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陳腐だと嗤う、それだって笑顔だったから
--お題サイト:afaikさまより--



「───首の皮一枚で繋がったようですね」

相変わらず寝入りばなを強襲した男の首元に無遠慮に三叉槍を突きつける。
下種を見るような冷え切った眼差しに嘲笑を浮かべた酷薄な唇。
オッドアイを眇めて笑顔と酷似した表情で憤怒を向けると、寝入りばなの半眼で深く息を吐き出した彼は怯えもみせずにうんざりと息を吐き出した。

「・・・寝かせろ」
「僕が寝てないのに寝かせるわけないでしょうと何度言えば理解できるのです。起きなさい。くっつきそうになっている瞼こじ開けて素早く目覚めなさい」
「どんなジャイアニズム!?どんだけ自分勝手なの、お前は」

ばんばんと最高級の布団を叩いて身を起こした綱吉に、ぐっと顔を近づける。
見れば見るほど間抜け面だった。
昔と比べて限りなく金に近づいた癖のある髪はぴょんぴょんとはね、蜂蜜色の瞳は怒りで煌いている。
だがよくよく見ると睫毛に寝癖が付いてるし、パジャマの襟が片方立っていた。

はっきり言ってこれがマフィア界の最大勢力であるボンゴレファミリーを率いている男には見えない。
幼さを隠し切れない顔立ちに、生ぬるい雰囲気。
今まさに喉元に武器を突きつけているのに、警戒心を欠片も抱かない愚か者。
吐き気がするほど甘ったるく、嫌気が差すほど馬鹿馬鹿しく、憎悪が沸くほど憎い男。
世界に存在する何よりも嫌悪するマフィアの、頂点に立っているといっても過言じゃない彼は、今なら簡単に殺せそうだった。

吐息が触れ合う距離で見詰めあい、それでも視線は逸らさない。
昔の彼は何かと言うと怯えて叫んでいたのに、これも成長なのだろうか。

「君があまりにもとろいので、自分で脱獄してしまいましたよ」
「───それに関しては悪いと思ってる。俺が手伝う約束だったからな」
「初めから当てにしてませんよ、マフィアなんて。特にどうにも間抜けな君に手助けされるほど僕は落ちぶれてません」
「あっそ。まあ、それでもお前が無事ならそれで良かったよ。・・・初めまして、になるのかな?」
「何を今更」

ほにゃりと気が抜けるような、眉を下げた情けない笑顔を晒され瞳を眇める。
有幻覚ではなく実態での顔合わせは初めてだが、それこそ今更というものだ。
彼のこういう部分が嫌いだ。武器を喉に突きつけられながらも、無防備に振舞うさまが嫌いだ。
どんなに凄んでも脅しても、絶大の信頼を向ける彼が忌々しくて仕方ない。

何故───、と思う。
何故、自分は彼を殺せないのだろうか。

三叉槍を奮うことに躊躇いはない。傷つけるのも、利用するのも必要なら迷わない。
それなのに、最後の一押しが出来ない。
男にしては白く滑らかな肌。僅かに力を篭めれば、先端が突き刺さり皮膚が破れて鮮血が流れるはずだ。
人体の急所である喉。鍛えようがないここは、血液の循環も担っている。
僅かな傷でいい。それで綱吉は二度と骸の前で間抜け面を晒さず、愚かな発言をしない死骸へと成り果てる。

綱吉が傷ついても骸は平気だ。
これまでもそうだったし、これからもそうだ。
弾丸に撃たれようと、腕をもがれようと、無駄に生命力が強い彼が呻きながら生き延びる様を眺める。
彼に忠誠を誓う他の守護者と違う。やられたからとやり返そうとは思わない。
愚かなマフィアが仲間割れをした。それだけで済む。

けど。

「骸?」
「・・・どいてください」
「どいてって、お前・・・」

呆れを含んだ声に、黙れと枕を押し付ける。
彼のベッドには無駄に幾つも高級枕が置かれているので、口封じに事欠かない。
むがむがと足掻く彼の顔に全力で枕を当て、ふかふかとしたベッドに身を沈ませた。

「おい、お前!一体何するんだよ!」
「何って───睡眠を取ろうとしてるだけです。君が馬鹿みたいに寝こけている間、僕はほとんど睡眠を取っていませんでしたのでね」

嫌味交じりの嘲笑を浮かべれば、ぐっと蕩けるような色合いの琥珀色の瞳に近づいた。
吐息すら触れ合う近距離で、にこりと微笑んでみせる。
渋面を浮かべる彼の上に乗ると、最高級の布団を目も留まらぬ速さで剥ぎ取った。

「!!?何、何だ?何だよっ!?」
「五月蝿いです」

泡を食って慌てる綱吉を布団から蹴りだすと、程よく温まったそれに体を滑り込ませる。
人肌に温もった布団は肌触りや寝心地もよく、柔らかな枕は首にフィットして心地よい。
さすが寝汚い男だと感心しながら瞼を閉じてほうっと息を漏らす。
オーダーメイドのベッドや布団はここ最近遠ざかっていた安眠をゆっくりと連れてきた。

「え?ちょ、まさかお前、人の寝入りばな急襲した挙句布団奪って寝る気か?」
「ちょっと静かにしてくれませんか?僕は眠たいんですよ。君のおかげでここ最近安眠できなかったんですから、ゆっくりと寝せてください」

ここ最近はらしくもなく活発に動きすぎた。
水牢から出たばかりの体はまだ体力が追いつかず、睡眠を必要としても眠れる場所がなかった。
だが最高級揃いのこの場所なら安眠するのに最適だ。
ドン・ボンゴレの私室まで侵入できる輩など居ないし、入室を許されるものなら事前に連絡が来る。
仮に侵入者がいたとしても、綱吉が警報機代わりになるだろう。

段々と闇に落ちていく意識の端で、布団が捲られるのを感じた。
近づく体温を拒絶しないのは、彼の体温が高くて安価代わりになるからだ。
それ以外の理由なんて、絶対にない。

髪に触れる何かを無視して瞼を閉じていれば、くすりと笑う声が聞こえた。

「───お疲れ様、骸。ありがとな」

必要としてない謝礼は、沈黙を通して拒絶した。
自分はただ、眠るための安眠スペースを取り戻しただけだ。
彼のために動いたなんて、馬鹿な想いは微塵もない。
再び得た寝床に、骸は小さく唇を上げた。

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