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「いやあ、体中痣だらけだ」


からからと笑いながらイナズマキャラバンから降りてきた円堂に、仲間たちが群がる。
大丈夫かと心配そうにする彼らに大丈夫と暢気に笑った彼女は、一人静かに落ち込んでいる塔子の前に立った。
びくり、と華奢な体が揺れる。だがお構い無しに彼女の頭に手を乗せると、くりくりと撫でた。


「どうした、塔子。落ち込んじゃってさ」
「───ごめんよ、皆。あたしが一緒に戦おうなんて言わなけりゃ、こんなことにはならなかったんだ」
「ふむ」


沈痛な面持ちで顔を伏せた塔子に、僅かに考え込んだ円堂は徐に頬に手を沿わせ───むにっと引っ張った。


「いきなり、はにすんはよ!」
「うーん・・・塔子のほっぺはもちもちだな。羨ましい美肌だ」
「へんほう!!」
「・・・勘違いするな塔子。お前に協力するって決めたのは俺たちだし、お前が居ようと居まいと初めからあいつと戦うつもりでいたんだ。勝手に俺たちを背負おうとするな」
「円堂」
「女の子は笑ったほうが可愛いぞ。ほれ、にこっとしてみな。笑う角には福来るって言うだろ?」
「・・・それ、昔俺にも言ってましたよね」
「有人も可愛いからな」
「可愛くないです」
「いーや、可愛いよ」


突然始まった遣り取りに浮かんでいた涙を引っ込ませた塔子は、くしゃくしゃの顔で笑った。
痛みも酷いだろうに、笑って他人を気遣う円堂を遠巻きにし、豪炎寺は俯く。
悪いのは塔子じゃない。
本当に悪いのは、仲間の信頼を裏切り続けている自分だ。


「でも守、本当に無理しないで」
「ああ、判ってる」
「本当に大丈夫か?円堂、相当ボールくらってただろ?」
「大丈夫だって言ってるだろ、土門。俺はお前らとは鍛え方が違うの」


へらへら笑う円堂の頭を、苦笑しながら土門が撫でる。


「でも、納得いかねぇぜ!なんなんだよ監督のあの作戦は!!ディフェンスをあんなとこまで上げるなんて、どうぞ点とって下さいって言ってるようなものじゃねえか。折角鬼道が奴らの攻撃パターン見抜いたのによ!」


いつもどおりの円堂に安堵したことで先ほどの怒りが湧き上がってきたのか、染岡が傍にあった木を殴った。
それに同意するように仲間も頷く。


「結果は惨敗。円堂君のお陰で辛うじて七点しか取られてませんが、それでも負けは負けです」
「SPフィクサーズのときは、凄い監督だと思ったのに」
「理事長に連絡して監督を変えてもらう!!」
「待て、染岡」
「何だよ、鬼道。まさかお前、あの監督の肩を持つ気じゃねえだろうな?あんなわけわかんない奴を!」
「そういうわけじゃない。ただ、結論を出すのは監督の考えを知ってからでも遅くない」


訴える鬼道に、ざわめきが広がる。


「監督も言っていただろう?俺たちは前半を終えた時点で体力が限界に達していた。もしあのまま俺の作戦で試合を続けていたらどうなっていたと思う?」
「それは・・・」
「よくて病院送り、悪いと二度とサッカーが出来ない、かな」
「円堂?」
「お前らは夢中になるあまり引き際を弁えない危うい状態だった。俺はああやって指示してくれた監督に感謝してるよ」
「でも!それで本当によかったのか?どんな状況でも全力で戦う!それが俺たちのサッカーだろう?」
「土門の言うとおりだぜ。円堂を犠牲にして俺たちだけ助かったって、そんなの雷門のサッカーじゃねえ」
「・・・それは違う」


土門の訴えに頷いた染岡を否定したのは、先ほどの試合で一番ダメージを受けた円堂本人だった。
何を、と訝しげな顔をする仲間を諭すようにゆったりとした口調で続けた。


「どういうことなんだよ?」
「あの試合、目的は勝つことじゃなかったってことだよ」
「・・・勝つことじゃない?」
「ああ。ジェミニストームとの試合、俺は今回が初めてだった。敵の強さも何も知らない、情報だって持ってない。何もかも真っ白な状態で一番効率のいい特訓をしてもらったようなものだ」
「効率のいい、特訓?」
「実践ほど実力をつけるのに勝る特訓はない。見てたろ?俺はあいつらのボールをゴッドハンドではじけても、受け止めることは出来なかった。けど最後のほう、集中的にボールを浴びたお陰であいつらのスピードに体がついていけるようになった。幾度繰り返しても間に合わなかったマジン・ザ・ハンド、最後にはぎりぎりで間に合ってたろ?」
「そう言えば」
「それに奴らの必殺技も体験できた。受けてわかった。俺は、あのボール、捕れるってな」
「本当か、円堂?」
「おう、とーぜんよ。もっと特訓して力をつければ必ず捕れる」


