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泣かないで
--お題サイト:afaikさまより--

■な 涙じゃない雨粒だよ、泣いてるって証拠でもあるの【恋次】


雨の中一人で佇む姿に、恋次の心は酷く揺れた。
今日は仲間の命日だった。
今はもう二人きりになってしまったが、昔、まだ家族が居た頃の記憶を思い出したのだろう。

鈍重な色をした雨雲の下、全身を濡らした少女は背筋を伸ばして空を見上げる。
入学して配布されたばかりの新品の制服もぐっしょりと濡れていた。


「何やってんだ、お前はよ。風邪引くぜ?」
「ありがたいことにな、体だけは頑丈に出来てるんだ」


恋次の気配にはとうに気付いていたのだろう。
ふん、といつもどおりに小憎らしい顔で笑ったルキアは、先ほどまでの儚さを感じさせない。
見た目よりは確かに丈夫に出来ているのはわかっているが、それでも十分じゃない。
恋次に比べ華奢で小さいルキアの存在は、居なくなってしまうのではないかと酷く不安を煽った。


「泣いてたのか?」
「私が?何故だ」
「───泣いてないなら、いいんだ」


卑怯な問いかけだと知っている。
こう聞けば、素直じゃないルキアが是と応えるはずがない。
否定して欲しいと望んだからこその聞き方に、それでもルキアは恋次を詰らない。


「雨、止まなねぇな」
「ああ」


雨に隠さねば涙を零せない幼馴染も、いつか恋次を置いていってしまうのだろうか。


■か 渇いた頬にキスをして、濡らしてやりたかった【浮竹】


「朽木。お前はもう少し欲張りになってもいいんだぞ」
「・・・え?」


浮竹の唐突な言葉に、大きな釣り目がちの瞳で瞬きを繰り返すルキアは小動物のように可愛らしい。
思わず腕を伸ばして撫でてやりたいが、警戒心が強い野良属性だと知っている為伸ばしかけた手を握る。
甘やかそうとしても、毛を逆立てて距離を取るだけだろう。

動物には好かれる気質だと自認していたが、どうにも目の前の子猫のような相手には難しい。
腹心の部下はあっさりと手懐けていたのに、何がいけないのだろうか。
擦り寄ってくれば甘やかす用意は十分なんだが、と苦笑しながら薬の準備をするルキアを眺める。


「なぁ、朽木」
「はい」
「俺が憎いか?」


卑怯な問いかけに、ルキアの瞳はまん丸に見開かれた。
無防備な様子は子供みたいで、浮竹の相貌は少し緩む。
だが心臓は早鐘を打ち、嫌な汗が滲んでいた。


「私が、隊長を憎む?」
「ああ」
「───ありえません。感謝こそすれ、憎むなど」
「・・・そうか」


そっと息を吐き出して笑う。
憎まれる価値すらない己に、情けなさと悲しみを感じながら。

どうして責めてくれないのか。
どうして詰ってくれないのか。
潔すぎる彼女は全てを己の内へと留め、外に出すことはない。
浮竹の前では涙一つ零さぬし、不平不満を漏らさない。


「すまないな、朽木」


いきなりの謝罪に驚くルキアは、きっと謝罪の意味も判らない。
無条件に彼女を可愛がった部下を脳裏に描くと、自分とのあまりの差に息が苦しくなった。


■な 慣れない事はするもんじゃない、わたしも、あなたも【一護】


腕の中の存在は、こんなに小さいものだったろうか。
酷い混乱が心を乱し、それでも抱く手を緩められない。
何故こうなったか、どうしてこうしているのか、一護はよく理解できない。

気がつけばルキアは涙を零し、気がつけば自分は抱きしめていた。

泣かせたままで居させたくなかった。
凛と背筋を伸ばしたまま、静かに涙を流す姿が切なかった。
無意識の内に腕に閉じ込め、そうして不意に気付いてしまった。

ああ、彼女はこんなにも女だったのだと。

気付きたくなかった。
強くて儚い存在を、女として意識したくなかった。
気付いてしまえば引き返せない。
手を放したくないと望んでしまう。

そんな自分に気付かないふりをしていたのに、何故今気付いてしまったのだ。


腕の中で涙を零す麗人に、一護は唇を噛み締める。
嗚咽を殺して泣く姿さえこんなにも愛しいものなんて。

気付きたく、なかったのに。


■い 祈るように君の涙を拭う、それはただの我が儘【コン】


「泣かないで下さい、姐さん」


押入れの中、一護の耳に届かぬように、声を殺して泣く人に手を伸ばす。
ぬいぐるみの掌は、落ちる雫を吸って色を変えた。
体に染みるそれの温度をコンは確かめることすら出来ない。
それでも体を胎児のように丸めて泣く彼女を放っておくなど到底無理だ。


「姐さん、泣かないで」


小さな体に寄り添って、柔らかな頬に頬を摺り寄せる。
零れる涙すら愛しい人は、とても儚く美しい。

一護を死神にしたと、巻き込んでしまったと、後悔を抱え込むこの人は、一護の前では明るいのに、夜の帳に包まれるとたまにこうして静かに泣き出す。
知っているのはコンだけで、優越感は覚えるが、それ以上に切なくて仕方がない。

だってコンじゃ涙を止めれない。
何を告げてもどう慰めても、この人は涙を流し続ける。
泣かないでと、どうかどうか涙を零さないでと、懇願と哀願を篭めてみても、その涙は止まらない。


「姐さん」


泣き続けるルキアにそっと寄り添う。
泣いてるこの人を知るのは自分だけと、喜ぶ自分を嫌悪しながら。


■で 出来損ないの泣き顔を、わたしはずっと持て余してた【ルキア】


泣き方を忘れてしまった。

朽木の広く整備された庭の片隅でぽつりと一人で佇みながら、ルキアは住んだ青空を見上げる。
最後に泣いたのはいつだっただろう。
ああ、確か恋次に養子に行けと言われたときだ。

その時から感情は止まり、何もかもが上滑りしている状態が続いていた。

綺麗な着物を与えられた。
豪華な食事を与えられた。
身に余る地位を与えられた。
昔からでは考えられない贅をつくした生活だ。

それでも心は常に渇き、何かを求め疼いている。
それが何かすらもう忘れてしまっているのに。


ぽつり、と頬に当たった雫に目を細める。
厚い雲に覆われた空が、ついに涙を零し始めた。

冷たい雨は心を潤す。
とうの昔に埋めた何か。
掘り起こすことすら諦めた何かを、その冷たさで思い出させる。


「・・・ルキア


遠くで名を呼ぶ声がした。


「兄様」


許されているのかいないのか判らない呼び名。
それでも他の呼び名は与えられておらず、するりと口から零れた言葉に密かに心が動揺する。

何かを求めてはいけない。
与えられた以上を望んではいけない。

心に決めているのに、何故名を呼ばれるたびに疼くのだろう。


「・・・誰か」


雨音が激しくなってきた。
頬に当たる雫は大きく痛みすら感じる。


「誰か、助けて」


何を求めているか、何を望んでいるか。
忘れてしまったはずなのに。
それでも漏れる救難信号は、誰にも受け取られず儚く消えた。

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