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青嵐
--お題サイト:afaikさまより--



「お前ってさ」
「はい」
「案外、魔性の女だよな」
「はぁ?」


修兵の言葉に、目の前で暢気に白玉を頬張っていた少女が瞬きを繰り返す。
非番で重要な予定があるわけじゃないと言ったルキアの腕を引いて入った甘味処。
何となく近場の暖簾を潜ったが、そう言えばこうして日が昇る内に共に行動するのは初めてかと気がついてしまった。
夜勤明けの体を押した甲斐がある。連日の徹夜で身体的には疲れが出てるが、精神面では回復は著しい。

きょとりとつり上がり気味の瞳で瞬きを繰り返すさまは、初めて目にしたときから変わらぬあどけなさを残している。
何も知らぬ子供のような顔をしているが、彼女がどれだけ妖艶な様を見せるか知っていた。
昼と夜の差を知るものなど修兵と関係を持ってからほとんどいないだろうが、たまに隠し切れない色気を醸し出す瞬間があり気が気じゃない。
現に口元を指先で拭う仕草すらちらりと覗く艶に胸が騒ぐのに、ルキアときたらてんで無関心だ。
振り回している自覚すらない彼女は、ちゃんと修兵が告白したのを覚えているのだろうか。

ふうっと嘆息すると、白玉に齧り付くルキアにすっと顔を近づけた。


「!!?」
「───なんだ、結構美味いな」
「ひ、檜佐木副隊長殿!?」


口の端についていた善哉を舐め取ると、色白の肌を真っ赤に染め上げて睨んで来るルキアに、獲物を見つけた狼のように瞳を煌かせて笑った。



猫、猫、子猫。

小さな黒猫。

こっちを向いてと強請ってだめなら、無理やりにでも構うだけ。

拍手[5回]

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青嵐
--お題サイト:afaikさまより--



ふ、と顔を上げて空を見上げる。
夜勤帰りの青空は、目に痛くなるほど澄んでいた。
早朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでゆったりと吐き出す。
清々しい朝、とはこんな日を指して言うのだろう。

尸魂界を巻き込んでの崩玉騒ぎ。
深い爪あとも漸く落ち着き始め、死神としての生活も日常に近くなってきた。

修兵が所属する九番隊は今回の件で隊長不在となり、他の隊よりもまだ混乱が続いている。
副隊長である雛森すら倒れた五番隊に比べればマシだろうが、それでも油断ならない。
隊長と副隊長の仕事プラス編集局長としての仕事もあり連続徹夜状態で、辛くないかと問われれば返答に困る。
けれど忙しさに紛れ考えたくないことを考えなくていいという利点はあった。
雛森と種類は違うが、修兵も己の隊長を心から尊敬し、信頼していたから。

詮無いことだ、とわかっている。
己の正義を信じた彼が裏切ったなら、以前から心に決めていて曲げる気がない信念があったのだろう。
修兵が死神として戦うのを誇りに思うように、彼にも譲れぬ何かがあったのだ。
誇り高い隊長を知っているからこその妙な確信は外れていないだろう。
もっとも、今となってはそれを確認する術はないけれど。


「・・・檜佐木副隊長殿?」


戸惑うような声に、膨らんだ思考はぱちんと弾けた。
気がつけば目の前に小柄な死神の姿があり、端麗な顔立ちを訝しげに顰めた彼女は、精一杯手を伸ばして修兵の眼前で手を振っていた。
焦点が合わない近距離で振られる小さな白い手を思わず握りこむ。
取り立てて何かを考えての行為ではなかったが、捕まれた死神───ルキアは、びくりと面白いくらいに体を震わせた。
仕事着である死覇装ではなく、派手ではないが上品な小袖を纏う彼女はきっと非番だろう。
猫のように釣りあがっている大きな視紺色の瞳を忙しなく瞬きさせるルキアに、修兵はにっと笑った。


「どうした、朽木?漸く俺に口説かれる気になったのか?」
「っ!?違います!ただ、私は───」
「そうか、そりゃ残念だ。お前、今日非番か?」
「は?そうですが、それが?」
「なら、今から俺に付き合え。俺も今日はこの後休みだからな」
「ええ!?」


瞳をまん丸にしたルキアの手に、小さく音を立てて口付けた。
慌てるように引っ込んだ手に、くすくすと喉を震わす。
心配してくれたようだが、心配したと口にされるのはなんだか矜持が許さない。
男として、惚れた女には見栄を張りたいものなのだ。

