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「いや~、綱海マジ最高!」
「ははははは!もっと褒めてもいいぜ!」


笑いながら肩を抱き合う二人に、驚きで目を丸めたチームメイトの視線が集まる。
綱海はともかく円堂はその視線に気づいているだろうに、一切気にせず仲良さげな雰囲気を醸し出していた。
どうやら彼ら二人はとても波長が合うらしく、初対面からほぼずっとあの調子らしい。
小柄な円堂と彼女より頭ひとつは背が高い綱海は並んでいるとある意味絵になる。
普段は男女差を感じさせない円堂なのに、その差が歴然とするからか綱海の隣に居ればきちんと女の子に見えた。

先日仲間に戻ったばかりの豪炎寺は、つきりと痛む胸に訝しげに首を傾げ、ジャージの上から胸を掴む。
最近感じる違和感は、何故か円堂が傍に居るときに多く見られた。
傍に居なければ探してしまうし、一緒に居ればなんとなく顔が見れない。
かと言って別の誰かのところに彼女がいると息苦しく胸が痛くなる。
こんな想いは初めてで、誰かに相談しようにもこんなことを相談できる相手なんて円堂以外にいない。
しかし円堂本人相手に相談も出来なくて、もやもやする感情を無理やりに押さえ込んだ。


「・・・綱海め」


気がつけばいつの間にか隣に来ていた鬼道がきりきりと柳眉を吊り上げて低い声で唸りに似た囁きを零す。
怒りを抑えきれずに発露してしまったらしい。
彼らしくもない冷静さを欠いた姿だが、それが円堂に関してならとても彼らしいのかもしれない。
本人は素直に認めないだろうが、彼は円堂をとても慕っているようだった。
音無に対しては素直になれるのに、姉だとまた違うものなのだろうか、と微かに首を傾げる。
豪炎寺の中での疑問は、口にした瞬間鬼道の怒りを買うとわかっているので、これもまた長い間燻っていた。


「人の姉に粉をかけるとはどういう了見だ。お前も馴れ馴れしいと思わないか」
「いや・・・俺は」
「否定しても無駄だ。その目が感情を物語っている」


円堂がいいならいいのでは、と口にしようとして素早く遮られた。
ゴーグル越しに見詰められるのを感じ、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
目が感情を語っていると言うが、自分では見えないので判らない。
どうしたものかと内心で困っていると、ぎゅっと眉間に皺を寄せた鬼道が首を傾けた。


「お前は悔しくないのか」
「・・・何が?」
「姉さんの隣に綱海が居ることが、だ。綱海が隣に居ると、姉さんは普通の女に見える」
「・・・・・・」
「身長だって高いし、自然な態度で姉さんを労われる。綱海は器がでかい。姉さんが気に入るのもわかるが、俺はそれが悔しい」


まさか素直に焼餅を妬いていると言っているのと同然の言葉が鬼道から飛び出すとは思っておらず、瞳を丸くして彼を見詰める。
しかし鬼道の視線はもう豪炎寺には向いておらず、一直線に円堂と彼女の肩を抱く綱海に向いていた。
瞳を隠すゴーグルのおかげで彼がどんな目で二人を見ているか判らない。
けれども身に纏う剣呑な雰囲気が、言葉よりも雄弁に鬼道の感情を伝えてきた。


「ホント、綱海はいい男だな!俺の婿に来ないか?」
「はははは、そりゃいいな!俺らの子供なら面白い奴が一杯出来そうだ!」


息を飲み込んだチームメイトを他所に呵呵大笑を続ける二人に、我慢できないとばかりに鬼道が駆け出した。
一拍遅れて彼に続き、また豪炎寺は自分の行動に首を捻る。


(どうして俺は、走っているんだ?)


理由など全く見当はつかない。
それでも早く、早くと急かす心に追われ、両足を突き出すように動かした。

拍手[6回]

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「キャプテンを、円堂に代える?」


唐突な提案に驚いたのは豪炎寺だけでなく、指名された当の本人を含めたサッカー部員全員だった。
ぽかんと口を開けた円堂は自分を指差し目を瞬かせ、他の部員たちも驚愕した眼差しで風丸を見ていた。


「何言ってんだ、風丸!俺たちはお前をキャプテンとしてここまでやって来たんだぞ!」
「そうでやんす!キャプテンは、風丸さんでやんす!」
「お前が俺たちをサッカーに誘ったんだろ?どうして今更・・・」
「今更なんかじゃない。円堂が入部してからずっと考えてたんだ。俺よりも、お前の方がキャプテンの器だ。俺がサッカーをやってる理由、お前らに話したことなかったよな。俺は───俺は、円堂ともう一度サッカーがしたくて、だからサッカー部を作ってサッカーを続けてた。本当は、俺、中学は陸上部に入ろうと思ってたんだ」
「風丸・・・」
「今すぐ代わると言ってもお前らが納得しないのはわかってる。これが俺の我侭だって言うのも、わかってる。全部わかった上で、俺は円堂をキャプテンに推す。お前らだって円堂の凄さは判ってるだろ」


