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*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。





「おれの仲間に、手を出したな?」

たった一人で現れたその人は、野蛮な海賊に囲まれても怯むことなく正面を見ていた。
季節外れの麦藁帽子に、デニムのパンツと赤いベスト。
春島のここには少々涼しすぎるだろう格好の彼は、けれど寒さは感じていないようだった。
精悍な顔つきのその人は、目尻に傷痕があり、細身であるのに筋肉質な、しなやかな獣を思わせる男だった。
百人近い敵の中にただ一人乗り込んだ男は、自分を手当てしてくれた獣に視線をやると一つ頷く。

「迎えに来たぞ、チョッパー」
「うん・・・信じてた、ルフィ」
「当たり前だ」

自分を威嚇する敵の存在すら関係ないとばかりに、彼は獣の傍に寄ると彼の手錠を外した。
触れても居ないのに何故か壊れた手錠に、子供は大きく目を見張る。
そして手錠を解かれた獣が、くたり、と身を崩し小さな狸の姿になったのにもっと驚いた。
その狸の頭をひと撫ですると、優しく彼は地面に置く。
柔らかい手つきはこの場に居る誰もが持たぬもので、慈愛と温かさに溢れていた。

どくどくと心臓が逸る。
何故か判らないが、彼から目が放せなかった。

首から提げていた麦藁帽子を片手で被ると、彼はもう一度正面へと向き直る。
その瞳に先ほどまでの優しさは欠片もなく、ただ怒りに染まった色だけが燃えている。
ぞくりと背筋を駆け抜けるものは、それでも恐怖ではなかった。

「お前、おれの仲間に手を出したな」

疑問系であるくせに、確信に満ちた声。
凄まじい怒りに恐怖を感じてもおかしくないのに、不思議と彼を綺麗だと思えた。

「ぎゃははは!何だ、その化け物か?海楼石をつけても馬鹿みたいに屑どもの治療をしてたみたいだがな、痛めつけがたりなかったかぁ?」
「体ばかり頑丈な奴だったなぁ!殴っても蹴っても無抵抗で、鞭打っても悲鳴一つ上げねぇ面白みがねぇ化け物だ!」
「そんな屑どもを庇っても、何も見返りはねぇのにな!」

笑い合う下卑る声。
心理的に受け付けないその声は、紛れもなく自分たちを治療してくれた狸を嘲笑するもので、考えるよりも先に体が動いた。

「あんたたちが・・・あんたたちが、狸さんを笑う権利なんてない!狸さんは、凄く強いんだから!私達のために我慢してくれたんだから!」

恐怖よりも怒りが先に来た。
こんなことは今まで一度もなかった。
けれど、自分たちを助けようとしてくれた彼を、馬鹿にされたくなかった。
だが怒りは持続せず、近くに居た男に振り上げられた手により叩き飛ばされる。
がつんと床に頭をぶつけ、衝撃で視界がぶれた。
そして髪を掴まれ引き上げられると、光るナイフが目に入る。
自分を見る男の瞳に、記憶がフラッシュバックした。
そう、以前顔に傷をつけられた時も、男は自分を笑って傷つけた。

低い笑い声に、身が竦んで動けなくなる。
助けての声も出せぬまま、兇刃が自分へと近づくのを瞬きせずに見詰めていた。
だが、恐れていた瞬間は、ついに訪れることはなかった。

「何、くだらねぇことやってんだ」

怒りに満ちた声は、先ほど自分を掴んでいた男のものとは違った。
自分よりも僅かに高い体温。
直接頬に当たる肌は、自分を護るように胸に抱いた、あの麦藁帽子の男のものだった。
子供といえども体重がある自分を、片手で軽々と抱き上げた男は、心配そうに顔を覗きこんでくる。
何故かその些細な行動で心臓が跳ね上がり、あっという間に顔が赤くなった。

