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塞き止めろ
--お題サイト:afaikさまより--
■せ 接触は駄目、心臓を盗られるに違いない
昔から、要領が良くない子だった。
白いスーツを着こなし、隙のない、けれど矛盾して穏やかにさえ見える笑顔を浮かべた彼を見て雲雀は腕を組む。
ボンゴレの日本基地の視察。
その名目で訪れた青年は、昔とは違い、限りなく金色に近くなった茶髪の髪をふわふわと揺らして歩く。
革靴が真新しい廊下に響き、こつこつと音を立てた。
珍しくも彼自身の腹心の部下であり忠臣の嵐や雨を引き連れずの行動に、雲雀はひっそりと柳眉を顰める。
そんな雲雀の不機嫌に気づいたらしく、情けなく眉を下げた青年は、困ったように微笑した。
マフィアのドンとは一見して判らない童顔の所為か、それとも彼自身が纏う穏やかな雰囲気の所為か。
まるで波乱万丈だった中学時代に戻ったかと錯覚させる無防備なそれに雲雀は一つため息を吐く。
「君は、相変わらず弱そうだね」
「ははっ。久しぶりに会って早々の言葉がそれだと、雲雀さんなんだなぁって思いますよ」
「何それ?僕を馬鹿にしてるの?」
「まさか!!俺如きが雲雀さんを馬鹿にするなんて、本当に命が幾つあっても足りません!」
慌てたように両手を顔の前で振る綱吉をじっと眺め、ふいっと顔を逸らす。
無視して歩き出せば、焦った足音がすかさずついて来た。
かつかつかつと廊下に響く自分の足音とは別に、もう少しだけアップテンポな足音が響く。
「君」
「はい?」
「足が短いんだね」
「んなっ!?」
びびくん、と体を揺らして声を上げた姿は、中学生の頃とほとんど変わりはないのに。
見えないように小さく笑い、早くおいでよと声をかけた。
■き 軌跡をなぞる応酬は、不意に未知の軌道へとる
この子は本当に馬鹿なんじゃないかよつくづく思う。
屋上のフェンス越しに赤ん坊姿のヒットマンがしている姿を眺めこくりと首を傾げる。
日が傾き茜色に染まるこの場所は、応接室と同じくらい居心地がいい場所で、風に靡く学ランがゆらゆらと陰になり映る。
肩に乗るヒバードを指先で撫でれば心地良さそうに頭を摺り寄せもっと撫でろと強要してきた。
「──君が小動物じゃなかったら噛み殺しているところだよ」
くりくりと指先に力を入れれば不満があったのか嘴で突付く様にして反撃された。
痛みなど全くないに等しいが、むっと唇を窄める。
ヒバードの噛みつきなど雲雀にとってささやかなダメージにもなりはしないが、反抗したこと自体が面白くない。
頭を撫でていた指先に力を篭めると、くぐもった変な声をヒバードが漏らし、それがおかしくて小さく笑う。
「雲雀」
「何、赤ん坊」
「お前、ツナをどう思う」
狙撃の手を一切緩めないまま、漆黒のスーツを纏う赤ん坊が問いかけた。
こちらを見ない視線は真っ直ぐに彼の不詳の弟子にだけ向けられる。
お気に入りの赤ん坊の仕草は面白くなかったが、彼に釣られるようにして半泣きで校庭を走り回ってる草食動物を見た。
ずっと一人で居ることが多かった彼の後ろには、銀髪を靡かせた問題児と、笑顔がうそ臭い野球少年。
群れが嫌いな雲雀は一瞬いらっとしたが、それを飲み下し頬に擦り寄るヒバードに触れた。
「咬み殺す価値もない草食動物」
「妥当な線だな」
「弱いくせに群れるから苛立つ」
「弱いから群れるんだ」
くつくつと喉を震わせて赤ん坊らしくはないが、とても彼らしい表情で笑ったリボーンに雲雀は僅かに目を見張る。
ポーカーフェイスは崩れてないが、瞳の奥は楽しそうに煌いていた。
「見てろ、雲雀。十年後のあいつは今とは比べ物にならないくらいに化けるぞ」
「・・・根拠は?」
「俺があいつの家庭教師だ。これ以上に何か必要か?」