必死な様子で訴える風丸に、円堂は瞼を閉じた。
彼が本気で訴えているのが痛いほど感じ取れ、その重みに胸が痛む。
風丸はその名のとおりに風のように走るのが好きだった。
誰よりも早く真っ直ぐに駆け抜ける姿を見るのは円堂も好きで、彼がサッカー部を選ぶなど本当に思ってなかった。
陸上と決別した風丸に思うところはある。
だが。


「風丸」
「・・・何だ」
「お前が俺をキャプテンに推したいのはわかった。けどな、それじゃお前の仲間は納得しないよ」
「それでも・・・それでも、俺はお前が全力でサッカーする姿を見たい。お前の指示でプレイしたい。俺よりもお前の方がキャプテンの器だ。プレイヤーとして、司令塔として、全てにおいてお前は俺よりも上だ。皆だってわかってるだろ?この間の帝国との試合も、尾刈斗や野生との試合も、一方的な空気を変えたのは円堂の一言だ。ピンチの時いつだって背中を押してくれたのは、円堂の言葉だろう!?」
「だが今のサッカー部のキャプテンはお前だぜ、風丸。俺たちはお前に誘われてサッカーをやり始めたんだ。俺たちのキャプテンは、お前だ」
「けれど俺はっ」
「やめろ、風丸」
「・・・円堂」
「お前が俺をキャプテンに推すのはどうしてだ?俺は今のままで十分なのに」
「俺は・・・俺は、お前に仲間をやりたい。ずっと一人でプレイしていたお前に。お前が居れば俺たちはもっと強くなれる。お前にここに居て欲しいんだ」
「風丸・・・」


要するに、彼はこの地に自分をとどめる楔を作りたいのかもしれない。
二年前、いきなり姿を消し音信不通となったのは、予想以上に彼の心に深い傷を残したのだろう。
円堂は自分にそこまでの価値を認めないが、風丸はずっと円堂を待っていてくれた。
そして自分が作り上げた雷門中サッカー部という枷をつけ、自分から離れないように縛り付けたいのだ。
無意識なのか意識的なのかわからないが、きっとそれに否を唱える権利はない。
彼は自分の言葉に縛られて二年間もサッカーをいていた。
自分がどれほど必死な眼差しを向けているか、風丸は気づいているのだろうか。
あんな目をして訴える言葉を、拒絶なんて出来っこないのに。

胸の中に渦巻く感情を、長いため息を変えてゆっくりと吐き出す。
綺麗な二重の瞳を心配そうに向けた風丸に微笑みかけると、一つ頷いた。


「風丸。俺は、お前が作った雷門中サッカー部のキャプテンはお前がいいと思っている」
「・・・円堂」
「けど、お前がサッカーを続ける理由が、俺にしかないのなら。お前は皆のためにもキャプテンを辞めた方がいい」
「円堂!!!」


染岡が責めるように睨みつけ、後輩たちも瞳を鋭くする。
集中する視線を無視して真っ直ぐに風丸を見詰めれば、こんな状況でも嬉しげに彼は微笑んだ。


「理由が俺にしかないままでサッカーを続ければ、お前はいつかサッカーを、そして他の皆を恨むときが来る。そんなの俺は耐えられない。俺の好きなサッカーを、お前に憎ませたくない。だから、俺はお前の言葉を受けよう」


顔を輝かせる風丸は、いつか変わってくれるだろうか。
円堂は関係なく、サッカーを愛する日が来るだろうか。
自分がつけてしまった重く錆付いた枷を、脱ぎ捨てて変わってくれるだろうか。

固く瞼を閉じて、心臓の上に掌を置く。
締め付けられるように痛むそこは、どくどくと早鐘のように鳴り響き生きている証を伝えてきた。


「次の御影専農戦を、俺のキャプテン試験にしてもらってもいいか?その試合での俺を見て、俺をキャプテンとして認めれるなら───サッカー、一緒にやろうぜ」
「守、でもそれじゃあ」
「いいんだ、一哉。俺は風丸が選んだ部員が、風丸を選んだ部員がどんな選択をしようと怨まない。皆とサッカー出来て凄く嬉しいし楽しいから、本当はこのままでいいけど、風丸の気持ちも捨てれない」
「・・・守」
「ごめんな、皆。俺たちの我侭に巻き込んで。もし、俺がキャプテンに相応しくないと思ったら、容赦なくそう言ってくれ。皆の意思を押し潰してまで通す意地は俺は持たない。俺はサッカーが好きだ。お前たちとサッカーをするのが好きだ。だから、お前たちが苦しむサッカーはしたくないし、させたくない。本当に、・・・ごめんな」