「大丈夫か?」
「・・・うん」
「なら、いい。───チョッパーを庇ってくれて、ありがとな」

地面に自分を下ろすと、彼はそのままくしゃりと頭を撫でてくれた。
それがとても心地よく、自然と涙が溢れてしまう。
懇願は、無意識の内に囁かれた。

「助けて。───お願い、私達を助けて」
「・・・ああ。まかせろ」

くしゃり、と子供みたいな顔で笑った彼は、本当に、最高に格好よかった。



結論から言うと、戦いの結末は呆気ないもので、あれほど恐怖していた存在はただ一人の彼により制圧された。
縛られた海賊達は、彼自身が信用していると太鼓判を押した海軍へと引き渡される手はずとなり、それまでは村の復興のために役立たされた。
救いの手を差し伸べてくれたヒーローは、世界に名を馳せる海賊王で、村の復興のためにと一月もの間力と知恵と技術を授けてくれた。
そして、今日。
海賊達の引渡しが決まったその日に、彼らは旅立つ。
何も奪うことなく、何も欲することなく、陽気で最強の海賊達は、海へと出てしまう。

自分の前に立つその人を、じっと見詰めた。
あの日と同じに、麦藁帽子とベストをの彼は、ししししっと楽しそうに、子供よりも無邪気に笑う。
その笑顔がとても好き。
きっと、彼が思うよりもずっと。

一緒に畑仕事をしてくれた。
一緒に料理をしてくれた。
一緒に狩りをしてくれた。
一緒に山で遊んでくれた。
一緒に海に遊びに行って、彼はぶくぶくと溺れていた。

傷がある自分を恥ずかしく思っていたのに、彼は可愛いと笑ってくれた。

胸の前できゅっと手を組み、必死の思いで顔を上げる。
自分は彼について行けない。
少なくとも、今の自分は彼に相応しくないと理解する分別はある。
けど、それでも。
想いを伝えていけないと、神様だって決めれない。

「ルフィ!!」
「んー?どした?」
「私、いつかあなたを追いかけるわ!───もっともっと綺麗になって、あなた好みの料理が作れる女になって!今よりもっと、強くなるから、だから、そしたら・・・っ」

離れていく船。
サニー号の縁に体を凭れ掛け、こちらを眺める黒々とした瞳を見据えて、とっておきの想いを告げる。

「私を、ルフィのお嫁さんにして!」
『ええー!!?』

周りに居た村人達から、絶叫が上がる。
海賊の嫁になりたいなんて、正気の沙汰じゃないと声が上がる。
彼の仲間のチョッパーも、同じように叫んでる。
けれど他の面々は苦笑するに留めてるので、きっと知っていたに違いない。

そして、肝心の彼はと言うと。
少しだけ黒い瞳を丸くすると、やはりしししと首を竦めて笑った。

「十年だ!」
「え?」
「お前が本気だって言うなら、十年だけ待ってやる。その間におれに追いつけたら、考えてやるよ!」

ぱぁ、とその言葉に表情が華やぐ。
端から相手にされないと思っていただけに、喜びが湧き上がった。
彼は約束を破らない。
確約はくれなくとも、それで十分だと思えた。
だから。

「うん!ルフィ、待ってて!私、絶対に追いつくから」
「なら、約束の証だ。これやるよ!」

船の上から投げられたのは、彼が身に纏っていた赤いベストの切れ端。
丁度腕に三周するくらいの長さのそれを、慌ててはしりと抱きしめた。

「髪、伸ばせよ!きっと似合うから」
「うん!・・・ルフィ、またね!」
「おう、またな!」

にっと笑った彼は、手を振ると未練なく踵を返す。
遠方に海軍の船が見えたことを狙撃手が教えたからだった。
マストを巻くと、沖から十分に離れた場所で船は止まる。

「じゃーなー!元気でいろよ!」

最後に聞こえたのは、やはり笑いを含んだ声で、それに泣きながら頷いた。
空を飛んだ船は、それきりあっという間に姿を消した。


その後、ルフィたちが救った島には髑髏に麦わらの旗が掲げられるようになる。
それは彼らが自分たちの恩を一生忘れまいとする想いの現れであり、同時に何かあっても必ず彼らの助けになるという誓いの表れでもあった。
その後海賊王に恋した少女の物語はまだまだ刻まれていくのだが、同じように彼を慕う相手が世界中にいることなど、少女はまだ知らなかった。

拍手[35回]

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*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。





「泣くなよ。大丈夫。絶対に、ルフィたちが助けに来てくれる」

小さな体を震わせて涙を零す少女を腕に、チョッパーは囁いた。
その体は最早傷がない場所を探す方が難しく、腕には海楼石が嵌められており毛艶も悪い。
しかしどれ程傷だらけになってもその瞳は諦めを知らず、涙を浮かべる子供を慰める優しさも失わない。

