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*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。





「お前を絶対に許さない!!」


喉も嗄れよとばかりに吐き出される怨嗟の言葉に、ルフィは静かに瞬きをした。
涙腺が崩壊したようにぼろぼろと涙を零し続ける子供(性別はよく判らない)は、血走った目でルフィを睨みあげる。
ルフィの腰元位までしかない子供は、その小さな両腕に男の亡き骸を腕に抱いていた。
顔立ちや年齢を考慮すると、多分肉親、それも父親か兄のごく親しい関係だろう。
憎しみで歪んだその顔は、周りの状況を理解していないと判断させる。

今、ルフィが居る場所は死の気配に満ち溢れていた。
寄航したばかりの島は、嫌な雰囲気にが漂っていた。
修羅場慣れしているルフィたちは、自分たちの直感を信用している。
それぞれ自分の武器を手にして人の気配の在る方へ向かったのだが、時は遅かった。

荒くれの海賊の侵略を受けたらしい村は、あちこちで火の手が上がっている。
阿鼻叫喚、地獄絵図。
体験者にとって忘れ難い日となるだろう光景は、幾度経験しても気持ちよいものではない。
時折聞こえる叫び声に、ばらばらになって生還者を探していたのだが、どうやら目の前の子供は、ルフィが肉親を殺したと思い込んでいるようだった。

ちらり、と視線を向け、体についている血を眺める。
体についているこの血は確かに子供が抱いている男のもので、それは否定しようがない。
死に掛けの体で尚床下に隠した家族の無事を確かめたいと願ったから、担いで手伝っていたのだが、それが誤解を呼んだようだ。
男の案内のまま家の跡地と思しき場所で、床板をずらして子供を見つけた瞬間に瞳を丸めた男は静かに涙を零した。
そうして震える手を伸ばしたから、体から下ろして子供と対面させ、ひとしきり涙を零して絶叫した子供は、冒頭の言葉を放った。

ぱちぱちと生肉が焼け焦げる臭いがそこらから充満している。
木で作られた村の建築物は燃えやすく、今も火の手が収まらない。
ナミが天候を操り雨を降らしているがどうにも勢いが足りないらしい。
ぽつぽつと頬を打ち出した雫を眺めてぼんやりと考えていると、不意に衝撃が体を貫いた。


「お前なんか・・・お前なんか、死ねばいい!!」


悲痛な叫びを上げた子供は、どこから持ち出したのか血塗れたナイフでルフィの刺していた。
ゴムであるルフィは打撃には強いが刃物には抵抗がない。
体に埋め込まれた異物感に眉を寄せ、血を流さないためにそのままナイフを留める。
すると自然と子供の掌から抑える事になり、ぎらぎらした目を向けた子供はルフィに向かって唇を持ち上げた。
刺されたことは別に構わないが、後に船医が泣くだろうと考えると少しだけ憂鬱だ。
感染症の心配もあるが、先日チョッパーが作った予防注射を受けたので大丈夫だろう。
突き刺したナイフを抉るように回転させた子供は、中々の殺気を漂わせていた。
どうしたものかと思案していると、背後に慣れた気配が生まれる。


「やめろ、ゾロ」
「・・・ルフィ」
「いい。こいつには発散させてやるものが必要だろ」
「阿呆。ことあるごとにサンドバックにでもなるつもりか」
「んな訳ねぇだろ。ちょっとぼーっとしてたら刺されただけだ」
「油断しすぎだ。お前は刃物には耐性がないんだからちっとは気にしろ」


軽い声掛けで溜め始めていた殺気を霧散させた相棒は、ルフィの隣に並ぶと子供を見下ろした。
目に傷があるゾロは元々強面だ。
ここにきて初めて恐怖を思い出したらしい子供に、ルフィは笑った。

恐怖は防衛本能を働かせる。
この子供は、どうやらまだ死を選んでいるのではないらしい。

小さな掌をナイフから剥がすとゆるりと口角を持ち上げる。
自分のものではないが、血に濡れたルフィの姿はさぞかし恐怖を煽る素材になるだろう。
目論見どおり引きつった顔で、それでも憎悪を失わないで子供はこちらを睨み付けた。


「おれの名はモンキー・D・ルフィ。海賊王だ」
「・・・ッ、お前が、お前が海賊王・・・」
「肉親を奪ったおれが憎いか?」
「当然だ!私が・・・私が、絶対にお前を殺す!」
「そうか。・・・なら、ここまで昇って来い。お前がおれを殺しに来るまで、おれはここで待っててやるよ」


とん、と親指で心臓を指し、精々悪役らしく笑って見せた。
恐怖を怒りが凌駕したのか、雄叫びを上げながら向かってくる子供に、ほんの少しだけ覇気を向ける。
びくりと体を強張らせた子供は、目を見開いたまま崩れ落ちた。
得意な種類ではないが、どうやら上手く制御できたらしく、意識を失う寸前で繋ぎとめている子供を抱き上げる。


