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行ってらっしゃい、きっとこの腕の中にお帰りなさい
--お題サイト:afaikさまより--


子供はいつだって容赦ない。
経験の少なさからどの道を選ぶか躊躇いがないし、思い切りもいい。
いつしかそんな行動を青いといい、後ろを振り返らないでいられなくなった銀時は、子供のそんな行動を眩しく思っていた。
諦めを覚えるのが大人になるということじゃないけれど、死んだ魚の目など似合わない子供がそれを覚えるのはまだずっと先で良い。
少なくとも、旅立ちのこの日に湿っぽい空気は似合わない。

来たときと同じ紺色の番傘を片手に父親とお揃いのマントとヘルメットをした少女は、その姿を誇らしげに胸を張るとにいっと笑う。
愛らしい顔に不似合いなそれはけれどいかにも少女らしいもので、この生意気な態度すらこれからは懐かしくなるのかと思うと感慨深いものがあった。
銀時の生活に文字通り土足で上がりこんできたクソガキは、狭い地球から飛び出て宇宙へと活躍の場を広げる。
小さい見た目をしながらも大きな器を持つ彼女には、世界を股にかける生活はきっとあっているだろう。
幾年もしない内に彼女の名は宇宙に広がるに違いない。
そうなったら、テレビに出てるあいつは昔俺んとこで面倒見てやってたんだと、魔女の出てくる名作映画でデッキブラシを貸してやったと嘯くおじさんのように通行人に訴えるのもいいかもしれない。

「じゃーな、マダオ。私が居なくなっても元気にやるヨロシ」
「じゃーな、クソガキ。宇宙行ってまで酢昆布広めるんじゃねぇぞ」

酷く可愛げのない口調で、今生の別れになるかもしれないのに素っ気無い態度。
けど、これでいい。
彼女───神楽との別れは、これでいい。

銀時の居場所は、神楽の止まり木。
いつか空を飛ぶのに疲れたとき、彼女はまた銀時の元へと帰ってくる。
そして疲れが癒えたなら、彼女はまた飛び立つのだろう。
それはとても神楽らしい生き方で、この関係は一生ものに違いない。
だから銀時は笑って見送る。
ここに居場所はあるのだと、自分はどこにも行かないと、宇宙へ羽ばたく神楽が納得するように。
いつだってここに止まり木はあると、自分は微塵も変わらないと、どこにだって行って来いと背中を押して笑ってみせる。

「宇宙にでっかい華を咲かせて来い」

頬を指先で擽ると、心地良さそうに目を細めた子供は首を竦めて笑った。

「当然ネ!こんなちっさい星からでも、仰げるでかい華になるアル!」

惜しむべきは華を咲かせる瞬間を、見逃してしまうことだけだ。
今はまだ蕾の少女が美しく咲き綻ぶ未来を想い。

「害虫は連れてくるなよ。銀さん、駆逐する気満々だから」
「?判ったアル。虫は駆除してから帰るアル」
「───おう。そうしろ」

ぴん、と秀でた額を指先で弾く。
『帰る』と告げられるだけで、それだけで大丈夫だ。
神楽はどれだけ時間が掛かろうと絶対に『帰って』くる。
その時の成長が楽しみで、ほんの少しだけ寂しい。

「行って来い、神楽」
「うん!行ってくる、銀ちゃん!」

こちらを振り返らない背中が愛しく嬉しい。
子供の成長を見守るのが大人の務めだとして、大きくなる背中に幸せと少しばかりの切なさを感じる自分は確かに年を取ったのだろう。
再会へのカウントダウンを早々に開始して、ターミナルから飛ぶ船を気分よく見送った。

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