目を白黒させる少女が可愛くて、小さく笑った。



猫、猫、子猫。

小さな黒猫。

可愛く愛しい君の前では、どんなにやつれても格好つけたいものなのさ。

拍手[7回]

いろは順お題
--お題サイト:afaikさまより--



うるるるるゥ グルルルゥうる


夜中に部屋に響く声で目が覚める。
原因が何かは判っているので、枕元に体を丸めて眠る存在に目をやった。

すると眉間に皺を刻み込み、鼻に皺を寄せて唸っている魔獣が一匹そこにいる。
小さな声は寝言だが、ずいぶんとはっきりとしていた。

この魔獣が屋敷に来てから一週間ほどになるが、彼は毎日寝るたびに魘される。
さすがに夢の中まで覗けないし、内容を知りたくとも彼は人語を話せないので無理だ。
恋次に翻訳を頼めばいいのだろうが、緩く首を振った姿はそれを柔らかに拒絶していた。
本性の姿でいる恋次も、タシっと前足をベッドに掛けて魔獣の子供を覗き込んでいる。


「・・・相変わらずひでぇ寝顔だな」
「貴様に言われたくないだろうがな」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だ」


狼面で器用にもむっと唇を尖らせた恋次は、瞳を眇めて睨んで来る。
しかし今更そんな顔にも慣れているルキアが怯むはずもなく、視線は鮮やかにスルーした。
恋次よりも今はこの一見子猫な魔獣だ。

ぐるゥ、ルルルぅと喉を鳴らし何度も寝返りを打つ姿は酷く苦しげで、起こした方がいいのか迷う。
しかし最近になって漸く眠れるようになったばかりなので、今は睡眠の邪魔するのは得策ではない。


「やれやれ。今日も徹夜か」
「そんなこと言って貴様昨日は太陽が昇る前に寝てたぞ」
「お前だって浦原さんが起こすまで爆睡だったじゃねぇか」


小声で争いながら魔獣の体に手を添える。
彼の悪夢は変われない。
だがその悪夢から引きずり出す手段はある。

添えた手に意識を集中すると、自分の体から魔獣の体へ力の譲渡を始めた。
魔獣である恋次ならともかく、人であるルキアが、しかも契約していない魔獣相手に魔力を分けるのは至難の業だ。
しかし恋次がいるこの状態で花太郎を出すと面倒が起こるのが目に見えているので、自分でやる方が効率いい。
物言いたげに恋次がこちらを見るが、無視して魔獣に集中する。
諦めたようにため息を吐いた恋次は、ルキアと同じように手を翳した。

二人分の魔力が魔獣に注がれる。
恋次は赤。ルキアは氷のような薄い白。
揺らぎ混じりながら体に吸い込まれていくそれを吸収するたびに、魔獣の呼吸が宥められる。

あまりの子猫の魘されように浦原に相談したら、ある種の飢餓作用と教えられ、魔力を安定させれば少しはましになると言われた。
故に毎晩彼が眠った後処置を施すのだが、器が大きいらしいこの魔獣はどれだけ注いでも果てがない。

じわり、と額に汗が浮く。
それでも止めずにいれば、恋次がとんとルキアの体を鼻で押した。


「もういい、ルキア。後は俺がやる」
「だが、貴様も毎日のことで疲れきっているだろう?」
「俺は昼間寝てるから大丈夫だ。お前は仕事があるだろ」
「でも」
「いいから、寝ろ。もうもたねぇ判ってる」


真剣な恋次の言葉に頷くと、ゆっくりと体をベッドに伏せる。
そしてそのまま掌を猫の頭へと置いた。
力を注ぐためではなく、体温を感じさせるために。

この魔獣はどうやら温もりを好むらしく、そうすると自ら擦り寄ってくる。
先程より眉間の皺がなくなった寝顔に、ルキアは小さく破顔した。


「恋次」
「何だ」
「貴様もほどほどで寝ろ」
「判ってるよ」


笑いを含んだ声で返され、ゆっくりと瞼を閉じる。
掌に感じる温もりが、早く悪夢から開放されますように。
心からそう祈りながらルキアは眠りの中へ旅立った。

拍手[15回]

