忍者ブログ
初回の方は必ずTOPの注意事項をご確認ください。 本家はPCサイトで、こちらはSSSのみとなります。
Calendar
<< 2025/06 >>
SMTWTFS
1234 567
891011 121314
15161718 192021
22232425 262728
2930
Recent Entry
Recent Comment
Category
1   2   3   4   5   6  
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

困ったな、小指一本あげられないとは思わなかった
--お題サイト:afaikさまより--



「久し振り、XANXUS」
「失せろ、ドカス」
「うわっ」

暢気な顔をしてのうのうと室内に足を踏み入れた輩に、手近にあった置物を握り締め全力投球する。音を立てる勢いで目標に迫ったそれは、だが残念にも目標撃破ならずするりと避けられドアに当たって砕け散った。
これが部下のカス鮫なら今の一撃は当たっていたはずだが、腐っても鯛かと彼の国の諺を思い出し益々苦い気分になる。
苛立ちに紛れさらに手元にあるあれそれを投げたが、一つもヒットするものはなく余計にXANXUSを苛立たせた。

情けなく眉を下げ瞳を細めて笑う男は、真っ白なスーツに締められた濃い色のネクタイを指先で整える。その男が誰であるか、XANXUSは良く知っていたが、敬意を表す気など欠片もない。
自分より頭一つ分は低い位置にある琥珀色の瞳を下から覗き込むなど奇異な経験だと思いながら、近づくその男を睨んでいた。

「よくも、のうのうと俺の前に顔を出せたな」
「あれ?何か駄目だった?」
「カッ消すぞ、ドカス」

銃のセーフティを外し照準を男───綱吉の額の真ん中に定める。引き金を引けば終わり。しかも持ち手は残虐で有名なXANXUS。
それなのに余裕の態度を崩さない彼は、ぴくりとも揺れない瞳でXANXUSを眺める。

「逃げないのか?」
「逃げる必要があるの?」
「俺に聞くな」

昔は貧相な子供だった。今も華奢だが、それとは違う次元で小さかった。見た目も軟弱だが中身も軟弱で、XANXUSを見上げては涙目で震える、そんな弱い子供だったのに。
いつの間に、彼は真っ直ぐXANXUSの目を覗き込むようになったのか。どれほど憤怒を籠めようと、どれほど殺気を込めようと、綱吉は正面から全てを受け止めるようになった。XANXUSより一回りは小さな体で背筋を伸ばし、凛とした雰囲気を纏う男になった。
綱吉に負けた事実は今でも屈辱としてXANXUSの中に残っている。彼が隙を見せれば容赦なく喉笛を噛み千切る用意はあるし、殺すのに躊躇いはない。
それをしないのはひとえに綱吉がXANXUSの野望を忠実に実行するからで、だからこそいつでも殺せる彼を今でも生かしてやっている。
認めがたいが、綱吉以上にXANXUSの心を理解できる存在はいない。すぐにでも殺してやりたいが、利用価値を見出せるほど彼の存在は大きい。

綱吉はXANXUSの忠実な部下ではない。忠誠心の厚さでスクアーロに劣る。容赦ない殺戮手段でベルフェゴールに劣る。忠実さではレヴィに劣る。狡猾さではマーモンやフランにも劣る。残酷さではルッスーリアにも劣る。
XANXUSの傍に居る事すらしないくせに、そのくせふと気が付くと寄り添っている。
気に喰わない男だ、沢田綱吉は。

「俺に殺されない自信があるのか」
「そりゃ、なけりゃ間抜けに突っ立ってないでしょ。俺だって若い身空で死にたくないし」
「・・・言っておくが、引き金を引くのに躊躇はない」
「知ってるよ。俺と違ってそんな甘さを認めないのがお前だからね。だからこそ、俺はお前に何も残さなくて済む」
「お前が俺の為に何か残すなら、全部カッ消す」
「あはは!そりゃいい。もし俺が死んだなら、お前は俺の為した何もかもをぶっ壊して俺の場所に立てばいい」
「───馬鹿にしてんのか?」
「本心だよ。俺の色に染まったものは、お前には似合わない」