彼、トニートニー・チョッパーは、ヒトヒトの実を食べたトナカイでありながら、その実人よりも人らしい心を持つ優しい少年で、同時に自分の技術に誇りを持つ一人の医者だった。
だから彼は仲間の静止を振り切り、一人敵の中に姿を見せ囚われた。
体は鞭打たれ血が流れるし傷はひりひりと痛む。だがそれでも彼は現状に絶望していない。
腕に巻かれた海楼石の腕輪はエニエス・ロビーの時にロビンがまかれたものとは違い、普通の手錠のようになっていて、気力を振り絞れば何とか体は動いた。
それは、傷つき倒れている患者を前にして、動く手があるなら施術する。
医者として当たり前と心得るチョッパーの原点で、動きの鈍くなる体を叱咤しつつも現在は顔に傷を負った少女の手当てをしていた。

海賊に全てを支配された島。
ここの住民は村人全てを人質に取られた状態で、日々の生活を怯えながらしている。
医療水準も低く、そこらに生えている草が薬草になるのも知らなかった。
度重なる徴税で人々は瘠せ、反抗する精神は根こそぎ奪われていた。

今この場に居るのは島にある村の一つの住民で、今月の人質らしい。
否、人質と称した奴隷と言った方が正しいだろう。
彼らの体は鞭打たれた痕があり、チョッパーも放り込まれたそこは地下で日の光すら入らない。
洞窟の中は湿っぽく、かび臭さが拭えずに、首輪がついた人々の汚物の匂いで充満している。

ぎりり、と唇を噛み締めたチョッパーは泣きそうになるのを我慢して手を動かした。
希望も何もないと、こんな小さな子の顔に傷を負わせた男たちが憎くて仕方ない。
彼らを傷つけたくなくて、自分が傷つくことを選んだチョッパーは悔しくて仕方ない。
彼らに希望を与えることが出来ない自分が。
だからせめてもと希望の在り処を口にする。
愛らしい顔に笑顔が戻るように祈りを込めて、痛む傷を無視して優しくそっと微笑みかける。
その姿は怪物と呼ぶには程遠く、慈愛に満ちた温かすぎた。

「大丈夫だ。おれの仲間が、助けに来る。ルフィは凄く強いから、お前らを救うのなんて簡単だ」
「嘘だ!この島は、海軍にすら見捨てられた!!助けを求めて海に出た父さんは、海軍に殺された!海賊も、海軍も、全部、全部いなくなればいいんだ!!」
「大丈夫だ。ルフィは、凄く強いんだ。それにおれの仲間も、おれなんかと比べ物にならないくらいに強い。だから、絶対に大丈夫」
「嘘だ!」

涙を零し、嗚咽を堪える少女を見て、周りの人間も涙を零す。
どうして無駄な希望を持たせるのかと、怨嗟の声を上げるものも居る。
だがチョッパーは嘘は言っていない。
本当に、大丈夫なのだ。

「おれの仲間が必ず助けに来る。そうしたら、すぐに自由になれる。嘘じゃない。本当だ」

チョッパーは繰り返す。
心の薬が必要な少女を胸に抱いて。
涙を零し続ける少女が微笑む時をじっと待って。

「大丈夫だ」

希望を失う必要はないと、繰り返し囁きかける。
人々が無言になり、彼の言葉を信じてくれるまで。

「大丈夫だ」

確信に満ちた声は、彼がどれだけ自分の仲間を信じているかを現していた。
そして、その想いに応えぬ海賊王ではないと、その場の村人もやがて知る。

拍手[17回]

*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。






「お前は、プライドの在り処ってもんを知ってるか?」

くつくつと喉を震わし凶悪な顔で笑う剣士は、目の前に立ち塞がる敵に向けて刀を構える。
三刀流を名乗るくせに、未だに二刀しか抜かぬ姿に、くつり、と知らず喉が震えた。
目の前に立ち塞がる敵は、その程度だとゾロに認識されている。
それなのに何を勘違いしたのか、自分ではいいと思っているらしい笑顔のような表情をその醜悪な面に浮かべた。
暢気なものだ。もう、地獄行きは決定しているというのに。