「いいや。───楽しみだ」
自信たっぷりなリボーンの発言に、雲雀も少しだけ笑った。
■と 徒労感があなたの声で、低く囁きかけてくる
「これでおしまいなの?」
トンファーをクルリと回し腕を下ろす。
呼吸を荒げて床に寝そべる子供は目に薄い膜を張り、大きな瞳で雲雀を見上げてきた。
その表情は雲雀が知る今の彼とは違うもので、視線を逸らし舌打する。
雲雀の彼はもっと強かった。噛み殺し甲斐があり、甚振り甲斐のある獲物だった。
それがなんだ。
今目の前に居るのは紛うことなく草食動物で、牙を抜かれた獣以下。
雲雀を真っ直ぐに見詰めた琥珀色の瞳とよく似た瞳は怯えを湛え、むかつくくらいに余裕を湛えていた唇は見っとも無く震え、対等以上に渡り合った体技すら失われた。
自らの体の延長戦とばかりに銃を扱い、琥珀色の瞳の色を濃くして笑った彼が懐かしい。
強大な敵相手でも怯むことなく微笑んで、うざったいくらいに頭が回り、その癖気を許した相手の前で見せる百面相が嫌いじゃなかった。
自分の最強で最凶の武器、Xグローブを嵌めてオレンジ色の火を灯したか彼は、誰よりも一目を引き美しい生き物だったはずなのに。
「立ちなよ」
「・・・・・・」
「立たなくても止めないけどね」
ラル・ミルチが外野から何かを叫んでいる。
恐怖で見開かれた大きな目が雲雀を凝視していた。
目の前の草食動物は、雲雀が知る彼ではない。
それが酷く雲雀を苛立たせ、そして落胆させている。
彼の作戦を聞き、片棒を担ぐ役目を担ったが、これをあれ以上に叩き上げるなんて出来ないだろう。
だがそれは許されざる仮定だ。
雲雀は何があっても目の前の子供を彼以上にしなくてはならない。そうしなければ雲雀の望む彼は一生帰ってこない。
ぺろり、と舌で唇を舐める。
振り下ろしたトンファーは、寸でのところで避けられた。
悲鳴すら殺した子供は、青ざめた目でこちらを見詰める。
そんな子供に向け、雲雀は凄絶な笑みを向けた。
もっと、もっと、もっともっともっともっと。
もっと彼は強くならなければならない。
彼を託した『彼』に報いるために、『彼』を生かすために。
恐怖を誘い実力を引き出すために、雲雀はトンファーを振り回す。
■め 迷走する視線の最後、必ず在ったただひとつ
「君は死ぬつもりなの?」
初めてその作戦を聞いたとき、雲雀は琥珀色の瞳を見つめて問うた。
ふわふわの纏まりない金茶色の髪を揺らした綱吉は、目を丸くして雲雀を見詰める。
何を言われたか判らないとばかりに何度か目を瞬いた後、彼はふわりと微笑んだ。
情けなく眉を下げ目をすっと細めた彼独特の笑い方は、癪だが嫌いじゃなかった。
「俺が、死ぬ?」
「だってそうでしょ。君の作戦は穴がありすぎる。過去の自分を呼んで今の君の代わりにするなんて有り得ない」
「そう。有り得ないですよね。過去の俺が今の俺の話聞いたら卒倒しちゃいますよ」
「笑い事じゃないよ。───僕は草食動物は嫌いだ。群れて集まり役に立たない」
「・・・でも、一番可能性がある賭けなんです」
苛立つ雲雀を見て笑いながら、綱吉は静かに言った。
普段出入りしないボンゴレ本部ではなく、雲雀のあじとの一つに急に訪れた綱吉の話は突拍子もなかった。
最近ボンゴレ狩りは益々激化し、彼が慕った家庭教師も帰らなくなったと聞く。
黒い革張りのソファに身を沈めた彼も覚えているより随分と瘠せ、青白い肌と目元にこびり付いた隈が痛々しい。
眠れていないのかもしれない。
───彼自身が最強と信じた存在が帰ってこないのは、雲雀たちが思う以上に彼にダメージを与えているのだろう。
それでも今暢気な顔で笑ってられるのは、きっとその元・家庭教師の教育に違いなく、雲雀は苛立ちに紛れて舌打した。
「俺は死ぬつもりはありません。だから可能性に賭けると決めた」