いつの間にか、目の前の男は軟弱さをかなぐり捨て覇王の気配を纏っていた。
瞳の色が濃くなり口角がゆるりと持ち上がる。伏せ目がちの瞳は油断なく光り、爪を研ぐ獣のような鋭さが生まれた。
ぞくり、と背筋を駆け上るのは、快感にも似た拒絶。この存在を頭から喰らい殺したいと願う自分と、そのまま眺め続けたいと望む自分が対立し、暫し迷った後仕方なしに銃口を下げた。

「もういいの?」
「───煩ぇ。今、消されたいのかドカス」
「いやいやいや。奇跡の生還ってのをしたばかりだから、今すぐは遠慮しておくよ」

ひらひらと手を振り笑った綱吉は、年よりも随分と幼く見えて、そのくせ酷く喰えない雰囲気を醸し出した。あの子供がここまで化けるとは昔は思わなかった。家庭教師がアルコバレーノだったとしても、元の素養がなければ無理だっただろう。
だがこうでなくてはいけない。この喰えない糞餓鬼はこのままでなければいけない。殺しても容易に死なない、化け物じみた存在でなければいけない。

「そろそろ帰るよ」
「結局何しに来たんだ、貴様は」
「何って・・・顔を見せに」
「・・・・・・」
「俺に会いたかったでしょ?」

にっと悪戯っぽく笑う綱吉に、今度こそ迷わず銃を発砲した。
甲高い破裂音が響き、影を打ち抜く。憤怒の炎こそ出さないものの、手加減抜きで狙い撃ちした。それなのにいつの間にかちゃっかりと重厚な扉の影に隠れた彼は、傷一つないまま笑顔を向ける。
腹立たしい。本気で狙ったのに未だにぴんぴんしてる綱吉が。苛立ち、憤怒に似た何かが腹の底から湧き上がるのに、同時に酷く高揚している。

「じゃ、XANXUS。これからも宜しく。あ、仕事の割り振りはお前の机の上に今置いといたから、確認しておいて」
「ふざけるな、ドカス。勝手に置くな」
「ちゃんと破くのも見越してスクアーロの分も用意してあるから無駄だよ。精々ボンゴレの為に身を粉にして働いてくれ」

チャオと彼の元・家庭教師を髣髴とさせる挨拶をして扉を閉める姿が見えなくなり、完全に気配が消えるとどかりと椅子に腰掛けた。

「お前が死んだら、何もかもぶっ壊してかっ消してやる。お前が残した何かなんて、俺には必要ねえ」



くつり、と喉を震わせながら密やかに呟く。
彼がドン・ボンゴレとして君臨し続ける今にこそ意味がある。
死骸は不要だ。残りカスすら必要ない。
目の前に立ち塞がる邪魔者が最強であるために必要だというのなら───彼は死んでも生き続けなければならない。
金も権力も人脈も───何も残す必要なんてない。
生きて最強で居続けることこそ、XANXUSが彼に課した義務なのだから。
最強の象徴である男の帰還に、緩やかに口の端を持ち上げた。

拍手[18回]

PR
うきぐもポケモン -ヌーヴォラ- :雲雀
タイプ:かくとう、エスパー
性格:きまぐれ
個性:まけずぎらい
とくせい:かたやぶり、すりぬけ

【説明】
しんかポケモンミナライからの進化系。曇りの日にするどいツメを持たせてレベルアップさせることで進化する。独特の思考回路を持ち、常に強さを求める。規律に厳しく上下関係を敷き、自身の縄張りでは独自の組織を成形する。作ったルールを守らない者は制裁対象になる。カリスマ性に優れ恐怖と同時に憧れの目でも見られる。束縛が嫌いなので滅多に人間に連れられているところを見ない。ヌーヴォラを捕らえたトレーナーは運がいいが、扱いは要注意。




