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夕暮れの中一人歩く帰り道。
目の前に転がってきたボールをつい蹴ってしまったのは、もう長年の慣れた反射でしかない。

思い切り蹴り上げたボールは、そのまま鉄塔にぶち当たって高く舞い上がった。
しまった、と思うよりも先に落ちてきたボールは誰かの掌に納まった。

黒いパーカーに同色のショートパンツ。
目深に被られたフードのおかげで性別も顔も判断できない。
眉を顰めて眺めていると、片手でボールを弄んでいた人物は、ゆっくりと豪炎寺の前まで来ると歩みを止めた。


「お前のキック、すげぇなあ!」


嬉しげに笑った相手は声だけでは性別の判断がつかない。
眉間の皺を深めた豪炎寺に気づいたのか、悪い悪いと笑いを含んだ声で謝罪するとフードを脱いだ。

ふさり、と長く豊かな栗色の髪が広がる。
夕日に照らされたそれは、豪炎寺にはとても美しいものに見えた。
よくよく見れば体型を隠すようにしただぼだぼのパーカーからも女性らしい曲線が見て取れた。

大きな瞳が真っ直ぐに豪炎寺を射抜く。
そこで漸く目の前の人物の性別は『女性』だと気がついた。


「木戸川清修のエース豪炎寺修也。こんにちは・・・ん?この時間だと、こんばんはか?」
「どちらでもいい。俺の名を知るとは、お前何ものだ?」
「サッカーやってる同年代の奴ならお前の名前くらい知ってるだろ」


くすくすと声を漏らした彼女は、ぽーんとサッカーボールを宙に抛る。
落ちてくるそれに向かって全身のばねを伸ばして飛び上がった『彼女』は、そのままくるくると体を回転させた。


「ファイアトルネード!」
「っ」


炎を纏ったボールは、石段にぶち当たると激しい音を立てて跳ね返る。
勢いのついたそれを片手で受け止めた彼女は、にかっと満面の笑みを浮かべた。


「いいシュートだな」
「何故、その技を」
「何回か見たことある。小学校のときもお前の技は飛びぬけていたからな」
「・・・・・・」


自分の持つシュートをそっくりと真似た上に、直接受けるより勢いがなくとも十分な威力を有するそれを片手で受け止めた実力に目を丸くし、ついで
きりきりと柳眉を上げた。
脳裏を過ぎる妹の面影に警戒心が沸く。
野犬のように唸る豪炎寺に苦笑した彼女は、ふっと瞳を真っ直ぐなものに変えた。


「お前、サッカーもうやらないのか?」
「・・・お前に関係ない」
「それがさ、ちょっとだけあるんだな。お前雷門中に転校しただろ?あそこのキャプテン、俺の幼馴染なんだ」
「雷門のサッカー部には入らない。俺は、サッカーを止めたんだ」
「ふぅん。勿体無いな。お前、サッカー好きだろ」
「っ」


即答できず黙り込むと、彼女は楽しげに瞳を煌かせる。
好奇心旺盛な猫のような瞳に怯めば、吐息がかかるくらいの距離まで近づかれた。
今にも触れてしまいそうな距離で瞳を瞬かせた彼女は、ゆるりと口角を持ち上げた。


「俺は、サッカーを好きって全身で言ってたお前のプレイが好きだ。───予言してやるよ」
「・・・・・・」
「お前はもう一度、絶対にサッカーをやる。だって今もお前はサッカーが好きだから」


にっと笑うとまたパーカーを目深に被った彼女は、もう用はないとばかりに背中を向けた。


「もし少しでも興味があるならさ、見てやってくれよあいつらのサッカー。夕香ちゃんだって、お前がサッカーから離れるのを望んでやしないさ」
「お前っ!?」
「じゃあな、豪炎寺。また会おうぜ」


