識はなかった。

部屋と外を区切る障子へ近づくと、そっと手を当てる。
音も立てずに開いたそれは、木枠と紙で出来ていてとても不思議だが安心感があった。


「やはり、降っているのか」


じっと空を見上げれば、真っ暗な空からひらひらと白い雪が降ってくる。
月は見えないが雪が反射してそれほど暗くない。
闇に強いルキアには、外の光景が苦労せず見えた。


「・・・さて、どうしたものかな」


吐き出す息がほわりと白くなる。
それが面白くて幾度か繰り返すが、考えが纏まらずに結局連れてきた相棒を呼び出すことに決めた。

自身の魔力を展開するのではなく、兄に渡された護符を使い結界を張る。
白哉手製のそれは余程力が強い魔獣でも魔法の気配を悟れぬ、強固な結界を安易に作ることが出来た。
だが反して規模は小さい。
ルキアを中心に半径1mほどの中で、縁側と呼ばれる木の板に座ると、指に嵌めている指輪に口付けを落とす。


「Erscheinen Sie(現れよ)」


ルキアの呼びかけに応え、サファイアの指輪が輝くと、へたりと耳を垂らした黒兔が現れた。
眠いのか幾度も目を瞬かせる彼の脇に手を差し込むと、そのまま膝の上に抱き上げる。
頭を撫でると小さく欠伸を漏らした兔は、じっと赤い瞳をルキアに向けた。


「どうしたんですか~、ルキアさん。こんな夜中に」
「うむ。眠っているところを悪いな。どうしても花太郎の意見が聞きたくて」
「こんな時間に、結界まで張ってですか?」
「ああ・・・昼間私がお会いした御仁、お前は見えていたか?」
「・・・はい。指輪の中からでしたけど、凄い力の持ち主でしたね」
「ああ。傍に居るだけで肌がぴりぴりとするほどの力の持ち主だった。───だが、彼が本当にこの村の長だろうか」
「どうしてそう思うんです?」
「彼は・・・魔獣と違う、ような気がした」


オリエンタルブルーの長い髪をした精悍な顔立ちの青年。
顔に大きな傷があったが、それは彼の美貌を少しも損ねていなかった。
ぴんと背筋を伸ばし正座していた彼は、涼やかでいながら人を落ち着かせぬ雰囲気の持ち主であった。
案内役であった冬獅郎を後ろに控えさせた彼は、確かに大物の気配がした。
それは貴族連中と始終渡り合っていたルキアには安易に悟れたが、だが何か違うのだ。

白哉や浮竹が持つ組織のトップとしての『何か』が彼には足らない。
それが何か明確に出来ないのだが、だが彼ではないとルキアの勘が訴えていた。


「私は彼がこの村の長だとは思えぬ」
「・・・ルキアさん」
「違和感がありすぎるのだ。・・・それに、彼の力は魔獣のものとは違う。そうであろう?」


腕の中の赤い瞳を覗き込めば、困ったように視線を逸らした彼はひくひくと鼻を動かす。
何故答えを渋るのか判らないが、それこそが答えなのだろう。
だからこそルキアは確信を抱いて花太郎に問うた。

ルキアが知る誰よりも感知能力に優れた、ルキアの魔獣に。


「氷輪丸殿は精霊だな?」


赤い瞳が、怯えるようにルキアを見詰めた。

拍手[9回]

■実は親しい間柄

「・・・お嬢様は、眠ってらっしゃるんですか」
「おう。無邪気なもんだぞ」

本性のまま、尻尾を軽く揺らした海燕は、自分に体を預けて眠る少女の髪をぺろりと舐めた。
大きな海燕の体に包まれて眠る人間の少女は、先日自分の主である浮竹の隊に入隊したばかりの子供だった。
少し猫毛の黒髪に、アーモンド形の目をした端整な面立ちの華奢な少女。
───朽木ルキア。
主より聞かされ予てより名を知っていたが、実物は想像していたよりもずっと小さく、触れれば折れてしまいそうなくらい細かった。