それぞれ感情を露にした彼らに、微笑みかけると踵を返す。
今日は帰るわ、と鞄を持って部室を後にした。
突然のことだし彼らにも考える時間は必要だ。

背後から駆け寄る気配に首を向ければ、案の定一之瀬のものだった。
眉を八の字に下げ、自分の方が余程辛そうな顔をして、きゅっと服の胸の部分を掴んで立ち止まる。


「いいの?」
「何が?」
「だって、守がここに戻ってきたのは」
「───いいんだ」
「守」
「新参者の俺をあいつらが選ばないなら、それはそれで仕方ないさ。ある意味当たり前の結果だしな」
「けれど、そうしたら」
「雷門を去って別の手を考える。風丸には悪いけど、俺にも譲れないものはあるから」
「・・・ふぅ。しょうがないなぁ、守は。俺より年上の癖に無茶ばっかだ」
「ごめん」
「けど、俺は最後まで付き合うよ。お前が雷門から居なくなるなら、俺も一緒に行く。なんてったって、俺たちは一蓮托生だしな」
「・・・サンキュ、一哉」


手を握り並んだ一之瀬に、ふっと微笑んだ。
彼の存在はとてもありがたく、嬉しく心強い。
自分の選んだ道に、背中を押してもらえるのは迷いを振り切るのに丁度いい。


「でも、俺は一応信じてるんだ。あいつらが俺を仲間として・・・キャプテンとして受け入れてくれるんじゃないかって」
「それって結構自意識過剰じゃない?」
「あははは!俺って基本ポジティブだからな!信じるし、信じたい。あいつらと、サッカーしたいよ」
「・・・そっか」


ふにゃりと表情を崩した一之瀬に、円堂は握る掌に力を篭めた。


御影専農戦後も円堂が笑ってサッカーを続けれたのに一番安堵したのは、きっと彼女の全てを理解する一之瀬だったに違いない。

拍手[4回]

小雨そぼ降る夜の道、傘を差しながら夜道を歩く。
耳につけたイヤホンから流れる音楽を小さくハミングし、コンビニ袋を片手に提げて小道を行けば、人通りの少ない道の端で街灯の下でぽつんとした影を一つ見つけた。
小首を傾げて近寄れば、瞳を潤ませてこちらを見てくる。
綺麗な毛並みをびしょびしょにして悲しげな顔をしている。
頭の天辺からつま先までずぶ濡れの彼に、そっと傘を傾けた。


「何だよ、お前。迷子か?」
「・・・・・・」
「仕方ないな、家に来いよ」


頭を撫でれば冷えた感触が手に伝わる。
温もりを与えるよう頬を撫で、小さく笑った。




「一哉ー!バスタオル一枚持ってきて!」
「バスタオル?何に使うのさ」
「外で子犬拾ったー。びしょびしょなんだ」


玄関で叫ぶ円堂に苦笑した一之瀬は、仕方がないなと呟きながら洗濯して畳んだばかりのタオルを一枚手に取る。
料理中だったためにピンクのエプロンをつけたままだが、火は消したから大丈夫だろう。
雨のせいで冷えた廊下をぱたぱたともこもこのアニマルスリッパを履いた状態で走り、目にした『子犬』に驚愕した。

真っ白な毛並みに、凛とした切れ長の瞳。
随分と躾が良さそうな『子犬』に、一之瀬はじとりと半眼になり苦笑して頭を掻く円堂を睨む。


「・・・『子犬』?」
「そう、『子犬』。毛並みもいいし素直だし、それっぽくない?」
「───俺にはどう見ても人間に見えるけど。しかもそれお前と同じクラスのエースストライカーじゃないのか?」
「よく知ってるなぁ、一哉。俺、紹介したっけ?」
「してない。でも秋から聞いた」


ぷくっと頬を膨らませつつ、持っていたバスタオルを円堂に手渡せば、くしゃりと笑った彼女はびしょ濡れの彼の頭を乱暴に拭いだした。
結構な力で拭かれているらしく首がえらい勢いでがっくんがっくんと揺れている。
普段は立てている髪がへたれているせいか、覇気のない姿は学校でのものとは重ならず一之瀬は一つため息を吐き出した。


「服は俺のを貸すから、風呂に入っておいでよ」
「・・・・・・」
「行けよ、豪炎寺。ちゃんと新品のトランクスはあるぞ」
「守、女の子がそういう発言しない!豪炎寺も玄関がびしょびしょになるから早く入ってくれよ」
「あ、足はきっちりと拭けよー。廊下が濡れたらお前が拭くんだからな」
「・・・わかった」


こくり、と頷いた豪炎寺を円堂が風呂場まで案内し、二人はそのまま並んでリビングへ抜ける。
一之瀬が住んでいるのは円堂のマンションで、彼女は中学生らしくもなく一人で5LDKの値が張る部屋を借りている。
一つを寝室、一つを書斎として空いた三部屋の内一つを自分の領域にしている一之瀬は、自分の部屋から新品の下着とジャージを取り出し持っていくと、空いている一室ではなくリビングへと布団を運ぶ円堂に眉根を寄せた。