玲瓏な声は静かに響く。
いつの間にか雰囲気は一変し、薄く立ち上るオーラが見えるようだ。
雲雀の愛する並盛の応接室を模した部屋の中で、彼の存在は異彩を放つ。
背筋を伸ばし僅かに口角を上げた男。
彼は草食動物にはなりえず、列記とした肉食動物で、普段との対比が激しい獰猛さを隠し持つ相手だった。
びりびりと気迫で肌が痺れ、自然と雲雀の唇も持ち上がる。
「打てる布石は全て投じたい。だから俺はあなたに話した。ボンゴレが───俺が勝つための布石の一つとして」
「僕を利用しようって言うの?」
「ええ、そうです。ボンゴレ十世の最強の守護者。十年前の『俺』の教育者に雲雀恭弥を俺は選んだ。返答は?」
手を組んだ彼は傲慢な表情をしている。
己の望みは叶って当然だと言わんばかりの支配者の笑み。
他の誰がしても間違いなく噛み殺したくなるのに、綱吉のその表情は雲雀を酷く興奮させた。
くつり、と喉を震わせる。答えなど本当は初めから一つしか用意されていないに違いない。
繊細な美貌を凄絶に冴え渡らせ、雲雀はゆるりと唇を持ち上げた。
■ろ 篭絡された心臓は、ひときわ熱く高鳴った
「君は後悔してないの?」
不意に口をついて出た言葉は、予てからの疑問でもあった。
爆音で耳がおかしくなりそうな中、普段と変わらぬ声量の声は届かないかもしれない。
嵐の守護者が操るダイナマイトが熱風を撒き散らす。
吹き起こる風と埃の間を縫い晴と雨の守護者が切り込む。
冴える剣技で静かに敵を屠る雨とは対照的に、晴は派手に敵を吹っ飛ばす。
霧は背後から襲う敵を夢幻へと誘い、哂いながら敵を狂わせる。
雷こそこの場に居ないが、ボンゴレに所属する守護者は全員綱吉へ従った。
ドン・ボンゴレに就任して初めて守護者全員を引き連れることになったこの戦いは、裏切り者の粛清を兼ねている。
綱吉は自身の甘さから就任後初めて身内で仲間殺しを起こした。
その手に彼自身の最強の武器、Xグローブをしっかりと嵌め額に揺らめく炎を宿す。
熱量を感じさせない瞳に宿るのは強い覚悟。
切り札として封印していた武器を開放した理由は単純明快。
裏切り者が逃げ出した先のファミリーも全て粛清すると決めたからだ。
裏切りを許した果てに得た敵対ファミリー粛清のチャンス。
代替わりしたばかりのボンゴレを甘く見た敵に力を示すまたとない機会だが、それを喜ぶ綱吉ではない。
事実決断した瞬間の彼には辛酸を舐めた敗北者の表情しかなかった。
悔しげに唇を噛み固く瞼を閉じ組んだ掌に額を押しつけて黙り込んだ彼の姿を一生忘れない。
きっとその場で彼の判断を待った守護者は全員そうだろう。
女だからという理由で外されたもう一人の霧の守護者は、今頃屋敷で気を揉んでいるに違いない。
爆風に呷られた黒の外套がヒラリと揺れる。
その姿は悲しいくらい孤高を保ち、切ないくらい綺麗だった。
「俺は、後悔しない。後悔しないと、そう決めた」
風に乗りささやかな声が聞こえた気がした。
だから雲雀もトンファーを構え躍り出た。
大空を支える天候の一角として。
牙を抜かれた草食動物の群れへと、制裁を加えるために。
彼が後悔しないと決めたなら、雲雀はそれに付き合うだけだ。
群れに混じらないというポリシーも、たまになら曲げてやってもいい。
■塞き止めろ
「弱いばかりに群れをなし」
予定通りのタイミングで踏み込んできた敵に、ゆるりと口角を上げる。
純和風の美貌が敵を前にして冴え渡る。
くるり、と右手首を返しトンファーを回す。
少し早いが計画の内だ。
死ぬ気の炎を武器へと移し、匣にも炎を注入する。
呼ばれるのを待っていたように飛び出た相棒に小さく笑った。
足音を隠すことすらせぬ敵は、多くとも雑魚にしか過ぎない。
雲雀ならば彼らを一掃するのに苦労しない。
