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「ディバインアロー」
幾度も蹴りこんだボールに力を篭めてから放たれるシュートに目を細める。
足を肩幅に開くと掌を翳した。
「ゴッドハンド!!」
勢いのあるシュートを片手で受け止める。しかしそれでは力が足りず、じりじりと後退する体に舌打ちすると空いている手も差し出した。
両手で漸く止めれた重たいシュートに眉間に皺が寄る。
辛うじて堪えたが、フォワードでない平良のシュートですらこの威力かと、ボールを片手に持ちじんわりと痛みが広がる利き手を振った。
先ほど夏未たちから神のアクアという体力増幅のドリンクを飲んでいたと報告を受けたが、それを抜きにしても彼らの実力は一級品だろう。
下らないドリンクに頼らずとも己の力で戦えるはずなのに、と思えば自然と渋面してしまう。
ちらり、とフィールドを見れば、立っているのはキーパーの自分だけ。
桁外れの力で倒された仲間たちは、立ち上がれないものはベンチへと行き、辛うじて残っているのはたった十名だけだった。
「まだ続ける気かい?」
「・・・・・・」
「君がフィールドを降りない限り、彼らも負けを認めない。傷つくのは君だけじゃないのに、それでもまだ続けるのかい?」
柔らかな笑顔で問いかけるアフロディは、子供みたいに無邪気な顔で笑って見せた。
それに同じように返しながら、そっと胸に手をやる。
どくどくと脈打つ心臓は、先ほどから忙しない動きで嫌な予兆を伝えていた。
冷や汗を流し何も応えない円堂に小首を傾げたアフロディは、つっと人差し指を向ける。
「そのボール。君がキャッチしても、パスする相手すらいないじゃないか。一人の力が抜きん出ていてもサッカーは出来ない。それに、私たちはまだ奥の手は出していないよ?」
長い髪をしなやかな指で耳に掛けると、笑顔のままで問いかける。
性質が悪い餓鬼、と内心で嘯きながらもそれを表情に出さずに居ると、掌を差し伸べられた。
「・・・何だ?」
「おいでよ」
「何処に」
「私たちの元へ。言ったろ?君にはその資格がある」
まだ勧誘する気があったのかと驚きで目を丸めると、距離を一歩詰められる。
神を名乗るだけあって見た目は神々しい少年は、優美な仕草で誘いかけた。
「誘い方はいいんだけどな」
「なら・・・」
「でもノーサンキュー。俺も言ったろ?神様がキライだって」
わざとらしい日本語英語を話すと、視界の先で動く影に笑った。
そう、どんなに魅力的な仕草で誘われたとしても無意味だ。
居場所はもう定まっている。
抗いようもなくいつか行かなくてはいけない『神』の住む場所よりは、生身の人間と一緒に笑ってサッカーがしたい。
どうせ彼らよりも神と一緒に居る時間は長いのだ、今すぐでなくてもいいだろう。
「それに、パスする相手なら居るよ。・・・行け、豪炎寺!!」
「っ!?」
驚き顔を上げたアフロディたちの隙を突き、ボールを放り投げ蹴り飛ばす。
放物線を描いたそれは狙い違わず目的の人物の足元へ収まり、彼を囲うように一之瀬と鬼道がフォローに回った。
「無駄だ」
「そうか?」
「ああ。彼らはすぐに止められる。・・・ほらね」
手魚の必殺技『メガクェイク』により、豪炎寺たちの体が宙に浮いた。
激しく地面に叩きつけられ、身動きが取れないで居る彼らの間を世宇子中の面々がボールをパスして走りぬける。
あっという間にセンターラインも越えられ、ふっと息を吐き出すと身構えた。
まだ風丸も壁山も土門も回復していない。彼らに止めろというのは酷だろう。
深呼吸を繰り返し不規則に跳ねる鼓動を宥める。
落ち着け、と心の中で囁くと凪いだ気持ちで正面を見据えた。
どうやらゴッドハンドだけで切り抜けるのは、無理らしい。