ひらひらと掌を振った彼女は、そのまま鉄塔広場から去っていった。
その姿が消えるまで見送ってもまだ豪炎寺の足は動かなかった。

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「うわー・・・久しぶりだな、日本!」


長旅で固まった体の凝りを解すように腕を伸ば息を吸う。
二年ぶりに踏んだ日本の土。覚えている景色に顔を綻ばし、円堂は笑う。

父に頼んで迎えに来てもらった車を途中で下車した円堂るは、ゆったりと歩を進めた。
降ろしてもらった場所は円堂が昔住んでいた土地、稲妻町。
賑やかな商店街は記憶するより少しだけ変化していたが雰囲気は何も変わらない。
パーカーを目深に被り、サングラスをかけた状態でゆったりと歩いてると、背後から呼びかけられた。


「・・・円堂?」


揺れる声は覚えているものより少しだけ低くなっただろうか。
振り返れば想像通りの姿があり、円堂は太陽を思わせる笑顔を浮かべた。
サングラス越しであるのに確かに自分を認識してくれた相手は、綺麗な顔を驚愕に染めている。
長い睫毛に縁取られた切れ長の瞳が瞬きを繰り返し、信じられないとばかりに首を振った。


「よ!久しぶり、ちろた」
「っ!?それはもう止めてくれと言ってるだろう!」


しゅたり、と顔の横に手を上げて小首を傾げれば、恥ずかしげに顔を赤くした彼、幼馴染の風丸はむっと唇を尖らせた。
これは怒ってるなぁと頬を指先でかくと、柳眉をきりきりと吊り上げた風丸は僅かにあった距離を詰める。


「お前、この二年間連絡一つしないで何をしていたんだ!?」
「あはは、ちょっと渡米してた。連絡できなくてごめんな。お前のことだから必要以上に心配しただろ」
「っ・・・この、馬鹿が!」


細い腕が伸びてきてぎゅうと遠慮のない力で抱きしめられた。
かたかたと震える体に思わず苦笑した。
昔は自分より小さかった体は、気がつけばもうほとんど変わらなくなっている。
一つ年下の幼馴染は、縋り付くように円堂に抱きついていた。


「俺が、どんな気持ちで・・・っ」
「うん。本当に、ごめんな」
「二年間も音信普通で、お前の家に押しかけようと何回迷ったと思ってる」
「うん、ごめん」
「お前の手紙の条件が鬼道の家に押しかけないことだと知っていても、それを破りたくなるほどに心配したんだぞ」
「ごめんな」
「『サッカーで俺たちは繋がってる』。お前の言葉を信じて、俺はサッカー部にまで入ったんだぞ!」
「え?お前陸上は?」
「仕方ないだろう!あんな状態でお前が音信不通になったんだ!」
「・・・そっか。本当に、ごめんな」


しがみ付く幼馴染の背をぽんぽんと叩く。
繊細な脆さを持つ風丸は、きっと言葉以上に心配してくれたに違いない。
あれほど走るのが好きだったのに、陸上ではなくサッカーを取らせてしまうほど心を痛めたのかと思うと、本当に心苦しい。


「円堂はずるい」
「うん」
「どれだけ責めたって最終的に俺が許すことを知ってる。だからずるい」
「うん───ごめん」
「・・・おかえり、まも姉」
「うん。ただいま」


昔の懐かしい呼び名に、くしゃりと笑う。
長くなった髪を乱暴に撫ぜれば、戸惑うように声をあげ、漸く風丸も昔と同じ笑顔を見せた。

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『サッカーしようぜ、有人』


そうして笑った人を、有人はとても尊敬していた。
勉強もスポーツも何でも出来て、いつだって有人の手を引いてくれる優しい姉。
栗色の長い髪を緩く一つに結んで同色の瞳を細めて笑う人だった。
両親を亡くし施設で妹と過ごしていたところを影山に見出され、そのサッカーの才能を伸ばしてくれたのも彼女だ。
溢れんばかりのサッカーへの情熱と、一つしか違わないとは思えないくらいの圧倒的な実力差。
彼女は有人の憧れで、目指していた姿だった。
朗らかで明るくて優しくて、まるで太陽のように両親も妹も失った有人に暖かな全てをくれた人。