たった今、逃したばかりの彼らとは違って。
くつり、と喉を震わせる。
もうすぐ、待ち望んだ瞬間が来る。
雲雀は『彼』との約束を果たした。ならば今度は『彼』が雲雀との約束を果たす番だ。
小さな子供の戦闘力は、未だ彼には遙か及ばない。
知識量も経験値も判断力も何もかも。
それでも彼が信じると決め、自分自身が鍛えた子供に賭けると決めた。
トンファーが空を切る。
今日の雲雀はいつもより気分良く戦えそうだ。
雲雀の姿を認めた敵が、徐々に足を止める。
戸惑う表情を浮かべ止まるより先に武器を手にとれば、あるいは一手くらいは負わせれたかもしれないのに。
愚鈍な相手に嘲笑しか浮かばない。
「咬み殺される、袋の鼠」
そう、彼らは贄であり供物だ。
雲雀が育てた『彼』が迷わずに進めるように除外される存在。
子供はまだ『彼』ではなく、『彼』が帰る切欠にすらなっていない。
泣き言に塗れた怯えを纏わせる子供は、『可能性』だと彼は断じた。
雲雀はボスとしての『彼』を信じ、力を貸した。
他の誰にも明かさぬ秘密を雲雀にだけ共有させた、そんな『彼』を負けさせるわけに行かない。
子供が勝利しなければ、『彼』に文句を言うことも出来ないのだから。
「早く、帰っておいで綱吉。『他の君』が為しえないことでも、『僕の君』なら出来る筈だ」
一人、また一人と草食動物を咬み殺し、雲雀は今ここに居ない存在へと語りかける。
「早く帰っておいで。君の道は僕が切り開いてあげる」
『君』が目を覚ましたら、十年前の『君』がどれだけ酷かったか一番に教えてあげる。
日本に作ったこの基地の、雲雀の自室に上等の酒を謙譲させて、懇々と説教をしてあげる。
そうしたら、あの『彼』特有の情けなく眉を下げ目を細めた笑顔がきっと見れるだろう。
だからまずは。
目の前で子供を追うために躍起になるこの雑魚たちを、全て切り崩してしまおう。
雲雀が待ってる『彼』を得るために。
--お題サイト:afaikさまより--
■せ 接触は駄目、心臓を盗られるに違いない
昔から、要領が良くない子だった。
白いスーツを着こなし、隙のない、けれど矛盾して穏やかにさえ見える笑顔を浮かべた彼を見て雲雀は腕を組む。
ボンゴレの日本基地の視察。
その名目で訪れた青年は、昔とは違い、限りなく金色に近くなった茶髪の髪をふわふわと揺らして歩く。
革靴が真新しい廊下に響き、こつこつと音を立てた。
珍しくも彼自身の腹心の部下であり忠臣の嵐や雨を引き連れずの行動に、雲雀はひっそりと柳眉を顰める。
そんな雲雀の不機嫌に気づいたらしく、情けなく眉を下げた青年は、困ったように微笑した。
マフィアのドンとは一見して判らない童顔の所為か、それとも彼自身が纏う穏やかな雰囲気の所為か。
まるで波乱万丈だった中学時代に戻ったかと錯覚させる無防備なそれに雲雀は一つため息を吐く。
「君は、相変わらず弱そうだね」
「ははっ。久しぶりに会って早々の言葉がそれだと、雲雀さんなんだなぁって思いますよ」
「何それ?僕を馬鹿にしてるの?」
「まさか!!俺如きが雲雀さんを馬鹿にするなんて、本当に命が幾つあっても足りません!」
慌てたように両手を顔の前で振る綱吉をじっと眺め、ふいっと顔を逸らす。
無視して歩き出せば、焦った足音がすかさずついて来た。
かつかつかつと廊下に響く自分の足音とは別に、もう少しだけアップテンポな足音が響く。
「君」
「はい?」
「足が短いんだね」
「んなっ!?」
びびくん、と体を揺らして声を上げた姿は、中学生の頃とほとんど変わりはないのに。
見えないように小さく笑い、早くおいでよと声をかけた。
■き 軌跡をなぞる応酬は、不意に未知の軌道へとる
この子は本当に馬鹿なんじゃないかよつくづく思う。
屋上のフェンス越しに赤ん坊姿のヒットマンがしている姿を眺めこくりと首を傾げる。