綱吉は追い詰められていた。
目の前には楽しげに己の武器である爪を輝かせた雲雀に泣きたくなった。
助けてもらおうときょろきょろと視線を彷徨わせるが、高低差を利用するために平地の所々に土が盛られたフィールドには自分と彼しかいなく、唯一ある人影はトレーナーのリボーンのみ。


「チェー、リ」


白線の外で腕を組みながら意地の悪い笑みを浮かべるリボーンに、おずおずと声をかけてみたが、ふんと鼻で哂われた。
無駄に長い足を組みかえると、小馬鹿にしたように肩を竦める。


「言っておくが、雲雀が満足するまで戻す気はねえぞ」
「ヂェ!ヂェヂェヂェヂェリ!!」
「お前はどうにもやる気が感じられねぇからな。荒療治だ」
「ヂェー!!」
「雲雀は本気だぞ。満足させられなきゃ噛み殺される。雲雀、手加減はするなよ」
「ヌーヴ」


鋭い爪を光らせていた雲雀が、ゆるりと口角を上げた。
ぞくり、と背筋に嫌な寒気が走り泣きたい気持ちになる。
うきぐもポケモンの雲雀は、戦闘では綱吉と相性が悪い。
属性がかくとうとエスパーの彼には、ご遠慮願いたい特性がついていた。


「ヌーヴォ!!」


声と同時に気配がぐんと近づく。
並外れた脚力を有する雲雀は、地上から数メートルあるこの場所にも一息で飛べてしまう。
慌てて空へ逃げようとしたが、行動を起こすときにはもう眼前には彼の姿があった。

何もかも飲み込むような漆黒の瞳が綱吉を見定め、すっと細められる。
全身の毛を逆手に撫でられるような悪寒に、慌てて力を解放した。


「チェーリ!」


目の前に展開されたのは、リフレクターという技。
物理攻撃を半減する力だが、発現させた瞬間に後悔した。


「ヌヴォ」


雲雀の唇が弧を描き、鋭い爪が繰り出される。
勢いの乗った攻撃は、綱吉の技をすり抜けて直撃した。


「チェー!!」


目尻に鋭い傷が入り、溢れる血に視界が邪魔される。
羽を広げて空中へとホバリングすると、ぷるぷると恐怖に体を強張らせた。

死ぬ。むしろ殺される。

鼠を追い詰めた猫のように瞳をきらめかした雲雀から逃れようと空中を羽ばたくが、無駄に動きがいい彼は土で出来た壁を蹴り追ってくる。
どう考えても次回のマーモン戦で彼が出ればいい。
強者とやりあうことが好きな雲雀なら嬉々としてXANXUSを『咬み殺す』だろう。

涙目で逃げながら、視線を下方へやれば、ひらひらと手を振りながら輝かんばかりの笑顔を浮かべる相棒の顔。


「ヂェリー!!!」


迫り来る破壊者から死ぬ気で逃げ続ける綱吉は、この瞬間本気で己の不運を嘆いた。

結局特訓と称した甚振りは半日もぶっ通しで続き、食事時に疲労困憊した綱吉に隼人がぶちきれてひと騒動起こし、筋肉痛でぐったりとした綱吉はそんな彼らから非難しているところを、面白がった骸につんつんと突付かれた。
身に染みるような筋肉痛の恨みは、当分綱吉の心に刻まれた。

拍手[3回]

世界の、中心ではないけれど、芯だったとおもう
--お題サイト:afaikさまより--



「・・・ボスっ」

久し振りに生気の通う彼を見て、ぼろりと隻眼から涙が零れる。
男性にしては華奢な体つき。しなやかな肉食獣のように筋肉はついていても、ごつくない印象の彼は、白のクラシコスーツを身に纏い、覚えている通りの笑顔を見せた。
情けなさと紙一重に眉を下げ、琥珀色に瞳を細めて唇がそっと孤を描く。
慈愛に満ちた表情は聖女を彷彿とさせるが、彼が背負う業は暗くて深い。

