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「・・・・・・」
「・・・・・・」
「二人きりの時間を、と仰る割りに、随分と豪勢ですわねエドガー様」


口元に手を当ててころころと笑えば、エスコートしてくれているエドガーの顔色が僅かに青褪めた。
約束を果たすためにイタリアに戻る三日前にイギリスへと足を運んだのだが、タイミングがいいというか悪いというか、彼の父親が開いたパーティーに好意と言う名の強制参加を要請された。
互いにスケジュール調整をしたのでエドガーも勿論出席予定ではなかったのだが、理由を敏感に察知した父親に二人揃って招かれてしまったのだ。
別に二人きりの時間を邪魔されたと憤る気はないが、堅苦しいパーティーは面倒で嫌気が差す。
顔合わせや情報交換など様々な意味合いを含む、財閥の娘の義務と理解していても好む場ではなかった。
一日丸まる空けた内半分は衣装合わせで取られ、子供だから最後まで付き合わなくてもいいが残りの時間はパーティーで終る。
午前中もエドガーの父親同伴でずっとお嬢様の仮面を被り続けなくてはいけないし、さすがバルチナス財閥の総帥と感心する話術だったが、いかな守でも気疲れした。
エドガー自身も予定を大幅崩された上にパーティーを好まない守の本質を知るだけに、今日の失敗を痛いほど理解しているはずだった。
女性の満足するエスコートをしてこそ紳士と日頃からのたまう彼にはダメージも大きかろう。


「すまない」
「構いませんわ。でも、また当分はスケジュールは合いそうにありませんね」
「・・・そうだな」


頷いたエドガーは心なしか肩を落とした。親しい人間にしかわからない程度だが、落ち込んでいるらしい。
守のエドガーに対する態度など優しいものじゃないのに、何故彼がこれほど自分を慕うのかわからない。
以前一度だけ聞いたことがあるが、『君はとても大人びた部分があるのに、そういうところは子供だな』と微笑ましいものを見るような顔で頭を撫でられ、以来一度も聞いてない。
ある意味で一番昔から守を知る幼馴染は、時折油断できないことを言う不思議な奴だった。

パーティー会場で主催者の息子として変な部分は見せられないくせに、それでも感情を抑えきれないエドガーに苦笑すると組んでいた腕に身を寄せる。
驚きで目を丸くしたエドガーは白皙の美貌を僅かに赤らめ、どうしたんだと戸惑うように声を漏らした。


「一日を共に過ごせずとも、顔を合わせる時間くらいは取れますわ。日本ならともかく、イタリアならそれほど距離があるわけでもないでしょう。───それとも、私のためには海は越えられませんか?」
「・・・いいや。今までだって君に合うためだけに幾度も海を越えているだろう?一日全てを独占できずとも、君のためなら会いに行こう」


今日は下ろしている守の長い髪を指先に絡め、小さく音を立ててキスをした。
公式の場でよくつけているノンフレームの眼鏡の位置を直しながら相変わらず気障な男だと笑ってしまうと、正確に意味を読んだエドガーは苦笑した。


「君は申し分ない許婚であるが、時折ムードを読んで欲しいと心底思う瞬間がある」
「あらあら。公の場でムードも何もないでしょうに。余裕のない男性は格好悪いと仰ったのはエドガー様でしょう?」
「そうだな」


随分と伸びた髪を揺らして破顔するエドガーは、バルチナス財閥の時期総帥というより単純に年相応の子供に見えた。
顔を突き合わせて笑っていても、いつもならあっという間に距離を詰めて滔々と話を始める大人は現れない。
どうやらこんな部分でエドガーの父親に気を回してもらったらしいと気づくと、その心遣いに感謝すればいいか判断に迷うところだ。
何しろこれは言外に他の面々に二人の仲をアピールしてるようなものだ。
用があるのはエドガーと守個人ではなく、バルチナス財閥の跡取りと鬼道財閥の長女。二人の結束は財閥の繋がりにも等しい。
彼にとって広めておいて損はない情報だろうが、今回に限り自分たちにはとばっちりだ。
普段なら二人揃って出席しなければいけないなら事前に予告してくれるのだが、余程の大物ゲストでも現れたのだろうか。
エドガーと談笑しながらも頭の片隅で考えていると、不意に横から声を掛けられた。