泣かないで
--お題サイト:afaikさまより--

■な 涙じゃない雨粒だよ、泣いてるって証拠でもあるの【恋次】


雨の中一人で佇む姿に、恋次の心は酷く揺れた。
今日は仲間の命日だった。
今はもう二人きりになってしまったが、昔、まだ家族が居た頃の記憶を思い出したのだろう。

鈍重な色をした雨雲の下、全身を濡らした少女は背筋を伸ばして空を見上げる。
入学して配布されたばかりの新品の制服もぐっしょりと濡れていた。


「何やってんだ、お前はよ。風邪引くぜ?」
「ありがたいことにな、体だけは頑丈に出来てるんだ」


恋次の気配にはとうに気付いていたのだろう。
ふん、といつもどおりに小憎らしい顔で笑ったルキアは、先ほどまでの儚さを感じさせない。
見た目よりは確かに丈夫に出来ているのはわかっているが、それでも十分じゃない。
恋次に比べ華奢で小さいルキアの存在は、居なくなってしまうのではないかと酷く不安を煽った。


「泣いてたのか?」
「私が?何故だ」
「───泣いてないなら、いいんだ」


卑怯な問いかけだと知っている。
こう聞けば、素直じゃないルキアが是と応えるはずがない。
否定して欲しいと望んだからこその聞き方に、それでもルキアは恋次を詰らない。


「雨、止まなねぇな」
「ああ」


雨に隠さねば涙を零せない幼馴染も、いつか恋次を置いていってしまうのだろうか。


■か 渇いた頬にキスをして、濡らしてやりたかった【浮竹】


「朽木。お前はもう少し欲張りになってもいいんだぞ」
「・・・え?」


浮竹の唐突な言葉に、大きな釣り目がちの瞳で瞬きを繰り返すルキアは小動物のように可愛らしい。
思わず腕を伸ばして撫でてやりたいが、警戒心が強い野良属性だと知っている為伸ばしかけた手を握る。
甘やかそうとしても、毛を逆立てて距離を取るだけだろう。

動物には好かれる気質だと自認していたが、どうにも目の前の子猫のような相手には難しい。
腹心の部下はあっさりと手懐けていたのに、何がいけないのだろうか。
擦り寄ってくれば甘やかす用意は十分なんだが、と苦笑しながら薬の準備をするルキアを眺める。


「なぁ、朽木」
「はい」
「俺が憎いか?」


卑怯な問いかけに、ルキアの瞳はまん丸に見開かれた。
無防備な様子は子供みたいで、浮竹の相貌は少し緩む。
だが心臓は早鐘を打ち、嫌な汗が滲んでいた。


「私が、隊長を憎む?」
「ああ」
「───ありえません。感謝こそすれ、憎むなど」
「・・・そうか」


そっと息を吐き出して笑う。
憎まれる価値すらない己に、情けなさと悲しみを感じながら。

どうして責めてくれないのか。
どうして詰ってくれないのか。
潔すぎる彼女は全てを己の内へと留め、外に出すことはない。
浮竹の前では涙一つ零さぬし、不平不満を漏らさない。


「すまないな、朽木」


いきなりの謝罪に驚くルキアは、きっと謝罪の意味も判らない。
無条件に彼女を可愛がった部下を脳裏に描くと、自分とのあまりの差に息が苦しくなった。


■な 慣れない事はするもんじゃない、わたしも、あなたも【一護】


腕の中の存在は、こんなに小さいものだったろうか。
酷い混乱が心を乱し、それでも抱く手を緩められない。
何故こうなったか、どうしてこうしているのか、一護はよく理解できない。

気がつけばルキアは涙を零し、気がつけば自分は抱きしめていた。

泣かせたままで居させたくなかった。
凛と背筋を伸ばしたまま、静かに涙を流す姿が切なかった。
無意識の内に腕に閉じ込め、そうして不意に気付いてしまった。

ああ、彼女はこんなにも女だったのだと。

気付きたくなかった。
強くて儚い存在を、女として意識したくなかった。
気付いてしまえば引き返せない。
手を放したくないと望んでしまう。

そんな自分に気付かないふりをしていたのに、何故今気付いてしまったのだ。


腕の中で涙を零す麗人に、一護は唇を噛み締める。
嗚咽を殺して泣く姿さえこんなにも愛しいものなんて。

気付きたく、なかったのに。


■い 祈るように君の涙を拭う、それはただの我が儘【コン】


「泣かないで下さい、姐さん」


押入れの中、一護の耳に届かぬように、声を殺して泣く人に手を伸ばす。
ぬいぐるみの掌は、落ちる雫を吸って色を変えた。
体に染みるそれの温度をコンは確かめることすら出来ない。
それでも体を胎児のように丸めて泣く彼女を放っておくなど到底無理だ。


