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「・・・・・・」
「・・・・・・」
「二人きりの時間を、と仰る割りに、随分と豪勢ですわねエドガー様」


口元に手を当ててころころと笑えば、エスコートしてくれているエドガーの顔色が僅かに青褪めた。
約束を果たすためにイタリアに戻る三日前にイギリスへと足を運んだのだが、タイミングがいいというか悪いというか、彼の父親が開いたパーティーに好意と言う名の強制参加を要請された。
互いにスケジュール調整をしたのでエドガーも勿論出席予定ではなかったのだが、理由を敏感に察知した父親に二人揃って招かれてしまったのだ。
別に二人きりの時間を邪魔されたと憤る気はないが、堅苦しいパーティーは面倒で嫌気が差す。
顔合わせや情報交換など様々な意味合いを含む、財閥の娘の義務と理解していても好む場ではなかった。
一日丸まる空けた内半分は衣装合わせで取られ、子供だから最後まで付き合わなくてもいいが残りの時間はパーティーで終る。
午前中もエドガーの父親同伴でずっとお嬢様の仮面を被り続けなくてはいけないし、さすがバルチナス財閥の総帥と感心する話術だったが、いかな守でも気疲れした。
エドガー自身も予定を大幅崩された上にパーティーを好まない守の本質を知るだけに、今日の失敗を痛いほど理解しているはずだった。
女性の満足するエスコートをしてこそ紳士と日頃からのたまう彼にはダメージも大きかろう。


「すまない」
「構いませんわ。でも、また当分はスケジュールは合いそうにありませんね」
「・・・そうだな」


頷いたエドガーは心なしか肩を落とした。親しい人間にしかわからない程度だが、落ち込んでいるらしい。
守のエドガーに対する態度など優しいものじゃないのに、何故彼がこれほど自分を慕うのかわからない。
以前一度だけ聞いたことがあるが、『君はとても大人びた部分があるのに、そういうところは子供だな』と微笑ましいものを見るような顔で頭を撫でられ、以来一度も聞いてない。
ある意味で一番昔から守を知る幼馴染は、時折油断できないことを言う不思議な奴だった。

パーティー会場で主催者の息子として変な部分は見せられないくせに、それでも感情を抑えきれないエドガーに苦笑すると組んでいた腕に身を寄せる。
驚きで目を丸くしたエドガーは白皙の美貌を僅かに赤らめ、どうしたんだと戸惑うように声を漏らした。


「一日を共に過ごせずとも、顔を合わせる時間くらいは取れますわ。日本ならともかく、イタリアならそれほど距離があるわけでもないでしょう。───それとも、私のためには海は越えられませんか?」
「・・・いいや。今までだって君に合うためだけに幾度も海を越えているだろう?一日全てを独占できずとも、君のためなら会いに行こう」


今日は下ろしている守の長い髪を指先に絡め、小さく音を立ててキスをした。
公式の場でよくつけているノンフレームの眼鏡の位置を直しながら相変わらず気障な男だと笑ってしまうと、正確に意味を読んだエドガーは苦笑した。


「君は申し分ない許婚であるが、時折ムードを読んで欲しいと心底思う瞬間がある」
「あらあら。公の場でムードも何もないでしょうに。余裕のない男性は格好悪いと仰ったのはエドガー様でしょう?」
「そうだな」


随分と伸びた髪を揺らして破顔するエドガーは、バルチナス財閥の時期総帥というより単純に年相応の子供に見えた。
顔を突き合わせて笑っていても、いつもならあっという間に距離を詰めて滔々と話を始める大人は現れない。
どうやらこんな部分でエドガーの父親に気を回してもらったらしいと気づくと、その心遣いに感謝すればいいか判断に迷うところだ。
何しろこれは言外に他の面々に二人の仲をアピールしてるようなものだ。
用があるのはエドガーと守個人ではなく、バルチナス財閥の跡取りと鬼道財閥の長女。二人の結束は財閥の繋がりにも等しい。
彼にとって広めておいて損はない情報だろうが、今回に限り自分たちにはとばっちりだ。
普段なら二人揃って出席しなければいけないなら事前に予告してくれるのだが、余程の大物ゲストでも現れたのだろうか。
エドガーと談笑しながらも頭の片隅で考えていると、不意に横から声を掛けられた。