誰かが近づいていたのは視界の端で捕らえていたので驚きはないが、声の主が自分たちとほとんど同世代なのには驚いた。
今日のパーティーでは子供の参加はほとんどなく、顔見知りには一通り声を掛けていたと思ったからだ。
だが驚きを内心で仕舞いこむと、にこりとお嬢様然とした微笑を浮かべた。


「こんばんは」
「こんばんは」


特徴的な緋色の髪をした少年は、端整な顔に穏やかな笑みを浮かべていた。
肌の色は守よりも白いくらいだが、軟弱なイメージはない。
優しげだがきゅっと上がった眉が意思の強さを感じさせる、エドガーとはまた違った美少年だった。
年のころは守より一つ二つ上に見えるが、微笑む顔に覚えはない。
エドガーの知り合いかと視線で問えば、軽く頷いた彼は守を庇うように一歩前に出た。


「これはこれは。まさかあなたが出席しているとは思わなかった。直接顔を合わすのは一年ぶりくらいですね」
「うん、そうだね。相変わらず君は格好いいね、エドガー。健勝なようで何よりだよ。隣の可愛らしい女性を俺にも紹介してくれないかい?」
「・・・紹介などせずとも、あなたなら名前くらい知っているでしょう?」
「まあね。でも、直接話をしたことはないっていうのも君は知ってるでしょう?仲介くらいしてくれてもいいじゃない」


警戒するように瞳を眇めたエドガーに、少年は笑った。
どうやらあちらの方が上手なようだと察し、守は笑みを深める。
普段は大人ですら手玉に取るエドガーが同年代の少年にやりこまれる様は珍しく、守の好奇心を誘った。


「エドガー様」
「・・・なんだ」
「私も紹介して頂きたいですわ」
「マモル」
「駄目、ですの?」


きゅっとスーツの裾を掴んで、小首を傾げる。彼がこの仕草に弱いのは熟知している。
案の定言葉を詰まらせたエドガーは、渋々体を動かし少年の横に並ぶとこちらに向かって口を開いた。


「彼の名前は吉良ヒロト。かの有名な吉良財閥の嫡男だ。ヒロト、彼女は私の許婚のマモルです。鬼道財閥の長女でもあります」
「初めまして、レディ。俺は吉良ヒロト。宜しくね」
「初めまして、ヒロト様。お名前はかねがね窺っておりました。こちらこそよろしくお願いいたします」


胸に手を当てて頭を下げたヒロトに、スカートの端を摘んで挨拶を返す。
吉良財閥と言えば世界にも名を広めていて、鬼道財閥やバルチナス財閥と並んでもおかしくない。
それでエドガーにあの態度だったのかと納得していると、すっと掌をとられ口付けられた。
エドガーの柳眉が釣りあがり、渋い顔をした彼にヒロトが笑う。
掌を失礼にならない程度の速さで奪い返しながら視線だけで見上げると、笑いを堪える微妙な表情で片手を上げた。


「いや、失礼。噂どおりだと思って」
「噂?」
「エドガーと君の関係。予想以上に彼は君にご執心らしい」


口に手を当てて微笑みをかみ殺す彼に苦笑する。
その噂なら守も知っていた。
政略的な繋がりであるはずだが、エドガーが守を大切にする態度は本物で、仲睦まじく微笑ましい。財閥だけの繋がりの道具には見えない、とかいうものだった。
興味の欠片もわかない噂だが、耳にしたときは赤の他人から見てもそう見えるのかと感心した記憶がある。
目尻を赤く染めたエドガーは視線を逸らし、素直だけど素直じゃない奴と内心で呟いた。


