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*ずっと以前に投稿した学パロアリスの再録です。





「無理無理」

目の前に差し出されたものを見て、アリスは思わず口にした。

オレンジの色も鮮やかなその物体は、俗に言う手作り弁当というものだ。

ちなみに作ったのはアリスではない。

目の前で、嬉しそうに微笑む彼はエリオットという名前の先輩だ。

学園一の不良と噂されているが、優しく明るい彼をアリスは嫌いじゃなかった。

だからこそ、お昼の誘いにこうしてひょいひょいと乗ってしまったのだが。

差し出されたものを見ると、また顔を背けた。

手作りのお弁当だなんて、やることが可愛い。

だが。

それは、内容にもよると思う。

誰もいない古びた教室。

窓の外からは、早くも昼食を片付けた生徒がグランドでサッカーをしていた。

シチュエーションとしては、完璧だと思う。

窓に向けていた視線を、目の前に戻した。

オレンジ。

オレンジ色以外の何も見えない。

何度見ても変わらない現実に、そろりと顔を上げる。

(──見なきゃ良かった)

アリスが何から食べるのか、興味深々と言った顔でじーっとエリオットはアリスを見つめていた。

「エリオット先輩」

「ん?」

呼びかけると、長い耳をピコリと動かした。

それを掴んでしまいたい衝動を堪えつつ、アリスは表向き愛らしく笑った。

その表情に、ポッとエリオットは頬を染める。

何て、わかりやすく、且つ可愛らしい先輩なのだろう。

転校するまで、自分がうさぎ耳の大男を見て可愛いと思う日が来るとは思っていなかった。

どうしよう、と悩む。

「なあ、アリス。まだ食べねぇの?」

期待に満ちた声は、アリスの罪悪感を刺激する。

目が、早く早くと訴えかけてくる。

冷や汗が流れた。

見れば、彼は自分の弁当に手をつけることもしていない。

(どうしろって言うのよ)

もう一度、視線を弁当箱に向けた。

可愛らしい兎の絵がプリントされた小さな弁当箱は明らかに女の子向けで。

きっと、アリスのために買ってきてくれただろうことが推測される。

だが、そんなの慰めにならない。

オレンジ色の物体は、『私を、食べて』と主張している。

けど。

だけど。

どう見ても、『生』なのだ。

何故今日に限って。

何回かエリオットの弁当を見ていたアリスは、いつもは生ばかりを食べている訳ではないことを知っている。

おいしそうなコンポート。

ニンジンのグラッセ。

甘煮に、バター焼き。

一工夫されたものばかりで、たまにアリスもご相伴に預かっていた。

「──エリオット先輩」

「何だ?」

「どうして、今日に限ってニンジンが生なんですか?」

アリスの問いかけに、良くぞ聞いてくれましたとばかりにエリオットは顔を輝かせた。

「このニンジン、凄く希少価値で八百屋のおっさんに無理言ってもらったんだ!凄く甘味が強くて、生が一番美味いんだ。八百屋のおっさんの言うとおりだぜ!」

(くそぅっ、八百屋の親父めっ!!)

女の子にあるまじき言葉を内心で連発する。

「迷惑、だったか?」

そんなアリスを見て、耳を下げたエリオットはおずおずと聞いてきた。

その目に。

『はい。生は嫌です、生は』

と、言う事も出来なくて。

仕方なしに、ニンジンを手に取ると一口口に入れた。

ポリ

音が響く。

「おいしい」

自然に口から言葉が出た。

その言葉に、エリオットの肩から力が抜ける。

「よかった。迷惑だったらどうしようかと思ったぜ」

ホッとした様子に、思わず顔を和ました。

だが。

スティック状のニンジンを5本食べても、10本食べても。

まだ、弁当の底は見えず。

アリスの表情が変わっていく。

(──やっぱり、無理無理!!)

15本、生のニンジンを食べた所でアリスはギブアップをした。

チラリと視線を上げると、アリスより遅く食べ始めたくせにとっくに弁当の中身を空にしたエリオットがキラキラとした目でアリスを見ていた。

いや。

正確に言うと、アリスの持っているニンジンを見ていた。

それを見て。

アリスの中でひらめいた。

殊更優しい微笑を浮かべると、甘い声でエリオットを呼ぶ。

頬を染めたエリオットに向かい。

「あーん」

普段の自分なら、絶対にやらないことをして見せた。

耳まで赤くなりながら、戸惑うように自分を見るエリオットに。

わざとらしく、哀しそうに目を伏せる。

「いや・・・だった?」

「!?そんなわけねぇ!!」

勢い込んであーんと大口を開けた彼に、ここぞとばかりにニンジンを突っ込む。

嬉しそうにそれを租借する彼を見て、にっこりと微笑んだ。



満足そうに食事を終えたエリオットに、笑みを向ける。

心底美味しそうに食べるエリオットは、見ていて厭きない。

もくもくと租借する様は、やっぱり可愛い。

嬉しそうなアリスを見て、エリオットも嬉しそうに笑った。

そして。

「また、持って来てやるからな!」

「え?」

純然なる好意を向けられ、それでもアリスは青くなった。

(無理無理。二度目は無理だってば)

それでも、二度目を断れず、結局同じようなパターンにアリスが慣れるまで。

そう、時間がかかることでもないだろう。

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