×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
昔々、あるところに。
世界で有数のお金持ちと、そのお邸で働く世界有数の優秀なメイドさんがおりました。
今から語るお話は、そんな彼らの日常の一部。
「ご主人様、起きて下さいまし」
柔らかい声が振る。
優しくて甘くて、何より特別な──。
「ご主人様」
愛しい、人の。
髪に触れるのはメイドとしては越権行為だと注意すべきなのだろうが、許可したのはずっと以前。
触れれば壊れてしまう繊細なガラス器を扱うように、景時に触れるのは世界でただ一人だけ。
泣きたくなるくらいに優しい時間に、瞼を上げるのがもったいなくて。
今日も今日とて邸の主人は、朝の惰眠を少しでも長く貪ろうと努力する。
白魚のような手は、美しいだけじゃない。
働き者の手をしていて、上流階級の娘からは考えられないほど荒れている。
けれど、この掌以上に優しい掌を景時は知らない。
「起きて下さい、ご主人様。今日は朝から会議が入っていらっしゃるのですよね?ご主人様」
彼女の声は、ヒーリング効果があるんだろう。
心地よくて、暖かい。
声に色があるなら、きっと柔らかい暖色系のはず。
「──景時様」
「!!」
呼ばれた名に、思わず身を起こす。
乱れた髪を直す余裕すらなく、済ました顔で佇むメイド服の少女を見る。
黒を基調としたメイド服は、レースを多用したものではなく少女の雰囲気に似合うシックなデザイン。
長い袖の襟には、梶原家の印が入ったボタンが縫い付けられて、巻きスカートのような独特の黒い布は前と後ろで微妙に長さが違う。
アクセントとして所々に白い布をあしらった衣装は、細身の彼女に良く似合う。
年齢以上の落ち着きを感じさせる衣装だ。
「望美ちゃん?」
「どうぞ、呼び捨てになさってくださいご主人様。貴方様は私の仕えるべき唯一の主なのですから」
彼女──望美は、陽射しのような微笑を顔に浮かべた。
美しいと称して何の異論も得ないであろう容貌に、優雅な身のこなし。
料理以外の全ての家事を完璧にこなし、さらに護衛としての働きすら見せる万能のメイド。
そして。
「ねぇ、今──」
景時の、恋する相手。
「オレの名前、呼んでくれた?」
年の離れた相手だということは知っている。
自身の妹よりも年が下で、罪悪感を覚えなかったかと言えば嘘になる。
悩んで悩んで悩みぬいて、けれど捨て切れなかった感情は今でも景時の中でくすぶっている。
朝日の下、綺麗な姿勢で立つ望美は、優美に小首を傾げた。
何をおっしゃっているのですか?と問いかけるように。
有能すぎる彼女の考えを読むのは、いかな世界でも有数の大企業を束ねる景時でも難しい。
何を考えているか判らないとよく言われる、景時の考えはお見通しのようなのに。
悔しい──と言うよりも、面映い。
こんな年下の女の子に、大人であるはずの自分の考えが全て見抜かれてしまっていることが。
惚れたが負けとは良く言ったもの。
「ねぇ、望美ちゃん?」
自然と声が柔らかくなる。
暖かい感情で胸が満たされる。
好きという気持ちをとどめて置けない。
「水のご用意は出来ております。どうぞ、お顔を洗ってください。お茶と、朝食もお運びします」
絶えず笑みを浮かべながらも、言葉はそっけなく。
苦笑を浮かべると、頭をかく。
「あんまり冷たくされると、オレぐれちゃうかも知れないよ?」
「──大丈夫です。私は、私がお仕えするご主人様を。景時様を信じておりますもの」
先ほどまで浮かべていた笑みと違う彩を持つ微笑を浮かべた彼女は、一礼して部屋を出る。
残された景時は、大きな掌で顔を覆うと膝を抱えて蹲った。
体の間に挟んだ掛け布団に顔を埋めると、一人になれてよかったと心から思う。
きっと今の自分は耳まで赤くなっていることだろう。
「不意打ちだよ、望美ちゃん」
名前を呼ばれる。
それだけでなく、信頼していると無条件に、しかも極上の笑みまでつけて言うなんて。
「もう、本当に勝てないなぁ」
情けない笑みを浮かべた彼は、幸せにくすりと笑った。
世界で有数のお金持ちと、そのお邸で働く世界有数の優秀なメイドさんがおりました。
今から語るお話は、そんな彼らの日常の一部。
「ご主人様、起きて下さいまし」