「今のままじゃ、お前はおれに遙か及ばねぇよ。おれを殺したきゃ、もっと強くなるんだな」
「・・・ふッ」


肉親を殺した(誤解だが)男の腕に抱かれ、子供は屈辱に耐えかねたか意識を失った。
その様子を腕を組んで眺めていたゾロは、呆れたと深いため息を零す。


「何の茶番だ、ルフィ。このままだと、そいつは本当にお前を殺しに来るかもしれねぇぞ」
「そうだな」
「お前はこの村の人間に怨まれる筋合いはねぇだろうが。実際お前の命令でおれたちはこの村の生き残りを集めて非難させたし、サンジとロビンが海賊達を捕まえた。ナミとウソップが海軍へ救難信号を送ってるし、ブルックとチョッパーは怪我人の手当てをしてる。フランキーは簡易だが雨風凌げる家を作ってやったし、感謝されこそすれ、怨まれる筋はねぇ。なのに、どうしてだ」
「・・・どうしてだろうなぁ」


子供を腕に抱き、ゾロの訴えをするりと躱す。
雨はいつの間にか勢いを増し、容赦なく体を打ち始めた。
少し迷ったが片手で子供を持つとベストを脱いで包んでやる。
上半身裸の上にナイフが刺さった姿は我ながら笑えるが、隣の相棒が益々不機嫌そうな顔をしたので笑うのは自重した。
刺さったままなので出血はそれほどでもないが、痛みはじくじくと体の中を疼いている。
子供の力でここまで刀身を埋め込むのは、恨みが深かったからだろう。


「きっと、エースを失った時のおれと、被っちまったからだろうな」


呆然とし、恐怖に見開かれた瞳。
そんな表情幾度も見てきたのに、子供の何かがルフィの心の琴線に触れた。
肉親を抱きしめながら泣き喚いた子供が、『私を助けなければ、死ななかったのに』と叫んでいたからかもしれない。
それはあくまで仮定でしかない。
この状況であれば男が生き延びた確率はそれほど高くないだろうし、せめて子供だけでもと願ったのは当然だったと思う。
だが、身を挺して救われた子供は、一生その重みを背負う。


「どっちにしろ、単なる気紛れだ。二度はねぇよ」
「そうしろ。おれも次は見逃さない」


不機嫌そうに顔を歪ませたゾロに、ルフィは素直に頷いた。
どうせ次があってもルフィに弱い相棒は、怒り狂いながら許してくれるだろう。
ある一線を越えなければ、基本的にゾロはルフィに甘い。
明確な一線はルフィですら理解できるよう噛み砕いて教えてくれるので、本気のラインは超えないで済むだろう。
元来女子供に無意味に刀を向けるような男ではない。
ルフィが許しているのだから、今回だって納得せずとも不問にしてくれるはずだ。


「馬鹿なことを考えるんじゃねぇぞ、ルフィ。お前が無茶すると、チョッパーとナミが泣く」
「判ってるよ」
「拳骨は覚悟しとくんだな。誰も庇っちゃくれねぇぞ」
「あー・・・ま、しょうがねぇな」
「飯抜きかもな」
「!!?それは困る!おれは権利を主張するぞ!」
「何のだよ。・・・ったく、本当に呆れる馬鹿だ」


馬鹿だ馬鹿だと訴えるゾロに笑いながら、生き残りを集めた場所へと向かう。
これから先、村の生き残りが以前同様の生活水準まで持っていくまで、何年も掛かるだろう。
少しばかりの資金を提供するつもりではいるが、それ以上は手を出す気はない。
海軍の助けを借り、地道に努力をするしかない。

腕の中の温もりにすっと目を細める。
これからこの子供がどんな選択をするか知らないが、ルフィを追うつもりなら並大抵の努力じゃ足りない。
幾度も挫折を味わい、幾度も辛酸を舐めるだろう。
だが、この子供なら、何となくその選択を選ぶのではないかと思う。


「・・・村の奴らに口止めしとかなきゃな」
「何をだ」
「この村を助けたのがおれたちだってのをだよ。じゃなきゃ、こいつの目標が消えちまうだろ?」
「───・・・底抜けに馬鹿だな、お前はよ。どこの世界に助けた人間に殺されるよう手引きさせる奴がいるんだ」
「ここだな。いいだろ、別に。どうせ怨まれるのは慣れてる」
「そりゃそうだ。・・・けど、ルフィ覚えとけよ。敵対するなら、おれは容赦しねぇぞ」
「判ってるよ」


ししししっと笑って頷くと、複雑な顔でゾロは頷いた。


この時助けた子供は、後に海軍将校まで昇り詰め宣言どおりに麦わらの海賊団を追う事になる。
女だてらに強豪に名を連ねた彼女が、立ち直った己の村の救い主を知っているか麦わら海賊団は知らない。
それでも彼女が追い求め続ける海賊が、麦わらのルフィただ一人であったのは歴史が知る真実である。

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いろは順お題
--お題サイト:afaikさまより--




この船で一番ルフィを理解しているのは、誇張でも自慢でもなんでもなく、相棒である自分だ。
他の船員が彼を理解していないのではないし、ルフィが彼らを信用していないのではない。
ただ、現実問題として、誰よりルフィを理解できるのはゾロだったというだけの話だ。

潮風に髪を揺らし心地良さそうに目を細めるルフィは、年よりも幼く見える。
戦っているときの背筋が震える危うい迫力はそこになく、楽しげに笑う子供がいるだけだ。
間の抜けた表情はいかにもルフィらしいもので、甲板で昼寝をしながら彼の様子を伺っていたゾロは一つため息を零した。