予想している範疇だったが、仕方ないと左手に力を溜める。
目の前でアフロディにボールが渡り、小さく微笑んだ。
宙に浮かんだ彼の背中から三対六枚の純白の翼が見える。
神々しい光を背負い、神、と言うよりは御使いのような姿で一直線に円堂を見据えた。
「ゴッドノウズ!!」
空気を切り裂いて迫るシュートに、溜めていた息を吐き出した。
心臓に溜まった力を左手へ循環させるイメージを脳裏に浮かべ、ぐっと柳眉を寄せる。
この技は幼い時分に影山に見せられたDVDを参考に会得した、円堂大介の幻の必殺技。
流出する力に心臓が疼く。歯を食いしばり無理やり痛みを押さえ込むと、両手を握り腰だめに構えた。
「マジン・ザ・ハンド!!」
空中にオレンジ色の光りを宿す魔人の残像が映る。
高らかと声を上げた魔人は、円堂の動きに連動して左手を差し出した。
「あれはマジン・ザ・ハンド!!?」
叫びに似た声はベンチから聞こえた。
教え子である響木が唯一習得できなかった円堂大介の必殺技。
円堂は今日の試合相手である影山の分析とDVDの映像、そして並みならぬ才能で習得していた。
だが。
「ぐぅ!」
ボールを捉えた掌ごと体が宙に浮く。
予想よりも激しい威力を有していたアフロディのシュートに魔人はかき消され、殺しきれない勢いのままネットに押し込まれた。
「円堂!!」
「守!」
「円堂っ」
悲鳴に近い声を上げたのは誰だろうか。
少なくとも名前呼びは一之瀬だから判るが、苗字呼びは声が重なって判別つかない。
ぐっと体が無理やりに起こされる感覚に眩暈を覚えていると、そのまま頭を揺さぶられた。
「円堂!大丈夫か、円堂!?」
「・・・・・・風丸?」
「そうだ。俺が判るか?」
「・・・まあ、何とか」
返事をすると安堵したのか、漸く力が緩む。
だが体が受けたダメージは相応のものだったようで、立ち上がろうとして足が崩れた。
慌てたように横から伸びた手に支えられ、礼を言うと今度こそ一人で立ち上がる。
「守、大丈夫なのか?」
「ああ」
横から手を差し伸べてくれたのは一之瀬で、お前ら少し前まで伸びてたんじゃないのかという突込みを空気を読んで堪えた。
気がつけば周りをフィールド上に居た全ての仲間に囲われており、心配性な彼らに苦笑する。
病は気からとは違うのだろうが、人間気力が起こされればどうにでもなるという見本だろう。
重たい体を引き摺り、それでも尚他人の心配をしてくれる優しさに感謝する。
仲間に恵まれた自分は、とても幸せだろう。
「ごめん、一点やっちゃった」
「・・・大丈夫だ。むしろ姉さんは良くやってくれた。不甲斐無い俺たちの所為で猛攻を受けたのに、失点が一なら十分だ」
「そうだ。未だ攻め切れない俺たちに問題はある。───伝説のマジン・ザ・ハンドでも止められないとなれば、俺たちが点を奪うしかない」
「ああ。守にこれ以上頼るのは駄目だ。攻め込まれる前にパスを回そう」
地面に転がっていたときよりも、随分と瞳に力が戻っているのを見て微笑む。
世宇子中から一点をもぎ取るのは容易じゃないだろう。
けれど諦めていない彼らなら、絶対に大丈夫なはずだ。
それぞれのポジションに戻る仲間を尻目に、一之瀬だけがその場に残る。
距離が開いたのを確認し、眉を下げて問いかけた。
「・・・本当に、大丈夫なのか?」
「何が?」
「守がだよ。マジン・ザ・ハンドを使わなかったのは負担が大きすぎるからだろう?」
「大丈夫だよ。見てみろよ、ぴんぴんしてるだろ。むしろネットに叩きつけられた体のほうが痛い」
「本当に?」
「本当に。───ほら、さっさとポジションに戻れ。点を取ってくれるんだろ?」
「ああ。・・・守の言葉、信じるからね」
「信じろ」
ウィンクしながらとんとんと胸を拳で叩くと、漸く安堵したらしい一之瀬は今度こそポジションに戻った。