日が傾き茜色に染まるこの場所は、応接室と同じくらい居心地がいい場所で、風に靡く学ランがゆらゆらと陰になり映る。
肩に乗るヒバードを指先で撫でれば心地良さそうに頭を摺り寄せもっと撫でろと強要してきた。
「──君が小動物じゃなかったら噛み殺しているところだよ」
くりくりと指先に力を入れれば不満があったのか嘴で突付く様にして反撃された。
痛みなど全くないに等しいが、むっと唇を窄める。
ヒバードの噛みつきなど雲雀にとってささやかなダメージにもなりはしないが、反抗したこと自体が面白くない。
頭を撫でていた指先に力を篭めると、くぐもった変な声をヒバードが漏らし、それがおかしくて小さく笑う。
「雲雀」
「何、赤ん坊」
「お前、ツナをどう思う」
狙撃の手を一切緩めないまま、漆黒のスーツを纏う赤ん坊が問いかけた。
こちらを見ない視線は真っ直ぐに彼の不詳の弟子にだけ向けられる。
お気に入りの赤ん坊の仕草は面白くなかったが、彼に釣られるようにして半泣きで校庭を走り回ってる草食動物を見た。
ずっと一人で居ることが多かった彼の後ろには、銀髪を靡かせた問題児と、笑顔がうそ臭い野球少年。
群れが嫌いな雲雀は一瞬いらっとしたが、それを飲み下し頬に擦り寄るヒバードに触れた。
「咬み殺す価値もない草食動物」
「妥当な線だな」
「弱いくせに群れるから苛立つ」
「弱いから群れるんだ」
くつくつと喉を震わせて赤ん坊らしくはないが、とても彼らしい表情で笑ったリボーンに雲雀は僅かに目を見張る。
ポーカーフェイスは崩れてないが、瞳の奥は楽しそうに煌いていた。
「見てろ、雲雀。十年後のあいつは今とは比べ物にならないくらいに化けるぞ」
「・・・根拠は?」
「俺があいつの家庭教師だ。これ以上に何か必要か?」
「いいや。───楽しみだ」
自信たっぷりなリボーンの発言に、雲雀も少しだけ笑った。
■と 徒労感があなたの声で、低く囁きかけてくる
「これでおしまいなの?」
トンファーをクルリと回し腕を下ろす。
呼吸を荒げて床に寝そべる子供は目に薄い膜を張り、大きな瞳で雲雀を見上げてきた。
その表情は雲雀が知る今の彼とは違うもので、視線を逸らし舌打する。
雲雀の彼はもっと強かった。噛み殺し甲斐があり、甚振り甲斐のある獲物だった。
それがなんだ。
今目の前に居るのは紛うことなく草食動物で、牙を抜かれた獣以下。
雲雀を真っ直ぐに見詰めた琥珀色の瞳とよく似た瞳は怯えを湛え、むかつくくらいに余裕を湛えていた唇は見っとも無く震え、対等以上に渡り合った体技すら失われた。
自らの体の延長戦とばかりに銃を扱い、琥珀色の瞳の色を濃くして笑った彼が懐かしい。
強大な敵相手でも怯むことなく微笑んで、うざったいくらいに頭が回り、その癖気を許した相手の前で見せる百面相が嫌いじゃなかった。
自分の最強で最凶の武器、Xグローブを嵌めてオレンジ色の火を灯したか彼は、誰よりも一目を引き美しい生き物だったはずなのに。
「立ちなよ」
「・・・・・・」
「立たなくても止めないけどね」
ラル・ミルチが外野から何かを叫んでいる。
恐怖で見開かれた大きな目が雲雀を凝視していた。
目の前の草食動物は、雲雀が知る彼ではない。
それが酷く雲雀を苛立たせ、そして落胆させている。
彼の作戦を聞き、片棒を担ぐ役目を担ったが、これをあれ以上に叩き上げるなんて出来ないだろう。
だがそれは許されざる仮定だ。
雲雀は何があっても目の前の子供を彼以上にしなくてはならない。そうしなければ雲雀の望む彼は一生帰ってこない。
ぺろり、と舌で唇を舐める。
振り下ろしたトンファーは、寸でのところで避けられた。
悲鳴すら殺した子供は、青ざめた目でこちらを見詰める。
そんな子供に向け、雲雀は凄絶な笑みを向けた。
もっと、もっと、もっともっともっともっと。