ゾロは強くなった。
東の海で自分は強いと思い込んでいた頃の、何十倍も、あるいは何百倍も強くなった。
強くなければ生き残れなかったし、強くなければ彼に付いていけないから強くなった。
ルフィと共に居る上での最低条件が強くなることだった。
世界最強の剣豪になるため努力は欠かさなかったが、それ以前の問題で生きるために強くあった。
ルフィの隣に居るのは否応にも経験を積むと同意で、彼の傍を望むのであれば生きる力を養うのが必須だ。
何もかも自分基準なルフィは清々しいまでに我侭で、自分がしたいと望んだ何もかもを押し通す。
望んで歩く修羅の道。
ルフィの隣は強くなければ立てない位置だ。
トラブル体質な彼に巻き込まれ戦うのは楽しいし、自分が強くなるのは純粋に嬉しい。
だが、同時に酷く怖い。

ルフィは、自分の仲間に強い執着を持っている。
一度手に入れたものを手放す選択肢は基本的に持ってないのだろう。
強欲で傲慢なルフィだが、それを心地よく思わない奴は彼の船に乗っていない。
とんでもなく我侭な奴だから、『欲しい』と望めば必ず仲間に引き込もうとする。
他に仲間がいれば別だが、そうでなければ相手の都合も考えないで欲しがる男だ。
そして彼が望めばそれを無条件に助けようとする自分は心底馬鹿だ。
つまるとこルフィの仲間に対する執着は、仲間の彼に対する執着と等しく同じなのだろう。

だからこそゾロは懼れる。
いつか来るかもしれない、もしもの未来を。
一度だけ本気で覚悟した、いざというときの話を。

ルフィの執着は凄まじい。
己の内に入れたものは無条件で守り、助けようとする。
ゾロはそんなルフィを助けるし、必要とされなくとも傍に居ると決めている。
命を懸けて戦うのは嫌いじゃない。
強い敵は心が躍るし、自分の強さを図れるのはそこから先の標となる。
負ける気は微塵もない。
どんな敵も目の前に立ち塞がるのなら、自分たちの道を閉ざす気なら消し去る。
そう、決めている。
だが現実と決意は違う。
死に急がなくとも、死から迫ってくる場合もある。
何も知らず走っていられた、東の海とは違う。
世界は広く、強い敵は数多い。
だから、怖い。

いつか──────いつか、ルフィが自分から命を絶つのではないかと。

彼の執着は仲間に向いている。
自分への執着は、とても希薄だ。
傷つくのも死に掛けるのも懼れない。
求める全てを全身で求め、その癖潔すぎる部分があった。
自分が納得できれば、自分の死を厭わない。
そんな危うさがルフィにはあった。
それがゾロにこの上ない恐怖を与える。

ローグタウンで死に掛けた彼は、笑っていた。
ルフィにとって死の概念はその程度で、いっそ清々しいほどだ。
殴り倒しても懇々と説教しても、きっと通用しない。
それがモンキー・D・ルフィという男だから。

もしルフィが自分を残して死んだら、ゾロは耐え切れるかわからない。
今やルフィの存在はゾロの野心を越えている。
野望が叶わなかった時は腹を切って侘びを入れろと叫んだ日は今では遠い。
侘びを入れても生きて欲しいと、望んでしまっているのだ。

「・・・阿呆が」

ゾロの気持ちも知らないで、ルフィはサニー号の船首に胡坐を掻いて鼻歌を歌っている。
馬鹿みたいに暢気な光景で、心地よすぎる平和な空気。
メリハリの利いた生活はゾロの肌に合っており、それ以上に彼の存在がゾロの魂に合っていた。

眺めすぎたのか、視線に気付いたらしいルフィがくるりと首をこちらに向ける。
しししと彼独特の笑い声が聞こえそうなほど、笑顔は上機嫌だった。

「・・・ど阿呆が」

先ほどの呟きを律儀に訂正すると、船首から飛び降りたルフィを尻目に瞼を閉じる。
いつか来るかもしれない、いざというときの話。
それを考えるのは今でなくてもいいはずだと、近づく気配に心を和らげ小さく嗤った。

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ゾロの幼馴染は風のように気紛れな女だ。
いつだって誰より自由でいて、何にも捕まらず好きな時に好きな場所で吹く。
誰より自分を強く持ち、女だというのに男と対等以上に遣り合い、我侭で傲慢な自我を持つ。
どうしようもない子供なのに、何故か惹かれる。
魂の輝きが強く、ハチャメチャだけれど傍にいて楽しい、そんな女。




「いい加減にしろよ、このクソ女!お前、これナミさんの分がねぇじゃねぇか!」
「しししっ!ごっそーさん、サンジ!今日も超美味かった」
「超美味かったじゃねぇ!!お前この落とし前どうつけてくれんだよ!もう材料ねぇんだぞ!ナミさんのデザートどうしてくれんだ!」

普段女には絶対手を上げない優男を気取っている中学からの腐れ縁が、煙草を咥えてむにむにとルフィの頬を抓り上げる。
いへへへへへとルフィが悲鳴を上げても抓る手は解かない。
しかし頬は全く赤くなっていないので、実際はそれほど力は入ってないのだろう。
彼らなりのスキンシップの取り方に、ひょいと肩を竦める。
好きな相手を苛めるなど、今時小学生でも流行らない。
大体料理同好会なんてゾロも無理やり含んで立ち上げたのだ。
彼の料理好きは知っているが、本当はそれを美味そうに食べるルフィが見たくて態々同好会を作ったことくらい、他のメンバーも知っている。
実際女のためと言いながら彼が率先してルフィ以外の女にリクエストを聞くのも見たことないし、ナミのためのデザートだって必ず彼女一人では食べきれない量を作っている。
見え見えの求愛行動だが鈍い幼馴染に通じる筈がなく、健気な男の行動は爆笑したいくらいに愉快だ。
もっとも実際爆笑したら本気の喧嘩に発展し、危うく停学処分を受ける寸前まで行ったので今は自粛している。