「ふふふ、ヒロト様がどのような噂をお耳にされたか存じませんが、恥ずかしい限りです。自分のことが人の口に上っているなど、不思議ですわね」
「そうかい?でも、嬉しいな。実はずっと君と話してみたかったんだ」
「私と、ですか?」
「ああ」


ふふっと笑いながら頷いた彼は、眼差しに熱を篭めた。
知り合いではなかったはずだが、はて、と小首を傾げると、まるで内緒話をするように声を潜めて理由を教えてくれた。


「実はね、俺もサッカーするんだ」
「・・・ああ、そういうことですの」
「そう。そういう感じ。俺も君と同じで留学してサッカーをしてる。行き先はスペインだから、いずれ顔を合わせることになるかもしれないね」
「スペインですか。ならばヒロト様はとてもサッカーがお上手なんですね。世界の強豪国ですわ」
「どうだろう?でも、サッカーは大好きだよ」


先ほどまでと違い、無邪気な様子のヒロトに目を細めた。
彼の言葉に嘘はないと直感で判った。
スペインでサッカーをするなら、きっと彼も上手いのだろう。
そうなると公式の場では押さえているサッカー好きの心が疼き、自然と顔も綻ぶ。


「君のプレイは一度見たことがあるよ。テクニックも統率力も素晴らしかった」
「ありがとうございます。私など、まだまだですわ」
「そうかな?十分に凄いよ。実はね、俺はサッカープレイヤーの『マモル・キドウ』のファンなんだ。誰より自由にフィールドを駆け、誰より楽しそうにサッカーする君は、俺の憧れなんだ」


面映いような顔で告げられ目が丸くなる。
イタリアでならともかく、こんな場所でファンだと言ってきた相手は初めてだ。
大体の人間は女である守がサッカーをすることに対して否定的であるのに、全面的に好意をぶつけられるとは。


「だからね、いつか機会があったら一緒に俺とプレイしてよ。君と一緒にサッカーをしてみたい」
「・・・光栄ですわ、ヒロト様。私の方こそ是非お願いいたします」


差し伸べられた手に手を合わせて固く握手をする。
約束だよと念を押す彼に頷いていると、横から業とらしく咳をしたエドガーがさりげなく間に入った。


「失礼。ヒロト、姉君が探しているようですよ?」
「え?」


エドガーの視線に釣られるよう先を見れば、艶やかな黒髪を靡かせた美女が眉を顰めて辺りを窺っていた。
あまり似ていないが、言葉に敏感に反応したヒロトを見ると、きっと彼女が姉なのだろう。
クラシカルスタイルのドレスを纏うスタイルのいい彼女を眺めていると、残念そうに肩を竦めたヒロトはもう一度こちらを向いた。


「残念ながら、タイムアップみたいだね。今日の俺は姉さんのお供だからもう戻らなきゃ。それじゃ、二人とも失礼させてもらうよ」
「私たちなど気にしなくていい。早く彼女の元へと向かって下さい」
「本当にご執心だなエドガーは。マモル」
「はい」
「約束、忘れないでね。いつか一緒に」
「ええ、勿論ですわ。私も楽しみにしています」


嬉しげに顔を綻ばせたヒロトは、優雅に一礼するとその場を去った。
凛と背筋を伸ばして歩く彼を見送っていると、思考を中断させるよう声が掛けられる。
顔を上げれば、さっきより随分と不機嫌そうな顔をしたエドガーが居て、焼もち妬きな彼にふうと嘆息した。
好かれているからこそ始まるこんこんとした内容は、右から左へと聞き流す。どうせ公式の場でなら変なことは口に出来まい。
そう言えばこの間の遊園地の土産を渡してないなと思い出し、いつのタイミングで渡そうかとエドガーの声をBGMに暢気に考えた。

拍手[3回]