もっと彼は強くならなければならない。
彼を託した『彼』に報いるために、『彼』を生かすために。
恐怖を誘い実力を引き出すために、雲雀はトンファーを振り回す。
■め 迷走する視線の最後、必ず在ったただひとつ
「君は死ぬつもりなの?」
初めてその作戦を聞いたとき、雲雀は琥珀色の瞳を見つめて問うた。
ふわふわの纏まりない金茶色の髪を揺らした綱吉は、目を丸くして雲雀を見詰める。
何を言われたか判らないとばかりに何度か目を瞬いた後、彼はふわりと微笑んだ。
情けなく眉を下げ目をすっと細めた彼独特の笑い方は、癪だが嫌いじゃなかった。
「俺が、死ぬ?」
「だってそうでしょ。君の作戦は穴がありすぎる。過去の自分を呼んで今の君の代わりにするなんて有り得ない」
「そう。有り得ないですよね。過去の俺が今の俺の話聞いたら卒倒しちゃいますよ」
「笑い事じゃないよ。───僕は草食動物は嫌いだ。群れて集まり役に立たない」
「・・・でも、一番可能性がある賭けなんです」
苛立つ雲雀を見て笑いながら、綱吉は静かに言った。
普段出入りしないボンゴレ本部ではなく、雲雀のあじとの一つに急に訪れた綱吉の話は突拍子もなかった。
最近ボンゴレ狩りは益々激化し、彼が慕った家庭教師も帰らなくなったと聞く。
黒い革張りのソファに身を沈めた彼も覚えているより随分と瘠せ、青白い肌と目元にこびり付いた隈が痛々しい。
眠れていないのかもしれない。
───彼自身が最強と信じた存在が帰ってこないのは、雲雀たちが思う以上に彼にダメージを与えているのだろう。
それでも今暢気な顔で笑ってられるのは、きっとその元・家庭教師の教育に違いなく、雲雀は苛立ちに紛れて舌打した。
「俺は死ぬつもりはありません。だから可能性に賭けると決めた」
玲瓏な声は静かに響く。
いつの間にか雰囲気は一変し、薄く立ち上るオーラが見えるようだ。
雲雀の愛する並盛の応接室を模した部屋の中で、彼の存在は異彩を放つ。
背筋を伸ばし僅かに口角を上げた男。
彼は草食動物にはなりえず、列記とした肉食動物で、普段との対比が激しい獰猛さを隠し持つ相手だった。
びりびりと気迫で肌が痺れ、自然と雲雀の唇も持ち上がる。
「打てる布石は全て投じたい。だから俺はあなたに話した。ボンゴレが───俺が勝つための布石の一つとして」
「僕を利用しようって言うの?」
「ええ、そうです。ボンゴレ十世の最強の守護者。十年前の『俺』の教育者に雲雀恭弥を俺は選んだ。返答は?」
手を組んだ彼は傲慢な表情をしている。
己の望みは叶って当然だと言わんばかりの支配者の笑み。
他の誰がしても間違いなく噛み殺したくなるのに、綱吉のその表情は雲雀を酷く興奮させた。
くつり、と喉を震わせる。答えなど本当は初めから一つしか用意されていないに違いない。
繊細な美貌を凄絶に冴え渡らせ、雲雀はゆるりと唇を持ち上げた。
■ろ 篭絡された心臓は、ひときわ熱く高鳴った
「君は後悔してないの?」
不意に口をついて出た言葉は、予てからの疑問でもあった。
爆音で耳がおかしくなりそうな中、普段と変わらぬ声量の声は届かないかもしれない。
嵐の守護者が操るダイナマイトが熱風を撒き散らす。
吹き起こる風と埃の間を縫い晴と雨の守護者が切り込む。
冴える剣技で静かに敵を屠る雨とは対照的に、晴は派手に敵を吹っ飛ばす。
霧は背後から襲う敵を夢幻へと誘い、哂いながら敵を狂わせる。
雷こそこの場に居ないが、ボンゴレに所属する守護者は全員綱吉へ従った。
ドン・ボンゴレに就任して初めて守護者全員を引き連れることになったこの戦いは、裏切り者の粛清を兼ねている。
綱吉は自身の甘さから就任後初めて身内で仲間殺しを起こした。
その手に彼自身の最強の武器、Xグローブをしっかりと嵌め額に揺らめく炎を宿す。