彼の背中を見送り、はぁっと一息つく。
朝の内に化粧をしておいて良かった。ファンデーションとチークを乗せただけのナチュラルメイクにもならないものだが、それでも顔色くらいは誤魔化せる。
今までの試合と桁違いの運動量に、体が悲鳴を上げ始めていた。
我慢できないほどではないし、危険度を測ればまだ一番下のレベルだ。
それでも普段通りの動きをするのは少々辛く、先ほどのマジン・ザ・ハンドでさらに力を奪われていた。
あの技は心臓に溜めた気を掌に送り放出するもので、絶大な威力を持つがその分使用者にも反動が大きい。
熱血パンチやゴッドハンドと比べ物にならないくらい、円堂の体力を奪い去る。
「・・・はっ、それでも勝つって決めてんだよ」
誰でもなく、自分自身に宣言するとポジションに立って掌に拳を当てた。
負けたくない。『神』なんて名乗る相手に、負けたくない。
そして───恩師のためにも、負けれない。彼が変わる切欠を与えるためにも、負けられないのだ。
気がつけば世宇子中にボールは渡り、再びアフロディの猛攻が始まっていた。
ヘブンズタイムで雷門のディフェンダーを抜き去った彼は、真正面で足を止めた。
「降参するつもりはないかい?」
「ないね」
「なら、仕方ない。神の裁きを受けるといい」
ふわり、と長い髪が扇形に広がると、先ほどと同じように三対六枚の羽が出現する。
優雅に宙に浮いたアフロディは、愛を囁くような甘い声を出した。
「ゴッドノウズ」
空を切り裂き絶大な破壊力を有したボールが迫り来る。
『円堂』と名を呼び叫ぶ仲間の悲鳴が聞こえた。
声を聞くだけでどれだけ心配されてるかわかり、こんなときなのに笑ってしまう。
彼らと共に進みたい。純粋な想いに包まれ、右手を心臓に当てた。
円堂大介が編み出したマジン・ザ・ハンド。
彼は心臓から気を送るため、より心臓に近い左手に力を流していた。
幼い頃、影山に見せられたその技に、酷く感動したのを覚えている。
時が経ち、影山は円堂自身にもマジン・ザ・ハンドを習得させた。
円堂が覚えたのは、円堂大介が使ったオリジナルと僅かに違う。
彼の使うマジン・ザ・ハンド。それは右利きの円堂に全力を出させるには微妙なものだった。
だから、円堂はこうしたのだ。
体を丸めるようにして右手を心臓に当て、そこから直接掌に気を叩き込む。
鼓動に連動して黄金色の力が掌を包み、逃げ場なく注がれたそれは大きく膨らんでいく。
「これが俺の、マジン・ザ・ハンドだ!!」
空中に展開されたのは、先ほどよりも金に近い色合いをした魔人。
円堂大介の技を元に自分用に改良したこれは、影山にも披露したことない円堂が持つ最高のキーパー技だ。
高らかに声を上げた黄金色の魔人が、一直線にアフロディを射抜く。
「神を超える、魔人だとっ・・・!?」
信じられない、と首を振る彼の前で、ボールは右手に収まった。
酷使された心臓が持ち主に異論を唱えているが、そんなものは全て無視だ。
額から流れる汗を指先で拭うと、獲物を前にした猫のように口角を持ち上げた。
「行け、みんな!!」
茫然自失とする世宇子と違い、円堂がシュートを止めた事実に雷門は一気に士気が上がる。
「姉さんが守ったこのボール!絶対に繋いでみせる!っ、豪炎寺っ」
「任せろ!!」
パスを受けた鬼道を軸に攻勢に転じた彼らを見送り、動けずに居るアフロディに微笑んだ。
「『ふんぞり返る神様の頭をぶん殴ってでも奇跡を起こしてやる』って、言ったろ?」
「嘘だ・・・人間が、神を超えるなんて」
「人間もそう捨てたもんじゃねぇぞ。矮小だからこそ助け合い、一の力を十に変えれる。奇跡ってのはな、神じゃなくて人の力で起こすもんなんだぜ」
驚きで声を失った彼にウィンクすると、丁度ホイッスルが鳴り響く。