骸とは違った意味で特別な人は、確かな体温を持って迎えてくれた。

「ただいま、クローム」
「・・・おかえり、なさい」

ゆっくりとした仕草で頭を撫でられ、髪を梳く感触に瞳を細める。
彼の所有するリングの銘と同じで、何もかも抱擁する空気を持つ綱吉に身を預けるのに躊躇はない。
尊敬する骸が憎むマフィアの中でも頂点に立っているといって過言じゃない彼は、それでも髑髏の信頼するボスで、若いけれど大家族ボンゴレの父親である人だった。

髑髏は肉親の情が薄い家庭で育った。
そんな自分にとって、家族より家族らしい温もりをくれるのが骸であり千種や犬であり綱吉だった。

骸が時折綱吉に対し皮肉交じりの憎悪を向けているのを知っている。
ありとあらゆる負の感情を向けつつ、それでも彼が綱吉の傍を離れないでいるのも知っている。
複雑な想いを抱きながら、彼の傍を離れようとしない骸の感情は読めない。
ただ一つ判るのは、骸が綱吉にしか見せない一面を持ち、大空の銘を持つ綱吉はどんな骸でも受け入れてくれるという事実だけ。
髑髏は骸の心の影響をダイレクトに受ける。けれど胸に宿る暖かな想いは彼のものじゃないと断言できた。

きゅっと首に腕を回してしがみ付く。
付き合う年月で広がった身長差。痩身でありながらしっかりとした肩に額を預け、スーツに染みがつくのも気にせず泣きじゃくる。
生きていてくれて嬉しかった。失う絶望を知るからこそ、彼が引き寄せた運命に感謝した。
白い献花に埋もれるようにして手を組む姿は瞼に焼き付いている。
限りなく金色に近づいた薄茶の髪との対比が鮮やかで、青白く蝋人形のような肌が目に痛かった。
蕩けるような琥珀色の瞳がケーキを前にして煌く様や、滑らかなテノールが恋しかった。

髑髏とてマフィアの端くれだ。
ドン・ボンゴレに仕える守護者の一員として、敵対勢力と戦ったことはある。
他の守護者の面々に比べて闇に近い部分は見ていなくとも、自分と交代して出撃する骸の反応でその存在は敏感に察していた。
マフィアである自分たちは優しいだけじゃいられない。
血塗られた日の当たらない道を一生涯歩むと知りながら、ドン・ボンゴレと添うと決めていた。

だからこそ、彼が死んだ事実は受け入れられなかった。
あれほど敵に憎しみを抱いたのは初めてだ。
殺してやりたい、と心から憎悪した。あんな強い感情が自分の中にあると思っていなくて、驚き戸惑いながらも衝動を堪え切れなかった。

「・・・あーあ。こっちに来て守護者に泣かれるのは四人目だ」
「四人目?」
「そう。ランボは言わずと知れてると思うけど、獄寺君と、ちょっと意外なとこでは山本」
「・・・あの二人が」
「まあ獄寺君にしても予想の範疇だったけどねぇ。保険を掛けておいても生きてるか心配だったくらいだし、号泣する姿にちょっと安心したんだけどね。山本は少し驚いたな。正直反応が読みきれない部分があるからどうなるかな、って思ってたし。少しばかりバイオレンスなお出迎えだったけど、溜め込むタイプだから吐き出してくれて結果的に良かったんだろうね」
「そう」

