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いつか どうしても 悲しいときに
--お題サイト:afaikさまより--
*4部作です。


■い  一番近くが無理だったときは

「行くの、リボーン?」

黒衣の死神との呼び名通りに全身を黒で決めた元・家庭教師に声をかける。
ボルサリーノにクラシコイタリアのスーツ。
均整の取れたスタイルに、一瞬で目が奪われる絶世の美貌。将来どころか赤ん坊の時分から女泣かせな彼は、自身の魅力をきっちりと理解している。
自分よりも身長は低いくせに、身に纏う雰囲気は老獪で油断ならぬもの。

黄のアルコバレーノ──殺し屋リボーンは、子供らしくはないが反面とても彼らしいニヒルな笑みを口元に刷いた。

「何だツナ。寂しいのか?」
「何馬鹿な事言ってるんだよ。そうじゃなく、俺が言いたいのは───」
「一丁前に俺の心配か?お前が?この俺を?」

器用にも綱吉より背が低いはずのリボーンは、下から綱吉を見下した。
小馬鹿にした様子は余裕たっぷりで、何の心配も必要ないと、どころかそれは侮辱にしかならないと言外に告げている。
しかしそれは上辺だけのものでしかないと綱吉は知っているし、誰よりリボーンが理解しているだろう。

徐々に横行し始めたミルフィオーレによるマフィア狩り。
規模は段々と大きくなり、新興勢力であったはずのそれは、ついに大御所のボンゴレにまで手を出すようになっていた。
始めはこちらが有利に進んでいたはずの戦いの、異変に気づいたのはいつだったか。
目の前の少年に鍛えられた超直感が絶えずアラームを鳴らし、迫る危機の大きさに油断ならないと本能が叫ぶ。

綱吉と違い目の前の少年には超直感はないが、彼とてその長年の経験で悟っているはずだ。
今回の敵は、今までに類を見ない凶悪で凶暴なものだと。
気を抜けば喉元を食い破られるのは綱吉率いるボンゴレで、マフィア界一のファミリーすら存亡は危ういと。

アルコバレーノの強さは綱吉自身よく知っている。
リボーンを筆頭に彼ら虹色の冠がつく赤ん坊を十年近く見てきたのだ。突出した強さは自分が敵うものではなく、歴然とした差があった。
それは一生を懸けても埋まらない溝で、だからこそ綱吉は誰よりアルコバレーノを恐怖する。
赤子の首を捻る容易さで彼らは自分を殺す事が出来る。それくらい、個々の能力は秀でていた。

けど、それでも。
彼らの強さを知っているはずの綱吉なのに、頭の中の警報が鳴り止まないのだ。
赤い点滅を繰り返し、彼を止めろと全力で訴える。
綱吉の直感はまず外れない。
これを鍛えたのがリボーンである限り、外れないのだ。

「リボーン」
「・・・俺を心配だなんてふざけた言葉を吐くなよ、ツナ。お前が心配するのは俺のことじゃねぇ。お前のファミリー、守ってやる家族のことだけだ」
「けど」
「俺を失望させるな、ツナ。俺はお前を何処に出しても恥ずかしくない十代目に育てたはずだ。お前を育てた俺を信用出来ないか」
「───その聞き方は卑怯だリボーン。俺には一つしか答えが用意されてない」
「当然だ。俺を誰だと思ってやがる」
「黒衣の死神、黄のアルコバレーノ。最強の殺し屋で、俺の最高の家庭教師だ」

迷わず告げれば満足げに頷いたリボーンは、綱吉の制止も聞かずにさっさと背を向けた。
もうリボーンは決めてしまったのだ。
ならば綱吉が何を言っても止まらない。止められない。

