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たった七人で自分たちを相手に勝利を収めた相手を見て、詰めていた息を吐き出すと塔子は笑った。
元々少なかった人数が減ったときは馬鹿にされているのかと思ったが、『作戦だ』と言い放った鬼道の言葉通りそれからの彼らの動きは段違いによかった。
動きが鈍い選手が抜けることでパスが通るようになり、鮮やかなテクニックとチームワークで点を奪われたのには悔しさよりむしろ先に感心してしまったほどだ。
やはり、彼らは強い。

どうしますか、と指示を仰ぐSPフィクサーズの仲間を後ろ手に止め、塔子は一人彼らに近寄る。
黒縁眼鏡の奥から大きな栗色の瞳でこちらの様子を観察していた『円堂守』の前に立つと、すっと右手を差し出した。


「負けたよ・・・流石は日本一のイナズマイレブンだ!」
「ありがと。そう言って貰えてホッとしたよ」


にっと口角を持ち上げて笑った人は、後ろで奇声を上げた仲間たちと違い欠片も驚いていない。
やはり彼らを知っているのはお見通しだったかと苦笑すると、握っていた手を放した。


「どういうことだ?」
「初めから俺たちがイナズマイレブンだって知ってたのか!?」
「もしかしてキャプテンは始めから気づいてたっすか?」
「当然。財前総理のサッカー好きは庶民にも有名だろ?SPにまでサッカーを勧めてるくらいだ。その愛娘がサッカー嫌いなんて考え辛いし、そうなると同年代の日本一を決めるフットボールフロンティアくらいは見てるだろ?」


飄々と肩を竦めて仲間に告げた円堂は、『違う?』と小首を傾げて問うて来た。
全く持って言われたとおりだったので頷いて肯定する。
自分の名前を知っている時点で薄々気がついていたが、見た目以上に聡い人物らしい。
サッカーの腕前もチームワークも申し分ない。
これなら、と心を決めると、円堂へ一歩詰め寄った。


「ねえ、円堂。頼みがあるんだ」
「何?」
「あたし宇宙人からパパを助け出したい。そのために超強力な仲間が欲しいんだ」
「───やっぱり、今回のは力試しだった訳か」
「ごめん、試したりして」
「いいさ。どうせ監督に力を示さなきゃいけなかったし、こっちも利用させてもらったようなもんだ。お互い様だから気にすんなよ」


鮮やかなウィンクを決めた円堂の言葉に、泣きたくなる気持ちをぐっと堪える。
これが日本一になった雷門イレブンのキャプテンの器かと唇を噛み締めた。
会場の観客席で彼らのプレイを見たとき心が震えた。
特に終盤。円堂が黄金色の魔人を呼び、すさまじい気迫で負けなしだったアフロディのボールを受けきったときはこちらが泣きそうになったくらいだ。
ニュースで彼らが宇宙人に負けたと聞いたのは信じられなかったが、例え負けていたとしても彼らの瞳に諦めや絶望はなく、この人たちなら、とより強く思った。


「あんたたちならエイリア学園に勝てるかもしれない。あたしと一緒に戦って欲しいんだ!パパを助けるために」


万端の想いを篭めて訴えると、仲間を振り返った円堂は一人一人の顔を見てからもう一度正面を向いた。
にいっと子供みたいな悪戯っぽい笑顔を浮かべると、眼鏡を指の腹で押し上げた。


「勿論、喜んで!なあ、皆!!」
『おう!!』
「彼女の実力は見ての通りです。監督も宜しいですね?」
「───ええ。これは公式の試合でもないし、女でも戦力になるなら構わないわ」
「ありがとうございます」


クールな女性を監督と呼んだ円堂は、許可を得て嬉しげに頷く。
そして改めて、と今度は円堂から右手を差し出してきた。


「俺、円堂守!これでも雷門サッカー部のキャプテンだ」
「あたしは財前塔子。塔子って呼んでよ!」
「リョーカイ。宜しくな、塔子」


差し出された手を力強く握り上下に振る。
分厚いキーパーグローブで包まれた手の体温なんて判らないはずなのに、何故か温もりが伝わってくる気がして少し微笑む。
和やかな空気が流れたその瞬間。


