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いたいのいたいのとんでいけ
--お題サイト:afaikさまより--
彼は甘い人間ではない。
それは環境がそうさせるものであり、逃れられない経験が成長をそう促したとも言える。
彼の世界は甘さを持っていればすぐさま喉を食い破られ、その地位と土足で踏み躙られる。
血と硝煙と生と死。
目を閉ざしたくなるほど汚いものがある場所で、彼は背筋を伸ばして誰からも見えるように凛と存在していた。
銃声が鳴り響く中、自身も元・家庭教師から下賜された銃を持った綱吉は、死ぬ気の炎こそ出していないもののドン・ボンゴレとして相応しい覇気を纏っていた。
黒く靡く外套と、最終兵器として身につけられたXグローブ。
白いスーツは比喩でなく火花が散り埃が舞うこの場所でも少しの汚れもない。
視線の少し先では主であるボンゴレX世のために、銘の通り嵐となった同僚が敵を蹴散らしていた。
普段なら自分も彼と並ぶが、今回の了平の立場はそれではない。
立場上ドン・ボンゴレ自らが粛清に赴く回数は少ない。
ボンゴレほどの規模になると一々小競り合い程度で頭が顔を出すのは有り得ない事態で、だからこそ彼は余程大きな対立や彼自身の顔が潰れた場合にのみ姿を出すのが常である。
しかし何事にも例外は存在する。
裏切りを繰り返させないために見せしめが必要だと彼が判断した事態のみ、彼は敵方の規模に関係なく出撃に赴く場合がある。
裏切り者が出るたびに繰り返されるものではないが、周りが油断する寸前に効果的に自分を使うのがボンゴレX世沢田綱吉という男だった。
裏切りは極力なくしたい。
しかしながら強大なファミリーであればあるほど不穏分子を抱え込む隙も大きくなる。
ボンゴレファミリーは余所に比べれば結束は固い方だが、それでも末端まで目が行くわけではない。
仕方がないと言えば仕方がない。当然と言えば当然の結果だ。
だからせめても被害を抑えるために、昔の経験を手痛い学びとして彼は自分を使うのだ。
今回の裏切りは不名誉な事に了平の部隊から起こった。
一週間前新たに迎え入れた直属の部下の行動がおかしいのに気がついたのは、彼が部下になったその日だった。
配属は人事が行ったもので了平の指示が加わったものではないが、裏切りは裏切り。
せめても救いだったのは彼がまだ根を張る前で、ボンゴレが甚大な被害を受ける情報を渡していなかったことだろう。
だが不名誉を受ける羽目になった了平からすれば、それは何も救いではない。
裏切り者だと気付いた時に何らかの処理をしたのではなく、裏切られた挙句に敵に寝返られたとは、幹部として有り得ない失態だ。
今回も粛清のメンバーからは当たり前に外されたのを、何とか粘り連れてきてもらった。
汚名返上の機会は一度しか与えられない。
それをしくじれば彼の信頼は暴落し、名誉挽回には長く時間が掛かるだろう。
自身の武器である拳を固め、リングにいつでも炎を注入できるよう覚悟を定める。
戦いに挑む際の覚悟は千差万別。
今回の了平の覚悟は、『自分の部下だった男を手に掛ける』覚悟だ。
「沢田」
「・・・何だ」
「すまなかった」
謝罪は意味を成さない。
少なくとも謝れば全てが解決するなら警察は要らないし、そもそもマフィアは存在しないだろう。
この場で謝るのは了平のエゴ以外の何物でもなく、それを無言で流したのは綱吉の優しさだろう。
ダイナマイトをばら撒いている獄寺が居たら、今すぐにでも標的になったに違いない。
しかもより確実性を求めて形態変化した武器で赤竜巻の矢を放つだろう。
それくらい了平の言葉は無責任で、誰よりも綱吉に向けていけないものだ。
だが言わずにはいられなかった。
回避できるはずの展開は、了平の甘さで現実となった。
「・・・この展開は想定していた」
「沢田」
「人事に手を回し了平の部下にと選んだのは俺だ。彼が裏切るのは始めからわかっていた」
「・・・なら」
「手を下さなかったのは何故か。それは俺の甘さだ。お前の下なら可能性があると思ったんだ。俺が勝手に期待した、その結果がこれだった」
ぽつりと呟かれた言葉は、酷く重い響きを与える。
結果に期待したというなら、了平はそれを見事に裏切った。
綱吉の言葉は了平に衝撃を与え、一瞬呼吸も止まった。
ショックを受けた様子を隠さない了平を静かな眼差しで見詰めた彼は、僅かに表情を崩す。