「何してるの、守」
「いやぁ、今日はここで雑魚寝しようかと思って」
「お前は一応女の子なんだぞ!?何警戒心ないこと言ってるんだよ!」
「って、人の家にちゃっかり居候しているお前が言うなよ。それに豪炎寺が俺に手を出すとか、ないね」
「男は皆獣だよ」
「・・・だから、お前が言うなって。見ただろ、あの有様。捨てられた子犬みたいにびしょ濡れで、ボケッと空見て立ってたんだぞ?あの目を見て、そんなこと本気で言ってんの?」
「・・・・・・」


ぐっと言葉に詰まれば、苦笑した円堂に頭を撫でられた。
こんなときたった一つでも年の差を感じてしまい、無性に悔しくなる。
拳を握って俯いた一之瀬の髪をくしゃくしゃにして満足したのか、にっと笑った円堂は枕を片手に指差した。


「だからさっさと布団を運ぶの手伝えって。お前も一緒に寝るんだぞ」
「俺も・・・?」
「当然だろ。俺と豪炎寺二人きりにしたいのか?」
「それは絶対に嫌だ!」
「んじゃ、手伝って。あ、今日のご飯は何?」
「カレー。寸胴一杯に作ったから、豪炎寺の分も余裕であるよ」
「それならよし。布団は片隅に纏めておいて、ご飯食べたらちゃぶ台をどかして敷こうか。あ、そうだサッカー雑誌やDVDも準備しないとな。折角三人で寝るんだし、徹夜で遊ぼうぜ!」
「あ、なら新作のゲームも良くない?俺、スカウトでいい人材引き抜いたから、今度は負けないよ」
「いいな!俺だって育成しまくったから負けないし」


二人で顔を見合わせて笑っていると、いつの間に風呂から上がったのかほかほかとした湯気を立ち上らせて豪炎寺がこちらを覗いていた。
積み上げた布団の上に立ち上がった一之瀬は、ジャンプして降りるとキッチンへ向かう。
つんつん頭が降りているだけで随分と幼い印象に変わる豪炎寺に笑いかけると、掌を差し出す。


「俺の名前は一之瀬一哉。守のボーイフレンドで同棲相手だよ」
「同棲じゃなくて同居な、同居。んでもって本当にフレンドな」
「守は黙っててくれよ。・・・君は豪炎寺修也だろう?君は用事で居なかったけど、俺、今日付けでサッカー部に入部したんだ。改めて、宜しく」
「・・・ああ、宜しく」
「そうだ、豪炎寺。今日は泊まってくだろ?もう用意したし、親御さんに電話入れろよ」
「だが」
「用意はもう出来ちゃってるからさ。今日はリビングで三人で夜更かし決定だよ。サッカーゲームやDVD、あとは雑誌も用意して徹夜覚悟で遊ぶからね!」
「・・・いいのか?」
「いいって。どうせここには俺と一哉しか住んでないし、遠慮も無用だぜ!な、一哉ー!」
「うん、そうそう。君が電話している間にカレーの準備してくるからさ、早くかけておいでよ」
「わかった」


小難しそうな顔をしていた豪炎寺は、眉間の皺を解くとふわりと笑った。
円堂が電話の場所を教えると素直に踵を返した彼は電話をかけに部屋の隅へ向かう。
それを見送って二人でリビングから続きになっているキッチンへと行き、カレーを作った寸胴に火をかけた。
先に作っておいたサラダを円堂が冷蔵庫から出し、空のコップ三つとお茶を合わせてトレイに乗せる。
リビングが覗けるカウンターに置くと、そのままカレー皿とスプーンも用意しご飯をよそった。


「俺も手伝おう」
「ん、サンキュー!お前ご飯はこれくらいでいい?」
「・・・十分だ」
「了解。じゃあそっちのトレイに乗ってるサラダとかをリビングにあるちゃぶ台の上に持ってって。置き方は適当でいいぞ。一哉はこれくらいでいいか?」
「ん、オッケー!じゃ、頂戴」
「ほい」


手渡されたカレー皿にカレーをよそうと、そのままカウンターへ置く。


「豪炎寺、これも持ってってー」
「わかった」


素直な返事をした豪炎寺が置いたカレー皿を全て運び、食事の準備は整った。
一之瀬が外したエプロンを受け取ると、適当に畳んで椅子に引っ掛ける。
そのまま豪炎寺も呼んで座らせると、コップを並べてお茶を注いだ。


「おし、準備できたな」
「ああ」
「じゃあ、せーの」
『いただきます!』


ぱちんと高らかに音を立てると、一之瀬を声を合わせて深く頭を下げる。
ぽかんと口を開ける豪炎寺も同じようにさせ、スプーンを手に取りぱくりと一口カレーを含んだ。
絶妙な辛味に唇が緩む。