逆転への狼煙は上がったばかりだった。
幾度も蹴りこんだボールに力を篭めてから放たれるシュートに目を細める。
足を肩幅に開くと掌を翳した。
「ゴッドハンド!!」
勢いのあるシュートを片手で受け止める。しかしそれでは力が足りず、じりじりと後退する体に舌打ちすると空いている手も差し出した。
両手で漸く止めれた重たいシュートに眉間に皺が寄る。
辛うじて堪えたが、フォワードでない平良のシュートですらこの威力かと、ボールを片手に持ちじんわりと痛みが広がる利き手を振った。
先ほど夏未たちから神のアクアという体力増幅のドリンクを飲んでいたと報告を受けたが、それを抜きにしても彼らの実力は一級品だろう。
下らないドリンクに頼らずとも己の力で戦えるはずなのに、と思えば自然と渋面してしまう。
ちらり、とフィールドを見れば、立っているのはキーパーの自分だけ。
桁外れの力で倒された仲間たちは、立ち上がれないものはベンチへと行き、辛うじて残っているのはたった十名だけだった。
「まだ続ける気かい?」
「・・・・・・」
「君がフィールドを降りない限り、彼らも負けを認めない。傷つくのは君だけじゃないのに、それでもまだ続けるのかい?」
柔らかな笑顔で問いかけるアフロディは、子供みたいに無邪気な顔で笑って見せた。
それに同じように返しながら、そっと胸に手をやる。
どくどくと脈打つ心臓は、先ほどから忙しない動きで嫌な予兆を伝えていた。
冷や汗を流し何も応えない円堂に小首を傾げたアフロディは、つっと人差し指を向ける。
「そのボール。君がキャッチしても、パスする相手すらいないじゃないか。一人の力が抜きん出ていてもサッカーは出来ない。それに、私たちはまだ奥の手は出していないよ?」
長い髪をしなやかな指で耳に掛けると、笑顔のままで問いかける。
性質が悪い餓鬼、と内心で嘯きながらもそれを表情に出さずに居ると、掌を差し伸べられた。
「・・・何だ?」
「おいでよ」
「何処に」
「私たちの元へ。言ったろ?君にはその資格がある」
まだ勧誘する気があったのかと驚きで目を丸めると、距離を一歩詰められる。
神を名乗るだけあって見た目は神々しい少年は、優美な仕草で誘いかけた。
「誘い方はいいんだけどな」
「なら・・・」
「でもノーサンキュー。俺も言ったろ?神様がキライだって」
わざとらしい日本語英語を話すと、視界の先で動く影に笑った。
そう、どんなに魅力的な仕草で誘われたとしても無意味だ。
居場所はもう定まっている。
抗いようもなくいつか行かなくてはいけない『神』の住む場所よりは、生身の人間と一緒に笑ってサッカーがしたい。
どうせ彼らよりも神と一緒に居る時間は長いのだ、今すぐでなくてもいいだろう。
「それに、パスする相手なら居るよ。・・・行け、豪炎寺!!」
「っ!?」
驚き顔を上げたアフロディたちの隙を突き、ボールを放り投げ蹴り飛ばす。
放物線を描いたそれは狙い違わず目的の人物の足元へ収まり、彼を囲うように一之瀬と鬼道がフォローに回った。
「無駄だ」
「そうか?」
「ああ。彼らはすぐに止められる。・・・ほらね」
手魚の必殺技『メガクェイク』により、豪炎寺たちの体が宙に浮いた。
激しく地面に叩きつけられ、身動きが取れないで居る彼らの間を世宇子中の面々がボールをパスして走りぬける。
あっという間にセンターラインも越えられ、ふっと息を吐き出すと身構えた。
まだ風丸も壁山も土門も回復していない。彼らに止めろというのは酷だろう。
深呼吸を繰り返し不規則に跳ねる鼓動を宥める。
落ち着け、と心の中で囁くと凪いだ気持ちで正面を見据えた。
どうやらゴッドハンドだけで切り抜けるのは、無理らしい。
予想している範疇だったが、仕方ないと左手に力を溜める。
目の前でアフロディにボールが渡り、小さく微笑んだ。