想像して、どちらもなんとなく納得できた。
綱吉に心酔する獄寺は、身も世もなく泣きじゃくったことだろう。
他の誰に対しても鉄壁を誇る彼の心へのガードは唯一綱吉の前ではないも同然。
文字通り心臓を握りこまれても笑っているんじゃないかと思える、狂気一歩手前の忠心を誓っていた。
けれど綱吉の言葉に反して、山本に対してもそれほど意外性は感じれなかった。
山本は感情を殺すのが上手い。憤っていても殺意を抱いていても、手を出す瞬間すら笑顔で居られる人種だ。
一度彼が笑いながら裏切り者を始末するのを見たが、仲間でありながらも背筋が震える恐ろしさを感じた。
感情の均衡を崩しがちな山本は常に不安定だ。本当の笑顔を見せる面々は限られているし、身内にも外にも恐れられている人物だった。
闇に引きずり込まれる寸前で踏みとどまる彼の手綱も綱吉だろう。
そんな彼だからこそ何をしでかすか判らないし、綱吉の前で感情を爆発させたのも納得できた。

「皆に泣かれると、ここが凄く痛くなる。そんで思うよ。ああ、生きてるってね」

へらりと気の抜ける顔で告げられ、眉が下がった。
そんなに簡単に言わないで欲しい。
今なら全てが彼の策略だと知っているが、一緒に笑えるほど心に受けた傷は浅くない。
唇を尖らせて頬を摘めば、女である自分が羨ましくなるきめ細かい肌は柔らかく伸びた。

「痛い!?イタイタイタイタタっ!?何!?クロームまでバイオレンス?骸かっ、骸の影響か!?」
「違う。ボスの所為」
「俺ぇ!?」
「そう。ボスが、間抜けな顔して馬鹿なこと言うから」
「・・・いや、絶対に骸の影響も受けてるよ」

僅かに赤くなった頬を撫でながら呟く綱吉はどこか遠い目をしていた。
けど謝る気は微塵もない。無神経な発言をした綱吉が悪い。
睨み付けると頭を掻き、ごめんと苦笑した彼は再び髑髏の頭を撫でた。
悔しいけれどその仕草はお気に入りのもので、飼い主に甘やかされる猫のようにうっとりとしてしまう。

「皆に泣かれると痛いけど、それは俺が負うべき罰だと思ってる。けどね、髑髏。君の涙はまた別の意味を持つよ」
「別?」
「幾ら大マフィアボンゴレの長でもね、女の子の涙には弱いってことさ」

目尻を親指で撫でられ、ポッと頬に熱が集まる。
綱吉はこう見えて地位を抜きにしても老若男女構わず人気があった。
誰に対しても変わらぬ態度、優しい微笑み、東洋人の血が混じる、格好いいというより綺麗なファニーフェイス。
卒ないエスコートは女性の羨望で、ドン・ボンゴレとしての覇気は男性の憧憬が集まる。
オドオドしていた昔は可愛い雰囲気が前面に出ていたが、今は落ち着き男の艶気があった。

「心配してくれてありがとう、クローム。でも、それ以上泣かないで。君を泣かせたなんて知られたら、俺は骸に串刺しにされるよ」
「・・・ふふ」

思わず微笑めば、昔から変わらない暖かな微笑をくれた。



例えば彼がいなくなっても生きていく自分が居て、例えば彼が居なくても歩みた道がある。
それでも居ると居ないじゃ華やぎが違い、安堵感が違う。
心から笑える空気をくれる人を、愛しいと思うのは当たり前だろう。

拍手[21回]

陳腐だと嗤う、それだって笑顔だったから
--お題サイト:afaikさまより--



「───首の皮一枚で繋がったようですね」

相変わらず寝入りばなを強襲した男の首元に無遠慮に三叉槍を突きつける。
下種を見るような冷え切った眼差しに嘲笑を浮かべた酷薄な唇。
オッドアイを眇めて笑顔と酷似した表情で憤怒を向けると、寝入りばなの半眼で深く息を吐き出した彼は怯えもみせずにうんざりと息を吐き出した。