「お前にではなく、裏切り者の良心に期待したんだ。お前の部隊は俺の幹部の中でも明るい。良心なんて形にならないものに期待したくなるほど、俺はお前の部隊を信じている。しっぺ返しを喰らったのは俺が甘かったからだ。戦いたくない、殺したくない。そうして逃げて今がある。大事の前の小事と考えてはいけないのにな」
沈痛な面持ちに否定しかけて拳を握る。
甘さを悔やむ彼は、どれだけ時間が経ってもただの優しい人だった。
優しさと甘さの区切りがどこにあるかなんて了平は知らない。
けれど彼のそれを、ただの甘さと切って捨てるには了平は彼を知りすぎた。
唇を噛み締め伝う血の鉄錆び臭い味が口内に広がる。
彼はドン・ボンゴレの仮面を被っているはずなのに、その背後に泣きそうな顔をした子供が見えた気がした。
涙を堪え他人の人生を奪うのに怯えた普通の子供。
綱吉の心の奥に眠る、守らなくてはいけない彼が。
「・・・っ」
喉元まで上がる言葉を無理やり嚥下する。
それは絶対に言ってはいけない。口にしてはいけない。
こんな顔をさせていいはずがないのだ。
彼の日輪であるべき自分が、大空を曇らせていいはずがない。
「俺に」
「・・・・・・」
「俺に命令してくれ、沢田。お前の晴の守護者である、この俺に。今回の失態のさきがけとなった、この俺に」
他の誰かではなく、了平が晴らさなくてはならない。
何故なら他の誰でもなく、この自分が大空を太陽で照らす存在なのだから。
空に雨を降らせてはいけない。
厚く重い雲をのさばらせていけない。
綱吉に似合うのは、綺麗な青空なのだから。
「お前が手を回そうと、これは俺自身の失態だ。名誉挽回のチャンスをくれ」
自分の家族のためだとしても、未だに命令に躊躇う彼を。
涙を流さず悲しむ彼の、背中を押すためそっと囁く。
「俺は死ぬつもりはない。だから俺に命令しろ」
了平は彼ほど優しくなれない。
空が曇れば許せない。雨が落ちれば拭いたい。
その望みを叶えるために、だからこそ彼に言わせたい。
「命令してくれ、ドン・ボンゴレ」
鎮痛に眉を寄せた彼が、ゆるりと唇を持ち上げる。
臆病な彼の言葉に、了平は哂った。
どうしたって何が一番大切かを忘れれない彼を、誰に生きて欲しいか選んでいる彼を、誰かを得るため誰かに命を奪えと命じる彼を。
───慰める術は今日も見つからない。
--お題サイト:afaikさまより--
彼は甘い人間ではない。
それは環境がそうさせるものであり、逃れられない経験が成長をそう促したとも言える。
彼の世界は甘さを持っていればすぐさま喉を食い破られ、その地位と土足で踏み躙られる。
血と硝煙と生と死。
目を閉ざしたくなるほど汚いものがある場所で、彼は背筋を伸ばして誰からも見えるように凛と存在していた。
銃声が鳴り響く中、自身も元・家庭教師から下賜された銃を持った綱吉は、死ぬ気の炎こそ出していないもののドン・ボンゴレとして相応しい覇気を纏っていた。
黒く靡く外套と、最終兵器として身につけられたXグローブ。
白いスーツは比喩でなく火花が散り埃が舞うこの場所でも少しの汚れもない。
視線の少し先では主であるボンゴレX世のために、銘の通り嵐となった同僚が敵を蹴散らしていた。
普段なら自分も彼と並ぶが、今回の了平の立場はそれではない。
立場上ドン・ボンゴレ自らが粛清に赴く回数は少ない。
ボンゴレほどの規模になると一々小競り合い程度で頭が顔を出すのは有り得ない事態で、だからこそ彼は余程大きな対立や彼自身の顔が潰れた場合にのみ姿を出すのが常である。
しかし何事にも例外は存在する。
裏切りを繰り返させないために見せしめが必要だと彼が判断した事態のみ、彼は敵方の規模に関係なく出撃に赴く場合がある。
裏切り者が出るたびに繰り返されるものではないが、周りが油断する寸前に効果的に自分を使うのがボンゴレX世沢田綱吉という男だった。
裏切りは極力なくしたい。
しかしながら強大なファミリーであればあるほど不穏分子を抱え込む隙も大きくなる。
ボンゴレファミリーは余所に比べれば結束は固い方だが、それでも末端まで目が行くわけではない。
仕方がないと言えば仕方がない。当然と言えば当然の結果だ。
だからせめても被害を抑えるために、昔の経験を手痛い学びとして彼は自分を使うのだ。
今回の裏切りは不名誉な事に了平の部隊から起こった。
一週間前新たに迎え入れた直属の部下の行動がおかしいのに気がついたのは、彼が部下になったその日だった。
配属は人事が行ったもので了平の指示が加わったものではないが、裏切りは裏切り。