世界の、中心ではないけれど、芯だったとおもう
--お題サイト:afaikさまより--



「・・・ボスっ」

久し振りに生気の通う彼を見て、ぼろりと隻眼から涙が零れる。
男性にしては華奢な体つき。しなやかな肉食獣のように筋肉はついていても、ごつくない印象の彼は、白のクラシコスーツを身に纏い、覚えている通りの笑顔を見せた。
情けなさと紙一重に眉を下げ、琥珀色に瞳を細めて唇がそっと孤を描く。
慈愛に満ちた表情は聖女を彷彿とさせるが、彼が背負う業は暗くて深い。

骸とは違った意味で特別な人は、確かな体温を持って迎えてくれた。

「ただいま、クローム」
「・・・おかえり、なさい」

ゆっくりとした仕草で頭を撫でられ、髪を梳く感触に瞳を細める。
彼の所有するリングの銘と同じで、何もかも抱擁する空気を持つ綱吉に身を預けるのに躊躇はない。
尊敬する骸が憎むマフィアの中でも頂点に立っているといって過言じゃない彼は、それでも髑髏の信頼するボスで、若いけれど大家族ボンゴレの父親である人だった。

髑髏は肉親の情が薄い家庭で育った。
そんな自分にとって、家族より家族らしい温もりをくれるのが骸であり千種や犬であり綱吉だった。

骸が時折綱吉に対し皮肉交じりの憎悪を向けているのを知っている。
ありとあらゆる負の感情を向けつつ、それでも彼が綱吉の傍を離れないでいるのも知っている。
複雑な想いを抱きながら、彼の傍を離れようとしない骸の感情は読めない。
ただ一つ判るのは、骸が綱吉にしか見せない一面を持ち、大空の銘を持つ綱吉はどんな骸でも受け入れてくれるという事実だけ。
髑髏は骸の心の影響をダイレクトに受ける。けれど胸に宿る暖かな想いは彼のものじゃないと断言できた。

きゅっと首に腕を回してしがみ付く。
付き合う年月で広がった身長差。痩身でありながらしっかりとした肩に額を預け、スーツに染みがつくのも気にせず泣きじゃくる。
生きていてくれて嬉しかった。失う絶望を知るからこそ、彼が引き寄せた運命に感謝した。
白い献花に埋もれるようにして手を組む姿は瞼に焼き付いている。
限りなく金色に近づいた薄茶の髪との対比が鮮やかで、青白く蝋人形のような肌が目に痛かった。
蕩けるような琥珀色の瞳がケーキを前にして煌く様や、滑らかなテノールが恋しかった。

髑髏とてマフィアの端くれだ。
ドン・ボンゴレに仕える守護者の一員として、敵対勢力と戦ったことはある。
他の守護者の面々に比べて闇に近い部分は見ていなくとも、自分と交代して出撃する骸の反応でその存在は敏感に察していた。
マフィアである自分たちは優しいだけじゃいられない。
血塗られた日の当たらない道を一生涯歩むと知りながら、ドン・ボンゴレと添うと決めていた。

だからこそ、彼が死んだ事実は受け入れられなかった。
あれほど敵に憎しみを抱いたのは初めてだ。
殺してやりたい、と心から憎悪した。あんな強い感情が自分の中にあると思っていなくて、驚き戸惑いながらも衝動を堪え切れなかった。

「・・・あーあ。こっちに来て守護者に泣かれるのは四人目だ」
「四人目?」
「そう。ランボは言わずと知れてると思うけど、獄寺君と、ちょっと意外なとこでは山本」
「・・・あの二人が」
「まあ獄寺君にしても予想の範疇だったけどねぇ。保険を掛けておいても生きてるか心配だったくらいだし、号泣する姿にちょっと安心したんだけどね。山本は少し驚いたな。正直反応が読みきれない部分があるからどうなるかな、って思ってたし。少しばかりバイオレンスなお出迎えだったけど、溜め込むタイプだから吐き出してくれて結果的に良かったんだろうね」
「そう」

