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いろは順お題
--お題サイト:afaikさまより--




この船で一番ルフィを理解しているのは、誇張でも自慢でもなんでもなく、相棒である自分だ。
他の船員が彼を理解していないのではないし、ルフィが彼らを信用していないのではない。
ただ、現実問題として、誰よりルフィを理解できるのはゾロだったというだけの話だ。

潮風に髪を揺らし心地良さそうに目を細めるルフィは、年よりも幼く見える。
戦っているときの背筋が震える危うい迫力はそこになく、楽しげに笑う子供がいるだけだ。
間の抜けた表情はいかにもルフィらしいもので、甲板で昼寝をしながら彼の様子を伺っていたゾロは一つため息を零した。

ゾロは強くなった。
東の海で自分は強いと思い込んでいた頃の、何十倍も、あるいは何百倍も強くなった。
強くなければ生き残れなかったし、強くなければ彼に付いていけないから強くなった。
ルフィと共に居る上での最低条件が強くなることだった。
世界最強の剣豪になるため努力は欠かさなかったが、それ以前の問題で生きるために強くあった。
ルフィの隣に居るのは否応にも経験を積むと同意で、彼の傍を望むのであれば生きる力を養うのが必須だ。
何もかも自分基準なルフィは清々しいまでに我侭で、自分がしたいと望んだ何もかもを押し通す。
望んで歩く修羅の道。
ルフィの隣は強くなければ立てない位置だ。
トラブル体質な彼に巻き込まれ戦うのは楽しいし、自分が強くなるのは純粋に嬉しい。
だが、同時に酷く怖い。

ルフィは、自分の仲間に強い執着を持っている。
一度手に入れたものを手放す選択肢は基本的に持ってないのだろう。
強欲で傲慢なルフィだが、それを心地よく思わない奴は彼の船に乗っていない。
とんでもなく我侭な奴だから、『欲しい』と望めば必ず仲間に引き込もうとする。
他に仲間がいれば別だが、そうでなければ相手の都合も考えないで欲しがる男だ。
そして彼が望めばそれを無条件に助けようとする自分は心底馬鹿だ。
つまるとこルフィの仲間に対する執着は、仲間の彼に対する執着と等しく同じなのだろう。

だからこそゾロは懼れる。
いつか来るかもしれない、もしもの未来を。
一度だけ本気で覚悟した、いざというときの話を。

ルフィの執着は凄まじい。
己の内に入れたものは無条件で守り、助けようとする。
ゾロはそんなルフィを助けるし、必要とされなくとも傍に居ると決めている。
命を懸けて戦うのは嫌いじゃない。
強い敵は心が躍るし、自分の強さを図れるのはそこから先の標となる。
負ける気は微塵もない。
どんな敵も目の前に立ち塞がるのなら、自分たちの道を閉ざす気なら消し去る。
そう、決めている。
だが現実と決意は違う。
死に急がなくとも、死から迫ってくる場合もある。
何も知らず走っていられた、東の海とは違う。
世界は広く、強い敵は数多い。
だから、怖い。

いつか──────いつか、ルフィが自分から命を絶つのではないかと。

彼の執着は仲間に向いている。
自分への執着は、とても希薄だ。
傷つくのも死に掛けるのも懼れない。
求める全てを全身で求め、その癖潔すぎる部分があった。
自分が納得できれば、自分の死を厭わない。
そんな危うさがルフィにはあった。
それがゾロにこの上ない恐怖を与える。

ローグタウンで死に掛けた彼は、笑っていた。
ルフィにとって死の概念はその程度で、いっそ清々しいほどだ。
殴り倒しても懇々と説教しても、きっと通用しない。
それがモンキー・D・ルフィという男だから。

もしルフィが自分を残して死んだら、ゾロは耐え切れるかわからない。
今やルフィの存在はゾロの野心を越えている。
野望が叶わなかった時は腹を切って侘びを入れろと叫んだ日は今では遠い。
侘びを入れても生きて欲しいと、望んでしまっているのだ。

「・・・阿呆が」

ゾロの気持ちも知らないで、ルフィはサニー号の船首に胡坐を掻いて鼻歌を歌っている。
馬鹿みたいに暢気な光景で、心地よすぎる平和な空気。
メリハリの利いた生活はゾロの肌に合っており、それ以上に彼の存在がゾロの魂に合っていた。

眺めすぎたのか、視線に気付いたらしいルフィがくるりと首をこちらに向ける。
しししと彼独特の笑い声が聞こえそうなほど、笑顔は上機嫌だった。

「・・・ど阿呆が」

先ほどの呟きを律儀に訂正すると、船首から飛び降りたルフィを尻目に瞼を閉じる。
いつか来るかもしれない、いざというときの話。
それを考えるのは今でなくてもいいはずだと、近づく気配に心を和らげ小さく嗤った。

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