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自分の生活環境はそれほど恵まれたものではないと神楽は知っている。
中国の山奥に暮らす特殊一族の末裔。
人の出入りすら稀な地域で神楽は育った。
家族構成は父母兄自分。一般的なものだと思う。
母親が病弱だったのも、父が出稼ぎに出ていたのも、それほど珍しいものではなかっただろう。
ただ少しだけ兄がとんでも反抗期で、父が家に立寄らず、死に掛けの母を年端もいかない神楽独りで面倒見ていた部分だろうか。
気が付けば神楽は独りだった。




「───何の用アルか」

苛立ちを含んだ冷たい声。
分厚い瓶底めがねの奥から鋭い視線で睨み付けた相手は、ひょいと肩を竦めると唇を持ち上げた。
神楽より頭一つは優に高い男は、近隣でも有名な不良高校の制服を着ている。
飄々とした顔で笑っているが、彼がとでもない食わせものだと、本当に心の奥底から嫌だと思うが知っていた。
無精ひげを伸ばしむさ苦しい髪形をした男───阿伏兎は、眉を下げて笑った。

「おいおい、随分つれねぇ反応じゃないか。もう少し優しくしてくれてもいいんじゃない?」
「何で私がお前に優しくしてやらなきゃいけないアルか。優しさが欲しけりゃそれなりの見返りが必要アル。お前なら・・・そうネ、酢昆布百年分で一分間の優しさをくれてやるアル」
「酢昆布百年分って一年分の消費量が判んねぇよ。夜兎族の生き残りであるお前の消費量は半端ねぇだろうが?それでもたった一分間か?」
「当然ネ。そもそも知り合い未満のおっさんと話してるだけでもありがたいと思うヨロシ」

苦虫を噛み殺した表情で嘯く神楽に阿伏兎はうっそりと嗤う。

「そんなに警戒しなさんな。俺はお前に何もしねぇよ」
「───信じられないアル」
「哀しいねぇ。数少ない同胞なのに、随分とつれない態度だ」
「欠片も悲しんでないくせに悲しむフリはやめるアル。うっかり足が滑っちゃいそうネ」

強く睨めば何が楽しいのか彼は益々笑みを深めた。
この男は神楽にとって心安らげる存在ではない。
彼は、銀八やZ組の生徒とは違う、危険な香がぷんぷんと漂ってきた。
争いを好み、力で上下を決める、弱者を好まない排他的な人間の放つ腐敗臭は神楽は嫌いだ。
どれだけ穏やかな雰囲気を纏い擬態しようとも、同じ一族だからこそ神楽は騙せない。

「さっさとご主人様のとこに帰るヨロシ。私はお前らと馴れ合う気はないネ」
「俺は、同胞とは仲良くしてぇんだけどな。共食いは嫌いなんだ」
「ならさっさと失せるヨロシ。私は『そっち』には行かないアル」
「・・・もったいねぇな。お前さんほど才能がある奴は同族でも少ねぇんだぞ?」
「関係ないネ。私は喧嘩に明け暮れる青春を送る気はないアル」

つん、と顎を反らせば微かに苦笑した気配が伝わってきた。

「平和主義の夜兎なんて聞いたことないな」
「放っておくアル。私はマフィアにも華僑にもやくざにも興味ないネ。私は将来白馬に乗った王子様に首輪つけて飼い殺すアル。左団扇でがっぽがっぽヨ」
「・・・・・・自力で成長したのなら、多少の性格の歪みは仕方ないもんだろうな」
「余計なお世話アル!このまだ高校生でありながらダイオキシンにも勝る加齢臭を発するおっさんもどき、略してマダオが!」
「そんな無理して略さなくてもいいだろうが」

瓶底めがねの奥から睨む神楽に、降参とばかりに両手を挙げた阿伏兎は肩を竦めると踵を返した。
未だに高校の制服を纏う二つ年上の男(細かいところは突っ込んでいけない)は、踵の潰れた靴を引きずって歩く。
漸く去っていく姿に、それでも警戒心を緩めず睨んでいると、不意に立ち止まり顔だけでこちらを見た。

「また、来るわ」
「もう来るな!」

何か投げつけるものはないかと探したが、整理された路面には残念ながら石礫一つ落ちていなかった。
歯噛みする神楽にゆったりした笑みを浮かべると、今度こそ男は去っていった。
ただの知り合い以下の存在だが、やはり彼は苦手だと、鞄から出した酢昆布を噛み締めて器用に唇を尖らせた。

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