「姐さん、泣かないで」


小さな体に寄り添って、柔らかな頬に頬を摺り寄せる。
零れる涙すら愛しい人は、とても儚く美しい。

一護を死神にしたと、巻き込んでしまったと、後悔を抱え込むこの人は、一護の前では明るいのに、夜の帳に包まれるとたまにこうして静かに泣き出す。
知っているのはコンだけで、優越感は覚えるが、それ以上に切なくて仕方がない。

だってコンじゃ涙を止めれない。
何を告げてもどう慰めても、この人は涙を流し続ける。
泣かないでと、どうかどうか涙を零さないでと、懇願と哀願を篭めてみても、その涙は止まらない。


「姐さん」


泣き続けるルキアにそっと寄り添う。
泣いてるこの人を知るのは自分だけと、喜ぶ自分を嫌悪しながら。


■で 出来損ないの泣き顔を、わたしはずっと持て余してた【ルキア】


泣き方を忘れてしまった。

朽木の広く整備された庭の片隅でぽつりと一人で佇みながら、ルキアは住んだ青空を見上げる。
最後に泣いたのはいつだっただろう。
ああ、確か恋次に養子に行けと言われたときだ。

その時から感情は止まり、何もかもが上滑りしている状態が続いていた。

綺麗な着物を与えられた。
豪華な食事を与えられた。
身に余る地位を与えられた。
昔からでは考えられない贅をつくした生活だ。

それでも心は常に渇き、何かを求め疼いている。
それが何かすらもう忘れてしまっているのに。


ぽつり、と頬に当たった雫に目を細める。
厚い雲に覆われた空が、ついに涙を零し始めた。

冷たい雨は心を潤す。
とうの昔に埋めた何か。
掘り起こすことすら諦めた何かを、その冷たさで思い出させる。


「・・・ルキア


遠くで名を呼ぶ声がした。


「兄様」


許されているのかいないのか判らない呼び名。
それでも他の呼び名は与えられておらず、するりと口から零れた言葉に密かに心が動揺する。

何かを求めてはいけない。
与えられた以上を望んではいけない。

心に決めているのに、何故名を呼ばれるたびに疼くのだろう。


「・・・誰か」


雨音が激しくなってきた。
頬に当たる雫は大きく痛みすら感じる。


「誰か、助けて」


何を求めているか、何を望んでいるか。
忘れてしまったはずなのに。
それでも漏れる救難信号は、誰にも受け取られず儚く消えた。

拍手[12回]

いろは順お題より
--お題サイト:afaikさまより--

■ろくな愛をしらない


雨のそぼ降る空の下、見つけた『猫』はぐったりとして岩に伸びていた。
真冬であるのに寒さを凌ぐ努力もせず、ただ首を伸ばして空を見上げる姿に見惚れた。

姿形は随分とみすぼらしいもので、がりがりに痩せ肋骨が浮き出た体に、薄汚れ元の色がわからぬ毛並み。
生気のない瞳に、今生きているのが不思議だった。
決して美しい生き物ではないが、それでもルキアはそれから目が離せなかった。

薄暗い中遠めに見ていたので判別し難かったが、どうやらそれは猫のような形をしていた。
へたりと寄せられた耳に、垂れ下がった長い尾っぽ。
どうして移動しないのかと思ったが、きっと移動する体力すらないのだろう。
辛うじて上がっていた顔も伏せた『猫』は、力尽きたように岩に体を横たえる。
今にも死んでしまいそうな姿に、ルキアは我慢できなかった。
その姿は、朽木家に拾われる前の自分によく似ていたから。





屋敷に連れて帰って驚いたのは、『猫』と思い込んでいたそれが魔獣だったことだった。
ルキアと血の契約をしている恋次の言葉に寄ると、どうやら突然変異の珍しい色彩を持つ豹系の魔獣らしい。
魔獣と呼ぶのもおこがましいほど痩せこけた姿に疑念はあるが、彼が言うのなら確かだろう。
死に掛けの二人で体に力を注ぎ、魔獣は翌朝に目を覚ました。