宙に浮かんだ彼の背中から三対六枚の純白の翼が見える。
神々しい光を背負い、神、と言うよりは御使いのような姿で一直線に円堂を見据えた。
「ゴッドノウズ!!」
空気を切り裂いて迫るシュートに、溜めていた息を吐き出した。
心臓に溜まった力を左手へ循環させるイメージを脳裏に浮かべ、ぐっと柳眉を寄せる。
この技は幼い時分に影山に見せられたDVDを参考に会得した、円堂大介の幻の必殺技。
流出する力に心臓が疼く。歯を食いしばり無理やり痛みを押さえ込むと、両手を握り腰だめに構えた。
「マジン・ザ・ハンド!!」
空中にオレンジ色の光りを宿す魔人の残像が映る。
高らかと声を上げた魔人は、円堂の動きに連動して左手を差し出した。
「あれはマジン・ザ・ハンド!!?」
叫びに似た声はベンチから聞こえた。
教え子である響木が唯一習得できなかった円堂大介の必殺技。
円堂は今日の試合相手である影山の分析とDVDの映像、そして並みならぬ才能で習得していた。
だが。
「ぐぅ!」
ボールを捉えた掌ごと体が宙に浮く。
予想よりも激しい威力を有していたアフロディのシュートに魔人はかき消され、殺しきれない勢いのままネットに押し込まれた。
「円堂!!」
「守!」
「円堂っ」
悲鳴に近い声を上げたのは誰だろうか。
少なくとも名前呼びは一之瀬だから判るが、苗字呼びは声が重なって判別つかない。
ぐっと体が無理やりに起こされる感覚に眩暈を覚えていると、そのまま頭を揺さぶられた。
「円堂!大丈夫か、円堂!?」
「・・・・・・風丸?」
「そうだ。俺が判るか?」
「・・・まあ、何とか」
返事をすると安堵したのか、漸く力が緩む。
だが体が受けたダメージは相応のものだったようで、立ち上がろうとして足が崩れた。
慌てたように横から伸びた手に支えられ、礼を言うと今度こそ一人で立ち上がる。
「守、大丈夫なのか?」
「ああ」
横から手を差し伸べてくれたのは一之瀬で、お前ら少し前まで伸びてたんじゃないのかという突込みを空気を読んで堪えた。
気がつけば周りをフィールド上に居た全ての仲間に囲われており、心配性な彼らに苦笑する。
病は気からとは違うのだろうが、人間気力が起こされればどうにでもなるという見本だろう。
重たい体を引き摺り、それでも尚他人の心配をしてくれる優しさに感謝する。
仲間に恵まれた自分は、とても幸せだろう。
「ごめん、一点やっちゃった」
「・・・大丈夫だ。むしろ姉さんは良くやってくれた。不甲斐無い俺たちの所為で猛攻を受けたのに、失点が一なら十分だ」
「そうだ。未だ攻め切れない俺たちに問題はある。───伝説のマジン・ザ・ハンドでも止められないとなれば、俺たちが点を奪うしかない」
「ああ。守にこれ以上頼るのは駄目だ。攻め込まれる前にパスを回そう」
地面に転がっていたときよりも、随分と瞳に力が戻っているのを見て微笑む。
世宇子中から一点をもぎ取るのは容易じゃないだろう。
けれど諦めていない彼らなら、絶対に大丈夫なはずだ。
それぞれのポジションに戻る仲間を尻目に、一之瀬だけがその場に残る。
距離が開いたのを確認し、眉を下げて問いかけた。
「・・・本当に、大丈夫なのか?」
「何が?」
「守がだよ。マジン・ザ・ハンドを使わなかったのは負担が大きすぎるからだろう?」
「大丈夫だよ。見てみろよ、ぴんぴんしてるだろ。むしろネットに叩きつけられた体のほうが痛い」
「本当に?」
「本当に。───ほら、さっさとポジションに戻れ。点を取ってくれるんだろ?」
「ああ。・・・守の言葉、信じるからね」
「信じろ」
ウィンクしながらとんとんと胸を拳で叩くと、漸く安堵したらしい一之瀬は今度こそポジションに戻った。
彼の背中を見送り、はぁっと一息つく。