ぱちり、とウィンクした円堂に仲間は沸き立つ。


「つまり監督は次の試合に勝つために今日の試合を捨てて僕たちの身を守り円堂君のキーパーの特訓をしてたって訳ですね?」
「鬼道、そうなのか?」
「ああ、俺もそう思う」
「・・・そういうことだったのか」
「やっぱり、監督って凄い人っす」


否定的な態度から一転し、好意的になった彼らは瞳を輝かせた。
その様子を眺めて顔を俯かせる。
今回の試合を捨ててさせたのは、自分の気がしてならなかった。
体の脇で拳を握り黙り込んでいると、何処からともなく瞳子が姿を現す。
そして豪炎寺を見据え、宣言した。


「豪炎寺君、あなたにはチームを離れてもらいます」
「っ」
「い、今なんて言ったでやんすか?監督、離れろとかなんとか・・・」
「ど、どういうことですか?」
「さあ」


唐突な宣告に仲間たちの瞳が揺れる。
漸く収まっていた動揺が再び立ち上り、戸惑いがちな眼差しで豪炎寺と瞳子を繰り返し眺めた。

奥歯を噛み締めながら瞳子を見据えていた豪炎寺は、彼女の瞳に浮かぶ色に気がつき驚く。
思い付きではない深みがそこにはあり、息を吐き出すと円堂たちに背を向けた。


「待ってください、監督!」
「どういうことですか、豪炎寺に出て行けなんて!!」
「そうですよ、監督!豪炎寺は雷門のエースストライカー。豪炎寺が居なきゃ、あいつらには」
「もしかして今日の試合でミスったからか?」
「そうなんですか、監督。だから豪炎寺に出て行けって」


怒りを露に監督にぶつける仲間に背を向けたまま、拳を握りこむ。
こうしていなければ今にも叫びだしてしまいそうで、ただひたすらに感情を抑えるのに必死だった。


「私の使命は地上最強のチームを作ること。そのチームに豪炎寺君は必要ない。それだけです」


冷淡に響く声に、感謝したい気持ちだ。
そこまで言い切ってもらえれば、自分もチームを離れることができる。
実際に瞳子が言うとおり、今の豪炎寺は足手まといになりこそすれ戦力にはなりえない。
シュートを打つたびに病院で眠る夕香の姿が脳裏にちらつく。
そのたびに仲間を裏切る重圧に耐えながら、彼らと旅を続ける自信はなかった。
背中を向けて歩けば、迷いは途切れる気がして、引き止められる前に歩みだす。


「豪炎寺」


奈良シカ公園の崩れたシンボルの前で呼びとめられ、足を止めた。
その声が他の誰かのものだったら振り切れただろうに、豪炎寺の心をこの地に繋ぎとめようとするただ一人のもので、凍らされたように足が動かない。
先ほどは傍観の姿勢をとっていた円堂は、ここに来て初めて豪炎寺に声を掛けた。
責める心など欠片もない声に、どうして、と唇を歪ませる。
彼女ならきっと気がついている。さっきの試合で故意に豪炎寺がシュートを外したことに。


「本当に行く気か、豪炎寺」
「ああ」
「そうか」


気がついていて何も言わない円堂に、心が締め付けられるようだ。
本当は、一緒に戦いたい。もっともっと彼女と一緒にサッカーをしたい。
けれど夕香を見捨てれない。たった一人の妹なのだ。

再び歩き始めると、凛とした声が背中に響いた。


「一つだけ約束して欲しい」
「・・・何を」
「俺は俺が守りたいもののために全力で戦う。だからお前も、お前が守りたいもののために全力で戦え」
「円堂」


何もかもお見通しと言わんばかりの言葉に、思わず後ろを振り替える。
驚きに目を見開く豪炎寺に向かい、珍しく眼鏡を外した円堂は、いつもと変わらぬコケティッシュな笑顔を浮かべていた。
振り向いた豪炎寺の瞳をしっかりと見据えると、ぱちりとウィンクをして親指を立てる。


「そんでケリがついたらちゃんと戻って来い。なんてったって、お前はイナズマイレブンのエースストライカーだからな」


そのまま自分の胸をとんとんと叩いた円堂に、くしゃりと顔を歪ませた。
自然と涙が溢れそうになり慌てて前を向き瞬きを繰り返す。
返事はしない。もしかしたらあいつらが傍に居るかもしれないから。
戻ると言質を取られれば、夕香がどんな目に合うか判らない。
けれど。

背を向けたまま、すっと腕を上げて胸を叩く。
言葉はなくともこの行動で全てが通じる気がした。


「またな、豪炎寺!」


たった三言に全てを篭めた円堂に、ゆるりと口角を持ち上げる。
信じてくれる彼女の元に、何が何でも戻りたい。
視界の端にこちらを見詰める瞳を見つけ、思い切り睨み付けた。
諦念を抱いていた自分はもう居ない。
守りたいものを守りきって、胸を張って帰るべき場所が豪炎寺にはあるから。


「待っててくれ、円堂」


誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟く。
最後まで笑って見送ってくれた円堂に貰った勇気を胸に、最初の一歩を踏み出した。

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