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将臣が住んでいる村は、それほど裕福ではなかった。
それと言うのも今代の王が道を外し麒麟と共に崩御し、国は安定を欠いているからだ。
王が崩御したのは二十年前で将臣が生まれる数年前だ。
その頃はまだ王が居たおかげで今より天候は恵まれていたらしいが、それでも過激な税の取立てはほとんど変わらない。

村に生まれた子供は住人の内数人が生き残ればいい方で、将臣と同年代は弟も含め三人だ。
村の人数は年々減少の一過を辿り、将臣たちが親の世代になる頃にはこの村はなくなってしまうのではないかと思う。
幼馴染は女であるが、生きるために農作業や力作業もこなさねばならず、手は擦り切れ肉刺だらけだし女らしい格好などついぞ見たことはない。
見た目は幼馴染の贔屓目抜きで美人だと思うし料理はダメだが気立てはいい。
どれ程辛くとも笑顔を絶やさず、時に男よりも肝を据える折り紙つきのいい女だ。
だがどれ程いい女であろうと、生き延びるのは難しく、痩せた体が痛々しかった。

いつか彼女が死んでしまう前に、安定した生活を手に入れたい。
それまでに新しい王が立てばいい。
麒麟が王を選べば良いと、弟共々そう願っていた。



「・・・見つけた・・・私の、主」

今日も今日とてご飯を得るために弟と幼馴染と連れ立って畑とは名ばかりの山の勾配に行けば、その途中で奇妙な子供と顔を会わせた。
白銀色の美しく長く伸ばされた髪に、この土地には似合わないひと目で上等とわかる服。
品の良い立ち振る舞いに、鈴を転がしたような愛らしい声。
男とも女とも判断しかねる美しい面立ちと不思議な色の瞳をしていた。

誰かと訝しく想い、弟と幼馴染と顔を見合わせるが誰も子供を知らない。
戸惑いを隠し笑顔を浮かべた幼馴染が一歩距離を縮めると、子供はにこりと嬉しそうに、それでいて今にも泣きそうな顔で微笑んだ。


「どうしたの?迷子になっちゃった?」
「ううん。私は、私の太乙を探していただけ。でも、見つけた。私の太乙は、あなただ」
「何を・・・?」


子供は涙を零しながら地に額づく。
子供の着ている服と比べれば自分たちのものなど襤褸切れに等しい。
どうみても彼の方が立場が上であろうに、服や髪が汚れるのも気にせず、地に額を付けた。
驚きで息が詰まる。
胸の奥から焦りが沸き起こり、とてつもなく嫌な予感がした。
弟と目を合わせると、幼馴染の腕を取り走って逃げようとする前に、その『宣誓』は為された。


「御前を離れず、詔命に背かず、あなたに忠誠を誓うと私は誓約するよ」
「え?」
「あなたはただ一言、私にこう言ってくれればいい」


驚愕に目を見開く幼馴染───後の女王を前に、子供は零れる涙もそのままに鮮やかに微笑んだ。
世界中の幸福を集めたらその笑顔になるのではないかと思えるくらいに、幸福、僥幸、至幸、至慶に溢れ、今にも蕩けてしまうのではないかと、そう思わせた。


「許す、と。そうすれば、私は天禄を得る」


傲慢な許可を望んだ子供は、最後まで『望美』しかみていなかった。

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