『地球の民たちよ。我々は宇宙からやってきたエイリア学園だ』


奈良シカ公園にあった電光掲示板から、聞き覚えのある声が流れてきた。
繋いでいた手を振りほどき後ろを振り返ると、先ほどまで何も映っていなかったそこに映像が流れている。
特徴的な髪型とスタイルの少年に、塔子は唇を噛み締めた。


『お前たち地球人に我らの大いなる力を示すため、この地球に降り立った。我々は野蛮な行為は好まない。お前たちの星にあるサッカーと言う一つの秩序に元により逆らう意味はないと示して見せよう』
「・・・だから、なんでサッカー?」


円堂の声が聞こえた気がしたが小さすぎて聞き取れず、顔を向けて疑問を訴えるとなんでもないと苦笑された。
そんな遣り取りをしている間にも仲間の一人に連絡が入り、放送の発信源を知る。
奈良シカテレビは奈良では中心的な放送局で、電波はそこから発信されているらしい。
知り得た情報に雷門イレブンを見ると、心得た様子で彼らは頷いた。





「ほらね、やっぱりすぐに無理しなきゃいけない時が来た」


渋い顔をしている円堂の言葉に、鬼道は振り返る。
独り言のつもりだったようだが耳に入ってしまえば気になるもので、小首を傾げた。
窓際に座る円堂の呟きは仲間を押しのけて隣に座った鬼道にしか聞こえていなかったようだが、どうもそこはかとなく不機嫌な気がしないでもない。
伊達に長年弟をしてきたわけじゃない。このメンバーの中で一番彼女の感情の揺れに敏感なのは鬼道だろう。
だが何故苛立っているか、不機嫌になっているかの理由までは悟れない。
二年前なら違ったのに、と歯がゆい気持ちになっていると、頭に優しい感触の掌が降ってきた。


「どうした、有人?随分渋い顔だな」
「渋い顔をしているのは姉さんの方でしょう?俺は姉さんの感情が伝染しただけです」


つん、と顎を反らすと苦笑した気配が伝わってきた。
子供っぽい態度に自然と顔が赤らむ。どうにも彼女相手だと気が緩んで昔に戻ってしまう。
恥じ入る鬼道の頭をもう一度撫でた円堂は、『そりゃ悪かった』と全く悪びれない口調で謝罪してきた。


「理由は判らなくても俺の態度に敏感なのは昔のまま、か。ある意味成長してないな、有人」
「余計なお世話です。それより、本当にどうしたんですか?」
「別にどうもしてないよ。ただ本調子でない仲間に無理をさせなきゃいけないだろうことが嫌なだけだ」
「無理・・・ですか?」
「ああ。もし奈良シカテレビに行ったとき、レーゼだったっけか?宇宙人たちが居たら、そこで試合をすることになるだろう。俺はあいつらの実力を知らないが、お前らがあれだけ手ひどくやられたんだ、強いのはわかってる。そんな奴らと負傷した仲間を戦わせたくない。根本的にSPフィクサーズ戦とは違う───二度とサッカーが出来ない体にはなって欲しくないが、あいつらは良くも悪くも引き際を知らな過ぎる。どうにも嫌な予感がするんだ」


心持ち顔色を青褪めさせた円堂の発言に、瞳を丸めた。
彼女が弱気な言葉を吐くなど本当に珍しい。

安心させるように笑みを浮かべた鬼道は、頭を撫でる掌を掴むと胸の前できゅっと握った。
そして姉とは違い普段からつけているゴーグルを外すと、栗色の瞳を覗きこむ。


「大丈夫です、姉さん。俺たちなら勝てます」


はっきりと断言した鬼道に、それでも円堂は曖昧な笑みを浮かべただけだった。
繋がれた掌からの温もりに安堵したのは、もしかしたら鬼道の方だったのかもしれない。

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