想像して、どちらもなんとなく納得できた。
綱吉に心酔する獄寺は、身も世もなく泣きじゃくったことだろう。
他の誰に対しても鉄壁を誇る彼の心へのガードは唯一綱吉の前ではないも同然。
文字通り心臓を握りこまれても笑っているんじゃないかと思える、狂気一歩手前の忠心を誓っていた。
けれど綱吉の言葉に反して、山本に対してもそれほど意外性は感じれなかった。
山本は感情を殺すのが上手い。憤っていても殺意を抱いていても、手を出す瞬間すら笑顔で居られる人種だ。
一度彼が笑いながら裏切り者を始末するのを見たが、仲間でありながらも背筋が震える恐ろしさを感じた。
感情の均衡を崩しがちな山本は常に不安定だ。本当の笑顔を見せる面々は限られているし、身内にも外にも恐れられている人物だった。
闇に引きずり込まれる寸前で踏みとどまる彼の手綱も綱吉だろう。
そんな彼だからこそ何をしでかすか判らないし、綱吉の前で感情を爆発させたのも納得できた。

「皆に泣かれると、ここが凄く痛くなる。そんで思うよ。ああ、生きてるってね」

へらりと気の抜ける顔で告げられ、眉が下がった。
そんなに簡単に言わないで欲しい。
今なら全てが彼の策略だと知っているが、一緒に笑えるほど心に受けた傷は浅くない。
唇を尖らせて頬を摘めば、女である自分が羨ましくなるきめ細かい肌は柔らかく伸びた。

「痛い!?イタイタイタイタタっ!?何!?クロームまでバイオレンス?骸かっ、骸の影響か!?」
「違う。ボスの所為」
「俺ぇ!?」
「そう。ボスが、間抜けな顔して馬鹿なこと言うから」
「・・・いや、絶対に骸の影響も受けてるよ」

僅かに赤くなった頬を撫でながら呟く綱吉はどこか遠い目をしていた。
けど謝る気は微塵もない。無神経な発言をした綱吉が悪い。
睨み付けると頭を掻き、ごめんと苦笑した彼は再び髑髏の頭を撫でた。
悔しいけれどその仕草はお気に入りのもので、飼い主に甘やかされる猫のようにうっとりとしてしまう。

「皆に泣かれると痛いけど、それは俺が負うべき罰だと思ってる。けどね、髑髏。君の涙はまた別の意味を持つよ」
「別?」
「幾ら大マフィアボンゴレの長でもね、女の子の涙には弱いってことさ」

目尻を親指で撫でられ、ポッと頬に熱が集まる。
綱吉はこう見えて地位を抜きにしても老若男女構わず人気があった。
誰に対しても変わらぬ態度、優しい微笑み、東洋人の血が混じる、格好いいというより綺麗なファニーフェイス。
卒ないエスコートは女性の羨望で、ドン・ボンゴレとしての覇気は男性の憧憬が集まる。
オドオドしていた昔は可愛い雰囲気が前面に出ていたが、今は落ち着き男の艶気があった。

「心配してくれてありがとう、クローム。でも、それ以上泣かないで。君を泣かせたなんて知られたら、俺は骸に串刺しにされるよ」
「・・・ふふ」

思わず微笑めば、昔から変わらない暖かな微笑をくれた。



例えば彼がいなくなっても生きていく自分が居て、例えば彼が居なくても歩みた道がある。
それでも居ると居ないじゃ華やぎが違い、安堵感が違う。
心から笑える空気をくれる人を、愛しいと思うのは当たり前だろう。

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「ディバインアロー」


幾度も蹴りこんだボールに力を篭めてから放たれるシュートに目を細める。
足を肩幅に開くと掌を翳した。


「ゴッドハンド!!」


勢いのあるシュートを片手で受け止める。しかしそれでは力が足りず、じりじりと後退する体に舌打ちすると空いている手も差し出した。
両手で漸く止めれた重たいシュートに眉間に皺が寄る。
辛うじて堪えたが、フォワードでない平良のシュートですらこの威力かと、ボールを片手に持ちじんわりと痛みが広がる利き手を振った。