すう、と紫煙を吸い込む。
人間怒りが沸点に届くと逆に冷静になってしまうものだ。
静かに昏い眼差しを敵に向け、自分の相手になるらしい男に笑いかけた。

「おれ達の船長は仲間を奪われてご立腹だぜ?出した手は引けねぇぞ?ついでに吐いた言葉ももどらねぇ」
「だから何だっつうんだよ」
「もう土下座じゃすまねぇ、って言ってるんだよ」

吸っていた煙草を携帯灰皿に押し付け潰す。
精神安定剤の役目を果たすそれは余り利かず、頭は煮えたように怒りで一杯だ。
隣で笑っている男の胸中など知りたくないが、仲間に手を出されて愉快な気持ちではないだろうことくらいは判る。
戦いに手を抜く男ではないのに三刀目を抜いてないのは、その価値がないと判断したからだろうとも。

彼らの後ろには彼らの大将が居て、自分たちの後ろには自分たちの大将が居る。
何も言わない彼はもう歩を進めていて、その道を開くのが自分たちの役目だった。

「お前らのプライドは随分と安っぽいもんだな。おれ達の仲間を盾にしないとどうしようもないくらいに」
「んだと!?」
「ならそんなプライド必要ねぇだろ?───おれ達の船長の邪魔すんな」

獣の唸りのような声をだしたゾロは、持っていた刀を振るう。
そう、船長はもう進み出しているのだ。
留めるわけにはいかない。

「テメェもだ、クソ野郎。道を開けろっつってんだよ」

靴の爪先を床に打ちつけ、リズムを取ってから蹴りを繰り出す。
呆気なく体にのめり込む足に、にいっと口角を上げた。

「おれ達のプライドを通させてもらうぜ」
「船長の道を作るのがおれ達の役目だ」

ルーキーと呼ばれた時代から、自分達は彼の双璧。
それが誇りでそれがプライド。
最強の剣豪の名を獲った彼と自分は違う。
だが心意気で負けていると思わない。

例え、海賊王の相棒と呼ばれる男が相手であったとしても、だ。

強さを求め努力したのはゾロだけでなく、海賊王の仲間である自分達の矜持は高い。
人質を取らねば戦えない、カスに負けるプライドは持ち合わせていない。

「消えな、クソ野郎」

海賊王の仲間として、そして双璧を担う一端としてのプライドを掛け、サンジは渾身の蹴りを放つ。
もちろん仲間を奪われた怒りも八つ当たり気味に篭めてあったので、威勢良く吹っ飛んだ敵は近くの木にぶつかるとめり込んだ。

動かなくなったのを見届けると、新しい煙草を取り出し火をつける。
煙を燻らせ一息つき、自分達の王が進んだ先に足を向けた。
この程度の敵が相手なら、もうそろそろ決着もついてるだろう。
刀を仕舞った男も同じに感じたらしい、勝手に隣に並ばれ自然と足が速くなる。

「何だよ」
「お前こそ何だよ」
「ついてくんじゃねぇよ」
「お前がついてくんじゃねぇよ!」

気がつけばいつの間にか全力疾走。
例え双璧と周囲に呼ばれようとも、自分と彼の関係は所詮ライバル。
彼の呼び名が海賊王になっても変わらぬ、非生産的な関係は目の前の男が何かと突っかかってくるので仕方なく相手をしてやることで続いている。
面倒だと思うが、自分から折れるのは真っ平御免だ。
本当にこの単純刀馬鹿に付き合うのは骨が折れるぜと、大きく肩を上下させつつ嘯けば、うっせーグル眉コックと返され。

やはりルーキー時代と変わらず、呆気なく理性は崩壊し戦いのゴングが脳裏で鳴り響く。


その後、仲間を助け上機嫌の海賊王に、何やってんだお前ら、と心底呆れられるのだが。
全ては目の前の男が悪いのだと、サンジは言いたい。

拍手[22回]