「・・・寝かせろ」
「僕が寝てないのに寝かせるわけないでしょうと何度言えば理解できるのです。起きなさい。くっつきそうになっている瞼こじ開けて素早く目覚めなさい」
「どんなジャイアニズム!?どんだけ自分勝手なの、お前は」

ばんばんと最高級の布団を叩いて身を起こした綱吉に、ぐっと顔を近づける。
見れば見るほど間抜け面だった。
昔と比べて限りなく金に近づいた癖のある髪はぴょんぴょんとはね、蜂蜜色の瞳は怒りで煌いている。
だがよくよく見ると睫毛に寝癖が付いてるし、パジャマの襟が片方立っていた。

はっきり言ってこれがマフィア界の最大勢力であるボンゴレファミリーを率いている男には見えない。
幼さを隠し切れない顔立ちに、生ぬるい雰囲気。
今まさに喉元に武器を突きつけているのに、警戒心を欠片も抱かない愚か者。
吐き気がするほど甘ったるく、嫌気が差すほど馬鹿馬鹿しく、憎悪が沸くほど憎い男。
世界に存在する何よりも嫌悪するマフィアの、頂点に立っているといっても過言じゃない彼は、今なら簡単に殺せそうだった。

吐息が触れ合う距離で見詰めあい、それでも視線は逸らさない。
昔の彼は何かと言うと怯えて叫んでいたのに、これも成長なのだろうか。

「君があまりにもとろいので、自分で脱獄してしまいましたよ」
「───それに関しては悪いと思ってる。俺が手伝う約束だったからな」
「初めから当てにしてませんよ、マフィアなんて。特にどうにも間抜けな君に手助けされるほど僕は落ちぶれてません」
「あっそ。まあ、それでもお前が無事ならそれで良かったよ。・・・初めまして、になるのかな?」
「何を今更」

ほにゃりと気が抜けるような、眉を下げた情けない笑顔を晒され瞳を眇める。
有幻覚ではなく実態での顔合わせは初めてだが、それこそ今更というものだ。
彼のこういう部分が嫌いだ。武器を喉に突きつけられながらも、無防備に振舞うさまが嫌いだ。
どんなに凄んでも脅しても、絶大の信頼を向ける彼が忌々しくて仕方ない。

何故───、と思う。
何故、自分は彼を殺せないのだろうか。

三叉槍を奮うことに躊躇いはない。傷つけるのも、利用するのも必要なら迷わない。
それなのに、最後の一押しが出来ない。
男にしては白く滑らかな肌。僅かに力を篭めれば、先端が突き刺さり皮膚が破れて鮮血が流れるはずだ。
人体の急所である喉。鍛えようがないここは、血液の循環も担っている。
僅かな傷でいい。それで綱吉は二度と骸の前で間抜け面を晒さず、愚かな発言をしない死骸へと成り果てる。

綱吉が傷ついても骸は平気だ。
これまでもそうだったし、これからもそうだ。
弾丸に撃たれようと、腕をもがれようと、無駄に生命力が強い彼が呻きながら生き延びる様を眺める。
彼に忠誠を誓う他の守護者と違う。やられたからとやり返そうとは思わない。
愚かなマフィアが仲間割れをした。それだけで済む。

けど。

「骸?」
「・・・どいてください」
「どいてって、お前・・・」

呆れを含んだ声に、黙れと枕を押し付ける。
彼のベッドには無駄に幾つも高級枕が置かれているので、口封じに事欠かない。
むがむがと足掻く彼の顔に全力で枕を当て、ふかふかとしたベッドに身を沈ませた。

「おい、お前!一体何するんだよ!」
「何って───睡眠を取ろうとしてるだけです。君が馬鹿みたいに寝こけている間、僕はほとんど睡眠を取っていませんでしたのでね」

嫌味交じりの嘲笑を浮かべれば、ぐっと蕩けるような色合いの琥珀色の瞳に近づいた。
吐息すら触れ合う近距離で、にこりと微笑んでみせる。
渋面を浮かべる彼の上に乗ると、最高級の布団を目も留まらぬ速さで剥ぎ取った。

