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「あれ?阿伏兎じゃない。何してるの、こんなところで」
「・・・・・・」


背後からの呼びかけに、びくりと体を竦ませた阿伏兎は、厄介な相手に見つかったもんだと髪を掻き混ぜる。
普通に聞くと穏やかな口調に聞こえるが、紛れもなく羊の皮を被った魔王だと知っている阿伏兎には、うんざりとする気持ちしか沸かない。
暫く逡巡していたが、無視するには相手が悪いので、仕方なしに振り返る。
いつもどおりにとってつけたようなにこにこ笑顔を秀麗な顔に浮かべた男は見慣れた学ランに身を包み、こてり、と幼く見える容姿に似合いの仕草で首を傾げた。


「どうしたのさ。君がこっちの地域に来るなんて珍しい」
「俺だって、偶には足を伸ばすことだってある。・・・あんたの目が光らない場所でゆっくりしたいんでね」
「ゆっくり?それにしては、雰囲気が毛羽立っていたように見えたけど?───まるで、喧嘩の後みたいに満足そうな顔で」
「・・・チッ」


優男風に見えるくせに、雰囲気が裏切っている。
笑っているくせに、牙を剥き出しにして唸る獣の幻影が見えた。
年下の癖に、などと侮る気持ちは欠片もわかない。
あるのは純粋な才能に対する恐怖であり、畏怖である。
腹が立つことも多いが、何だかんだで付き合うのは、この男の強さに憧れているからかもしれない。


「どうせ、判ってんだろう?」
「何が?」
「俺が、どこで何をしてたか、だよ」


呻くように吐き出せば、男は益々笑みを深めた。


「判るわけないじゃない。俺はエスパーでもないし、心なんて読めないよ」
「・・・だが動物的本能を持ってるだろう?勘の冴え方が半端ねぇ」
「僕は、君に聞いてるんだよ。阿伏兎」


背筋を駆けたのは紛れもない恐怖だ。
同族でありながら、力はあちらが上。
そして残虐性も嗜虐性もあちらが遙かに上だ。
抵抗する虚しさに肩を竦めると、さっさと白旗を上げる。


「お前さんの妹んとこだよ」
「何?気に入ったの?」
「同族だからな。放っておけねぇ」


阿伏兎の言葉に嘘はない。
中国の奥地に住む阿伏兎の一族は、年々弱小の一途を辿っている。
数少ない血族を大事にしたいと願うのは、目の前の男からすると甘いのだろう。
実際血の繋がりがあろうとも、昔は親を超えてこそと嫌な習性があった集落だ。
身内と気にかける阿伏兎がイレギュラーなのだろう。
甘さを嫌う男に真実を告げれば、意外にもあっさりと頷いただけだった。
肩透かしな仕草に目を瞬かせると、アルカイックスマイルを浮かべたままの男は踵を返す。


「欲しいならあげるよ」
「はぁ?」
「あいつ、弱いけど、女だからね。強い子を産むかもしれない。試してみるのもいいんじゃない?」


さらりと嫌な発言をした彼に、阿伏兎は眉を顰めた。
兄弟の情をこの男に期待するのは無意味かもしれないが、この発言を聞いたら妹は悲しむだろう。
兄貴など居ないと突っ張る割りに、彼女は彼への想いを断ち切れて居ないようだから。

目の前の男が妹をどう思ってるのか、阿伏兎はさっぱり読み取れない。
実際に阿伏兎がことを起こしたら、この男はどう反応するのだろうか。
笑ってみているだけだろうか。
それとも阿伏兎を殺すだろうか。

読みきれない反応に、考えるだけ無駄だと断じ、さっさとその背中を追った、

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