*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。






「だからよ、ゾロのこれは病気だとおれ思うんだ」

右隣から聞こえた言葉に、ゾロはびしりと青筋を浮かべる。

「ごめん。おれ、まだ駄目に利く薬作れてないんだ」

左隣から聞こえた言葉に、真摯な響きを感じ取り一気に脱力感を覚えた。

「お前ら、おれを馬鹿にしてんのか?」

ぎりぎりと歯を食いしばりながら、やっとの思いで言葉を搾り出せば。

『至ってマジだ』

全く悪気なくそう告げる年下二人組みに、怒りすら萎え肩を落とした。


今現在ゾロとルフィとチョッパーは道に迷っていた。
それもこれも目の前の船長がいつもの如く食料を食いつくし、怒り狂ったコックと航海士によりついたばかりの島に蹴り飛ばされ、傍に居たゾロとチョッパーが巻き添えを食らったからだ。
何となくデジャヴを感じる気がするが、首を振って気を取り直す。
否、取り直そうとした。
だがそれは無情にも空気を読まない相棒の発言により、根っこから踏み潰される。

「おれさー、絶対にゾロは遭難して死ぬと思うんだよな。チョッパーはどう思う?」
「んー・・・いつもだったら戦って死ぬ気がするって言うけど、でも遭難してってのも否定できない」
「だろ?こいつの方向音痴ってさ、もう病的じゃん。本能が曲がってるってサンジが言ってたぞ。曲がった本能は医学で直せねぇのか?」
「ごめん、ルフィ。おれが知ってる医学じゃ無理だ。ごめんな、ゾロ」
「謝るんじゃねぇよ!おれは別に本能が曲がってるわけじゃねぇ!」
「んじゃどうしてこんなに方向音痴なんだ?そんでもって、どうしてそんなに自分が進む道に自信があるんだ?お前がこっちだって言うからついてってんのに、どうして海じゃなくて山の頂上に着くんだよ?」
「あ、ルフィあそこにサニー号が見えるぞ。おーい!みんなー!」
「ホントだ。おーい!」
「・・・・・・」

言いたいことだけ言ってゾロから興味を失ったらしい二人は、崖の上から両手を振って叫ぶ。
ここから声張り上げても聞こえるわけねぇだろと内心で突っ込みつつ、口にしたらまた火の粉が降りかかりそうで代わりにため息を落とす。
顔を俯けたら肩に乗せている虎もどきの尻尾が額から垂れ下がり、ちっと舌打した。
ちなみにチョッパーも両手に果物と、背に背負う篭に植物を一杯取っていて、ルフィはゾロに負けず劣らず大物のライオンもどきを持っている。
腐るといけないのでまだ生かしているが、また暴れだしたら面倒だと渋々年少組に声を掛けた。

「おい、さっさと行くぞ。日のある内に船に戻んなきゃいけねぇんだろうが」
「お、そうだったそうだった。んじゃ行くかチョッパー」
「おう、ルフィ」

あっさりと船から向き直った二人は顔を見合すと、同時にゾロに視線をやった。
そして歩き出そうとしていたゾロを制すると、邪気のない笑顔で告げた。

「おい、ゾロ。お前はどうせ迷子になるからいいや。チョッパー、匂い辿れるか?」
「うん。多分大丈夫。途中まで戻れれば、ナミたちの匂いも辿れると思う」
「ししし。なら良し!いやぁ、最初っからこうしてりゃ良かったなー。悪かったな、ゾロ」
「そうだな。すぐに気づかなくて、ごめんなゾロ」
「おれに謝るな!」

ぎりぎりと怒りを研ぎ澄ましても、ある意味鈍い彼らはまったく頓着しない。
どころかゾロに背を向けるとさっさと歩き出す。

「やっぱさ、これは世間には内緒にしといた方がいいよな。ウソップが言ってた。伝説は美しいままがいいって。だからゾロの壊滅的で魂に刻まれた本能の曲がってる方向音痴は、おれたちだけの秘密だぞチョッパー」
「うん、判った。最強の剣豪に憧れてる奴も多いもんな。ゾロの壊滅的で魂に刻まれた本能の曲がってる方向音痴はおれたちだけの秘密だ!おれ、頑張って駄目を治す薬を作るからな、ゾロ!」
「だから、おれはそんな薬いらねぇ!!」

世界最強と名高い剣豪ゾロに向かい、言いたい放題の海賊王とその船医に向かい全力で叫ぶ。
しかしながらその顔は怒りだけではない思いで紅潮し、普段の迫力は僅かに削がれていた。
そしてそんな彼に向かう二人の視線は善意に満ちて生暖かい。