無意識なのか意識的になのか。
素直じゃない態度で求愛を続けるサンジは、その場に居たのがゾロでよかったと思うべきだ。
本当の敵が誰かを良く知るゾロは、腕を組みしみじみそう思う。

腰掛けている窓辺から外を覗けば、今日はサッカー部の助っ人をしているらしいルフィの兄の姿が見えた。
文武両道、容姿端麗、温厚堅実、将来有望。他にも四文字熟語が並ぶ学校始まっての優等生は、今日も爽やかな笑顔で青春を満喫しているように見えた。
エースが走るだけで女は奇声を上げ、男も憧れの眼差しを向ける。
彼は名実共に学校の中心に居る男だった。
彼が光ならルフィは闇。優等生と落ち零れの兄妹をそう表現したのは誰だったか。
絵に描いた優秀な生徒であるエースとは違い、ルフィは色々な意味ではみ出しものだ。
彼女に対する好悪はハッキリしていて、味方も多いが敵も多い女だった。
エースを好きな女に呼び出された回数など片手に足りず、酷いときなど男も含めた複数人に囲まれたときもある。
黙ってやられるルフィじゃないので喧嘩には勝利してきたが、それでも罰を受けるのはルフィだった。
だがルフィに何かあれば、消えるのはルフィにちょっかいをかけてきた『誰か』だ。
おかしいと思ってから何故そうなのか気付くまで時間が掛かったが、理由を知ってからもゾロは無言を通した。
相棒である幼馴染ばかり割が食うのも納得いかなかったというのもあったが、それが正当な仕返しだと気がついたから。

本当の闇が誰か、ゾロは知っている。
伊達に幼稚園時代からルフィとつるんでいない。
彼女と共に居るときのエースの眼差しの強さは、園児と言えども背筋に薄ら寒いものが駆け上る迫力があった。
酷く昏く欝な眼差し。今にも掴み掛かってきそうな、獣が牙を剥く寸前の恐ろしさ。
ゾロが剣を志したのは、その恐怖心に打ち勝つ心の強さが欲しかったからだ。
当たり前に傍を離れるなんて選択肢は、脳裏に浮かばなかったから、だから傍に居るための努力を始めた。
今では趣味が本気になって打ち込んでいるけれど、何が大切かは変わってない。
ルフィと一緒に居ると喧嘩に巻き込まれる回数も半端じゃないため昇段試験は受けないが、無段無休でも弱くない。

ただ傍に居るため強くなった。
だがそれは、あそこに居る彼だって同じ。
爽やかな顔で笑ってるが、ルフィは一度だって彼に勝てたためしはないと笑っていた。
ルフィとゾロの強さはほぼ同じ。
ならばゾロも彼に勝てない。

「どーした、ゾロ?」
「・・・クソエロコックは?」
「サンジはナミのとこに行ったぞ。あいつデザート隠してやがった。んで、何見てんだ?・・・って、エースか。何だ、ゾロ。お前がエース見てんなんて珍しいな」
「そうか?」
「そうだ。極力関わらないようしてんだろ?」

普段どおりの笑顔でさらりと言われたが、気付かれてると思わなかった。
鈍いようでどこか聡いこの幼馴染を、少々見くびっていたかもしれない。
しししと楽しげに笑う彼女の額を指で弾くと、自然と隣に並んだ彼女から視線を逸らす。

「相変わらず、兄貴には勝てねえか?」
「おう。でも、なんかもうすぐ勝てる気がする」
「その台詞、十年以上聞いてる」

毎年懲りずに告げるルフィに、瞼を伏せ深くため息を落とす。
彼女が勝てないと認めるほど、相変わらず彼は強いらしい。

不意に強い視線を感じ慌てて瞼を開ける。
案の定話題の彼の視線で、一瞬だったが今にも射殺しそうな激しさを含んでいた。
彼の闇は晴れるどころか年々深まっている気がして、胸の奥が落ち着かない。
そんなゾロの心配も余所に、幼馴染は無邪気に笑った。

「ホント、お前らって変な関係」

その原因の癖に、何も知らずにいようとする彼女は、とてもずるくて傲慢だった。
ルフィの我侭な性格を知った上で離れられない自分は、きっと彼女に輪をかけた馬鹿なのだろう。
暢気にゾロの頭の上に腕を置きもたれかかるルフィを、せめてもの思いで軽く小突く。

今日も深まるエースの怨念に、呪いはかけられてないよなと僅かに本気で心配になった。

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*ルフィたちが海賊王になった後の設定です。



海賊王。
そう呼ばれる男が率いる海賊団にはずば抜けた金額を持つ賞金首の幹部たちが勢ぞろいしている。
個性的で、強くて、勇敢で、信念を持っている。
誰もかもが一級品の腕を持ち、若くして名声と富を手に入れた。





「私も安く見積もられたものよね」

目の前に山と詰まれた財宝を眺め、ナミは猫の呼び名に相応しい笑顔を浮かべた。
世間に広まる手配書と同様、彼女の宝好きは広まっている。
痛い目を見る覚悟があれば、彼女と取引すら出来る手段だ。
何しろ泥棒猫のナミは海賊王の船の中でも大きく幅を利かせる存在。
麦わら海賊団の頭脳の彼女を篭絡すれば、海賊王を動かせるとすら噂される女。
彼らの関係は男と女のものであるか、そうでないのか。
それを知る人間は彼らの仲間のみだろうが、少なくとも海賊王がナミを大事にしているのは事実だった。