先ほど夏未たちから神のアクアという体力増幅のドリンクを飲んでいたと報告を受けたが、それを抜きにしても彼らの実力は一級品だろう。
下らないドリンクに頼らずとも己の力で戦えるはずなのに、と思えば自然と渋面してしまう。
ちらり、とフィールドを見れば、立っているのはキーパーの自分だけ。
桁外れの力で倒された仲間たちは、立ち上がれないものはベンチへと行き、辛うじて残っているのはたった十名だけだった。


「まだ続ける気かい?」
「・・・・・・」
「君がフィールドを降りない限り、彼らも負けを認めない。傷つくのは君だけじゃないのに、それでもまだ続けるのかい?」


柔らかな笑顔で問いかけるアフロディは、子供みたいに無邪気な顔で笑って見せた。
それに同じように返しながら、そっと胸に手をやる。
どくどくと脈打つ心臓は、先ほどから忙しない動きで嫌な予兆を伝えていた。
冷や汗を流し何も応えない円堂に小首を傾げたアフロディは、つっと人差し指を向ける。


「そのボール。君がキャッチしても、パスする相手すらいないじゃないか。一人の力が抜きん出ていてもサッカーは出来ない。それに、私たちはまだ奥の手は出していないよ?」


長い髪をしなやかな指で耳に掛けると、笑顔のままで問いかける。
性質が悪い餓鬼、と内心で嘯きながらもそれを表情に出さずに居ると、掌を差し伸べられた。


「・・・何だ?」
「おいでよ」
「何処に」
「私たちの元へ。言ったろ?君にはその資格がある」


まだ勧誘する気があったのかと驚きで目を丸めると、距離を一歩詰められる。
神を名乗るだけあって見た目は神々しい少年は、優美な仕草で誘いかけた。


「誘い方はいいんだけどな」
「なら・・・」
「でもノーサンキュー。俺も言ったろ?神様がキライだって」


わざとらしい日本語英語を話すと、視界の先で動く影に笑った。
そう、どんなに魅力的な仕草で誘われたとしても無意味だ。
居場所はもう定まっている。
抗いようもなくいつか行かなくてはいけない『神』の住む場所よりは、生身の人間と一緒に笑ってサッカーがしたい。
どうせ彼らよりも神と一緒に居る時間は長いのだ、今すぐでなくてもいいだろう。


「それに、パスする相手なら居るよ。・・・行け、豪炎寺!!」
「っ!?」


驚き顔を上げたアフロディたちの隙を突き、ボールを放り投げ蹴り飛ばす。
放物線を描いたそれは狙い違わず目的の人物の足元へ収まり、彼を囲うように一之瀬と鬼道がフォローに回った。


「無駄だ」
「そうか?」
「ああ。彼らはすぐに止められる。・・・ほらね」


手魚の必殺技『メガクェイク』により、豪炎寺たちの体が宙に浮いた。
激しく地面に叩きつけられ、身動きが取れないで居る彼らの間を世宇子中の面々がボールをパスして走りぬける。
あっという間にセンターラインも越えられ、ふっと息を吐き出すと身構えた。

まだ風丸も壁山も土門も回復していない。彼らに止めろというのは酷だろう。
深呼吸を繰り返し不規則に跳ねる鼓動を宥める。
落ち着け、と心の中で囁くと凪いだ気持ちで正面を見据えた。
どうやらゴッドハンドだけで切り抜けるのは、無理らしい。
予想している範疇だったが、仕方ないと左手に力を溜める。

目の前でアフロディにボールが渡り、小さく微笑んだ。
宙に浮かんだ彼の背中から三対六枚の純白の翼が見える。
神々しい光を背負い、神、と言うよりは御使いのような姿で一直線に円堂を見据えた。


「ゴッドノウズ!!」


空気を切り裂いて迫るシュートに、溜めていた息を吐き出した。
心臓に溜まった力を左手へ循環させるイメージを脳裏に浮かべ、ぐっと柳眉を寄せる。
この技は幼い時分に影山に見せられたDVDを参考に会得した、円堂大介の幻の必殺技。
流出する力に心臓が疼く。歯を食いしばり無理やり痛みを押さえ込むと、両手を握り腰だめに構えた。