誰かが近づいていたのは視界の端で捕らえていたので驚きはないが、声の主が自分たちとほとんど同世代なのには驚いた。
今日のパーティーでは子供の参加はほとんどなく、顔見知りには一通り声を掛けていたと思ったからだ。
だが驚きを内心で仕舞いこむと、にこりとお嬢様然とした微笑を浮かべた。


「こんばんは」
「こんばんは」


特徴的な緋色の髪をした少年は、端整な顔に穏やかな笑みを浮かべていた。
肌の色は守よりも白いくらいだが、軟弱なイメージはない。
優しげだがきゅっと上がった眉が意思の強さを感じさせる、エドガーとはまた違った美少年だった。
年のころは守より一つ二つ上に見えるが、微笑む顔に覚えはない。
エドガーの知り合いかと視線で問えば、軽く頷いた彼は守を庇うように一歩前に出た。


「これはこれは。まさかあなたが出席しているとは思わなかった。直接顔を合わすのは一年ぶりくらいですね」
「うん、そうだね。相変わらず君は格好いいね、エドガー。健勝なようで何よりだよ。隣の可愛らしい女性を俺にも紹介してくれないかい?」
「・・・紹介などせずとも、あなたなら名前くらい知っているでしょう?」
「まあね。でも、直接話をしたことはないっていうのも君は知ってるでしょう?仲介くらいしてくれてもいいじゃない」


警戒するように瞳を眇めたエドガーに、少年は笑った。
どうやらあちらの方が上手なようだと察し、守は笑みを深める。
普段は大人ですら手玉に取るエドガーが同年代の少年にやりこまれる様は珍しく、守の好奇心を誘った。


「エドガー様」
「・・・なんだ」
「私も紹介して頂きたいですわ」
「マモル」
「駄目、ですの?」


きゅっとスーツの裾を掴んで、小首を傾げる。彼がこの仕草に弱いのは熟知している。
案の定言葉を詰まらせたエドガーは、渋々体を動かし少年の横に並ぶとこちらに向かって口を開いた。


「彼の名前は吉良ヒロト。かの有名な吉良財閥の嫡男だ。ヒロト、彼女は私の許婚のマモルです。鬼道財閥の長女でもあります」
「初めまして、レディ。俺は吉良ヒロト。宜しくね」
「初めまして、ヒロト様。お名前はかねがね窺っておりました。こちらこそよろしくお願いいたします」


胸に手を当てて頭を下げたヒロトに、スカートの端を摘んで挨拶を返す。
吉良財閥と言えば世界にも名を広めていて、鬼道財閥やバルチナス財閥と並んでもおかしくない。
それでエドガーにあの態度だったのかと納得していると、すっと掌をとられ口付けられた。
エドガーの柳眉が釣りあがり、渋い顔をした彼にヒロトが笑う。
掌を失礼にならない程度の速さで奪い返しながら視線だけで見上げると、笑いを堪える微妙な表情で片手を上げた。


「いや、失礼。噂どおりだと思って」
「噂?」
「エドガーと君の関係。予想以上に彼は君にご執心らしい」


口に手を当てて微笑みをかみ殺す彼に苦笑する。
その噂なら守も知っていた。
政略的な繋がりであるはずだが、エドガーが守を大切にする態度は本物で、仲睦まじく微笑ましい。財閥だけの繋がりの道具には見えない、とかいうものだった。
興味の欠片もわかない噂だが、耳にしたときは赤の他人から見てもそう見えるのかと感心した記憶がある。
目尻を赤く染めたエドガーは視線を逸らし、素直だけど素直じゃない奴と内心で呟いた。