「!!?何、何だ?何だよっ!?」
「五月蝿いです」

泡を食って慌てる綱吉を布団から蹴りだすと、程よく温まったそれに体を滑り込ませる。
人肌に温もった布団は肌触りや寝心地もよく、柔らかな枕は首にフィットして心地よい。
さすが寝汚い男だと感心しながら瞼を閉じてほうっと息を漏らす。
オーダーメイドのベッドや布団はここ最近遠ざかっていた安眠をゆっくりと連れてきた。

「え?ちょ、まさかお前、人の寝入りばな急襲した挙句布団奪って寝る気か?」
「ちょっと静かにしてくれませんか?僕は眠たいんですよ。君のおかげでここ最近安眠できなかったんですから、ゆっくりと寝せてください」

ここ最近はらしくもなく活発に動きすぎた。
水牢から出たばかりの体はまだ体力が追いつかず、睡眠を必要としても眠れる場所がなかった。
だが最高級揃いのこの場所なら安眠するのに最適だ。
ドン・ボンゴレの私室まで侵入できる輩など居ないし、入室を許されるものなら事前に連絡が来る。
仮に侵入者がいたとしても、綱吉が警報機代わりになるだろう。

段々と闇に落ちていく意識の端で、布団が捲られるのを感じた。
近づく体温を拒絶しないのは、彼の体温が高くて安価代わりになるからだ。
それ以外の理由なんて、絶対にない。

髪に触れる何かを無視して瞼を閉じていれば、くすりと笑う声が聞こえた。

「───お疲れ様、骸。ありがとな」

必要としてない謝礼は、沈黙を通して拒絶した。
自分はただ、眠るための安眠スペースを取り戻しただけだ。
彼のために動いたなんて、馬鹿な想いは微塵もない。
再び得た寝床に、骸は小さく唇を上げた。

拍手[19回]

あどけないつまさきで、きみはぽっかりとあいた闇にふれる
--お題サイト:afaikさまより--



「ツナ」
「・・・山本」

久し振りに近くで見る綱吉は、別れた当初と何も変わっていなかった。
最後に『彼』と言葉を交わしたのは、彼がミルフィオーレに向かう直前で、今とは違う『ドン・ボンゴレ』としての笑顔だった。
死ぬ気の炎を額に宿した時と同じ覚悟を秘めた眼差しに、何もかも背負うと決めた静謐な迫力。
そんな時の彼を目にすると心が酷く揺れるのに、いつだって綺麗だと見惚れてしまった。

次に彼の顔を見たのは彼が棺に入ってからで、白すぎる肌に同色の花々がとても鬱陶しく感じられたものだ。
美しいからこそ踏み躙りたい、見惚れてしまうからこそ壊してしまいたい。
物言わぬ彼は人形のように精巧で、話しかけても笑い混じりの声は返らない。
幾度試しても変わらぬ結末に、どれほど絶望したか判っているのだろうか。

情けなく眉を下げ苦笑に近い笑みを浮かべる彼は、確かに中学生の頃の面影を色濃く残していた。
今や山本の記憶にもはっきりと残る『過去』の戦い。
それで全て上書きしてくれれば楽なのに、同時に死に絶えたと思い込んだ絶望の記憶も残っている。
いつか記憶は薄れるのだろうか。
綱吉の為に戦った記憶と、彼を見殺しにしたに等しい罪悪感。
脳は処理に混乱し、どう反応していいか判断できない。
あれほど会いたいと願い、声を聞きたいと祈り、世界が壊れればと怒り、神の不在に絶望したのに。
いざ望みが叶った今、限りなく金色に近くなった柔らかな髪を風に揺らす彼に何と声を掛ければいいのか言葉が出てこなかった。