体の脇で拳を握ると、深く深呼吸を繰り返す。
どうにかして心を静め、随分と距離が開いた元・家庭教師に向けて声を張り上げた。

「リボーン!」
「・・・・・・」
「絶対帰って来い!家族と一緒に待ってる!」

精一杯心を込めて叫べば、振り返りはしなかったが応えるように片手を上げた。
自分よりも小さくて、遥かに大きい背中を見詰め綱吉は唇をかみ締めた。




■つ  月はめぐる、星もめぐる、君だってきっと

「・・・協力しよう、綱吉君」

中学時代に知り合った懐かしい男の言葉に、綱吉は瞼を閉じた。
相手は今尚勢力を拡充し続けるミルフィオーレの幹部の一人。
信じるには危険で、リスクが高い男だった。

ドン・ボンゴレである自分の領域で、供も付けずに居座る彼を目を細めて観察する。
確かに嘗ては交流があった男だが、彼を信じても良いか、情に流され判断できる立場にない。
綱吉の肩にはボンゴレに所属する家族全ての命が乗っており、自己の甘い判断により彼らを危険に晒す真似は絶対に出来なかった。
それは己の信条に反するし、自分を育ててくれた元・家庭教師の教えにも背いたものだ。
閉じた瞼の裏で間黒衣の死神を思い描き、振り切るように息を吐く。

先日出て行ったリボーンは、一週間経った今でも帰ってこない。
嫌な噂ばかりが出回り、綱吉自身その噂を否定する要素を何一つ持ってなかった。

曰く、黒衣の死神リボーンは、ミルフィオーレにより斃れた、と。
信じたくなくて信じないための証拠を集めるために情報を探した。
しかしながら手元に来るのは全て噂を真実と知らしめるためのものばかりで、状況的証拠だけの情報だけだったとはいえ彼の生存を確認できるものは何もない。
それがまた綱吉を苛立たせ焦りを募らせたが、本当は判っていた。

数日前、突如脳裏で超直感のアラームが強く鳴ったと思った瞬間、胸の奥深く、心の一部が削げ落ちたような空虚な感覚が身を襲った。
自分自身が欠けてしまったように空ろな部分は埋まらず、日々焦燥で心が焼け落ちそうだ。
苦しくて切なくてもどかしくて仕方ない。それなのに失ったピースを求めても、世界の何処にもないのだと直感が知らしめる。
何より信じられる自分の超直感を鍛えたのは、何より信用していた家庭教師だった。
それはつまりそういう意味だと、綱吉は悟るしかなかった。

「僕は世界を破滅に導く彼らを止めたい。その為の方法もずっと考えてきたし、未来を変える手段を開発した。こうなったのは僕の所為だ。───身勝手な頼みだと知っている。それでも、君にしか出来ないんだ!お願いだ、協力してくれ綱吉君!!」

全身で訴えかける彼───正一に、嘘はないように見えた。
そして彼が告げる計画の内容は綱吉にとって魅力的で、自分が考えたどの手段よりも一番勝算が高い気がした。

『未来を変える』

そうすれば失われた何もかもを取り戻し、尚且つ彼の告げる正常な道へと時間軸を戻せるのだろうか。

瞼を閉じれば、自信に満ちたニヒルな笑顔。
誰よりも何よりも信じる、最強で最凶な人の姿。
もしも、未来が変えられるなら、それは綱吉にとって何よりも大きな誘惑である。

『俺を失望させるな、ツナ』

それでも楔になる言葉がある。
自分の欲求だけでなく、何を標とすべきか綱吉の根本に叩き込んだのも彼。
彼に失望されるのは、命を失うよりも恐ろしい。
だから。

「───考えさせてもらう。俺にとって、それが第一の手段ならば、俺はお前の手を取ろう」

ドン・ボンゴレとして最良の道を選択せねばならない。
例えそれが、もう二度と彼と見(まみ)えることがない人生だったとしても、彼に恥じない生き方をしたい。
ファミリーを守るのは綱吉の本能に近く、その為なら自分を売るのも容易だ。
だが落ちぶれても自分は『ドン・ボンゴレ』。
その命の価値を安売りしたりは決してしない。