「大丈夫だ、ゾロ。海賊王の名に掛けて、絶対に秘密は守る」
「そうだぞ。おれも海賊王の船医の名に掛けて、絶対に薬を作ってやるからな!」
「だから、余計なお世話だっつってんだろ!!」

糠に釘、暖簾に腕押し。
親切心ゆえの大きなおせっかいに、世界最強と名高い剣豪も、白旗を振らないで居るのはとても難しかった。

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「何でお前はいっつも顔に傷を作るんだ、この馬鹿っ」

苛立たしげに舌打しながら脱脂綿に消毒液を染みらせたサンジは、甲板の上に胡坐を掻いて笑っているルフィの頭を消毒瓶を持った手でべしりと叩く。
ルフィがどうしてぼろぼろなのかは聞いたが、それはサンジを慰める理由にならない。
バロックワークスと言う組織にビビが追われているのは知っていたが、結局サンジだけ顔を見合わせることはなかった。
それ故に戦闘で苦労したらしいナミとウソップに殴りかかられ、ナミの拳を享受したため地味にサンジも傷だらけだ。
ちなみにウソップは蹴り飛ばしたので、ゾロの手当てをしながら怨み辛みを念仏のように唱えている。
辛気臭さに舌打したら、下品にも中指を立てられた。

戦いが終わってからナミとウソップに気を取られている間に、ルフィはゾロを担いで船に戻っていた。
自分だって満身創痍だったくせに、足が切れ掛かっているゾロに消毒液をぶっ掛け火で炙った針で縫いつけていた。
自分についた血を拭うでもなくゾロを手当てするルフィの姿をとてもらしいと思ったが、同時に面白くなく感じるのも仕方ないだろう。
せめて仲間の誰かにどこにいるか伝えてくれてもいいだろうと、散々探し回ったサンジは呼吸を整えながら睨み付けたが、あっさりとごめんの一言で終わらせた彼女はそれ以上言葉を続ける気もないようだった。

モンキー・D・ルフィという少女は決して不公平な人間ではない。
むしろ海軍の大佐である自分を律し、誰かを贔屓しないよう心がけているように見えた。
だが、それでも、とサンジは思う。
ロロノア・ゾロという存在にとってモンキー・D・ルフィが特別であるように、モンキー・D・ルフィにとってロロノア・ゾロは特別だ。
歯軋りしても収まらないほど悔しいが、それを否定できる人間は、少なくともメリー号の上にはいないだろう。

頭から流れる血を水気を含んだ布で拭うと、脱脂綿を押し付ける。
少し強めにすれば、いてぇ、と悲鳴が上がり、いい気味だと心から思った。
本来女性に対するサンジの態度から考えられないくらい横柄なものだが、彼女に対してだけ優しくなりきれない自分を自覚する身としてはこれくらいは許せと涼しい顔で心の内に呟く。
ちなみにビビとナミはゾロの傷を縫っているルフィから目を逸らしつつ、互いで傷を治療しあったのでもう処置をする必要はない。
自分で怪我を治療したウソップにゾロを押し付けたサンジは、傷が浅かったので自身のものは後回しにしていた。
消毒した箇所に包帯や絆創膏を貼っていくとじっとこちらを見ているルフィと目が合う。

「何だよ」

自分でも不機嫌だと呆れるくらいにぶっきらぼうな声が出て、餓鬼かと髪をかき乱した。
そんなサンジの仕草を不思議そうに見ていたルフィは、にっと空気を読まぬ笑顔を浮かべる。
その笑顔にいらっときたサンジだったが、その思いは長く続かなかった。

「サンキュ、サンジ。いっつもありがとな」

そっけない飾り気のない言葉。
だが嘘がない言葉に、怒りが続かなくなるのを感じ、うんざりと息を吐き出した。
目の前の女を他の女と同じに扱えないのに、他の誰より甘くなってしまってるのは気のせいだろうか。
気の所為だと思いたい、と煙草を吸いたく思いながら代わりに脱脂綿を傷口に押し付ける。
漏れる悲鳴に溜飲を下げつつ、天邪鬼な感情を持て余しながら傷を一つ残らず治療していった。
もし痕が残ったら、あの役立たずの剣士の傷口にタバスコを振りかけてやると呟いたブラックジョークは、それを耳にしたナミとウソップとビビには冗談に受け取ってもらえなかった。

拍手[22回]

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