「さすが一哉ー。この味絶妙」
「うん、俺も思った。これは成功だね!豪炎寺はどう?」
「・・・美味い」
「それは良かった。一哉の料理は美味いだろ?どんどんと上手くなってるんだぞー」
「料理が出来ない守のおかげで、ね」
「失礼だな。俺は料理が出来ないんじゃなくて、禁止されてるだけだ」
「だって守の料理は天国と地獄の差が激しすぎるよ。無難なところに行ってくれればいいのに、下手に冒険しようとするから不味くなるんだ」
「人間冒険だって。その昔納豆を発見した勇者だって居るくらいなんだから、斬新なアイデアを出せばものすごい味に行き着けるはずだ!」
「・・・普通にすれば料理上手いのに。本当に残念だよね、守は」


はあ、と大げさに肩を竦めるジェスチャーに、豪炎寺が少しだけ笑った。
その笑顔に円堂が瞳を細め、一之瀬は肩を竦める。


「いつもこんな風に賑やかなのか?」
「大体はそうだよな?食事時はテレビをつけない。そんでその間は食べながら話す!」
「話す内容に中身はないけど、一日の報告とかしてるよね。後はサッカーとかサッカーとかサッカーの話!」
「そうそう。一哉はサッカー馬鹿だからな」
「守だってサッカー馬鹿じゃないか。雑誌のスクラップの整理、昨日手伝ったばかりだし」
「はは、だって好きだもんな!」
「そうだな」


顔を見合わせて笑うと、豪炎寺は目を丸くする。


「お前も仲間に入れてやるよ。名づけてサッカー馬鹿同盟!」
「まんまじゃん!」
「何だよ、じゃ、一哉にはいいネーミングでもあるってのか?」
「ない!」
「ないのかよ!」


言い切れば円堂はずびしと掌を使って突っ込んだ。
頭の後ろに手をやり笑った一之瀬は、こちらを注視する豪炎寺に首を傾げる。


「どうした?俺たち、何か変なことを言った?」
「いいや・・・ただ、こんなに騒がしい食卓は久し振りだったから」
「ふーん。なら、いつでもご飯を食べにこればいいよ。ね、守?」
「そうだな。後で合鍵やるから、好きなときに来い。なんなら空いてる部屋もあるし、お前の別荘にしていいぞ!」
「いや、それは・・・」
「遠慮するなよ、豪炎寺。客室にしてるけど、どうせ誰も来ないしな。使いどころもないんだし、お前に貸してやる。んで、何処に行けばいいか迷ったときに使えばいい」
「・・・円堂」
「家族の人にはさ、きちんと言えばいいよ。『友達の家に泊まる』ってな。秘密基地みたいで面白くないか?」
「いいね、秘密基地!響きが格好いい!」
「だろ!?よし、じゃあ今日はあの部屋の改造計画を決めるか!」
「うん!豪炎寺もちゃんと意見を言わないと駄目だよ?部屋にはテレビと布団以外ないから、服をしまう簡易ボックスとか俺の部屋からあげるよ」
「それじゃ俺の部屋からは簡易机!地味に使わないから邪魔だったんだよな」
「・・・守。廃棄物処理は止めて」
「あはははは、まぁまぁ。机、どっちにしろ必要だろ」


な、と声を掛けられ、切れ長の瞳をぱしぱしと瞬いた豪炎寺は、目尻を淡く染めて嬉しそうに微笑んだ。
木野の話からもっと堅物でクールな人物像を思い描いていた一之瀬は、素直な表情の変化に表情に出さぬよう心の底でひっそりと驚く。
ありがとう、と照れくさそうにはにかむ彼に、うかうかしてられないな、と強敵の出現に笑った。

拍手[4回]

「結局この間は円堂のタイプが判らんかったし、今日こそ逃がさへんで」
「またぁ?食事くらいゆっくり摂ろうぜ?」
「あかん!そんなこと言って逃げる気やろ」
「別に逃げるとかじゃなくってさ・・・前にも言ったけど、俺、好みのタイプってないんだってば。人にはそれぞれいいところがあるし、魅力なんて色々だろ?」
「ほんなら、あんたはあそこに座る面々とでも付き合えるって言うんか!?」


そう言ってリカが指差したのは、食事をしている面々が集まっている一角の一つだ。
ちなみに席についているのは、綱海、土方、飛鷹、壁山、立向居としっくりきているのか異色だと驚けばいいのか微妙なメンバーだった。
リカの声に驚いたように視線をこちらに向ける綱海に苦笑して手を振る。