好きだった。
───本当に、好きだったのだ。

きっとその想いは、有人の初恋だったのだろう。
傍に居るときは近すぎて気づかなかった。
けれど、失った今になり、気づきたくなんてなかった。


「何故ですか、姉さん」


持ち主のいなくなった部屋に向かい、有人は呟く。
勉強中に利用した机も、よく一緒にお茶をしたソファも、寂しい時に共に眠ってくれたベッドも、壁に掛けられたサッカーボールも、全部全部色を失くした。


「どうして・・・俺を捨てたんですか。何故何も言わずに居なくなったんですか・・・っ」


こみ上げる涙に声が詰まる。
いつもならここで『なーに泣いてんだよ!有人は仕方ねぇなあ』と女性らしからぬ口調で笑いながら頭を撫でてくれたのに。
乱暴な手つきでも優しさが感じられる温もりがすぐに与えられたのに。
寂しい。寂しくて寂しくて、消えてしまいたい。


「ここは寒いです。あなたが居ないだけで、とても冷たい部屋になった」


掠れた声でもう居ない人に囁きかける。
判るのは捨てられたという事実だけ。
悔しい、哀しい、苦しい、切ない。
あれだけ無条件に慕ったのに、どうして捨てられてしまったのか。

ぐっと奥歯を噛み締め拳を握る。


「さよなら」


幸せだった過去に蓋をしよう。そうしなければ悲しみに押しつぶされて、彼女のいない世界で生きてなんかいけないから。

滲む視界から消えていく場所。
柔らかな春の日差しを思わせるそこは、有人にとって特別な空間だったのに。

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円堂守=鬼道守(♀)
幼い頃に両親を失い施設に預けられたところ影山にサッカーの才能、及び大介の孫という事実を見出され拾われ鬼道家の養子になる。サッカーに対する情熱、才能は著しいものがあり幼少時に影山に見せられたDVDで大介の技を習得し更に発展変化さている。またどこのポジションも一通りこなし、技を数度見れば取得するという特技を持つ。また勉強やその他スポーツにおいても万能であるが、試験は常に手抜き。鬼道や豪炎寺たちよりも一つ年上だがとある事情により一年留年しているため同級生。似た境遇で鬼道家に来た有人を弟としてとても可愛がっていた。


鬼道有人
幼い頃両親を亡くしサッカーの才能を見出され影山が鬼道家に預けた。預けられた当初は家に馴染めず、いつも傍にいてくれた守に依存に似た感情を抱いていた。サッカーも勉強もスポーツも何でもこなす姉に強い憧れを持ち、常にその背中を追いかけていた。そのため二年前何も言わずに姿を消した守に対し憎しみに近い感情を持っている。妹である春奈を引き取ることに全力を注いでいる。


風丸一郎太
円堂守の幼馴染。二年前から連絡が取れなくなった幼馴染を心配し、そのため陸上ではなくサッカーを選んだ。サッカーを続けていれば彼女に会えるのを信じて。円堂が鬼道の家に引き取られてからも密かに手紙で遣り取りを続けていた。彼女が初恋で現在継続中。幼馴染のため守が一つ年上なのを知っているが、現在は同級生ライフを満喫中。疑問はあっても隠したいと理解しているので問い詰めない。


豪炎寺修也
もう二度とサッカーはしないと決めていたのだが、転校先の稲妻町で会った守に心動かされまたサッカーを始める。初対面の守の髪が二度目にあったときにはばっさりと切られているのに驚いたが、それを口には出さないでいたら更なる疑問が沸き何となく聞けなくなってしまった。守に対しある種特別な感情を抱くが、それがどんなものかは自分でも理解していない。守が年上なのは知らない。


一之瀬一哉
アメリカでも有名な天才サッカー少年だったが、事故によりサッカー界から姿を消していた。フィールドの魔術師と呼ばれる実力は素晴らしく、同じ天才の守とするサッカーに執着している。守がどうして日本に戻ったか明確に理解しており、彼女に協力するつもりで日本に渡った。土門、木野とは幼馴染。守の秘密を全て知り彼女を理解する協力者。女の子として守を見ているため無茶すると怒る。

拍手[2回]

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