そんな山本の躊躇を感じ取ったらしい綱吉が、一歩前に足を踏み出す。
反射的に腰に据えた時雨金時に手をやって、腰矯めに構えた。
何故、と理性が違和感を叫ぶのに、本能が刀を手放さない。
止めたいのか止めたくないのか、今にも刃を抜きそうな己を留めながら、どちらを為したいか判らない。
もうこれは条件反射に過ぎない。
己を深く傷つけるものから、身を護るための反射運動だ。
鍔を握る手が震える。汗で今にも滑り落ちそうで、それでも血が滲むほど力を込めて掴んでしまう。

「俺を、殺したい?山本」
「ツナ・・・」

違う、違う、違う、違う!
殺したいなんてありえない。彼の姿を目にしただけでこれほど鼓動が早鐘を打ち、心が、魂が歓喜で震えてるというのに。
ああ、でも全て否定できない。憎い、憎い憎い憎い。彼がとても愛しいから、だからこそとても憎いのだ。

「おいで、山本。相手をするよ」
「ツナ」
「おいで」

声に誘われるまま、刀が鯉口を切る。
金属が擦れる音を響かせた渾身の一刀は、柔らかなオレンジの炎を宿した彼に真っ直ぐ向かった。
手加減はしない。迷いもない。心は澄んで、目の前の『沢田綱吉』以外見えていない。

「・・・はは、俺の勝ち、だ」
「ツナ・・・」

身を捻り残像すら見える勢いの一太刀を避けた綱吉は、刀の側面に添えた手から冷気を放出して持ち手ごと凍らせた。
いつの間にやら足まで同時に凍らせられて、自由に動かせる部分は顔だけだ。

「容赦ないのな」
「そっちもね。俺はまだ、殺されるわけにいかないから。山本相手に手加減は無理でしょ」
「はははっ、さすがだ」

近づいたオレンジの炎は先ほどと違って暖かかった。
少しずつ融ける氷と共に、山本の心のしこりも解ける。
何も相談してくれなかった苛立ち、彼が死んだと思った瞬間の絶望、頼ってもらえなかった悲しみ、取り残された苦しみ。他の何もかもの負の感情が、触れる炎の暖かさに少しずつ融けて流れてく。

腕の氷が融けると同時に、華奢な体を抱きしめる。
融けた氷が服に滲みこみ肌を水滴が伝って落ちる。腕の中の綱吉のスーツすら濡らしたそれを、気に留める余裕はもうなくなった。

「ツナ」

腕の中の温もりは彼の生を感じさせ、じわりと目尻に涙が浮かぶ。
絶対に見られないようにと顔を首筋に埋め、嗚咽を殺して擦り寄った。それは大型犬が飼い主に甘える仕草と酷似した行動だった。
声を殺し涙を零す山本は、腕の中の存在が夢でないのを確かめるよう繰り返し繰り返し幾度も名前を呼び続ける。
律儀に一回一回返事をする綱吉は、山本の短い黒髪をくしゃくしゃと掻き乱した。判りやすい親愛の情に、本物の彼の存在に、心が壊れるんじゃないかと思えるくらい歓喜した。
こんな幸せ、初めてだ。心の奥深くに刀をぶっさしてぐらぐらに根底から揺らされてる。傷も血も何もかも含めて煮えたぎり、オーバーヒートして死んでしまいそうだ。

「二度目は、勘弁して欲しいのな」

万端の思いを込めて囁けば。

「あは、善処します」
「確約して」

情けなく眉を下げて目を細めて笑った彼を、腕の中で抱き潰した。

狭い世界の中で、それだけが真実だった。
心の中に存在する闇を暖かな腕で抱きしめた綱吉に、その幸福に山本は『おかえり』と呟いた。
『ただいま』とすぐに返る声に、へらり、と気の抜けた柔らかな笑みが自然と浮かんだ。

拍手[20回]

フリーエリア
Template & Icon by kura07 / Photo by Abundant Shine
Powered by [PR]
/ 忍者ブログ