「すまねぇ、安すぎたか?」

机の上に広げられた黄金はそれだけでひと財産だったが、表情すら変えず余裕を保つ相手には足らなかったのか。
引き抜きの交渉をしていた海賊船の船長は、背中に汗を掻きながらそれが相手に伝わらないよう笑顔を浮かべる。
若輩の女相手に随分と媚びたものになったそれを睥睨するように眺めたナミは、机を指で叩いた。

「ええ、そうね。私を引き抜きたいなら、この三倍は用意してくれなきゃ。それとも、そのくらいも出来ないで私を引き抜くつもり?」

楽しげに告げてグラスの酒をゆっくりと飲み込む。
腰に届くほどの癖のあるオレンジ色の髪が揺れる。
抜群のスタイルを惜しげもなく晒したショートパンツにノースリーブと挑発的な格好で、ナミはまさしく猫のように気紛れに振舞った。

泥棒猫の本職を航海士と知る人間はごく一部だ。
海賊の間でも海軍の間でも共通して流れる低俗な話題では、彼女ともう一人の女クルーは、その見目の麗しさから海賊王の慰み者と噂されるが、実態は違う。
泥棒猫の正体は超一級の航海士だ。
海賊の中でもその真実を知るごく一部のものは、見目の麗しさも相俟って彼女を欲しがる。
今、場末の酒場で交渉している彼も、その内の一人だった。



「・・・あのクソ野郎!ナミさんに色目使いやがって!!」
「しししっ、サンジはそればっかだなー」

黒足と名高いコックのサンジと、今日は麦藁帽子をロビンに修理してもらうために船に置いて来た海賊王のルフィは、ナミが交渉している席から死角になる場所で様子を見物していた。
サンジは苛々しながら煙草を凄い勢いで消費しているし、その正面では愉快そうにしているルフィがえらい勢いで肉を消費している。
積み上げられた皿はすでに身長を超え、そのルフィの様子にすらサンジは苛立つ。

「お前な、船で晩御飯の準備してんのに食えんのか?」
「ったりめーだ。サンジの料理は別腹!世界一美味いもんな!」
「・・・食えるならいいんだけどよ。言っとくが、残すなよ」
「当然だ。おれがお前の料理を一度でも残したことがあるか?」
「ねぇな。食い意地だけは張ってんもんな、お前」

しししっと笑う彼の額を指先で弾くと、いてえぞと文句を言われた。
少しだけ気分が上向く。ルフィはとんでもなく大喰らいで食い意地が張っているが、コックとして最高の相手だ。
出したものは何でも残さず平らげ、尚且つ本当に美味しそうに食べる。
不味ければ不味いとはっきり言うが、未だにサンジはその一言をもらったことはない。
『サンジの料理が世界一』と誰彼構わず口にするのは恥ずかしいが喜ばしい。
擽ったい気持ちを誤魔化すために紫煙を燻らすと、反らした視線の先でとんてもない光景が映った。

「んな!!?」
「おお、勇気ある男だな!ナミの手握ってる」
「許せん!あの男、殺す!!」
「今出てったらナミに殺されるぞ~?手に入るだけせしめるっつってたし」
「殺されてもいい!ナミさんに触れる男を殺して、おれはナミさんに悩殺される!」
「ししっ、サンジは馬鹿だな」
「お前には言われたくねぇ!」

ずべし、と全力でチョップする。
皿に顔面を強打しながらも、彼は食べかけの肉を決して離さなかった。
大した根性だ。しかし、やはり馬鹿は馬鹿だ。

「・・・あんたたち、五月蝿すぎるんだけど」
「んナミさん!!」

めろりん、と振り返れば、呆れた眼差しのナミが腰に手を当てて立っていた。
年を経るごとにいい女になるナミに、サンジの心は釘付けだ。
ハートを飛ばすサンジをあっさり無視すると、麦藁帽子の代わりにパーカーを被るルフィに視線をやると肩を竦める。

「交渉決裂。あ、でもあのお宝は私の時間を浪費した代償にもらっていきましょ」
「お前って感心するほどあこぎだよな」
「・・・あんた、よくそんな言葉知ってたわね」
「この間ロビンの聞かせてくれた童話にあった。何か名作劇場シリーズらしいけど、なんも報われない話だったぞ!義理の親があこぎだったんだ」
「ふーん。何か、意味は判ってなさそうだけど、あんたにしては凄いわね」
「だろっ。そんで、あのお宝は持ってくのか?」
「ええ。結構な量だからあんたたち二人で手分けしてね。落としたりしたら殺すわよ」
「んー、いいけど何か買ってくれ。肉がいいな、肉!」
「あー、はいはい。一塊だけよ」
「ちょっと待てぇ!!」

話すルフィとナミの間に入ったのは、先ほどまでナミと話をしていた男だった。
手配書で見たことがあるような気がするが、サンジよりは賞金額は少ないだろう。
ナミの本職を知るからにはそこそこ有能な海賊団の一味だと思うが、彼らは決定的な思い違いをしていた。
席を立ち上がると、ナミを庇うために前に立つ。
いきり立った目で睨まれたが、生憎その程度で怯む経験の積み方ではない。
頭のねじが数本飛んだ海賊王と旅をしていれば、度胸くらい嫌でも身につく。