朝の内に化粧をしておいて良かった。ファンデーションとチークを乗せただけのナチュラルメイクにもならないものだが、それでも顔色くらいは誤魔化せる。
今までの試合と桁違いの運動量に、体が悲鳴を上げ始めていた。
我慢できないほどではないし、危険度を測ればまだ一番下のレベルだ。
それでも普段通りの動きをするのは少々辛く、先ほどのマジン・ザ・ハンドでさらに力を奪われていた。
あの技は心臓に溜めた気を掌に送り放出するもので、絶大な威力を持つがその分使用者にも反動が大きい。
熱血パンチやゴッドハンドと比べ物にならないくらい、円堂の体力を奪い去る。
「・・・はっ、それでも勝つって決めてんだよ」
誰でもなく、自分自身に宣言するとポジションに立って掌に拳を当てた。
負けたくない。『神』なんて名乗る相手に、負けたくない。
そして───恩師のためにも、負けれない。彼が変わる切欠を与えるためにも、負けられないのだ。
気がつけば世宇子中にボールは渡り、再びアフロディの猛攻が始まっていた。
ヘブンズタイムで雷門のディフェンダーを抜き去った彼は、真正面で足を止めた。
「降参するつもりはないかい?」
「ないね」
「なら、仕方ない。神の裁きを受けるといい」
ふわり、と長い髪が扇形に広がると、先ほどと同じように三対六枚の羽が出現する。
優雅に宙に浮いたアフロディは、愛を囁くような甘い声を出した。
「ゴッドノウズ」
空を切り裂き絶大な破壊力を有したボールが迫り来る。
『円堂』と名を呼び叫ぶ仲間の悲鳴が聞こえた。
声を聞くだけでどれだけ心配されてるかわかり、こんなときなのに笑ってしまう。
彼らと共に進みたい。純粋な想いに包まれ、右手を心臓に当てた。
円堂大介が編み出したマジン・ザ・ハンド。
彼は心臓から気を送るため、より心臓に近い左手に力を流していた。
幼い頃、影山に見せられたその技に、酷く感動したのを覚えている。
時が経ち、影山は円堂自身にもマジン・ザ・ハンドを習得させた。
円堂が覚えたのは、円堂大介が使ったオリジナルと僅かに違う。
彼の使うマジン・ザ・ハンド。それは右利きの円堂に全力を出させるには微妙なものだった。
だから、円堂はこうしたのだ。
体を丸めるようにして右手を心臓に当て、そこから直接掌に気を叩き込む。
鼓動に連動して黄金色の力が掌を包み、逃げ場なく注がれたそれは大きく膨らんでいく。
「これが俺の、マジン・ザ・ハンドだ!!」
空中に展開されたのは、先ほどよりも金に近い色合いをした魔人。
円堂大介の技を元に自分用に改良したこれは、影山にも披露したことない円堂が持つ最高のキーパー技だ。
高らかに声を上げた黄金色の魔人が、一直線にアフロディを射抜く。
「神を超える、魔人だとっ・・・!?」
信じられない、と首を振る彼の前で、ボールは右手に収まった。
酷使された心臓が持ち主に異論を唱えているが、そんなものは全て無視だ。
額から流れる汗を指先で拭うと、獲物を前にした猫のように口角を持ち上げた。
「行け、みんな!!」
茫然自失とする世宇子と違い、円堂がシュートを止めた事実に雷門は一気に士気が上がる。
「姉さんが守ったこのボール!絶対に繋いでみせる!っ、豪炎寺っ」
「任せろ!!」
パスを受けた鬼道を軸に攻勢に転じた彼らを見送り、動けずに居るアフロディに微笑んだ。
「『ふんぞり返る神様の頭をぶん殴ってでも奇跡を起こしてやる』って、言ったろ?」
「嘘だ・・・人間が、神を超えるなんて」
「人間もそう捨てたもんじゃねぇぞ。矮小だからこそ助け合い、一の力を十に変えれる。奇跡ってのはな、神じゃなくて人の力で起こすもんなんだぜ」
驚きで声を失った彼にウィンクすると、丁度ホイッスルが鳴り響く。
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