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いろは順お題より
--お題サイト:afaikさまより--

■ろくな愛をしらない


雨のそぼ降る空の下、見つけた『猫』はぐったりとして岩に伸びていた。
真冬であるのに寒さを凌ぐ努力もせず、ただ首を伸ばして空を見上げる姿に見惚れた。

姿形は随分とみすぼらしいもので、がりがりに痩せ肋骨が浮き出た体に、薄汚れ元の色がわからぬ毛並み。
生気のない瞳に、今生きているのが不思議だった。
決して美しい生き物ではないが、それでもルキアはそれから目が離せなかった。

薄暗い中遠めに見ていたので判別し難かったが、どうやらそれは猫のような形をしていた。
へたりと寄せられた耳に、垂れ下がった長い尾っぽ。
どうして移動しないのかと思ったが、きっと移動する体力すらないのだろう。
辛うじて上がっていた顔も伏せた『猫』は、力尽きたように岩に体を横たえる。
今にも死んでしまいそうな姿に、ルキアは我慢できなかった。
その姿は、朽木家に拾われる前の自分によく似ていたから。





屋敷に連れて帰って驚いたのは、『猫』と思い込んでいたそれが魔獣だったことだった。
ルキアと血の契約をしている恋次の言葉に寄ると、どうやら突然変異の珍しい色彩を持つ豹系の魔獣らしい。
魔獣と呼ぶのもおこがましいほど痩せこけた姿に疑念はあるが、彼が言うのなら確かだろう。
死に掛けの二人で体に力を注ぎ、魔獣は翌朝に目を覚ました。


「・・・捨ててきなさい」


ルキアの腕に抱かれた存在を認めた瞬間、教育係も兼ねている執事はあっさりと残酷な言葉を吐いた。
恋次の力で乾かしたものの、未だに薄汚れたままの魔獣が腕の中でぴくりと跳ねる。
本当は抵抗したいのかもしれないが、別けた力が体に馴染んでいないらしく、くってりと身を預けていた。
そうしていると普通の子猫と変わらず、さてどうするかと頭を悩ませていたところに、この執事はやってきた。

当たりは柔らかいが決して優しい人物ではない男───浦原は、いつもと変わりない笑顔でさらりと言う。
拒否するように腕の力を強めたら、益々胡散臭い笑みを深めた。


「いいですか、お嬢さま。あなたは朽木家の何です?」
「・・・養女だ」
「ならばあなたは朽木家の体面を護るために、下手な行動は許されません。世間に認められているとはいえ、あなたはあくまで養女でしかない。立場的に弱く、自分が保護の対象でしかないと理解してますか?あなた自身で金を稼いでるわけでもなく、生きていけるわけでもない。それなのにこれ以上抱え込むつもりですか」
「・・・・・・」
「この家の主はあくまで朽木白哉です。お嬢さま、あなたじゃありません。それなのに、不審な生物を勝手に屋敷に連れ込み、尚且つ自分の部屋に匿うなど、他の面々に知られたらどうなると思います。あなただけじゃなく、ご当主の立場にすら傷が付くかもしれないんですよ」


浅慮だと責める浦原に、反論の言葉は何一つ浮かばない。
唇を噛み締め俯く。
だが放っておけなかった。
何も望まぬようでいて、何かを渇望していたこの魔獣を、見捨てるなど出来なかった。

どうしようもない気持ちで俯いていると、腕の中の魔獣が身動ぎした。
ルキアの腕に爪を立てると、怯んだ瞬間腕の中から抜け出す。
よたよたとした調子で、出窓へと向かうと、置いてある花瓶の横へジャンプして飛び乗った。


「んなぁ」


がりりがりりと窓に爪を立て鳴く姿は、ここから出て行くと言っているようだった。
どうやらこの魔獣はまだ人語すら操れない子供らしく、ジェスチャーで必死に伝えようとしている。


「あの子供の方があなたより状況を判ってるようですね」
「っ」


心無い言葉に、理性より感情が先走った。
振り上げた手が吸い込まれるように浦原の頬へと向かう。
ぱちん、なんて可愛らしいものではなく、ばちん、と遠慮ない音が響いた。
小さな楓が出来上がった浦原に満足すると、口の端を持ち上げる。


「あやつは私と契約させる」
「・・・お嬢さま?あなた、何言ってるか判ってるんですか?」
「判っているとも。朽木の体面を考え、尚且つお兄様の顔を汚さず、あやつを傍に置く方法。契約すれば全てが満たせるだろう」
「ですが、三匹以上の契約魔獣を持つということは、あなたの将来が限定されるということです。お嬢さま生活を満喫するだけじゃダメなんですよ」
「判っておる。どうせ、恋次と花太郎がいるだけで普通は破綻したも同じだ。ならば、あれ一匹を引き込んだところでさして変わるまい」
「その場限りの感情に流されてるのならやめなさい。聞かなかったことにしてあげます」
「無理だな。私の心は定まった」


先ほどまでの胡散臭い笑顔を消し、真摯な瞳を向けた浦原を睨む。
窓際で唖然としてこちらを見ていた魔獣を抱き上げると、汚れたままの頭を撫でた。

オレンジ色の瞳がまん丸になって、縦長の瞳孔が開いている。
その様はやはりそこらの子猫と変わらず、ルキアは小さく笑った。
ぼさぼさの毛並みに頬を寄せると、痩せた体をゆっくりと撫でる。


「誰も迎えに来ぬなら、私と共に居ろ。碌な人生は歩まないだろうが、それでもお前を大事にすると誓おう」
「・・・んな?」
「一人は寂しいだろう。私もずっと一人だったから、お前の気持ちが良く判る。お前を欲するものが誰も居ないのなら、私がお前を望もう。───ずっと、私と一緒にいよう?」
「っ」


ひくり、と魔獣の喉がなる。
尻尾がびんと立ち上がり、ぶわっと毛並みを逆立てた。
驚きすぎた様子がおかしくて、ルキアは益々笑みを深めた。


「私と一緒に生きていこう」


きょときょとと瞬きを繰り返す魔獣は、おずおずした仕草でルキアを見上げると、こてり、と小首を傾げた。

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