「この女っ、おれをコケにする気か!」
「コケに?何で私が」
「そうだろうが!『あんたに私は釣り合わない』ってどういう意味だ!」

唾を飛ばして訴える男に、サンジは何があったかを理解できた。
搾り取れる鴨を前にナミが席を立ったのは、きっと彼女の逆鱗を逆なでする『何か』を彼が口にしたからだろう。
彼が何を言ったか知らないが、その逆鱗の在り処は同じクルーとしてサンジははっきりと悟れる。
彼らの逆鱗は、共通点では『ルフィ』に関することのみだ。
それぞれ違うプライドを持つが、それだけは共通していた。

「そのままの意味よ。あんたじゃ私に釣り合わない。私を誰だと思ってるの?」
「んだと、このクソ女!」

咄嗟に武器に伸びた手を蹴り飛ばし、ついでに踏み込んだ勢いを利用して男を壁際まで吹っ飛ばした。
ざわり、と空気が揺れる。男を蹴り飛ばした瞬間に席を立った人間が幾人もいて、この店の客の大多数が彼の仲間だと漸く悟った。
しかしだからといって何も気負うことはない。
周りを囲われため息を吐くと、この状況でも食事を続けるルフィに声を掛けた。

「おい、ルフィ。お前いつまで食ってんだ?」
「これで最後だ!にしても美味いな、この料理。サンジ、これ帰ったら作れるか?」
「んー・・・ま、大丈夫だろ。ああ、皿舐めるな!外でするな、恥ずかしい!」
「・・・貴様ら、おれたちを馬鹿にしてるのか!?」
「はぁ・・・面倒ね。説明しなきゃ判らないなんて」

肩を竦めると、未だに肉を咀嚼しているルフィの襟首を掴んで立たせたナミは、彼のフードをむんずと引っぺがす。
扱いは酷いものだが慣れてるルフィは抵抗せず好きにさせ、ナミは彼を体の前に突き出した。

「私は海賊王の航海士よ?その意味が理解できてるの?」
「・・・超一流の航海士ってことだろう」
「ええ、そう。私は一流の航海士じゃなくて、超一流の航海士なの。海賊王がどこにでも行けるよう、超一流になったの」
「だから、あんたの腕はそこで終わらせるには勿体無いって・・・」
「私の将来をあなたが決めないで」

怒りで瞳の色を濃くしたナミは、頬を赤らめて言い放った。
屈辱に燃える顔は美しく、きつい口調は誇りに満ちている。
か弱い女が相手だと思っていた男は息を呑み、ナミはルフィの隣に並んだ。

「私の飼い主になるですって?私はルフィの航海士よ。彼が行きたい場所のどこにでも船を進めれるように技術を磨いたの。幾らお金を積まれても、誇りを売るつもりはないわ。私はルフィの船を進めるの。あんたじゃ私に釣り合わないわ」
「ヒュー」

思わず口笛を吹き鳴らす。
潔い啖呵は痺れるほどに格好いい。さすがサンジが見込んだ女だ。
見た目も中身も極上品。彼女はサンジの誇りだった。
もっとも、彼女はサンジをちらりとも見ることはない。
彼女の視線はいつだって一方向に向かっていて、逸らされることはないのだから。
唯一残念なのは男の趣味だと言いたいのに、ルフィは彼が知る誰よりも格好いい男だった。
超絶悔しいし認め難いが、男であるサンジが惚れ込むほど、いい男なのだ。

ナミの啖呵を嬉しそうに聞いたルフィは、隣に居るナミの肩を抱くとしししっと笑った。
酷く満足気に頷く姿に、ひっそりと眉を顰める。
ルフィは馬鹿だが馬鹿じゃない。
彼は本能でナミが自分のものだと理解している。
骨の髄まで自分のものだと理解して、欠片も手放す気はないのだ。
子供と同じ無邪気さで、彼は傲慢さを振りかざす。
生まれながらの王様なのだ、モンキー・D・ルフィは。

「最高だ、ナミ。お前、格好いい」
「当然よ」
「しししっ、何てったって『おれの』航海士だもんな!」

昔より体だけは成長した男は、女を独占して甘く笑う。
精悍な顔つきで、とても愉快だと幸せそうに。

「聞いたろ?ナミはおれのだ。おれのために船を進める『航海士』なんだよ。世界一凄い腕を持つ、最高の女だ」
「・・・か、い、賊王だと?」
「超一流の腕はおれの船を進めるために努力してくれたものだ。おれは航海士を、仲間を手放す気はねぇよ」

そうして彼は、笑顔のまま静かに覇気を纏う。
空気が変わったと肌で感じた瞬間に、その場の男たちが次々と気絶を始めた。

「おれの仲間に手を出すな。ナミはおれの航海士だ。こいつがいねぇとおれの船が進まない。奪う気なら、覚悟して来い」

ナミの命令通りに机の上の財宝を布に纏めて背負うと、店を出る瞬間に彼は後ろを振り返る。

「覚悟はいるが、奪う価値がある女だぜ、こいつは」

誇らしげに告げたルフィの死角で、ナミが一気に顔を赤らめた。
可愛いや綺麗を聞き慣れた彼女の初心な反応にサンジは苦笑する。
普通の誉め言葉より破壊力があるのだろう。
サンジの賛美には欠片も照れや恥じらいを見せないのに、この差は何だと訴えたいが、誰に訴えればいいか判らない。
何せサンジもナミの気持ちは判るのだ。
臆面もなくルフィに同じ台詞を吐かれれば、サンジとて赤面するだろう。
だから悔しさを堪えると、せめてもの情けでルフィとナミの間に入り込み壁となる。