「悪い、綱海。ちょーっとリカが暴走中でさ」
「あー・・・そりゃなんか見たら判る」
「どうかしたんですか、円堂さん?」
「実はな」
「───何で円堂に聞いてるのに浦部が答えようとするんだ?」
「実はな!円堂の好みのタイプを突き止めようとしてんねんけど、こいつがのらりくらりとかわしよるねん」
「へー、円堂の好みのタイプか。そいや、お前の好みのタイプとか聞いたことねえな」
「せやろ?そのくせ本人はいろんな男に粉掛けられっ放しやん。せやから好みのタイプを教えろって言うたんやけど、こいつ人にはそれぞれの魅力がある、みたいな綺麗ごと言うて逃げようとするもんで、ならこいつらとも付き合えるんかい!って問いただしてる最中や」
「こいつらって、俺たちのことっすか?」
「そうや。この間のイケメン集団が居ないからあんたらで代理や」
「イケメン軍団?」
「豪炎寺、鬼道、佐久間、風丸、虎丸の五人や。ちなみにうちのお勧めは豪炎寺や!」
「豪炎寺さんっすか~。確かにイケメンっすね」
「・・・他の四人も種類は違うが、顔は整ってる」
「実際、同じ男として比べられたくない人たちですね」
「ばーか!男は顔じゃないぜ!な、円堂!」
「そうそう」


な、と笑顔を向けてきた綱海に、円堂も腕を組んでこくこくと頷く。
そんな円堂を半眼で睨んだリカは、彼らに対し著しく失礼な発言をした。


「ほんならあんたは豪炎寺たちやなく、そいつらとでも付き合えるっちゅうんか?」


どうなんや、とばかりに腰に手を当ててにじり寄るリカに苦笑する。
どうしてそこまで自分の好みのタイプが気になるのか全く理解できないが、一度気になるととことんなのはリカらしいとも言える。


「別に、普通に付き合えるよ」
『ええ!?』
「何?俺、驚くようなこと言った?」


綱海以外の面々が瞳をまん丸にして驚くのに、むしろこちらが驚いてしまう。
驚愕し動けずに居る彼らを他所に、綱海が円堂の肩を抱いて引き寄せた。
肩がぶつかり少し痛かったが、悪戯っ子のように笑う彼に円堂も釣られて苦笑する。


「ほーらな!男はやっぱ、顔じゃなくて中身だぜ」
「アホ!あの男前集団は見た目だけじゃなく中身もスペシャルや!そんなのにあっちじゃなくてこっちの三枚目集団を選ぶやなんて・・・」
「・・・ちょっとリカ、さっきから言い過ぎじゃないか?」
「だって信じられへんもん!こいつらの何処がそんなに魅力的なんや!?」
「ったく、しょうがないな、リカは。こいつらのどこが魅力的か言うのはいいけど、その代わり」
「その代わり?」
「聞いたら失礼発言を謝る事。判ったか?」
「・・・判ったわ」


悪い子ではないが、イケメン好きの友人に円堂は苦笑した。
円堂とてイケメンは嫌いじゃないが、人間の魅力はそこだけじゃない。


「まず、壁山」
「え!?俺っすか!?」
「壁山の魅力は自分の弱さに向き合って頑張れるところだ。最初から雷門にずっと居て、逃げたいことだってあっただろうし実際に逃げ出そうとしたこともあったけど、こいつは絶対に逃げなかった。それって心が強いってことだ。気が弱そうでも芯が一本しっかり通ってるのは魅力だろ」
「その、ありがとうございますっす」
「次に立向居」
「え?は、はい!」
「立向居の魅力は地道に努力が続けれるところだ。自分の力に対して謙虚で努力できる強さがある。自分を弱いと思い込むのは悪い癖だけど、その分誰に対しても当たりが柔らかい。優しくて柔軟なところが立向居の魅力だな」
「うわわわわ・・・憧れの円堂さんに褒めてもらえるなんてっ」
「次は、飛鷹」
「・・・」
「飛鷹は口下手で不器用なところがあるが、真っ直ぐだ。誰にも見えないところで努力して努力して努力して努力して、花開かせても努力したことすら口にしない。驕りと正反対の場所に居る。不器用だけど一途なところが魅力的だ」
「っ」
「そんで土方」
「おう!」
「土方は器がでかいよな。豪炎寺を匿ってくれたときも自分だって弟たちの面倒を見なきゃいけなくて大変だったろうに、苦労してるなんて全くうかがわせなかった。やるべきことを当たり前にやってるって感じだったけど、それって実は難しいことだ。しかも弟たちの面倒を見てたから家事もばっちりだ。これはかなりの良好物件と言える」
「ははは!ま、確かに家事全般出来るな!」
「最後に綱海!」
「よしきた!」
「こいつは笊の目がめちゃくちゃ粗いけど、凄く気がいい奴だよな!空気読めないし、サーフィン馬鹿だし、飛行機乗ると錯乱するけど」
「・・・俺だけ貶されてねぇか?」
「でも面倒見いいし小さなことに拘らないし一緒に居て気が楽だし、実は結構気遣いさんだよな。意外と周りを見て動くし、頼まれたら嫌って言えないお人よしだし土方と同じくらい度量がでかい!やっぱ男は器の大きさだよな!」
「さすが円堂!判ってるじゃねぇか!」
「そしてこいつら全員に言えることだが、一度付き合ったら浮気しなさそうだ!───綱海は微妙だけど」
「っ、失礼だな!俺は自分の惚れた相手は大事にするぞ!」
「ははは、冗談だって!───これだけ聞いてもこいつらに付き合う魅力ないって言えるか?」
「それは・・・、うちの負けや。酷いこと言って堪忍な」