熱量を感じさせない瞳に宿るのは強い覚悟。
切り札として封印していた武器を開放した理由は単純明快。
裏切り者が逃げ出した先のファミリーも全て粛清すると決めたからだ。
裏切りを許した果てに得た敵対ファミリー粛清のチャンス。
代替わりしたばかりのボンゴレを甘く見た敵に力を示すまたとない機会だが、それを喜ぶ綱吉ではない。
事実決断した瞬間の彼には辛酸を舐めた敗北者の表情しかなかった。
悔しげに唇を噛み固く瞼を閉じ組んだ掌に額を押しつけて黙り込んだ彼の姿を一生忘れない。
きっとその場で彼の判断を待った守護者は全員そうだろう。
女だからという理由で外されたもう一人の霧の守護者は、今頃屋敷で気を揉んでいるに違いない。
爆風に呷られた黒の外套がヒラリと揺れる。
その姿は悲しいくらい孤高を保ち、切ないくらい綺麗だった。
「俺は、後悔しない。後悔しないと、そう決めた」
風に乗りささやかな声が聞こえた気がした。
だから雲雀もトンファーを構え躍り出た。
大空を支える天候の一角として。
牙を抜かれた草食動物の群れへと、制裁を加えるために。
彼が後悔しないと決めたなら、雲雀はそれに付き合うだけだ。
群れに混じらないというポリシーも、たまになら曲げてやってもいい。
■塞き止めろ
「弱いばかりに群れをなし」
予定通りのタイミングで踏み込んできた敵に、ゆるりと口角を上げる。
純和風の美貌が敵を前にして冴え渡る。
くるり、と右手首を返しトンファーを回す。
少し早いが計画の内だ。
死ぬ気の炎を武器へと移し、匣にも炎を注入する。
呼ばれるのを待っていたように飛び出た相棒に小さく笑った。
足音を隠すことすらせぬ敵は、多くとも雑魚にしか過ぎない。
雲雀ならば彼らを一掃するのに苦労しない。
たった今、逃したばかりの彼らとは違って。
くつり、と喉を震わせる。
もうすぐ、待ち望んだ瞬間が来る。
雲雀は『彼』との約束を果たした。ならば今度は『彼』が雲雀との約束を果たす番だ。
小さな子供の戦闘力は、未だ彼には遙か及ばない。
知識量も経験値も判断力も何もかも。
それでも彼が信じると決め、自分自身が鍛えた子供に賭けると決めた。
トンファーが空を切る。
今日の雲雀はいつもより気分良く戦えそうだ。
雲雀の姿を認めた敵が、徐々に足を止める。
戸惑う表情を浮かべ止まるより先に武器を手にとれば、あるいは一手くらいは負わせれたかもしれないのに。
愚鈍な相手に嘲笑しか浮かばない。
「咬み殺される、袋の鼠」
そう、彼らは贄であり供物だ。
雲雀が育てた『彼』が迷わずに進めるように除外される存在。
子供はまだ『彼』ではなく、『彼』が帰る切欠にすらなっていない。
泣き言に塗れた怯えを纏わせる子供は、『可能性』だと彼は断じた。
雲雀はボスとしての『彼』を信じ、力を貸した。
他の誰にも明かさぬ秘密を雲雀にだけ共有させた、そんな『彼』を負けさせるわけに行かない。
子供が勝利しなければ、『彼』に文句を言うことも出来ないのだから。
「早く、帰っておいで綱吉。『他の君』が為しえないことでも、『僕の君』なら出来る筈だ」
一人、また一人と草食動物を咬み殺し、雲雀は今ここに居ない存在へと語りかける。
「早く帰っておいで。君の道は僕が切り開いてあげる」
『君』が目を覚ましたら、十年前の『君』がどれだけ酷かったか一番に教えてあげる。
日本に作ったこの基地の、雲雀の自室に上等の酒を謙譲させて、懇々と説教をしてあげる。
そうしたら、あの『彼』特有の情けなく眉を下げ目を細めた笑顔がきっと見れるだろう。
だからまずは。
目の前で子供を追うために躍起になるこの雑魚たちを、全て切り崩してしまおう。
雲雀が待ってる『彼』を得るために。
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