「マジン・ザ・ハンド!!」


空中にオレンジ色の光りを宿す魔人の残像が映る。
高らかと声を上げた魔人は、円堂の動きに連動して左手を差し出した。


「あれはマジン・ザ・ハンド!!?」


叫びに似た声はベンチから聞こえた。
教え子である響木が唯一習得できなかった円堂大介の必殺技。
円堂は今日の試合相手である影山の分析とDVDの映像、そして並みならぬ才能で習得していた。
だが。


「ぐぅ!」


ボールを捉えた掌ごと体が宙に浮く。
予想よりも激しい威力を有していたアフロディのシュートに魔人はかき消され、殺しきれない勢いのままネットに押し込まれた。


「円堂!!」
「守!」
「円堂っ」


悲鳴に近い声を上げたのは誰だろうか。
少なくとも名前呼びは一之瀬だから判るが、苗字呼びは声が重なって判別つかない。
ぐっと体が無理やりに起こされる感覚に眩暈を覚えていると、そのまま頭を揺さぶられた。


「円堂!大丈夫か、円堂!?」
「・・・・・・風丸?」
「そうだ。俺が判るか?」
「・・・まあ、何とか」


返事をすると安堵したのか、漸く力が緩む。
だが体が受けたダメージは相応のものだったようで、立ち上がろうとして足が崩れた。
慌てたように横から伸びた手に支えられ、礼を言うと今度こそ一人で立ち上がる。


「守、大丈夫なのか?」
「ああ」


横から手を差し伸べてくれたのは一之瀬で、お前ら少し前まで伸びてたんじゃないのかという突込みを空気を読んで堪えた。
気がつけば周りをフィールド上に居た全ての仲間に囲われており、心配性な彼らに苦笑する。
病は気からとは違うのだろうが、人間気力が起こされればどうにでもなるという見本だろう。
重たい体を引き摺り、それでも尚他人の心配をしてくれる優しさに感謝する。
仲間に恵まれた自分は、とても幸せだろう。


「ごめん、一点やっちゃった」
「・・・大丈夫だ。むしろ姉さんは良くやってくれた。不甲斐無い俺たちの所為で猛攻を受けたのに、失点が一なら十分だ」
「そうだ。未だ攻め切れない俺たちに問題はある。───伝説のマジン・ザ・ハンドでも止められないとなれば、俺たちが点を奪うしかない」
「ああ。守にこれ以上頼るのは駄目だ。攻め込まれる前にパスを回そう」


地面に転がっていたときよりも、随分と瞳に力が戻っているのを見て微笑む。
世宇子中から一点をもぎ取るのは容易じゃないだろう。
けれど諦めていない彼らなら、絶対に大丈夫なはずだ。

それぞれのポジションに戻る仲間を尻目に、一之瀬だけがその場に残る。
距離が開いたのを確認し、眉を下げて問いかけた。


「・・・本当に、大丈夫なのか?」
「何が?」
「守がだよ。マジン・ザ・ハンドを使わなかったのは負担が大きすぎるからだろう?」
「大丈夫だよ。見てみろよ、ぴんぴんしてるだろ。むしろネットに叩きつけられた体のほうが痛い」
「本当に?」
「本当に。───ほら、さっさとポジションに戻れ。点を取ってくれるんだろ?」
「ああ。・・・守の言葉、信じるからね」
「信じろ」