ぐっと拳を握り頭を下げたリカを前に、誰も口を開くものはいなかった。
返事がないのを訝り顔を上げると、壁山と立向居、飛鷹は顔を真っ赤にして俯いており、土方は照れくさそうに視線を逸らしながら頬を指先で掻いている。
唯一照れていないのはにこやかな笑顔で円堂の肩を抱く綱海だけで、瞬きをして肩を竦めた。


「初心なのも魅力の一つって奴かい」
「あははは!」
「そうかもしれねぇな」


三人の笑い声が食堂に響き、イナズマジャパンの不思議そうな視線が突き刺さる。

結局円堂の好みのタイプを聞き出せなかったのにリカが気づいたのは、宿泊施設の自分の部屋に帰ってからだった。

拍手[4回]

「好みのタイプ?俺の?」
「そうです!一度聞いてみたかったんです、円堂先輩の好みのタイプ。この間もイタリアの白い流星と一緒にイタリアエリアでデートしてましたよね?その前はテレスさんと一緒に二人きりで守備について話して、その前はエドガーさんとお茶してたし、その前はユニコーンと一緒にサッカーしてましたよね?」
「まぁ、誘われたしな。あいつらサッカー上手いし、話が弾むんだよな~」
「で、ぶっちゃけ本命は誰ですか?世界有数のイケメンに囲まれてるんです。一人くらい好みのタイプいるでしょう?」
「好みのタイプねぇ。俺って、好みのタイプってないんだよね。みんなそれぞれいいところあるし」
「・・・それ、股掛け宣言ですか?」
「あはははは!俺が?世界のイケメンで逆ハー宣言。いいねぇ、それって女の夢じゃん」
「笑い事じゃないですよ」


いくら訴えても暖簾に腕押しの態度を変えない円堂に業を煮やした音無が、むっと唇を尖らせる。
同じ夕食の席についていた木野はむきになる音無に苦笑し、隣の冬花と顔を見合わせた。
そんな音無の様子に共感したのは恋バナが大好きなリカで、塔子が呆れるのも気にせずに笑うと現在同じように食事中のイナズマジャパンのメンバーを指差す。


「ほんなら、こいつらの中ではどいつが好みなん?」
「こいつらって───イナズマジャパンのメンバー?」
「そやそや。うちのお勧め第一弾はこいつや!」
「・・・何だ?」


食事中走り寄ったリカにいきなり指差された豪炎寺は、箸を止めて顔を上げる。
同じ席についていた鬼道、佐久間、風丸、虎丸が釣られてリカを眺め、その視線の先にいる円堂を見る。


「へぇ、リカのお勧めは豪炎寺か。意外だなあ。一哉とはタイプが違うんじゃない?」
「顔だけなら飛びぬけてイケメンやろ!」
「顔ならお兄ちゃんだって負けてませんよ!私のお勧めは断然お兄ちゃんです!お兄ちゃんは凄く格好いいんですから」
「でも顔なら佐久間君だって綺麗よね。眼帯で隠れてるけど」
「あ、それなら風丸も負けてないじゃん。二人とも女が顔負けの女顔だからな」


へらりと笑って告げた塔子に、二人の鋭い視線が突き刺さる。
どれだけ女顔でもやはり男の子。
もしかすると綺麗過ぎる顔をコンプレックスとしているのかもしれない。
二人の視線を遮るように塔子の前に立つと、円堂は苦笑する。


「ははは。二人とも、塔子に悪気はないんだ、許してやってくれよ」
「悪気がない?」
「そう言うのが一番性質が悪いんだ」
「大丈夫、大丈夫。確かにお前ら激しく女顔だけど」
『円堂』
「でも、性格この上ない男前だからな。十分魅力的な男の子だ」


からからと笑って言われ、急に褒められた二人は顔を赤らめ俯いた。
確かに女顔とコンプレックスを刺激されて憤っていたのに、これでは怒りを持続できない。
真っ赤になった二人を眺め、鬼道が柳眉を吊り上げる。