せめても救いだったのは彼がまだ根を張る前で、ボンゴレが甚大な被害を受ける情報を渡していなかったことだろう。
だが不名誉を受ける羽目になった了平からすれば、それは何も救いではない。
裏切り者だと気付いた時に何らかの処理をしたのではなく、裏切られた挙句に敵に寝返られたとは、幹部として有り得ない失態だ。
今回も粛清のメンバーからは当たり前に外されたのを、何とか粘り連れてきてもらった。
汚名返上の機会は一度しか与えられない。
それをしくじれば彼の信頼は暴落し、名誉挽回には長く時間が掛かるだろう。
自身の武器である拳を固め、リングにいつでも炎を注入できるよう覚悟を定める。
戦いに挑む際の覚悟は千差万別。
今回の了平の覚悟は、『自分の部下だった男を手に掛ける』覚悟だ。
「沢田」
「・・・何だ」
「すまなかった」
謝罪は意味を成さない。
少なくとも謝れば全てが解決するなら警察は要らないし、そもそもマフィアは存在しないだろう。
この場で謝るのは了平のエゴ以外の何物でもなく、それを無言で流したのは綱吉の優しさだろう。
ダイナマイトをばら撒いている獄寺が居たら、今すぐにでも標的になったに違いない。
しかもより確実性を求めて形態変化した武器で赤竜巻の矢を放つだろう。
それくらい了平の言葉は無責任で、誰よりも綱吉に向けていけないものだ。
だが言わずにはいられなかった。
回避できるはずの展開は、了平の甘さで現実となった。
「・・・この展開は想定していた」
「沢田」
「人事に手を回し了平の部下にと選んだのは俺だ。彼が裏切るのは始めからわかっていた」
「・・・なら」
「手を下さなかったのは何故か。それは俺の甘さだ。お前の下なら可能性があると思ったんだ。俺が勝手に期待した、その結果がこれだった」
ぽつりと呟かれた言葉は、酷く重い響きを与える。
結果に期待したというなら、了平はそれを見事に裏切った。
綱吉の言葉は了平に衝撃を与え、一瞬呼吸も止まった。
ショックを受けた様子を隠さない了平を静かな眼差しで見詰めた彼は、僅かに表情を崩す。
「お前にではなく、裏切り者の良心に期待したんだ。お前の部隊は俺の幹部の中でも明るい。良心なんて形にならないものに期待したくなるほど、俺はお前の部隊を信じている。しっぺ返しを喰らったのは俺が甘かったからだ。戦いたくない、殺したくない。そうして逃げて今がある。大事の前の小事と考えてはいけないのにな」
沈痛な面持ちに否定しかけて拳を握る。
甘さを悔やむ彼は、どれだけ時間が経ってもただの優しい人だった。
優しさと甘さの区切りがどこにあるかなんて了平は知らない。
けれど彼のそれを、ただの甘さと切って捨てるには了平は彼を知りすぎた。
唇を噛み締め伝う血の鉄錆び臭い味が口内に広がる。
彼はドン・ボンゴレの仮面を被っているはずなのに、その背後に泣きそうな顔をした子供が見えた気がした。
涙を堪え他人の人生を奪うのに怯えた普通の子供。
綱吉の心の奥に眠る、守らなくてはいけない彼が。
「・・・っ」
喉元まで上がる言葉を無理やり嚥下する。
それは絶対に言ってはいけない。口にしてはいけない。
こんな顔をさせていいはずがないのだ。
彼の日輪であるべき自分が、大空を曇らせていいはずがない。
「俺に」
「・・・・・・」
「俺に命令してくれ、沢田。お前の晴の守護者である、この俺に。今回の失態のさきがけとなった、この俺に」
他の誰かではなく、了平が晴らさなくてはならない。
何故なら他の誰でもなく、この自分が大空を太陽で照らす存在なのだから。
空に雨を降らせてはいけない。
厚く重い雲をのさばらせていけない。
綱吉に似合うのは、綺麗な青空なのだから。
「お前が手を回そうと、これは俺自身の失態だ。名誉挽回のチャンスをくれ」
自分の家族のためだとしても、未だに命令に躊躇う彼を。
涙を流さず悲しむ彼の、背中を押すためそっと囁く。
「俺は死ぬつもりはない。だから俺に命令しろ」
了平は彼ほど優しくなれない。
空が曇れば許せない。雨が落ちれば拭いたい。
その望みを叶えるために、だからこそ彼に言わせたい。
「命令してくれ、ドン・ボンゴレ」
鎮痛に眉を寄せた彼が、ゆるりと唇を持ち上げる。
臆病な彼の言葉に、了平は哂った。
どうしたって何が一番大切かを忘れれない彼を、誰に生きて欲しいか選んでいる彼を、誰かを得るため誰かに命を奪えと命じる彼を。
───慰める術は今日も見つからない。
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