柔らかい声が振る。
優しくて甘くて、何より特別な──。
「ご主人様」
愛しい、人の。
髪に触れるのはメイドとしては越権行為だと注意すべきなのだろうが、許可したのはずっと以前。
触れれば壊れてしまう繊細なガラス器を扱うように、景時に触れるのは世界でただ一人だけ。
泣きたくなるくらいに優しい時間に、瞼を上げるのがもったいなくて。
今日も今日とて邸の主人は、朝の惰眠を少しでも長く貪ろうと努力する。
白魚のような手は、美しいだけじゃない。
働き者の手をしていて、上流階級の娘からは考えられないほど荒れている。
けれど、この掌以上に優しい掌を景時は知らない。
「起きて下さい、ご主人様。今日は朝から会議が入っていらっしゃるのですよね?ご主人様」
彼女の声は、ヒーリング効果があるんだろう。
心地よくて、暖かい。
声に色があるなら、きっと柔らかい暖色系のはず。
「──景時様」
「!!」
呼ばれた名に、思わず身を起こす。
乱れた髪を直す余裕すらなく、済ました顔で佇むメイド服の少女を見る。
黒を基調としたメイド服は、レースを多用したものではなく少女の雰囲気に似合うシックなデザイン。
長い袖の襟には、梶原家の印が入ったボタンが縫い付けられて、巻きスカートのような独特の黒い布は前と後ろで微妙に長さが違う。
アクセントとして所々に白い布をあしらった衣装は、細身の彼女に良く似合う。
年齢以上の落ち着きを感じさせる衣装だ。
「望美ちゃん?」
「どうぞ、呼び捨てになさってくださいご主人様。貴方様は私の仕えるべき唯一の主なのですから」
彼女──望美は、陽射しのような微笑を顔に浮かべた。
美しいと称して何の異論も得ないであろう容貌に、優雅な身のこなし。
料理以外の全ての家事を完璧にこなし、さらに護衛としての働きすら見せる万能のメイド。
そして。
「ねぇ、今──」
景時の、恋する相手。
「オレの名前、呼んでくれた?」
年の離れた相手だということは知っている。
自身の妹よりも年が下で、罪悪感を覚えなかったかと言えば嘘になる。
悩んで悩んで悩みぬいて、けれど捨て切れなかった感情は今でも景時の中でくすぶっている。
朝日の下、綺麗な姿勢で立つ望美は、優美に小首を傾げた。
何をおっしゃっているのですか?と問いかけるように。
有能すぎる彼女の考えを読むのは、いかな世界でも有数の大企業を束ねる景時でも難しい。
何を考えているか判らないとよく言われる、景時の考えはお見通しのようなのに。
悔しい──と言うよりも、面映い。
こんな年下の女の子に、大人であるはずの自分の考えが全て見抜かれてしまっていることが。
惚れたが負けとは良く言ったもの。
「ねぇ、望美ちゃん?」
自然と声が柔らかくなる。
暖かい感情で胸が満たされる。
好きという気持ちをとどめて置けない。
「水のご用意は出来ております。どうぞ、お顔を洗ってください。お茶と、朝食もお運びします」
絶えず笑みを浮かべながらも、言葉はそっけなく。
苦笑を浮かべると、頭をかく。
「あんまり冷たくされると、オレぐれちゃうかも知れないよ?」
「──大丈夫です。私は、私がお仕えするご主人様を。景時様を信じておりますもの」
先ほどまで浮かべていた笑みと違う彩を持つ微笑を浮かべた彼女は、一礼して部屋を出る。
残された景時は、大きな掌で顔を覆うと膝を抱えて蹲った。
体の間に挟んだ掛け布団に顔を埋めると、一人になれてよかったと心から思う。
きっと今の自分は耳まで赤くなっていることだろう。
「不意打ちだよ、望美ちゃん」
名前を呼ばれる。
それだけでなく、信頼していると無条件に、しかも極上の笑みまでつけて言うなんて。
「もう、本当に勝てないなぁ」
情けない笑みを浮かべた彼は、幸せにくすりと笑った。
PR
更新内容
|
(06/28)
(04/07)
(04/07)
(04/07)
(03/31)
(03/30)
(03/30)
(03/30)
(03/30)
(03/25)
(03/25)
(03/25)
(03/25)
(03/24)
(03/24)
(03/24)
(03/23)
(03/14)
(03/14)
(03/13)
(03/13)
(03/13)
(03/11)
(03/10)
(03/08)
カテゴリー
|
リンク
|
フリーエリア
|