ウィンクしながらとんとんと胸を拳で叩くと、漸く安堵したらしい一之瀬は今度こそポジションに戻った。
彼の背中を見送り、はぁっと一息つく。
朝の内に化粧をしておいて良かった。ファンデーションとチークを乗せただけのナチュラルメイクにもならないものだが、それでも顔色くらいは誤魔化せる。
今までの試合と桁違いの運動量に、体が悲鳴を上げ始めていた。
我慢できないほどではないし、危険度を測ればまだ一番下のレベルだ。
それでも普段通りの動きをするのは少々辛く、先ほどのマジン・ザ・ハンドでさらに力を奪われていた。
あの技は心臓に溜めた気を掌に送り放出するもので、絶大な威力を持つがその分使用者にも反動が大きい。
熱血パンチやゴッドハンドと比べ物にならないくらい、円堂の体力を奪い去る。


「・・・はっ、それでも勝つって決めてんだよ」


誰でもなく、自分自身に宣言するとポジションに立って掌に拳を当てた。
負けたくない。『神』なんて名乗る相手に、負けたくない。
そして───恩師のためにも、負けれない。彼が変わる切欠を与えるためにも、負けられないのだ。

気がつけば世宇子中にボールは渡り、再びアフロディの猛攻が始まっていた。
ヘブンズタイムで雷門のディフェンダーを抜き去った彼は、真正面で足を止めた。


「降参するつもりはないかい?」
「ないね」
「なら、仕方ない。神の裁きを受けるといい」


ふわり、と長い髪が扇形に広がると、先ほどと同じように三対六枚の羽が出現する。
優雅に宙に浮いたアフロディは、愛を囁くような甘い声を出した。


「ゴッドノウズ」


空を切り裂き絶大な破壊力を有したボールが迫り来る。
『円堂』と名を呼び叫ぶ仲間の悲鳴が聞こえた。
声を聞くだけでどれだけ心配されてるかわかり、こんなときなのに笑ってしまう。
彼らと共に進みたい。純粋な想いに包まれ、右手を心臓に当てた。

円堂大介が編み出したマジン・ザ・ハンド。
彼は心臓から気を送るため、より心臓に近い左手に力を流していた。
幼い頃、影山に見せられたその技に、酷く感動したのを覚えている。

時が経ち、影山は円堂自身にもマジン・ザ・ハンドを習得させた。
円堂が覚えたのは、円堂大介が使ったオリジナルと僅かに違う。
彼の使うマジン・ザ・ハンド。それは右利きの円堂に全力を出させるには微妙なものだった。
だから、円堂はこうしたのだ。
体を丸めるようにして右手を心臓に当て、そこから直接掌に気を叩き込む。
鼓動に連動して黄金色の力が掌を包み、逃げ場なく注がれたそれは大きく膨らんでいく。


「これが俺の、マジン・ザ・ハンドだ!!」


空中に展開されたのは、先ほどよりも金に近い色合いをした魔人。
円堂大介の技を元に自分用に改良したこれは、影山にも披露したことない円堂が持つ最高のキーパー技だ。
高らかに声を上げた黄金色の魔人が、一直線にアフロディを射抜く。


「神を超える、魔人だとっ・・・!?」


信じられない、と首を振る彼の前で、ボールは右手に収まった。
酷使された心臓が持ち主に異論を唱えているが、そんなものは全て無視だ。
額から流れる汗を指先で拭うと、獲物を前にした猫のように口角を持ち上げた。


「行け、みんな!!」


茫然自失とする世宇子と違い、円堂がシュートを止めた事実に雷門は一気に士気が上がる。


「姉さんが守ったこのボール!絶対に繋いでみせる!っ、豪炎寺っ」
「任せろ!!」


パスを受けた鬼道を軸に攻勢に転じた彼らを見送り、動けずに居るアフロディに微笑んだ。


「『ふんぞり返る神様の頭をぶん殴ってでも奇跡を起こしてやる』って、言ったろ?」
「嘘だ・・・人間が、神を超えるなんて」
「人間もそう捨てたもんじゃねぇぞ。矮小だからこそ助け合い、一の力を十に変えれる。奇跡ってのはな、神じゃなくて人の力で起こすもんなんだぜ」


驚きで声を失った彼にウィンクすると、丁度ホイッスルが鳴り響く。
逆転への狼煙は上がったばかりだった。

拍手[9回]

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