「ありがと、サンジ君」
「いえいえ。ナミさんのためならお安い御用です」

情けなく眉を下げながらそれでも笑ってしまうのは、恥らう彼女が可愛らしいからに違いない。

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片思いで5のお題
--お題サイト:お題配布処-ふにふにさま-より--



■僕は君が好きだけど、君がそうじゃないなら【クロコダイル】

「相変わらず、イカレてんなぁ、麦わら」

くつくつと喉を震わせ戦い終わったばかりの男を横目で見れば、多勢に無勢であったにも関わらず傷一つ負わなかった彼は、無造作に首から提げていた麦藁帽子を手で直すと目を丸くしてクロコダイルを見た。

「何だ、鰐。居たのか」
「まぁな。俺がここでメシ食ってたらお前が目の前で騒ぎ始めたんだ。ディナーに砂が入った」
「そりゃ悪かったな。弁償するから許してくれ」
「・・・金、持ってんのか?」
「おう、だいじょーぶっ!おれの小遣いは肉に消えたが、ここにたくさん財布がある」
「・・・・・・追いはぎか」
「いや、イシャリョウって奴だ。ナミが言ってた」
「『慰謝料』を漢字で書けねぇ奴が口にするな」
「ししししっ、お前男の癖に細かいな」

うんざりと呟くと、肉を背負ったまま倒れていた男たちの胸元を漁ったルフィがなにやら投げて寄越した。
どうやら本当に財布を奪ったらしく、それほど重みはないがここの代金程度は払えそうな量のベリーはありそうだった。
ひょい、と片眉を上げ、どういうつもりだと呟くと、彼は益々笑みを深める。
相変わらず取り留めない反応に、掴み所がない奴だと疲れを覚える。
そして相変わらず、変なところで執着がない。
背負っている肉を見て物欲がないわけではなさそうだが、それを買うための金には一切執着を見せず、単純なくせに基準がわかりにくいと眉を寄せる。

「・・・おれに施しをしようってのか?」
「はぁ?言ってる意味が判んねぇ。おれはただ単に弁償しただけだ。ナミは三倍返しを請求するけど、お前は別にそこまでじゃねえだろ?」

だからそれで勘弁な、とあっけらかんと言った彼は、そのまま肉を背負って行ってしまった。
残った財布を片手にひっそりとため息を吐く。
倒れた男たちに、握られた財布。
どう考えても面倒ごとが葱を背負って近づいてる気がする。

呆れはしても、それでも腹は立たなくて。
理解できないがのを不満に思えるくらい理解したいと思う自分に、腹が立った。


■こっちを見て、あいつを見る時間の半分でいいから【サンジ】

その視線は、常に前を向いてる事が多い。
仲間を信用している。
口先だけでなくそうだから、戦いの最中であっても一度任せたと決めたら彼は振り返らない。
どうしても心配な時は、『後で絶対助けに来る』と言い捨て、そして振り返らずに言ってしまう。
その信頼はとても分厚く、だからこそ誇りに思う。

彼の視界に入るのは実は簡単で難しい。
ありったけの料理を持っていけばこちらを見る。
面白そうな冒険譚を話せば目を輝かせる。
けれどやはりそれは一瞬で、繋ぎとめておくことは出来ない。
唯一の例外は、当たり前の顔で彼に並ぶ緑頭。
ちらり、と横を見る視線に、僅かに口角を上げて応える姿。
他の誰でもなく、ルフィの隣に居るのは自分だけだと、傲慢なまでに信じきった姿は深い苛立ちをサンジに与える。

初めての仲間。信頼できる右腕。
誰も口に出さないが、ルフィの隣にあの男が並ぶのを当然と享受していて、認めたくないと抗う自分もそれを自然と思うからこそ、サンジの怒りは深くなる。
ルフィが他の誰かを認めたら、それはそれで腹が立つのに、この妬みは押さえることは出来ない。
だから。

「おーい、ルフィ。メシの準備手伝え!肉一切れオマケしてやるぞ」
「うひょー!サンジ、マジか!」

並んで海を眺めていた相棒をあっさりと捨てたルフィは、ゴムの力を使いサンジとの距離を一瞬で縮める。
こちらを睨み付ける凶悪な目つきを鼻で笑うと、ザマアミロと口先だけで伝えた。


■届かないかもしれないものに手を伸ばす方法【ロビン】

彼はロビンが知る限り誰よりも我侭で誰よりも自由で誰より愛すべき人だ。
敵にするにも味方にするにも一癖ある人物で、でも味方でいればこれ以上信頼できる人は居ない。
馬鹿だ単細胞だと言われるけれど物事の本質を見抜く力はしっかりと持っていて、それでいて器が人の何十倍も大きい。
ナミはルフィをざるの目が粗いと称していたが、それはロビンには短所以上に長所に見えた。
あばたもえくぼと言われればそれまでだろうが、ロビンにはとても好ましい。
真っ直ぐ、真っ直ぐ。どこまでも真っ直ぐ。
ただ前を見て前進を続ける彼が、とても愛しい。
想いを口にする日は来ないだろうけれど、それでもいいと笑えるくらい、ロビンはルフィを愛してる。