「どういうことですか、姉さん」
「あ、それはうちが説明したるわ。実はな今円堂の好みのタイプを探してるとこやねん」
「姉さんの、好みのタイプ?」
「せや。円堂ってば他のチームの面々によくデートに誘われとるんやけど」
「!?姉さん、俺は聞いてません!」
「そりゃ言ってないし。一々デートの報告をする姉って微妙じゃない?」
「微妙じゃありません!今は家を出ていますが、あなたは鬼道の娘なんですよ!ふしだらな態度は慎んでください!」
「ふしだらっつってもなぁ。別に俺へんな事してないし。単なるデートだぞ?しかもお前らの練習中に遊んでるとかじゃなく、ちゃんとオフタイムだし」
「最近部屋に行ってもいないと思ったら・・・。いつの間にそんな約束してるんですか」
「いつの間にって・・・俺たちメル友。ほれ」
「うわー、円堂羨ましいわ。これあのイケメンたちのアドレスなん?」
「そうそう」
「メール見てもいい?」
「別にいいぞ」


ほら、とあっさりと手渡された携帯を操作したリカは、鬼道たちの前でがくりと肩を落とした。
どうしたんだと近寄る彼らに向かい、持っている携帯の画面を見せ付ける。


「あかん、全部英語や。この携帯、設定がバイリンガルになっとる」
「うわ、本当だ!」
「海外仕様ですか?」
「携帯は日本製だけどね。ほら俺って一応帰国子女じゃん?英語の方が慣れててさ」
「英語なら私読めるわ」
「そんなら宜しく頼むわ。一番上のから読んだって」
「え?でも・・・」
「別に構わねぇよ、秋。どうせ大したメールしてないし」
「うん、それなら」


戸惑いながらも頷いた木野が視線を携帯に落としてメール画面を出す。
そして視線が文章を追うにつれ、徐々に顔が赤らんできた。


「ちょ、円堂君。これ・・・」
「な、大したことない内容だろ?」
「大したことないって・・・これ、ほとんどデートの誘いか口説き文句じゃない!」
『ええ!?』
「しかも日付を見ればほとんど毎日来てる」
「───どういうことですか、姉さん。大したことない内容だったんじゃなかったんですか!?」
「えー?大したことないじゃん。可愛いとか好きとか付き合ってくれとか結婚しようとかそんなんばっかだぞ」


からり、と言われたが教えられた方はたまったもんじゃない。
女性陣と男性陣が同時に奇声を上げたが、その反応は正反対だ。
思わぬ恋話に目を輝かせる女性陣と違い、焦りの滲む男性陣は顔を引きつらせている。
しかし受け取った張本人は全く気にしないとばかりに笑いながら手を振った。


「こんなん外国じゃ普通、普通!な、秋」
「え?」
「だってこいつら最初の一哉の行動にだって驚いてたんだぞ?アメリカじゃハグとキスくらい親愛の情なのにな」
「ハグとキス!?」


思わず上げてしまった声らしく、叫んだ跡に慌てて虎丸が口を押さえる。
その姿に目を丸くして、円堂はにいっと意地の悪い笑顔を浮かべた。
女子のグループから離れ座っている虎丸の前で足を止める。
にやにやとした笑顔に虎丸が身構えようとした瞬間、彼女は彼の腕を引っ張った。


「えっ!?」
「虎丸ってばマジで可愛いなぁ。何か、昔の有人みたいだ。キスしただけで真っ赤っか」
「ええ!?ええええ!?」


何が起きたか判らないとばかりに大きな瞳で激しく瞬きを繰り返す虎丸を、ぎゅうっと胸に抱き込む。
言葉通りにハグとキスを受けている虎丸は、座っているので頭が胸に埋まり顔がどんどんと赤くなった。
ませた言葉を言うこともあるが、やはり基本は小学生。
色恋沙汰に免疫がないのか、今にも湯気が出そうなくらい照れまくる。


「うーん・・・確かに、可愛いな。これは将来有望やわ」
「あはは!真っ赤だぞ、こいつ」
「確かにアメリカでは挨拶かもしれませんが、ここは日本ですからね。虎丸君もまだ小学生ってことですね」
「・・・湯気が出そう」
「円堂君!?虎丸君が可愛そうよ」
「いや、つい可愛くて。ごめんな、虎丸」
「うー・・・俺だってこれでも男なんですよ!」
「判ってる、判ってる!虎丸は将来有望な男の子だよな」
「円堂先輩!」


大きい瞳を潤ませながら怒って訴える虎丸の頭を撫でて、円堂は爽やかに笑った。
きゃんきゃんと食いつく虎丸を軽くいなす円堂に、リカは肩を竦める。
突然の出来事に呆然とした男性陣を横目に軽く息を吐き出した。


「こりゃ、上手いことごまかされたな」
「円堂はリカみたいに何でも色恋に重ねるわけじゃないってことだよ」
「あははは。確かに、そうじゃなきゃあれだけの口説き文句は流せないね」
「・・・付き合うはともかく、結婚はないわね」


好き勝手言い合う女性陣のすぐ横で、未だ硬直の解けない男性陣は瞳を丸くしたまま硬直していた。

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