「ふふふ、ヒロト様がどのような噂をお耳にされたか存じませんが、恥ずかしい限りです。自分のことが人の口に上っているなど、不思議ですわね」
「そうかい?でも、嬉しいな。実はずっと君と話してみたかったんだ」
「私と、ですか?」
「ああ」


ふふっと笑いながら頷いた彼は、眼差しに熱を篭めた。
知り合いではなかったはずだが、はて、と小首を傾げると、まるで内緒話をするように声を潜めて理由を教えてくれた。


「実はね、俺もサッカーするんだ」
「・・・ああ、そういうことですの」
「そう。そういう感じ。俺も君と同じで留学してサッカーをしてる。行き先はスペインだから、いずれ顔を合わせることになるかもしれないね」
「スペインですか。ならばヒロト様はとてもサッカーがお上手なんですね。世界の強豪国ですわ」
「どうだろう?でも、サッカーは大好きだよ」


先ほどまでと違い、無邪気な様子のヒロトに目を細めた。
彼の言葉に嘘はないと直感で判った。
スペインでサッカーをするなら、きっと彼も上手いのだろう。
そうなると公式の場では押さえているサッカー好きの心が疼き、自然と顔も綻ぶ。


「君のプレイは一度見たことがあるよ。テクニックも統率力も素晴らしかった」
「ありがとうございます。私など、まだまだですわ」
「そうかな?十分に凄いよ。実はね、俺はサッカープレイヤーの『マモル・キドウ』のファンなんだ。誰より自由にフィールドを駆け、誰より楽しそうにサッカーする君は、俺の憧れなんだ」


面映いような顔で告げられ目が丸くなる。
イタリアでならともかく、こんな場所でファンだと言ってきた相手は初めてだ。
大体の人間は女である守がサッカーをすることに対して否定的であるのに、全面的に好意をぶつけられるとは。


「だからね、いつか機会があったら一緒に俺とプレイしてよ。君と一緒にサッカーをしてみたい」
「・・・光栄ですわ、ヒロト様。私の方こそ是非お願いいたします」


差し伸べられた手に手を合わせて固く握手をする。
約束だよと念を押す彼に頷いていると、横から業とらしく咳をしたエドガーがさりげなく間に入った。


「失礼。ヒロト、姉君が探しているようですよ?」
「え?」


エドガーの視線に釣られるよう先を見れば、艶やかな黒髪を靡かせた美女が眉を顰めて辺りを窺っていた。
あまり似ていないが、言葉に敏感に反応したヒロトを見ると、きっと彼女が姉なのだろう。
クラシカルスタイルのドレスを纏うスタイルのいい彼女を眺めていると、残念そうに肩を竦めたヒロトはもう一度こちらを向いた。


「残念ながら、タイムアップみたいだね。今日の俺は姉さんのお供だからもう戻らなきゃ。それじゃ、二人とも失礼させてもらうよ」
「私たちなど気にしなくていい。早く彼女の元へと向かって下さい」
「本当にご執心だなエドガーは。マモル」
「はい」
「約束、忘れないでね。いつか一緒に」
「ええ、勿論ですわ。私も楽しみにしています」


嬉しげに顔を綻ばせたヒロトは、優雅に一礼するとその場を去った。
凛と背筋を伸ばして歩く彼を見送っていると、思考を中断させるよう声が掛けられる。
顔を上げれば、さっきより随分と不機嫌そうな顔をしたエドガーが居て、焼もち妬きな彼にふうと嘆息した。
好かれているからこそ始まるこんこんとした内容は、右から左へと聞き流す。どうせ公式の場でなら変なことは口に出来まい。
そう言えばこの間の遊園地の土産を渡してないなと思い出し、いつのタイミングで渡そうかとエドガーの声をBGMに暢気に考えた。

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