空に輝く眩しすぎる太陽に彼を重ねて手を伸ばせば。

「何してんだ、ロビン?」
「ふふふ、実験よ。太陽を手に入れることが出来るか試してみてるの」
「へぇ、面白そうだな!お前が本気で欲しいなら、いつか皆で手に入れよう!」

ししし、と首を竦めて笑う彼は、純粋な子供みたいだった。
太陽を手に入れるなど、無理だと子供でも判るのに、それを無視した愚かな男。
けれど彼が笑って言うなら。

「ええ、いつか。いつか太陽をこの手に」

届かないかもしれないなんて愚考を捨てて、届かせる術だけ考えればいい。
だって目の前の太陽は、手を差し伸べただけで握り返してくれる。
それが全てで、それだけが全てだ。


■会うとつらいのに、会わないと元気になれない【ゾロ】

「おい、ゾロ」
「何だよ」
「こりゃ、迷ったな」
「・・・・・・」

しししと笑いながら告げられ、ゾロはじっとりとため息を吐く。
冒険したい病を発病したルフィに無理やり引っつかまれて上陸した無人島で、かれこれもう数時間は歩いていた。
いつもゾロのおかげで迷うからと今日はルフィに主導権を渡したが、何のことはない。
やはり結果は道に迷って、もう月が中天に昇りそうだ。

「だから言っただろうが。南は下だ、つまりあの山の方角だってな」
「違うぞ!南は右だ!だからあの森の方面であってたはずだ」

絶対に自分が正しいと譲らない船長に、激しく舌打し顔を逸らす。
互いに夜食にしようと刈り取った獣がぶつかり合うが、全く気にならない。

本当に、つくづく心から面倒な男だ。
何かと言うとすぐに我侭を言うし、こっちのことはお構いなしで突き進むし、迷惑なんて考えない。
何かあれば尻拭いは回ってくるし、強引な船長を諌めるのは楽じゃない。

ちらり、と視線をやれば詰まらなそうな顔で膨れる彼が目に入り、深々とため息を吐く。
何でこの男がいいんだと幾度自問しても、こいつがいいんだからしょうがねぇだろうがと逆切れした答えしか出ない。
もう、本当にどうしようもない。
こんなに面倒な子供だが、ゾロの相棒は彼しか居ないのだから。

「おい、ルフィ。迷っちまったのは仕方ねぇ。おれが案内してやるから、こっち来い」
「嫌だ。ゾロについてったら益々迷う」
「んだと、コラ!」
「本当じゃねぇか!」

結局島の気候による湿った暑さや寄って来る蚊により忍耐力が知らぬ内に削られていた二人は、その場でガチンコバトルを勃発させる。
探しに来たナミにしこたま叱られ、もう暫くは絶対にこいつと二人で出かけねぇととゾロは心に決めた。


■嫌いじゃない、で十分。今は。【ハンコック】

好きかと問われれば鼻で嗤う用意はある。
下らなすぎる愚問であり、応えるに値しない質問だ。
だが、万が一応えてやるなら、胸を反らして宣言するだろう。

『愚か者が。好きではなく愛しておるのだ』、と。

世間は彼をイカれてると言う。
誰も成し遂げないような何もかもに、一直線に突き進む彼を頭がおかしいとそう言う。
確かにただの人から見たら彼の行動は常軌を逸しているだろう。
身内一人のために誰が監獄へ乗り込むだろうか。
死ぬ確率の方が高いのに、悩みもせずに進めるだろうか。
『仕方がなかった』と自分を騙すのではなく、『諦めるしかない』と自分に言い聞かすでもなく、第三の選択肢を実行する人間は、世界でどれほど居るのだろうか。

彼は実の兄の死刑を、新聞で読むまで知らなかった。
けれど知った瞬間から迷わなかった。
血の繋がりのない、けれど心から兄と慕う人を追い、海軍本部まで突っ走った。

世間はそれを気狂いと言うけれど、ハンコックはとても胸を打たれる。

彼は見返りを何一つ求めない。
命を賭けたのはただ兄に死んで欲しくないからで、兄に生きていて欲しかったからだ。
それだけのために世界を敵に回し、自分の不利になる何もかもを許容し、傷つく体も何もかも無視して突っ走った。
彼ほど格好いい男を、ハンコックは見たことがない。
彼以上の存在にこの先会えるはずもなく、一生をかけて追い続けると誓った。

「ルフィ。わらわはいい嫁になると思うぞ」
「そうか!でも結婚は嫌だ」

きっぱりと断られ、一瞬だけ気落ちする。
けれどまだ大丈夫。
幾度も繰り返されたやりとりだが、彼は一度もハンコック自身を拒絶していない。
つまり、嫌われていないのだ。否、むしろ好かれているに違いない。

彼が居るだけで鼓動が早くなる。
息が出来なくなるほどに胸が締め付けられて、そして世界が七色に輝く。
こんな人、世界中を探しても、二人として見つけれない。

「ルフィ、その、わらわはそなたをお慕いしてます」
「しししっ、ありがとな!おれもお前結構好きだぞ!」

あっけらかんと告げられた言葉に眩暈を感じ、体がふら付いた。
倒れそうになったところを抱きとめられ、益々意識が遠のく。
自分とは違う潮の混じった体臭に、心臓が早鐘を打った。

やはりこれは、結婚しかない。
決意も新に何十回目かの告白を、そっと口に上らせた。

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