もし、もう一度彼に見えた時に胸を張って笑えるように、自分の命すら駒の一つとして使おう。
最良の瞬間に、最高の使い方を。

家庭教師に教え込まれたボンゴレの帝王の笑みに、喉を鳴らした敵勢力の幹部の案が本当に良策か。
判別するために一番必要な人物を、脳裏に幾人かリストアップした。



■か  かたっぱしから思い出して笑えるような

混じりけない綺麗な金色の髪を月夜に照らす青年に、綱吉はくすりと笑いかける。
ボンゴレにとって不利な状況になりつつあるのに、王子を自称する彼の余裕は崩れない。
彼がボスと仰ぐ男の裁量を信じているのか、それとも絶対の自信を持つ自分の実力故なのか。
少なくとも綱吉が『ドン・ボンゴレ』であるからなどと欠片も考えないだろう彼に、心が僅かに解れた。

「また、報告書は略式?」
「うししし、何か文句ある?」
「そりゃあるよ。どうせ此処まで来るんだから完璧なものを持ってきてくれれば手間が省けるのに」
「やだね。何で俺がそんな面倒なことしなきゃなんないの?」
「ベルがこの仕事の担当責任者だからねぇ。求めて当然じゃない?」
「俺は報告書なんて書かなくてもいいの。そんな地味な作業はスクアーロがやるっしょ。俺には事務仕事は似合わないし。だって俺、王子だもん」

いつもどおりの決まり文句に、思わず破顔してしまう。
彼は何処まで行ってもゴーイングマイウェイで、悪気がない行動は大層迷惑なものなのに、いっそ笑えるくらいに清々しい。
今も『俺、王子だし』の理論で書類を押し付けられたスクアーロの憤怒が目に浮かぶ。
ヴァリアー一苦労性の彼は、怒り叫び喚きながらも何だかんだで書類をきっちり片付けて提出してくれるだろう。
独立暗殺部隊のナンバー2とは思えない扱いだが、それがスクアーロなのだと今では言えてしまう。

人に仕事を押し付けたくせに、何故か毎度提出しなくてもいい『簡易報告書』はきっちりと自分の元へ持ってくるベルフェゴールも、可愛いと言えば言えなくない。
馬鹿と天才は紙一重だと良く聞くが、まさしく彼はそれを体現している。
自分の興味を擽る事に関しては欲求が深いくせに、関心がないことにはいっそ潔いほど無欲だ。
綱吉より年上のはずだが、子供みたいな無邪気な一面を知ってしまったから、綱吉は彼を心の底から拒否出来なくなってしまった。
昔は獄寺を瀕死の重傷まで追い込んだ彼に恐怖しか覚えなかったのに、随分と図太くなった神経に自分でも呆れる。
けれど彼と付き合おうと思えば普通の神経では絶対に無理なので、丁度いいのだろう。

「報告、ありがとう」
「ししっ、感謝してよ綱吉。この俺が態々持ってきてやったんだから」
「うん、感謝してるよ。さすがベル」
「うししし」

率直に誉めれば首を竦めた彼は嬉しそうに声を上げた。
ある種素直な彼は、自分の嵐の守護者と少しばかり似ている部分があり、年上なのに可愛いと思えた。

「さて、今日のお仕事は終わりです」
「じゃ、王子も部屋に帰ろーっと。明日はオフだから遊びに行くし」
「そうですか。じゃあ、お土産お願い。ドルチェセットで宜しく」
「王子に頼みごと?ま、いいけど」

機嫌よく踵を返す彼は、目立つ外見なのに徐々に闇に姿を潜らせる。
その姿が消え去る前に。

「XANXUSを頼むよ、ベル」

囁いた声が、届いていなければいい。


いつだって笑っているマイペースな彼は、きっと自分が居ない未来でも笑っているだろう。
自分の死程度で彼の笑顔は曇らぬと、信じているのか信じたいのか。
綱吉には、判断がつかなかった。

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