「・・・捨ててきなさい」


ルキアの腕に抱かれた存在を認めた瞬間、教育係も兼ねている執事はあっさりと残酷な言葉を吐いた。
恋次の力で乾かしたものの、未だに薄汚れたままの魔獣が腕の中でぴくりと跳ねる。
本当は抵抗したいのかもしれないが、別けた力が体に馴染んでいないらしく、くってりと身を預けていた。
そうしていると普通の子猫と変わらず、さてどうするかと頭を悩ませていたところに、この執事はやってきた。

当たりは柔らかいが決して優しい人物ではない男───浦原は、いつもと変わりない笑顔でさらりと言う。
拒否するように腕の力を強めたら、益々胡散臭い笑みを深めた。


「いいですか、お嬢さま。あなたは朽木家の何です?」
「・・・養女だ」
「ならばあなたは朽木家の体面を護るために、下手な行動は許されません。世間に認められているとはいえ、あなたはあくまで養女でしかない。立場的に弱く、自分が保護の対象でしかないと理解してますか?あなた自身で金を稼いでるわけでもなく、生きていけるわけでもない。それなのにこれ以上抱え込むつもりですか」
「・・・・・・」
「この家の主はあくまで朽木白哉です。お嬢さま、あなたじゃありません。それなのに、不審な生物を勝手に屋敷に連れ込み、尚且つ自分の部屋に匿うなど、他の面々に知られたらどうなると思います。あなただけじゃなく、ご当主の立場にすら傷が付くかもしれないんですよ」


浅慮だと責める浦原に、反論の言葉は何一つ浮かばない。
唇を噛み締め俯く。
だが放っておけなかった。
何も望まぬようでいて、何かを渇望していたこの魔獣を、見捨てるなど出来なかった。

どうしようもない気持ちで俯いていると、腕の中の魔獣が身動ぎした。
ルキアの腕に爪を立てると、怯んだ瞬間腕の中から抜け出す。
よたよたとした調子で、出窓へと向かうと、置いてある花瓶の横へジャンプして飛び乗った。


「んなぁ」


がりりがりりと窓に爪を立て鳴く姿は、ここから出て行くと言っているようだった。
どうやらこの魔獣はまだ人語すら操れない子供らしく、ジェスチャーで必死に伝えようとしている。


「あの子供の方があなたより状況を判ってるようですね」
「っ」


心無い言葉に、理性より感情が先走った。
振り上げた手が吸い込まれるように浦原の頬へと向かう。
ぱちん、なんて可愛らしいものではなく、ばちん、と遠慮ない音が響いた。
小さな楓が出来上がった浦原に満足すると、口の端を持ち上げる。


「あやつは私と契約させる」
「・・・お嬢さま?あなた、何言ってるか判ってるんですか?」
「判っているとも。朽木の体面を考え、尚且つお兄様の顔を汚さず、あやつを傍に置く方法。契約すれば全てが満たせるだろう」
「ですが、三匹以上の契約魔獣を持つということは、あなたの将来が限定されるということです。お嬢さま生活を満喫するだけじゃダメなんですよ」
「判っておる。どうせ、恋次と花太郎がいるだけで普通は破綻したも同じだ。ならば、あれ一匹を引き込んだところでさして変わるまい」
「その場限りの感情に流されてるのならやめなさい。聞かなかったことにしてあげます」
「無理だな。私の心は定まった」


先ほどまでの胡散臭い笑顔を消し、真摯な瞳を向けた浦原を睨む。
窓際で唖然としてこちらを見ていた魔獣を抱き上げると、汚れたままの頭を撫でた。

オレンジ色の瞳がまん丸になって、縦長の瞳孔が開いている。
その様はやはりそこらの子猫と変わらず、ルキアは小さく笑った。
ぼさぼさの毛並みに頬を寄せると、痩せた体をゆっくりと撫でる。


「誰も迎えに来ぬなら、私と共に居ろ。碌な人生は歩まないだろうが、それでもお前を大事にすると誓おう」
「・・・んな?」
「一人は寂しいだろう。私もずっと一人だったから、お前の気持ちが良く判る。お前を欲するものが誰も居ないのなら、私がお前を望もう。───ずっと、私と一緒にいよう?」
「っ」


ひくり、と魔獣の喉がなる。
尻尾がびんと立ち上がり、ぶわっと毛並みを逆立てた。
驚きすぎた様子がおかしくて、ルキアは益々笑みを深めた。


「私と一緒に生きていこう」


きょときょとと瞬きを繰り返す魔獣は、おずおずした仕草でルキアを見上げると、こてり、と小首を傾げた。

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