白い肌に端整な面持ちを持つルキアは、隊の中でも浮いていた。
貴族的な気品のある雰囲気に、警戒心の強い野良猫並の人見知り。けれど人はそれを生意気と捉え彼女の本心を見ようともしない。
人の群れに放り込まれた小さな子供は、常に怯えて心が震えているというのに、誰も見ようともしなかった。
だから、海燕は一人ぼっちのこの少女に手を伸ばすのを決めた。
他の誰も必要としないなら、自分が構ってもいいだろうと思ったのだ。

人には警戒心の強い子供は、けれど獣には心を解いた。
おずおずと伸ばされた手を許容すれば、少しだけ躊躇したように指先で触れた後、嬉しそうに掻き撫でる。
小さな掌から繰り出される力など高が知れているので遠慮はいらないのに、いつでも擽ったくなるような柔らかな力で海燕へと触れてきた。

ルキアは海燕には何でも話した。
隊であった失敗談。自分への噂に、先輩達と打ち解けれない悩み。
人見知りな自分への嫌悪や、どうすれば仲良くなれるのかと訴える悲しみ。
反面嬉しいことも良く話した。
綺麗な花が咲いていたとか、隊長に誉められたとか、三席の二人が話しかけてくださったとか、猫に子供が生まれたとか。
本当に些細なことから幸せを見つけられるルキアは、隊士が告げる冷血漢などではなく、感受性が豊かな一人の少女でしかなかった。

そんな少女の素顔を自分しか知らないのは、海燕の胸に優越感を湛える。
本当はルキアに執着していて、けれど海燕よりも遥かに不器用な主は、毎日報告がてら告げる話に笑って頷くばかりだ。
自分が動けばいいのに、と呟けば、あいつはまだお前の方がいいだろう、と眉を下げて情けなく笑った。
『まだ』という言葉に引っ掛かりを覚えたが、そうかと頷いた海燕は未だにルキアを独占している。
このままじゃ駄目なのは良く判っていたけれど。

「あまり、うちのお嬢様を甘やかさないで下さい」
「なんだ突然。俺が朽木を甘やかしすぎているとでも?」
「ええ。これではひとり立ちが遅くなります。雛をかいがいしく面倒を見るのはいいですが、千尋の谷にも突き落としてやらなくては」
「何で?こいつは子供だ。子供ってのは可愛がって甘やかして、悪いことをやったら叱ってやって、間違った道へ進まないように補助してやるものだ」
「彼女はただの子供じゃありません。朽木家の子供です」
「それが何だ。朽木は甘える場所が必要だ」
「・・・それが、あなただって言うんですか?」
「少なくとも、あんたじゃないな。あんたは朽木のために、朽木を甘やかせない」

真っ直ぐな視線で告げれば、海燕の前では珍しい執事服姿の浦原は、ため息を一つ吐き首を振った。

「あなたがお嬢様の居場所になってくれるって言うんですか?」
「ああ。こいつはもっと世間を知らないといけねぇ。その為には口利けと縁がない俺の方がいいだろう」
「───きっと、そうなんでしょうね」

寂しげに笑った浦原に、海燕はついっと眉を上げた。
目の前の男がうそ臭い笑顔を崩すことはそうない。
へらへらした表情で全てを隠す。それが海燕の知る浦原という男のはずだが、何かしら心境の変化でもあったのだろうか。
彼との付き合いは思い出すのも億劫な昔からだが、今更変わる生易しい男ではなかったと思うのに。
まあ、自分には関係ないか、と眠る少女を抱えなおした。
それは獣が我が子を護る光景ととても似ていた。

「お嬢様の魔獣が焼き餅を妬くでしょうね」
「ははっ!上手く誤魔化せよ、朽木の守護者」
「はぁ。あなたといいご当主といい厄介ごとばかりを押し付けるんですから」

肩を竦めた男は、そのまま踵を返し数歩歩く。

「───お嬢様を頼みましたよ」

ぽつりと聞こえた声に、海燕が目を丸くしていると、彼は振り返ることなく立ち去った。
随分と珍しい、というより初めて聞く『人間臭い』言葉。
その違和感をはっきりさせるには情報が少なすぎ、去った彼と同じように肩を竦めるともう一度惰眠を貪ろうと、いい香がする体に鼻を押し付けた。

拍手[12回]

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